自然の力で導く伝統的ブルネッロの老舗「イル マッロネート」

2026/06/09

2025/03/26

アレッサンドロ モーリ氏 Mr. Alessandro Mori

自然の力で導くエレガントで複雑な伝統的ブルネッロ!偉大な醸造家の哲学を受け継ぐ、標高450mのモンタルチーノ北部の老舗「イル マッロネート」

1974年、モンタルチーノ北部で創業した老舗ワイナリー「イル マッロネート」。現当主アレッサンドロ・モーリ氏の父、ジュゼッペ・モーリ氏が、標高450mの地から広がる美しい景色に魅了され、土地を取得したことがその始まりでした。彼らは、偉大な醸造家マリオ・コルテヴェジオ氏とジュリオ・ガンベッリ氏とともにワイン造りに取り組んできました。現在も、彼らの教えを信条とし、自然の力に寄り添いながらサンジョヴェーゼの個性を引き出す、極力手を加えない伝統的な造りを行っています。彼らのトップキュヴェであるクリュ ブルネッロ「マドンナ デッレ グラッツェ」2010年は、『ワインアドヴォケイト』にて100点満点を獲得。「モンタルチーノにおける完璧なサンジョヴェーゼ」と称されるほどのブルネッロを生み出しています。今回は、当主アレッサンドロ氏にお話を伺いました。
    目 次
  • 1974年、モンタルチーノ北部の高台に創業
    半世紀にわたり受け継ぐ偉大な醸造家たちの教え
  • 自然の力に委ねる畑仕事、造り手の哲学で支えるワイン造り

1974年、モンタルチーノ北部の高台に創業
半世紀にわたり受け継ぐ偉大な醸造家たちの教え

カンティーナ周辺から拡大し、銘醸地モントーゾリにも18haの土地を取得
――まずは、ワイナリーについて教えてください。

イル マッロネートは、1974年に創業したワイナリーです。始まりは、私の父が家族で週末を過ごすための土地をモンタルチーノに取得したことでした。父が何よりも魅了されたのは、この地から望む美しい景色です。ワイン造りというより、そのパノラマに心を奪われたことが土地取得のきっかけだったと言っていいでしょう(笑)。

とはいえ、もともと畑もあり、翌1975年には家のそばに0.5haを植樹。続く1977年には0.2haを取得し、1982年、1983年にも周囲に少しずつ植え足していきました。1998年には、モントーゾリにも18haの土地を取得し、さらに2011年に新たな土地を手に入れて植樹を進めました。ボトリングの開始は1980年です。

標高450m、モントーゾリを見晴らす砂質土壌の畑
ワイナリーが位置するのは、モンタルチーノの街の北側。銘醸地モントーゾリを一望する標高450mの高台にあります。この地はおよそ7000万年前には海だったとされ、砂質土壌のうち約70%が海由来の成分で構成されています。近くには13世紀に建てられたマドンナ・デッレ・グラッツェ教会があり、その周囲に広がる単一畑は、歴史的にも特別な区画です。
ワイナリーからの景色

弁護士から農家への転身
50年間サンジョヴェーゼと向き合い続ける

2024年、50回目の収穫を迎えることができました。それだけ長く、私たちはサンジョヴェーゼと真摯に向き合ってきたということです。父をはじめ、家族の多くは弁護士で、私自身もローマの銀行で7年間、弁護士として働いていました。ただ、最初の収穫を経験したのは14歳のときで、子どもの頃から畑仕事を家族とともに見て学んできました。そして、33歳で弁護士を辞め、農業の道へ進みました。素晴らしい師匠と出会い、彼のもとでワイン造りを始めました。

「清潔であること」「土地の個性を守ること」
偉大な醸造家たちから受け継ぐ教え

その師匠は、マリオ・コルテヴェジオという人物です。彼は徹底して伝統的な手法を尊重し、「清潔であること」を信条としていました。香りにおいても味わいにおいても清潔感を重視し、完璧なまでに清らかに造られたワインは、長い歳月を経てもその状態を保ち続けるという考えです。

彼と9年間働いた後は、その友人であったジュリオ・ガンベッリを後継者として迎えました。ジュリオとは8年間一緒に働きました。彼から教わったのは「プロテクション」。つまり土地の個性を守ることの大切さでした。木樽の香りなど外的な要素に左右されてはならないという教えです。1994年以降は、自らの力でワインを造ると決心し、「健全なワインを造ること」を第一に考えて取り組んでいます。

自然の力に委ねる畑仕事、造り手の哲学で支えるワイン造り

「畑に生える雑草をあえてそのまま残す」
手を加えないからこそ生まれる、畑が持つ唯一無二の個性

私がひとりでワイン造りを始めてからは、試行錯誤の連続でした。ある時期には、土地を強くしすぎたことで、結果としてブドウに過剰な力が備わってしまったこともありました。その反省を踏まえ、1988年以降は、畑に生える雑草をあえてそのまま残すようにしました。

単一畑「マドンナ デッレ グラッツェ」では、およそ40年間草を刈らずにきましたが、それでもブドウは健全に育ち続けています。そうした畑とブドウの持つ特異性こそが、このクリュ ブルネッロならではの個性を生み出しているのだと思います。また、この畑は北向きに位置しており、北から吹き込む風が湿気などのストレスを取り除いてくれるため、ブドウは理想的な成熟を遂げるのです。
マドンナ デッレ グラッツェ

自然な環境・成長過程が生む、サンジョヴェーゼの真の表情
カンティーナは地下にあり、年間を通して環境が安定しています。空調設備は一切ありません。私は、サンジョヴェーゼはタンニンこそが基盤にあると考えています。本来持つアグレッシブなタンニンを、複雑で多様な表情へと変化させていくには、自然の力に委ねた成長過程が不可欠です。酸についても同様で、自然の働きによって次第に甘やかさが現れます。

こうして、自然の手を借りながら、人工的な介入を極力避けた環境でじっくりと熟成させることで、質の高いワインが生まれます。実際にカンティーナにお越しいただければ、各樽からの試飲を通じて、タンニンがどのように変化していくかを体感していただけるはずです。

「極力手を加えない造り」を実現する、ワイン造りの明確なビジョン
ところで、ワインは畑で生まれると思いますか? それとも醸造所で生まれると思いますか? 答えは醸造所です。畑で育つのはブドウであり、ワイン自体は人の手によって造られます。もちろん、優れたブドウなしに優れたワインは生まれません。畑仕事の重要性は言うまでもありませんが、最終的にどのようなワインに仕上げるかを決めるのは醸造所でのビジョンです。

私は師匠たちから受け継いだ「極力手を加えない造り」という哲学を大切にしています。そして、それを実現するには、「どんな個性を持つワインを造りたいのか」という事前の明確なビジョンが不可欠だと考えています。絵を描く前に完成形を思い描くように、ワイン造りもまた、芸術としての美学と向き合う作業なのです。
2024年の収穫を終えて

すべてのブドウを生かし、エレガンスが際立つブルネッロ
歴史的区画から厳選して造る複雑なクリュ ブルネッロ

私が造るブルネッロとクリュ ブルネッロは、正反対のアプローチで造られます。まずブルネッロは、シンプルな造り。収穫したブドウの選別は一切行いません。すべてが宝物ですからね。収穫後、除梗したブドウを30~40時間かけて静置し、果皮と果汁をしっかり接触させます。この工程は、アントシアニンや酵母といった重要な要素を引き出すうえで欠かせません。

その後、手作業でゆっくり攪拌させ、温度は36~37度に達します。この時点で、サンジョヴェーゼ特有のまろやかさと滑らかさが形成されます。発酵の終わりかけの段階で果皮とワインを分け、果皮を非常に強い圧力でプレスして、タンニンを引き出します。その後39ヶ月間の熟成を行います。

一方でクリュ ブルネッロは、マドンナ デッレ グラッツェの畑にある小粒のブドウだけを厳選しています。ルモンタージュは朝と晩に5分ずつしか行わず、それ以外は静置させて複雑性と骨格を引き出します。47ヶ月間の樽熟成、6ヶ月の瓶内熟成を経てリリースされます。いずれも同じ自然な環境で育ったブドウで造られていますが、こうしたアプローチの違いによって、ブルネッロはエレガントさが、クリュは複雑性がより表現されています。

エレガントで魅惑的な風味に包まれるブルネッロ ディ モンタルチーノ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ブルネッロの伝統的なスタイルで造られる1本。サンジョヴェーゼらしい香り高いアロマに、しっかりとした骨格が感じられます。テロワールの個性が引き出された、エレガントな仕上がりが魅力です。品質を追求して生み出される、まさにブルネッロのお手本のようなワインです。
試飲コメント:やや濃いルビー色。複雑でエレガントな魅惑的な香り。バラや赤系果実、ブラックベリーのような凝縮した果実、土のニュアンスを感じます。口に含むと香り同様の複雑味とフレッシュな酸が広がります。タンニンは存在感はありますが柔らかく、甘みのある旨みがあります。バニラのような樽由来の風味が繊細に感じられる滑らかな味わいが持続します。

歴史的区画の厳選ブドウからなる複雑性あふれるクリュ ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ セレツィオーネ マドンナ デッレ グラツィエ 2020

ブルネッロ ディ モンタルチーノ セレツィオーネ マドンナ デッレ グラツィエ 2020

複雑かつサンジョヴェーゼの純粋な魅力が表現されたトップキュヴェ。歴史的な畑の区画から厳選したブドウのみで仕立てています。サンジョヴェーゼの爽やかで豊潤な果実味に、複雑でスケール感を感じさせる味わい。複数の評価誌において100点満点を獲得した実績を持ち、「モンタルチーノにおける完璧なサンジョヴェーゼ」と絶賛された愛好家必飲の1本です。
試飲コメント:ルビー色。フレッシュな赤系果実とアルコール漬けのチェリーが溶け合うエレガントな香り。熟した黒系果実もあります。口に含むと、香りに感じた果実味と酸が綺麗に溶け合う味わいに満たされます。つぶした花のようなニュアンスもあります。滑らかなタンニンが他の要素に寄り添い、複雑で持続性のある味わいを演出しています。

インタビューを終えて

今回お話を伺ったアレッサンドロさんからは、栽培とワイン造りにおける揺るぎない哲学を強く感じました。偉大な醸造家からの教えや、ご自身で導き出した考えのもと、50年にわたって取り組んできたからこそ「私はこの造り方を信じている」という確かな熱意が言葉から伝わってきたのだと思います。

ブルネッロとクリュ ブルネッロ、それぞれのスタイルが明確に際立っているのも印象的でした。ブルネッロは魅惑的な香りとともに、フレッシュで複雑な味わい。クリュは、エレガントでありながら凝縮した味わいで、果実味の力強さと骨格、そして長い余韻を備えていました。いずれもニュアンスに富む、充実感のある味わいでした。

同時にインタビューを行った「レ ラニャイエ」との違いも鮮明に感じられました。両者とも「極力手を加えない造り」を掲げており、そこから生まれる個性の違いはとても興味深かったです。自然と哲学によって導かれる表現の幅広さ、ブルネッロの可能性を実感しました。