バローロ最大の歴史的名門「フォンタナフレッダ」

2025/12/18

2025/11/21

ロベルト ブルーノ氏 Mr. Roberto Bruno

最上級クリュ「ラ ローザ」2020、2013、1997垂直試飲!ピエモンテワインを牽引し続けるバローロ最大の歴史的名門「フォンタナフレッダ」

1878年創業、一世紀以上にわたりバローロを造り続けるバローロの歴史的名門「フォンタナフレッダ」。初代イタリア国王エマヌエーレ2世がセッラルンガ ダルバに土地を取得したことから歴史は始まります。バローロをいち早く造り上げただけでなく、バローロを初めて欧州外へ輸出するなど数々の功績を残してきました。今回は、2年ぶりの再会となるCCO(最高顧客責任者)ロベルト・ブルーノ氏を迎え、近年「白のバローロ」として評価を高めるティモラッソ(コッリ トルトネージ)が、有名産地へと成長していくまでの改革の背景、そして将来的に予定されている「デルトーナDOC」への名称変更の構想についてお話を伺いました。さらに後半では、最上級クリュ バローロ「ラ ローザ」の垂直試飲もさせていただきました。

バローロの名門たちと挑んだ「ティモラッソ改革」の舞台裏

自然を再構築する新プロジェクト「ボスコヴィーニャ」
――最近の新しい取り組みについて教えてください。

1年ほど前から、温暖化の影響をできるだけ抑えるための取り組みとして「ボスコヴィーニャ」を始めました。これは、畑と畑の間に新たに樹木を植えていく活動です。まず私たちの所有畑から始め、開始から約1年半で1500本の樹を植えました。植樹したのは、その土地の動植物と相性の良い多様な樹です。

環境を守り、畑の微気候を整える効果
これらの樹木によって直射日光が和らぎ、自然な日陰が生まれます。また、樹木の存在がごく小さな気流を生み、畑全体の気温を下げる効果も期待できます。ボスコヴィーニャは単なる環境保全ではなく、畑の状態そのものを取り戻し整えるための実践的な取り組みなのです。

気候変動で品質を高める注目の白品種「ティモラッソ」
気候変動は、決して悪い側面ばかりではありません。地球温暖化の影響により、ピエモンテでは白ワインの可能性がむしろ高まりつつあります。この地域には、白ブドウ栽培に適した標高の高いエリアが残されています。その代表例がティモラッソです。

産地はコッリ トルトネージDOC。コッリは丘陵地帯、トルトーナは地名を意味します。数年前までは市場で目にする機会が限られていましたが、古くからこの地で栽培されてきた土着品種です。長期熟成力を持つため「白のバローロ」と称されることもあります。

ヴァルテル・マッサ氏の呼びかけに賛同した、バローロの名門たち
ティモラッソを語るうえで、ヴァルテル・マッサの存在は欠かせません。彼は生産者としてこの品種の高い潜在力を早くから見抜いていましたが、一方で産地としての知名度の低さや、ピエモンテの主要産地から距離があることを課題として捉えていました。彼自身の努力だけでは、名声を確立するまでに50年以上かかると考えていたのです。

そこで彼は、今から15~20年前、自身のティモラッソのワインとともに、バローロの生産者を訪ね歩きました。フォンタナフレッダをはじめ、ボルゴーニョ、ピオ チェーザレ、ヴィエッティ、オッデーロ、ラ スピネッタ、ロアーニャといった造り手たちです。

「将来、ティモラッソは白のバローロになる大きな可能性を持つ。ぜひ畑を取得してワインを造ってほしい」と説得してまわりました。

続々と生産が始まり、評価が一気に加速
ヴァルテルは、「バローロの著名生産者のラベルにティモラッソの名が記されることで、産地として認知されるまでの時間を大幅に短縮できるのではないか」と考えていたのです。私たちフォンタナフレッダも、2010年代に実際にトルトーナを訪問し検討したうえで、他の造り手と同様にワイン造りを始めました。

現在では、ティモラッソは確かな評価を獲得し、多くの人を惹きつける白ワインへと成長しています。その流れを振り返ると、ヴァルテルの先見性をあらためて感じますね。

「コッリ トルトネージDOC」から「デルトーナDOC」へ

「哲学の共有」「品質向上」「普及拡大」
フォンタナフレッダが任された重要な役割

バローロの造り手たちをティモラッソの生産へと導いたヴァルテルですが、彼はフォンタナフレッダに対して、さらに一歩踏み込んだ役割を求めました。それが、「ランゲで実践してきたことを、トルトーナでも実現してほしい」という要望です。つまり、畑を所有するだけでなく、地域全体のブドウ農家のメンタリティを変えていってほしい、というものでした。

私たちはランゲにおいて、自社畑以外に300軒を超える栽培農家とネットワークを築き、長年にわたりブドウを買い取ってきました。そうした農家は毎年、私たちのアグロノモによる指導を受け、栽培技術や品質意識を高めてきました。有機栽培への移行も同様です。

ヴァルテルは、ランゲからトルトーナへ進出し畑を取得した私たちに対し、「周囲の栽培農家のブドウも積極的に購入し、あなたたちの哲学を共有することで、地域全体の品質向上に貢献してほしい。そして普及拡大にも努めてほしい」と語っていました。
トルトーナ

歴史的産地に根ざす「デルトーナDOC」構想
実は近い将来、コッリ トルトネージDOCは「デルトーナDOC」と名称変更をする予定です。デルトーナとは、古代ローマ時代の言葉で、ティモラッソを意味すると同時に「実際に存在した土地名」でもあります。

「デルトーナ」という名称に込められた考え方は、バローロと同じです。バローロがあくまで格付け名であり、品種はネッビオーロであるのと同様に、格付けをデルトーナ、品種をティモラッソと位置づけています。

私たちはティモラッソを長期的な視点で見ており、今後ティモラッソがトルトーナ以外の地域にも広がっていった際に、「どこで造られたティモラッソなのか」を明確に示す必要が出てくると考えています。そのときに、デルトーナという格付けを打ち出すことで、「私たちのティモラッソはここに根ざしたものだ」と示せるようにしたいのです。

この考え方は、ブルゴーニュと同じとも言えるでしょう。彼らはムルソーやシャブリといった地名を前面に出していますよね。「デルトーナDOC」構想もまた、品種ではなく土地によって価値を語るための選択なのです。

ティモラッソ、コルテーゼ、アルネイス
白ワインの銘醸地へと進化するピエモンテの潜在力

ティモラッソは、まだ有名なワインだと言えないかもしれません。しかし、将来性という点では、非常に楽しみな品種だと感じています。個人的な見解ではありますが、10~15年後には「言った通りになったでしょ?」と言えるほど、評価を確立しているのではないでしょうか(笑)。

ピエモンテは、テロワールや哲学の面でブルゴーニュと共通する点が多い産地です。ただし大きく異なるのは、ブルゴーニュが生産量の約60%を白ワインが占めている点です。今後、ピエモンテが白ワインの銘醸地として評価を高めていくとすれば、けん引役となるのがティモラッソです。

もっとも、ピエモンテの可能性はティモラッソだけに限りません。ガヴィのコルテーゼや、ロエロのアルネイスもまた、同じように重要な役割を担う品種です。ピエモンテには標高の高いエリアが多く、土壌も非常に多様です。白ワインに欠かせない酸やミネラルを生み出すテロワールが、すでに数多く存在しているのです。

フォンタナフレッダの最上級クリュ バローロ
「ラ ローザ」2020年、2013年、1997年 垂直試飲

 今回は、最上級のクリュ バローロ「ラ ローザ」の垂直試飲(2020年、2013年、1997年)を行えることを大変嬉しく思います。1997年は最大のサプライズでした(笑)。ラ ローザは、私たちのモノポールであるMGAフォンタナフレッダ内に位置する、わずか4ヘクタールの小区画です。

MGA内の畑名を表記するための規定に従い、他のバローロよりも平均収量を約10%抑えています。より高い品質を追求するため、一定の水準に達しない年にはリリースしません。近年では、2024年ヴィンテージは生産しません。
ラ ローザの畑

酸が高く、芳醇さを備えた「2020年」
2020年を試飲できることは、私たちにとって特別な意味を持ちます。というのも、前年の2019年は収穫の5日前に雹害を受け、造ることができなかったからです。そのショックがあった分、2020年をお届けできることを嬉しく感じています。

2020年は温暖な年でありながら、高い酸がしっかりと保たれています。タンニンは豊かでありつつ、舌触りは滑らかで甘みを伴い、芳醇さとバランスを兼ね備えた味わいに仕上がっています。

酸とタンニンが調和した冷涼な「2013年」
2013年は冷涼な年でした。ただし、本来であれば「例年通りの気候」と言える年でもあります。近年は平均気温が上昇しているため、相対的に冷涼と言えるでしょう。

この年のラ ローザは、酸とタンニンが非常にバランス良く保たれている点が特徴です。骨格のある構造を備えながら、全体として調和の取れた仕上がりとなっています。

秋の風格をまとう熟成ヴィンテージ「1997年」
1997年は、温暖で非常に恵まれたヴィンテージでした。私がフォンタナフレッダに入社した1990年も素晴らしい年でしたが、その後の1991年から1996年までは、当時の批評家の評価も含めて「偉大な年」と呼ばれることはありませんでした。1996年に関しては、後年になって熟成を経て高い評価を得ることになりますが。

そうした流れの中で迎えた1997年は、実に7年ぶりに「素晴らしい収穫」と言える年となりました。十分な熟成を重ねた現在は、リキュール漬けのチェリーを思わせる果実味に、しっとりと濡れたようなニュアンスが重なり、まさに秋の風格を備えた味わいを見せています。

困難な時代が導いた、ピエモンテワインの革新
1991年以降のように難しい年が続いた時代、私たち生産者はその状況を打開するため、何度も議論を重ねてきました。気候変動にどう向き合うべきか、あるいはバローロという枠組み自体を見直す必要があるのではないか。そうした本質的な問いと、真正面から向き合ってきました。

バローロ ボーイズやガヤによる革新的なワインが生まれた背景にも、こうした苦しい時代の試行錯誤があります。ティモラッソも同じで、積み重ねてきた挑戦と模索が、やがて新しい価値を生み出していくのだと感じています。ひいては、ピエモンテ全体のワイン造りに好影響をもたらすと信じています。

長期熟成ポテンシャルを秘めた注目白品種
フレッシュで爽やか、骨格を備えたティモラッソ

デルトーナ コッリ トルトネージ ティモラッソ 2021

デルトーナ コッリ トルトネージ ティモラッソ 2021

ブルーノ氏:
「私たちのティモラッソのコンセプトは、木樽を使わずにピュアでクリーンな表現をすることです。アルコール発酵後にセメントタンクで10か月間シュール リーを行い、リッチな香りと芳醇な味わいを与えています。酸を多く含む品種特性によりフレッシュさを保ち、ミネラル感も際立ちます。アルコール度数は高めですが、酸とのバランスにより感じさせません。若いうちは火打石やハーブ、桃や杏、マンゴーといった要素が現れ、シュナン ブランに近い印象を持ちます。6~8年の熟成でリースリングを思わせるオイリーな印象へと変化します。ファーストヴィンテージは2016年ですが、2012年、2013年から試験的に造っているため熟成による変化は実証しているんです。」
試飲コメント:麦わら色よりの黄金色。やや厚みのある白や黄色い果実のフレッシュな香りに、穏やかなミネラルが感じられます。口に含むとフレッシュな酸と柑橘のニュアンス、爽やかさが立ち上がり、生き生きとした果実感が口中を満たします。清らかで厚みのある味わいが非常に長い余韻として持続します。

バローロ、バルバレスコの世界へと誘う大人気ネッビオーロ

ランゲ ネッビオーロ 2022

ランゲ ネッビオーロ 2022

ブルーノ氏:
「私たちのランゲ ネッビオーロは、現在アメリカでグラスワインとして最も親しまれるネッビオーロとなりました。飲みやすさと飲み応え、複雑性を兼ね備え、価格を抑えながらバローロやバルバレスコの世界へと導く入口の役割を果たしています。生産量、輸出量ともにワイナリー最大で、ピエモンテやランゲに興味を持つきっかけになるような1本ですね。ラベルにあるエッビオは畑に自生する低木を意味し、ネッビオーロの綴りとかけています。」
試飲コメント:淡いガーネット色。赤い果実を中心に、華やかで軽やかさの中に芯のある魅惑的な香り。わずかに厚みとフレッシュさが感じられます。口当たりは軽快でチェリー系の果実が広がり、その後エレガントながら力強い風味が立体的に広がります。存在感がありつつも繊細なタンニンが心地よく、ほのかにスパイシーなニュアンスも現れます。

全バローロを代表する世界的クラシック バローロ

バローロ 2021

バローロ 2021

ブルーノ氏:
「フォンタナフレッダのみならず、全バローロの中で最も多く生産、輸出されているバローロです。複数の村のネッビオーロを用いて、バローロ全体のハーモニーを表現しています。2021年は平均気温が低く、生育期間が長かった冷涼な年で、冬の積雪により水分が蓄えられ、収穫期の寒暖差により酸と香りが引き出されています。オレンジの皮を焼いたようなニュアンスや小さな赤い果実、スパイスが感じられ、フレッシュさと力強さを併せ持つヴィンテージです。」
試飲コメント:淡いガーネット色。赤系果実のフレッシュさと、ほどよい甘やかさが調和した香り。力強さとエレガントさのバランスに優れ、ドライフラワーや土のニュアンスが溶け合っています。口中ではフレッシュな果実とタンニンが調和し、心地よい余韻が自然に続きます。

力強いながらエレガンスが際立つ、村名バローロの先駆け

バローロ セッラルンガ ダルバ 2020

バローロ セッラルンガ ダルバ 2020

ブルーノ氏:
「1988年から造るバローロ セッラルンガ ダルバです。先駆けて村名を冠したバローロと言えるワインです。2020年は温暖な年でしたが、芽吹きが早かったことで生育期間は約200日と長くなり、まろやかさも現れています。花のニュアンスが際立ち、ビロードのように滑らかなタンニンが甘く長く続きます。エレガントで親しみやすいスタイルに仕上がっています。」
試飲コメント:淡いガーネット色。奥行きのある魅惑的な香り。赤系果実、スパイス、華やかさが力強くもエレガントに重なります。口当たりは繊細ながら、フルーツ感やスパイス、ハーブの要素が厚みを伴って広がり、全体的に上品な味わいです。

フォンタナフレッダの最上級クリュ バローロ
温暖ながら高い酸を備える2020年

バローロ ラ ローザ 2020

バローロ ラ ローザ 2020

ブルーノ氏:
「2020年のバローロ ラ ローザは、フローラルさに加えてユーカリやミント、バルサミック、山のハーブ、白いスパイスが感じられます。温暖な年ながら高い酸を保ち、バローロ セッラルンガよりも豊かなタンニンを備え、舌触りの良い甘みを伴う芳醇な質感が特徴です。」
試飲コメント:淡いガーネット色。力強さとエレガンスを兼ね備えた香りで、華やかさが際立ちます。ミネラル感、バラ、ハーブ、スパイスが複雑に重なります。非常にフレッシュで、香りで感じた花や果実、スパイスのレイヤーが明確に広がります。存在感のあるタンニンが全体の調和を高め、余韻を長く持続させます。

フォンタナフレッダの最上級クリュ バローロ
酸、骨格、タンニンが見事に調和した冷涼な2013年

バローロ ラ ローザ 2013

バローロ ラ ローザ 2013

ブルーノ氏:
「2013年は冷涼な年で、酸、骨格、タンニンのバランスが非常に良好です。今まさに第3アロマが楽しめ、枯れ草やきのこのような森の湿ったニュアンス、スパイス、ユーカリ、バルサミック、タバコ、甘草といった要素が現れています。収斂性のあるタンニンと酸を備え、さらなる熟成ポテンシャルも感じられます。」
試飲コメント:ふちがレンガ色を帯びた深みのあるガーネット色。赤系果実やドライフラワー、ドライフルーツ、森や土、きのこのニュアンスが美しく調和した奥深い香りです。口中でも同様の要素が複雑かつ上品に広がり、非常に長い余韻へと続きます。

フォンタナフレッダの最上級クリュ バローロ
魅惑的な熟成を遂げた温暖な1997年

バローロ ラ ローザ 1997

バローロ ラ ローザ 1997

ブルーノ氏:
「1997年は温暖な代表的ヴィンテージで、2013年とは対照的です。リキュール漬けのチェリーのような果実感と第3アロマが広がります。森の果実や秋の湿り気を帯びながらも生き生きとしています。タンニンは膨らみのある甘やかな質感で、滑らかに余韻を残します。」
試飲コメント:全体的にレンガ色に近いガーネット色。森や土のニュアンスを軸に、ドライフルーツやアルコール漬けの果実、シナモンをはじめとするスパイスが重なる深みのある香りです。口当たりは繊細ながら力強さとフレッシュさを保ち、複雑な多層的な風味が一気に広がります。後口にはコーヒーやスパイス、森や土の余韻が静かに満ちていきます。

インタビューを終えて

近年注目を集める白ブドウ品種ティモラッソ。その躍進の中心人物であるヴァルテル・マッサ氏と、大手生産者たちとのエピソードは非常に具体的で、ティモラッソが遂げてきた発展の背景を、より高い解像度で理解することができました。また、「デルトーナDOC」への名称変更の構想も大変興味深く、ティモラッソがさらに世界的ワインへと歩みを進めていることを実感させるものでした。

2025年10月、フォンタナフレッダの本拠地を訪問させていただきました。醸造施設や熟成庫のスケール感に圧倒されたのですが、そこで試飲させていただいたのは畑違いのバローロ4種の現行ヴィンテージ。MGAラッツァリート(セッラルンガ ダルバ村)の「ラ デリツィア」、MGAパイアガッロ(バローロ村)の「ラ ヴィッラ」、MGAフォンタナフレッダ、そして同じMGAフォンタナフレッダの「ラ ローザ」です。

いずれも異なる表情を見せるのはもちろんのこと、今後の熟成によってどのような発展を遂げていくのだろうと非常にワクワクさせるものでした。また、ロベルトさんが前回のインタビューで「時間は重要な要素。セラーで寝かせる期間や抜栓してから、時間にゆとりを持って楽しむのがバローロです」と語っていたことを思い出しました。そして今回の「ラ ローザ」の垂直試飲は、まさにその時間を味わう贅沢な体験となりました。