名門カッポーニ伯爵家が手がけるキャンティ クラシコ「ヴィッラ カルチナイア」

2025/07/29

2025/06/05

ネリ カッポーニ氏 Mr. Neri Capponi

38代続く名門カッポーニ伯爵家が手がける、歴史的キャンティ クラシコ!いち早くUGAを提唱、土地と伝統を映し出す「ヴィッラ カルチナイア」

グレーヴェ イン キャンティに拠点を構える歴史的生産者「コンティ カッポーニ ヴィッラ カルチナイア」。ワイナリーを手がけるのは、1100年代から続くフィレンツェの名門カッポーニ伯爵家です。祖先のひとりピエール・カッポーニは、ウフィツィ美術館の外壁に像が設けられるほどの歴史的人物として知られています。1524年からワインを造り始め、以来、500年にわたり土地とブドウの個性を反映させたワイン造りを行っています。2018年にお話を伺った現当主セバスティアーノ氏は、グラン セレツィオーネのサブゾーン「UGA」を提唱した人物。今回は、そのセバスティアーノ氏のご子息で38代目当主のネリ・カッポーニ氏にお話を伺いました。

38代にわたるフィレンツェの名門カッポーニ伯爵家
キャンティ クラシコをけん引する歴史的生産者

――まずは改めて、ご家族とワイナリーについて教えてください。

私たちカッポーニ家は、1100年代からフィレンツェで続く家系で、私が38代目にあたります。約800年前にさかのぼると、当時のカッポーニ家は織物業や銀行業など、多角的に事業を展開していました。

1494年には、祖先のピエール・カッポーニがフィレンツェの大使としてフランス王シャルル8世との交渉に臨み、軍事侵攻を未然に防いだと伝えられています。その功績を称え、ウフィツィ美術館の外壁には彼の像が設置されています。事業の中心が農業へと移行していったのは、メディチ家の支配が終わった後のことです。

500年以上、グレーヴェ イン キャンティで続くワイン造り
そして1524年、グレーヴェ イン キャンティにある土地「ヴィッラ カルチナイア」を取得したことをきっかけに、ワイナリーの歴史が始まりました。最初は、現在もカンティーナを構えるグレーヴェ川沿い、東西に広がる畑でワイン造りを行っていました。

その後、品質を重視して時代とともに栽培地を西側の畑に絞り込み、現在に至ります。私たちは小規模ワイナリーで、生産本数は年間約10万本です。また、ワイン以外にもハチミツやチーズ、オリーブオイルなどを生産しており、観光業にも取り組んでいます。

現当主セバスティアーノ氏が提唱した、
グラン セレツィオーネのサブゾーン「UGA」

キャンティ クラシコにおける最上級カテゴリー「グラン セレツィオーネ」のみに適用される「UGA(Unita Geografiche Aggiuntive=追加地理的単位)」は、私の父セバスティアーノが提唱した制度です。フランスワイン愛好家の父は、「テロワールの違いをより明確に示すべきだ」と考え、フランスの地域分類にヒントを得てこの構想に至りました。それぞれの土地が持つ土壌の個性を明確に示すことがUGA導入の大きな目的でした。

その土地と歴史に寄り添う、カルチナイアのワイン造り

カルチナイアを象徴するグラン セレツィオーネ「バスティニャーノ」
現在、グラン セレツィオーネとして造るのは、「バスティニャーノ」「ラ フォルナーチェ」「コンテッサ ルイザ」の3つです。それぞれ石灰質、砂質、粘土質と土壌条件が大きく異なるため、その特徴がワインに明確に反映されます。各キュヴェの生産量は多くても5000~6000本に限られています。

なかでも「バスティニャーノ」は、カルチナイアのスタイルを象徴する1本です。カンティーナからすぐの畑(UGA:グレーヴェ)で、石灰質土壌による豊かなミネラル感が特徴です。砂質の多いラーモレにも似た一面を持ちながら、より柔らかくエレガントな味わいに仕上がります。
バスティニャーノ

長年根づくサンジョヴェーゼが映すバスティニャーノの個性
サンジョヴェーゼは、土地の個性を表現することができる品種です。バスティニャーノにおける重要な点は、もともとこの地に植わっていたクローンのみを選抜して用いていることです。外部から苗を買って植えるようなことはしていません。

私たちは、この土地に根ざしたサンジョヴェーゼを通したテロワールの表現に長年取り組んできました。UGAの名称以上に「バスティニャーノ」と畑名にこだわる理由も、そこにあります。来年からは裏ラベルにUGAの名称が明記されるようになるため、各地域のスタイルへの理解がさらに深まるでしょう。
バスティニャーノの畑

先入観なく、各区画の個性を見極めて造るキャンティ クラシコ
キャンティ クラシコは、すべての区画を分けて発酵、熟成し、それぞれのワインを試飲したうえでブレンドします。たとえば、「若いサンジョヴェーゼで、穏やかで心地よいタンニン」と評価された区画のワインは「キャンティ クラシコ ピエガイア」に使用されます。

サンジョヴェーゼだけでも37種類存在し、区画名を伏せた状態でのテイスティングで最終的なブレンドが決定されます。まさに料理と同じように素材を組み合わせる作業です。単一畑のキャンティ クラシコを除き、すべてこのプロセスを経て造られます。

ブレンドの選定は、私、父、エノロゴ、セラーマスターの4人で行っています。エノロゴは、私たちとともに25年にわたり働くフェデリコ・スタデリーニです。

飲みやすく柔らかな「ピエガイア」
伝統的スタイル「ヴィッラ カルチナイア」

私たちは2種類のキャンティ クラシコを造っています。ひとつは、メルローをブレンドした「ピエガイア」。控えめなタンニンと柔らかい味わいで、親しみやすさを重視したワインです。もう一方の「ヴィッラ カルチナイア」は、メルローの代わりに土着品種のカナイオーロをブレンドし、より伝統的なスタイルで仕上げています。こちらには、より樹齢の高いブドウが使用されています。

変化をいとわず常に前進し続ける現当主セバスティアーノ氏
――ワインのスタイルは以前と比べて変わりましたか?

はい。かつては樽のニュアンスが強く、もっと重たいスタイルでした。その頃のワインは私もよく覚えていて、現在のスタイルやコンセプトとは明確に異なります。たとえば、グラン セレツィオーネが制度として生まれる前、そして周囲が単一畑に関心がなかった頃から「バスティニャーノ」をサンジョヴェーゼの単一畑として仕立て、土着品種に焦点を当てた造りへと進化させてきました。

父は「次へ、次へ」と常に新たな挑戦を続ける人です。近年、注力しているのは、サンフォルテ、オッキオロッソ、マンモーロという希少品種です。いずれも単一で醸造しており、とくにオッキオロッソは、トスカーナの正式な土着品種として登録されるよう働きかけているところです。

国際品種メルローをブレンドして造る、
心地よく深みのある果実味のキャンティ クラシコ

キャンティ クラシコ ピエガイア 2022

キャンティ クラシコ ピエガイア 2022

ネリ氏:
「ピエガイアは、90年代から2000年代にかけて植樹された若いサンジョヴェーゼで造るキャンティ クラシコです。1年間セメントタンクで熟成し、一部メルローは木樽熟成です。2022年は暑い年でしたが、完璧な仕上がりとなるヴィンテージとなりました。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。黒い果実や赤い果実、そしてレザーや鉄のニュアンスを感じる香り。心地よく深みのある果実味があり、スパイスも感じる味わいです。

土着品種カナイオーロをブレンドして造る、
豊かな風味とスパイスが調和するキャンティ クラシコ

キャンティ クラシコ 2022

キャンティ クラシコ 2022

ネリ氏:
「ヴィッラ カルチナイアは、ピエガイアよりも古い樹齢のブドウで造るキャンティ クラシコです。1954年から1975年に植樹されたサンジョヴェーゼを使用しています。土着品種のカナイオーロをブレンドしているため伝統的なスタイルを表現しています。」
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。香りも深みを感じます。ベリー系果実に加えて、スモーキーなニュアンスや胡椒の要素。爽やかさもあります。香り同様の要素を持つ味わいで、豊かさとスパイス感が綺麗に調和しています。

複雑性に富んだサンジョヴェーゼ100%リゼルヴァ

キャンティ クラシコ リゼルヴァ 2019

キャンティ クラシコ リゼルヴァ 2019

ネリ氏:
「サンジョヴェーゼ100%で造るリゼルヴァです。単一ではありますが、複数の畑を使用しているのでサンジョヴェーゼのブレンドと言えますね。2年間木樽で熟成しています。2019年は素晴らしい出来栄えとなりました。タンニンがしっかりとしており、まだ若々しさを感じますね。ワイナリーで完売した2019年が日本ではまだ流通しているので、ついたくさん飲んでしまいます(笑)。」
試飲コメント:ふちがガーネット色のルビー色。赤系と黒系果実、レザー、ミネラル感、スパイスを感じる華やかで複雑な香りです。香りで感じた要素に加え、ドライフルーツのような果実味も感じるバランスに優れた味わいです。チョコレートのニュアンスも感じられる、柔らかくエレガントな余韻が持続します。

果実味とスパイスが綺麗に溶け合う、
カルチナイアを象徴するグラン セレツィオーネ

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィーニャ バスティニャーノ 2019

キャンティ クラシコ グラン セレツィオーネ ヴィーニャ バスティニャーノ 2019

ネリ氏:
「リゼルヴァがサンジョヴェーゼのブレンドであるのに対し、このグラン セレツィオーネは単一畑、単一品種です。サンジョヴェーゼがずっと昔から植わるバスティニャーノ畑を表現したワインです。オープンのトノーで醸造し、30%を全房発酵。果房が浮かんできたタイミングで2回に分けて足で踏み、ゆっくりと発酵させていきます。グラン セレツィオーネが誕生した時からこのスタイルで造られています。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。注いだ瞬間から香りが広がりを見せ、やや果実の甘やかさが感じられます。黒系果実や胡椒などのスパイスの香りです。味わいもその黒系果実とスパイスが感じられ、それらの要素がタンニンと綺麗に溶け合っています。ミネラル感を伴う余韻が持続します。

「つい、もう一口飲みたくなる味わい」
カナイオーロブレンドの10年熟成ヴィンサント

ヴィン サント デル キャンティ クラシコ 2012

ヴィン サント デル キャンティ クラシコ 2012

ネリ氏:
「マルヴァジアとトレッビアーノ合わせて80%、カナイオーロ20%で造るヴィンサントです。カナイオーロ由来の酸によって、甘さに加えてスッキリした感じがあります。つい、もう一口飲みたくなる味わいなので、危ないワインですね(笑)。醸造に関しては、10年間何も加えず小樽で熟成しています。」
試飲コメント:深く濃さのある琥珀色。砂糖が散りばめられたクッキーや杏、フルーツタルトの香り。フルーツケーキといった豊かな甘さを感じさせる味わいです。

インタビューを終えて

1100年代から続くというカッポーニ家の歴史には、ただただ圧倒されるばかりでした。カルチナイアの「スタイル」を象徴する1本として、「グラン セレツィオーネ ヴィーニャ バスティニャーノ」が紹介されていましたが、500年以上向き合ってきたワイン造りの「歴史」そのものも象徴する存在であると感じました。

その味わいは、黒系果実やスパイス感が美しく調和したものでした。「石灰質土壌による豊かなミネラル感が特徴」と語られる通り、飲み込んだ後にはミネラル感を伴う余韻に長く満たされました。リゼルヴァの、いくつものレイヤーが重なり合う複雑性も非常に印象的です。2種のキャンティ クラシコも含めて、ぜひカルチナイアのワインをご堪能ください。