山のプリミティーヴォ・ジョイア デル コッレDOCを最初に生産したパイオニア「ファタローネ」突撃インタビュー

2026/06/17

2026/05/20

パスクアーレ ペトレーラ Mr. Pasquale Petrera

標高400メートル。山のプリミティーヴォ・ジョイア デル コッレDOCを最初に生産したパイオニア!5世代に渡りビオの畑を守り、酸とミネラルを備えたエレガントなプリミティーヴォを生み出す自然派「ファタローネ」突撃インタビュー

プーリア州ジョイア デル コッレの標高約400mに構えるファタローネ。かつて海底だった石灰岩土壌、そしてアドリア海とイオニア海からの風の影響を受ける特異な環境が、南イタリアでは稀有な酸とミネラルを備えたプリミティーヴォを生み出しています。1987年のDOC発足と同時に元詰めを開始した地域の先駆者であり、多くの生産者が捨ててしまう二番成りブドウ「ラチェーミ」を生かすという信念のもと、この地のプリミティーヴォを追求し続ける5代目当主パスクアーレ ぺトレーラ氏にお話を聞きました。
    目 次
  • 初代から5代続く無農薬。通常3年かかるオーガニック認証の基準「農薬残留値ゼロ」を初年度でクリアした「本物の自然農法」
  • ジョイア デル コッレDOCの誕生とともに瓶詰を開始!山のプリミティーヴォワインのパイオニア!太古の海底が育んだ「スピノマリーノの丘」がもたらす唯一無二の清涼感
  • プリミティーヴォの完璧な成熟のカギを握る、二番成りブドウ「ラチェーミ」
  • 物理学に精通したパスクアーレ氏が発案したクラシック音楽の振動で育てる上級プリミティーヴォ リゼルヴァ
  • 伊達男の曾祖父、先駆者の父、そして「物理学」を調和させた現当主

初代から5代続く無農薬。通常3年かかるオーガニック認証の基準「農薬残留値ゼロ」を初年度でクリアした「本物の自然農法」

ファタローネの歴史は、現当主の祖先である二コラ ぺトレーラがジョイア デル コッレに住居と畑を構えたことから始まります。そして曾祖父(2代目)の時代(つまり、ビオロジックという言葉がまだなかった時代)から、化学合成農薬を使わない農業で土地を大切にしてきました。

2000年にICEA(*)のオーガニック認証を取得しましたが、取得のために何かを変えた訳ではなく、何もせずとも取れたから取った、というのが実情。通常、オータニックの認証には申請してから3年かかります。というのも、土壌の残留化学物質が抜けるまでに最短でも3年の移行期間を要するからです。しかし、ファタローネの畑は初年度の検査で化学物質の痕跡が全く検出されず、検査官を大いに驚かせました。

2007年には太陽光発電でワイナリーの必要電力をすべて賄えるようにするなど、徹底したサステナビリティの追求と自然との調和を体現するワイナリーです。
*ICEA(イチェア) ヨーロッパおよびイタリアで最も重要なオーガニック認証機関のひとつ

ジョイア デル コッレDOCの誕生とともに瓶詰を開始!山のプリミティーヴォワインのパイオニア!太古の海底が育んだ「スピノマリーノの丘」がもたらす唯一無二の清涼感

ぺトレーラ家は、元々はブドウ栽培農家で、ダミジャーナ(大容量のガラス瓶)に詰めてワインを販売していました。その後、1987年のジョイア デル コッレDOC誕生と時を同じくして、ブランド名「ファタローネ」で元詰め販売を開始しました。

元詰めを開始した初年度が「ジョイア デル コッレDOC」誕生の年。つまりファタローネは、ジョイア デル コッレを瓶詰めした初めてのワイナリーであり、まさにこのエリアの偉大なパイオニアです。パスクアーレ氏のお父さん・先代は「自分たちの土地、そしてプリミティーヴォ100%のワインであることをラベルに記し、その価値を世に知らしめたい」という情熱を持っており、DOCの誕生はその絶好の機会だったのです。

2007年にはジョイア デル コッレで初めて垂直試飲会を開催。10ヴィンテージの「プリミティーヴォ リゼルヴァ」を垂直試飲することで、その圧倒的な熟成能力を自らの手で証明しました。

もともとは海底だったプーリア州。その後の隆起で一度は島になった土地「スピノマリーノ」の稀有なテロワール

左:約3000万年前のイタリア。グレーの部分が陸地で、プーリアは大部分が海底
右:プーリアのDOC地図

「プリミティーヴォは甘くて濃厚」という従来のイメージを、彼らのワインは見事に覆しますが、その秘密は、標高約400メートルの高地に位置する「スピノマリーノ」の丘のテロワールにあります。

プーリアは元々は海底だった土地ですが、スピノマリーノは、太古の海底がプレートの圧力で隆起し、島だった場所です。この辺りは真っ白な石灰岩土壌の土地。海の生物の化石が多く見られます。そして三方向(北、東、南)の海岸までは45kmほど。爽やかな海風が吹き抜けます。

この特異な環境が、ワインに垂直方向に美しく伸びる豊かな酸味と、清涼感あるミネラルを与えます。その大地でプリミティーヴォの他に、丘の名前を冠した白ワイン「スピノマリーノ」の原料となるグレコを栽培しています。

白ワイン「スピノマリーノ」になるグレコの畑

プリミティーヴォの完璧な成熟のカギを握る、二番成りブドウ「ラチェーミ」

ファタローネのワインにエレガンスをもたらす鍵が、二番成りのブドウ「ラチェーミ(Racemi)」です。


熟した房が主房(一番成り)、青い房がラチェーミ(二番成り)

ラチェーミとは、プリミティーヴォの栽培地においては知られている、二番成りのブドウのこと。通常の主房とは別に、副梢に形成される、二次果房を指します。プリミティーヴォは早熟な品種として知られていますが、副梢にも果実をつけやすいという特異な性質を持っているのです。

多くの生産者は、機械で収穫するため、その際に未熟な房が混ざってしまうことを嫌がります。また、主房に栄養を集中させるためにもラチェーミを切り落としてしまいます。一方、ファタローネは、ラチェーミを切り落としてしまうと主房が過熟してしまうと考え、ラチェーミをあえて残します。そうすることで、本収穫(主房)の品質を劇的に高めています。

一番成り(主房)の完熟後、20~30日遅れで二番成り(ラチェーミ)が熟す

熟した二番成りのブドウ「ラチェーミ」

一番成りのブドウが完璧な完熟に達した瞬間、樹のエネルギーは未熟なラチェーミへと向かいます。

このブドウ樹の生命の仕組みにより、一番成りのブドウが過熟せず、みずみずしい状態のまま完璧に収穫できるのです。そして最初に収穫されたプリミティーヴォはDOCの赤ワインへ、その収穫後2週間で急速に成熟を進めるラチェーミはロザート「テレス」になります。テレスは明るい赤果実(サクランボやイチゴ)の個性を持った魅力あるワインで、決して格落ちのワインではなく、このテレスがあるからこそ、プリミティーヴォDOC(リゼルヴァ含む)の品質が高まるという相互補完の関係にあります。このラチェーミを生かしたワイン造りは、1987年の最初の瓶詰め時から行われています。

物理学に精通したパスクアーレ氏が発案したクラシック音楽の振動で育てる上級プリミティーヴォ リゼルヴァ

19歳の時、父から後継ぎとしての意思を問われたパスクアーレ氏は、父がどこまで自分に仕事を任せてくれるのかが見えず、答えを出すのを保留。高校でも専攻していた物理の勉強を独学で続けながら、ワイナリーの仕事を始めることにしました。この物理の勉強が、ブドウ栽培、醸造にも生きる観察力と思考力を磨くことになりました。

その綿密な観察と論理的な思考から生まれたのが、樽熟成中にクラシック音楽を聴かせる手法です。

これは日本の江本 勝氏の水の研究に着想を得たもの。音楽による微細な振動が「マイクロ・バトナージュ」を誘発。酸化しやすいプリミティーヴォを優しく安定させ、スパイスやミントなどの第3の洗練された香りが引き出されると考えています。

伊達男の曾祖父、先駆者の父、そして「物理学」を調和させた現当主


ワイナリー名のファタローネはイタリア語で「伊達男」を意味する言葉で、誰からも好かれる人気者だった曾祖父フィリッポさんの愛称に由来しています。フィリッポさんは98歳まで長生きし、毎朝搾りたての牛乳とプリミティーヴォを飲むことを日課としてました。その人柄で家族や地域で愛され、現在もワイナリーの象徴的な存在として語り継がれています。

そして、父のフィリッポは、1987年にDOCジョイア デル コッレが誕生した際、最初にプリミティーヴォ100%での瓶詰めを敢行した先駆者です。当時、ブレンド用と見なされていたこの品種のポテンシャルを信じ抜いた父の挑戦が、現在のワイナリーの礎となりました。

「家族経営というのは、世代世代を超えて受け継がれていく。一つ一つの世代の人がそれぞれ自分の考えを、表現していかなければいけない。自分の考え、新しいアイデアでイノベーションを起こしていくことも大事だけれど、そのアイデアがあまりにも先代たちのものと違っていたら、すごく摩擦が起きてしまう。そうするとそのワイナリーの一貫性も崩れてしまうし、それはやはり良くないことだ。

だけど、だからといって自分を抑え込んではいけないし、自分が学んできた経験っていうのをしっかり活かしていかないといけない」とパスクアーレ氏は話してくれました。

果実の厚みとミネラルが調和、シュールリー熟成グレコ

プーリア ビアンコ スピノマリーノ 2024

プーリア ビアンコ スピノマリーノ 2024

「1993年に初めて造ったグレコ100%の白ワインです。自社畑1ヘクタールから、年間最大でも6000本ほどしか造れません。収穫したブドウは24~36時間のスキンコンタクトを行ってからプレスし、2~3週間かけてゆっくりと低温で発酵させます。その後はステンレスタンクで約3ヶ月、シュールリーで熟成。黄桃や杏を思わせる黄色い果実の豊かな風味と、シュールリー熟成から来る力強いミネラル感が特徴です。さらに熟成が進むと、蜂蜜のようなニュアンスも現れます。」

希少なプリミティーヴォの二番果ラチェーミを使用
繊細さとしなやかさを備えたロゼワイン

プーリア テレス 2024

プーリア テレス 2024

「プリミティーヴォの二番果、いわゆるラチェーミと呼ぶブドウだけを使って造るロゼワインです。最大生産量は9000本ほど。2日間のマセレーションを行います。ラズベリーのような赤い果実の風味に、ジョイアデルコッレのプリミティーヴォ最大の特徴である、熟す前のアーモンドの香りが余韻に感じられます。とても生き生きとした、女性的なワインだと思っています。」

芳醇な果実味と洗練されたファタローネの代表作プリミティーヴォ

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ 2024

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ 2024

「1987年から手がけている私たちの代表作プリミティーヴォです。最大生産量は3万6000本。ステンレスタンクで約3週間のマセレーションと発酵を行います。ブラックチェリーやプルーンといった赤い果実のニュアンスと、このブドウ特有のアーモンド香が、よく調和した一本です。芳醇さと洗練されたバランスを大切にしています。」

風格と繊細さを兼ね備えた樽熟成プリミティーヴォ リゼルヴァ

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ リゼルヴァ 2022

ジョイア デル コッレ プリミティーヴォ リゼルヴァ 2022

「私たちが唯一樽熟成で造るワインの、プリミティーヴォ リゼルヴァです。最大生産量は1万8000本。ステンレスタンクで12ヶ月、続けてオーク樽で12ヶ月、合わせて2年間熟成させます。オーク樽でのマイクロオキシジェネーション(微小酸素供給)によって、カシスのような果実味に加え、クローブや黒胡椒といった上品な熟成香、そして乾いたアーモンドの香りがより顕著に引き出されます。上品でドライな風格を備えたワインです。」

インタビューを終えて

パスクアーレさんのお話で特に印象に残ったのがラチェーミ。多くの生産者が早々に切り落としてしまうラチェーミを、あえて残すことで主房のブドウも生きてくる、全てが繋がっているんです、と語るパスクアーレさんの信念にとても心が動かされました。

土地と自然がもたらしてくれたものを受け入れて、最高のものにする。言うのは簡単ですが、実際にするには並大抵のことではありません。ワイナリーの仕事を継ぐかどうかを決めあぐねていた彼が、ワイナリーの手伝いをするようになって、先祖代々受け継いできたポリシーを肌で感じ取り、それを自分もやりたいと強く思ったからこそ、今のファタローネがあります。

“山のプリミティーヴォ”ジョイア デル コッレの先駆者ファタローネ。海の影響を強く感じる、清涼感のあるミネラルを携えたプリミティーヴォの魅力をぜひファタローネで感じて頂ければと思います。