ジュリオ ガンベッリの哲学を受け継ぐ「リニャーナ」訪問インタビュー

2026/02/12

2025/10/21

コジモ ゲリッケ氏 Mr. Cosimo Gericke

ジュリオ ガンベッリの哲学を受け継ぎ、コンカ ドーロと呼ばれるキャンティ クラシコの銘醸地パンツァーノのテロワールを表現!1000年前からブドウ栽培の歴史を持つ「リニャーナ」訪問インタビュー

2025年10月、キャンティ クラシコの造り手リニャーナを訪問してきました。リニャーナは、グレーヴェ イン キャンティのパンツァーノ地区にあるワイナリーです。1965年に現当主コジモ氏の父が1000年前からブドウ栽培の歴史を持つリニャーナ農園を購入してワイナリーとしての歴史が始まりました。自然豊かな、コンカドーロと呼ばれるエリアに構えるリニャーナは、舗装された道路を外れ、車1台がぎりぎり通れるほど狭いデコボコ道をしばらく走った先にあります。オーナーのコジモ氏が出迎えてくださいました。

ビオロジックの先進地区パンツァーノの西の端に位置するリニャーナ

(ワイナリーに到着後、まずは畑を見学しました)


現在、ブドウ畑は15ヘクタールあります。サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、メルロー、カベルネフランを植えています。畝と畝の間に、緑肥となるヘアリーベッチ、ソラマメ、大麦などを植えています。豆類は土に窒素を与えてくれますからね。あと、列の間ごとに違う種類の草花の種も撒いてます。春になったら列ごとに違う色の花が咲いて、とてもきれいですよ。ブドウ樹の列の端には(病害の予測のために)必ずバラの木を植えています。畑は全部ビオロジックなので、肥料は牛のふんの有機堆肥を使っています。

リニャーナがあるのはパンツァーノ地区の西の端になります。この方向が東ですが、向こうにカファッジョ、マリナーイ、さらにその先にランポッラ、フォントディがあります。このエリアは昔から「コンカ ドーロ(黄金の大地)」と呼ばれています。今見ているこの景色がコンカ ドーロです。

今年、サンジョヴェーゼを初めて北東向きの畑に植樹しました。温暖化が進むことを考え、よりフレッシュなブドウを造るためです。

畑の標高は、300メートルから420メートルです。標高によって土壌の個性が違うのですが、一番低い区画は粘土が豊富で、グランセレツィオーネに使います。標高が高くなっていくとガレストロや石が多くなり、一番高いところは石灰分が多くなります。

農園全体では120ヘクタールあります。そのうちブドウ畑が15ヘクタールで、残りは森と耕作地です。オリーブは1000本ほどありますが点在しているので何ヘクタールかはわかりません。ブドウ畑のうちサンジョヴェーゼが11ヘクタールで、カベルネフランが2.5ヘクタール、1ヘクタールがメルロー、0.5ヘクタールがカナイオーロです。

パンツァーノ地区とは
イタリアで初めて地区全体でビオロジック農法を採用することを目指した地区。1995年に「UNIONE VITICOLTORI DI PANZANO IN CHIANTI (パンツァーノ イン キャンティ栽培家組合)」を立ち上げ、現在ではほぼすべてのブドウ畑がビオロジック栽培となっている。

キャンティ クラシコの熟成にセメントタンクを導入

(畑の目の前にあるリニャーナの醸造所へ移動)


今の時期は、9月の下旬に収穫したブドウの発酵が終わって、熟成に移る段階ですね。収穫したブドウを温度管理できるステンレスタンクに入れ、1日に2回ルモンタージュを行います。そして3~4週間後に果汁を抜いて、セメントタンクに移します。

搾った後の果皮は森に撒いて、動物たちがそれを食べます。以前はグラッパの蒸留所が引き取っていましたが、今はもうグラッパを飲む人が減ってしまい、需要が無くなりました。

キャンティ クラシコの熟成に2022年からセメントタンクを導入しました。セメントタンクは他の容器と違う熟成の進み方をします。こちらのセメントタンクは2年前に設置したのですが中身が空の状態でも4000kgもあるのでこの部屋に運ぶのが本当に大変でした(笑)。

伝説的醸造家ジュリオ ガンベッリ氏から醸造の真髄を学んだコジモ氏


―ところで、コジモさんはワイン造りに関して、誰かに教わったのでしょうか?

1990年に大学卒業してすぐに父の後を継いだわけですが、その前からジュリオ ガンベッリのもとを訪ねて教えてもらいました。自分のワイナリーの仕事をしながらなので弟子入りしたわけではないですが、1990年代はずっとジュリオ ガンベッリから様々なことを教わりました。

今は、リニャーナのエノロゴはパオロ サルヴィ(※)がやっています。彼はモンテヴェルティーネ、リエチネのエノロゴもやっているし、サンジミニャーノやモンタルチーノのワイナリーも見ていますよ。

※パオロ サルヴィ氏
トスカーナを中心に活躍するワイン醸造家兼コンサルタント。巨匠ジュリオ ガンベッリの最後の弟子の一人。特にサンジョヴェーゼに対して、その品種特性に敬意を払ったアプローチで知られており、優雅さと複雑さに重点を置いた醸造に定評がある。

1055年にはブドウの収穫をしていたという記録が残るリニャーナ農園を父が1965年に購入して現在のリニャーナがスタート

(リニャーナ農園には小さなプライベート教会があり、中を見学させてもらいました)

この教会は1700年代に建てられたものです。イタリアは1870年に統一されるまでは、ローマカトリック領、トスカーナ大公国、ヴェネツィア共和国、ロンバルディア公国、シチリア王国、サルデーニャ王国などの小さな国の集まりでした。この場所はトスカーナ大公国で、スキピオーネ デ リッチ司教が大公とともに教会改革を画策していた際に、ローマ教皇の怒りを買ってこのリニャーナに送られました。そして、リッチ家のプライベートな教会としてここを開き、1810年に亡くなった後はこの地下に埋葬されています。

1965年に、私の父アルミニオがリニャーナ農園を購入し、この教会も含め、所有者がリッチ家からゲリッケ家に代わりました。ここは1055年にブドウの収穫をした、という記録が残っているので、約1000年のブドウ栽培の歴史がある場所ということになります。元々ゲリッケ家はドイツの出身で、1922年に祖父母がイタリアに移住してきた家族です。祖父母はローマのドイツアカデミーで働いていたのですが、父は農園をやりたくてここを選びました。

大学卒業後、自らの意思で父の農業を継ぐことを決意した現当主コジモ氏
私は大学で政治学を専攻したのですが、農業をやりたくて大学卒業してすぐに父の後を継ぎました。実は、父は私が後を継ぐことにはあまり賛成していませんでした。というのも、農業というのは世代交代にややこしい問題が絡むので難しいと思っていたようです。今、私も娘と息子がいるし、彼らは農業とは違う分野の仕事をしているので、これからこの農園をどうしていくか、子供たちが話し合って決めていくことになるでしょう。息子は植物が大好きで、敷地内の森の中の植物にもとても詳しいんです。今年からウンブリアの5つ星ホテルで働いていて、いい経験を積んでいると思います。

どの品種でも、どのワインにもパンツァーノのテロワールが表現されていることが重要

(地下のセラーでリニャーナのワインを試飲しました)

サンジョヴェーゼで造る骨格とボディのある白
3~4年前から造っているサンジョヴェーゼ ビアンコです。近年、人々はみんな白ワインを欲しがりますよね。リニャーナには白ブドウがないので、じゃあサンジョヴェーゼで白を造ろうと考えました。黒ブドウだから骨格とボディのある白ワインになっています。それに瓶熟成のポテンシャルもあります。普通の白ワインでは難しい、お肉料理とも一緒に合わせられます。

短時間のマセラシオンで造るサンジョヴェーゼ100%ロゼ
次はサンジョヴェーゼのロゼです。以前はセニエ法で造っていましたが、個人的には、セニエ法のロゼは味が単調になると思うので、今は短時間のマセラシオンをして白ワイン同様の造り方をしています。赤ワイン用のブドウよりも15~20日ほど早めに収穫したブドウで造っています。そうすることでしっかりと酸があり、アルコール度数が控えめなロゼにすることができます。

軽やかさとエレガントさにこだわって造るキャンティ クラシコ
キャンティ クラシコ2023年です。サンジョヴェーゼ85%、カナイオーロ15%のブレンドです。2022年のほうが気候的には良かったのですが、2023年はフレッシュで飲み口の良いスタイルになっています。

ワインのスタイルとしては、軽やかさがあり、エレガントさが出るように気を配っています。アルコール度数は人間の手ではどうしようもないですが、例えばカナイオーロを全房発酵をするなど、少しフレッシュさを加えるようなことを試したりはしています。

コジモ氏のお気に入りカベルネ フランをブレンドしたリゼルヴァ
キャンティクラシコリゼルヴァ2022年です。これはサンジョヴェーゼ85%、カベルネフラン15%です。私はカベルネフランが好きで、カナイオーロ同様、サンジョヴェーゼと合わせることで非常にうまくいく品種だと考えています。

カベルネ フラン100%で造るパンツァーノのテロワールを表現する赤
カベルネフラン100%で造っているのがイルリッチョ2020年です。2年間バリックで熟成させて、1年半瓶熟成させます。カベルネフランというブドウではありますが、大切なのはパンツァーノのテロワールをちゃんと表現しているワインになっているということです。

粘土が豊富な単一畑のサンジョヴェーゼで造るグラン セレツィオーネ パンツァーノ
最後はサンジョヴェーゼ100%のグランセレツィオーネ2021年です。私たちの畑のなかで標高が一番低い300メートルにある単一区画のサンジョヴェーゼで造っています。この区画は粘土が豊富な土壌です。

短時間のマセラシオンで造るサンジョヴェーゼ100%ロゼ

トスカーナ ロザート 2024
トスカーナ ロザート 2024

サンジョヴェーゼのロゼです。以前はセニエ法で造っていましたが、個人的には、セニエ法のロゼは味が単調になると思うので、今は短時間のマセラシオンをして白ワイン同様の造り方をしています。赤ワイン用のブドウよりも15~20日ほど早めに収穫したブドウで造っています。そうすることでしっかりと酸があり、アルコール度数が控えめなロゼにすることができます。
試飲コメント:上品で淡く美しいローズの色合い。グラスからチャーミングな果実味やミネラルの心地よいアロマが広がります。飲むと綺麗な酸を感じるフレッシュな辛口で、濃密感とエレガントさの調和がとれた、スムーズに楽しめるロゼ。

>軽やかさとエレガントさにこだわって造るキャンティ クラシコ

キャンティ クラシコ 2023

キャンティ クラシコ 2023

キャンティ クラシコ2023年です。サンジョヴェーゼ85%、カナイオーロ15%のブレンドです。2022年のほうが気候的には良かったですが、涼しかった分2023年はフレッシュで飲み口の良いスタイルになっています。

ワインのスタイルとしては、軽やかさがあり、エレガントさが出るように気を配っています。アルコール度数は人間の手ではどうしようもないですが、例えばカナイオーロを全房発酵をするなど、少しフレッシュさを加えるようなことを試したりはしています。

試飲コメント:甘く優しい果実のアロマ。アタックから柔らかく、とてもフレンドリーな口当たり。フレッシュで軽やかで丸みがあり、ジューシーな果汁が心地よく喉を潤してくれます。

インタビューを終えて

リニャーナのワインはずっと飲み続けられる、やわらかでエレガントなスタイルです。以前は濃厚な果実味の強さもありましたが、より優しい印象になっていて、これはキャンティクラシコだけでなく、リゼルヴァからも感じました。ロゼもサンジョヴェーゼのチャーミングな果実と酸が抜群のバランスで軽やかに表現されていて、本当に感動しました。

パンツァーノの西の端にあるリニャーナの畑は東に向かって下っていく、美しい斜面地に広がっています。視界が180度遮るものがない、本当に素晴らしい景観で、ずっと見ていても飽きません。どこよりも早くビオロジック農法に取り組み、この美しい自然を残すため、パンツァーノの造り手たちが一致団結することができたのも、この景色を見ると腑に落ちました。

パンツァーノの美しい風景を思い描きながらリニャーナのワインをお楽しみいただければと思います。