アマローネの歴史的名門マァジ突撃インタビュー

2024/10/09

2024/09/26

アレッサンドロ ボスカイーニ氏 Mr. Alessandro Boscaini

アパッシメントを駆使した革新的ワインの数々!畑はヴァルポリチェッラ全体の10%を誇るアマローネの歴史的名門「マァジ」突撃インタビュー

世界で最も有名なアマローネと知られるコスタセラ アマローネの造り手マァジ。1772年に創業した歴史的名門で、“ミスターアマローネ”の6代目当主サンドロ ボスカイーニ氏はこれまで多くの革新的なワインを生み出してきました。60年代にリパッソ製法を世界に広め、70年代に新製法ダブルファーメーテーションを確立。80年代には陰干しブドウで造る白ワインを開発し、2014年には世界で初めて陰干しブドウを使用したスプマンテを造り上げました。今回は、8代目のアレッサンドロ ボスカイーニ氏をお迎えして、アパッシメントワインの数々を試飲しながらお話を聞きました。

ミスターアマローネ率いる歴史的名門マァジ
畑の広さはヴァルポリチェッラ全体の10%

――本日はよろしくお願いいたします。2年ぶりのインタビューですが、改めてご自身とワイナリーの紹介をお願いします。

マァジ8代目のアレッサンドロ ボスカイーニです。マァジの歴史は、1772年に初代のジョバッタがヴァイオ デイ マァジ畑を取得して始まりました。ジョバッタの甥ジュゼッペがワインを商品化するという企業理念を打ち出し、次の代のグイドは食中酒とアマローネしかなかった時代にその中間にあたるリパッソを生み出しました。

マァジ6代目当主“ミスターアマローネ”サンドロ ボスカイーニ氏
1970年代になると、私の祖父サンドロ(6代目)がマァジを率いるようになりました。彼は、マァジ独自の味わいを表現することを長年重視しており、「ヴァルポリチェッラとマァジが求める味わいを理解する醸造家」を理想のエノロゴとして招いています。

そしてサンドロは、マァジ テクニカル グループなるものを発足しました。ワイン造りにおける栽培や醸造はもちろん、商業(コマース)やマーケティング、品質管理などの専門家を招き、多方面からの知見を生かしてマァジのワインを造り上げてきました。その結果、メンバーの力もあり、サンドロはアマローネのスペシャリストとして「ミスターアマローネ」と呼ばれるまでになりました。
マァジグループ。6代目当主サンドロ ボスカイーニ氏(左から2番目)

国内外に多くの畑を所有し、
ヴァルポリチェッラ全体の約10%を誇る980haでブドウを栽培

――マァジは各地で畑を所有していますが、どのくらいあるのですか?

大きく分けてイタリアに6つ、アルゼンチンに1つあります。全体で約8000haあるヴァルポリチェッラには自社畑と契約畑を合わせて980ha、ヴァルドッビアーデネに25ha、フリウリにまとまった畑が150ha、トレンティーノに25ha、オルトレポ パヴェーゼに8.5ha、トスカーナに5ha、アルゼンチンに150haです。

マァジの最大の特徴の一つである歴史的製法アパッシメント
ヴァルポリチェッラは2500年前からワイン造りの歴史があり、古代ローマ人はすでにアパッシメントを用いていたとされます。アパッシメントとはブドウを陰干しする技法で、私たちを代表する技術の一つです。水分が飛んで糖度が高まったブドウから、凝縮したアロマが引き出されます。

最高品質の陰干しブドウを生む竹製の乾燥棚
私たちは乾燥部屋(フルッタイオ)でブドウを陰干しをする際、マァジが特許を取った竹製の棚(アレーレ)を使用しています。竹を使う利点は多くあります。

丸い形状で、他の素材よりも接地面積が少なく水分を飛ばしやすいこと。水分を弾く性質を持つこと。温度と湿度の変化に左右されない性質で、均一な形状であり、均等に乾燥ができるということです。実はアレーレだけでなく、収穫するときのカゴの底も竹でできています。これも特許を取得しています。

マァジの独自製法ダブルファーメーテーション

カンポフィオリン誕生に伴い世界に広まったリパッソ
私たちはアマローネをはじめ、陰干しブドウを用いたワインを多く造っています。アマローネと並びマァジを代表する赤ワイン、カンポフィオリンもその一つです。1964年に誕生した当時の名前が「カンポフィオリン リパッソ」という名であるように、リリース当初はリパッソ製法で造っていました。

リリース直後から評論家ヒュー・ジョンソンの興味を引き、「唯一無二で興味深い」という評価でカナダや北欧の市場が開かれました。サンドロは商標登録をおこないリパッソを世界に広めることに成功しましたが、リパッソ製法を使えない他の生産者に考慮する形で商標登録を取り下げました。
カンポフィオリン

ダブルファーメーテーション製法を研究開発し、
新たなカンポフィオリンが誕生

1977年以降リパッソを名乗ることをやめたマァジは、カンポフィオリンの再構築を図るべく研究を始めました。そして、1983年にダブルファーメンテーション製法を開発し、新カンポフィオリンを誕生させたのです。

新製法が引き出す複雑で柔らかな味わい
リパッソが一度アルコール発酵させたワインにアマローネの搾りかすを加えて再発酵させるのに対し、ダブルファーメンテーションは陰干しブドウを加えて再発酵させます。この過程によってワインに複雑な香りと色素、柔らかく豊かな味わいが生まれるのです。

初リリース時の生産量は少なかったですが、最初から注目を浴びたことで徐々に生産量を上げていきました。技術発展させたダブルファーメーテーションによって復活したカンポフィオリンは、今やコスタセラ アマローネと並ぶほどマァジを象徴するワインとなりました。

伝統的製法アパッシメントで造られるマァジのワイン

フリウリの土着品種を陰干しして造る希少なアパッシメント白
スプマンテ「モクセ」&白ワイン「マジアンコ」

――今回試飲する泡のモクセ、白のマジアンコには陰干しブドウが一部使われています。アパッシメントの白ワインは珍しいですよね。

今はマァジだけが造っていると思います。マジアンコは、マァジが最初に造ったアパッシメントの白ワインです。モクセ、マジアンコ両方ともフリウリで陰干ししたヴェルドゥッツォ種を一部ブレンドしています。

――白のアパッシメントというアイディアは、いつ生まれたのですか?

サンドロによって1980年代後半に生まれました。ヴェルドゥッツォの厚い果皮由来のアロマと凝縮感に着目したサンドロは、長い間研究を続け、2001年にマジアンコをリリースしました。テクニカルグループのメンバーからは大反対にあいましたが、彼は絶対的な自信を持っていたのです。

マァジの2大看板赤ワイン
「カンポフィオリン」「コスタセラ アマローネ」

前述の通り、カンポフィオリンとコスタセラ アマローネはマァジを象徴するワインです。二つともコルヴィーナ、ロンディネッラ、モリナーラを使用しています。コスタセラは、それら3品種を90日間陰干して造られており、カンポフィオリンと比べるとより力強く複雑ですが優しさも引き出されています。優しき巨人というあだ名があるほどです。

リゼルヴァを含め、アマローネはブドウの品質次第で造らない年があります。近年では2014年がそうでした。そうしたときは、全てのブドウをカンポフィオリンに回すので、その年のカンポフィオリンは非常に美味しくなります。

希少品種オゼレータにより複雑性が増した「コスタセラ リゼルヴァ」
――コスタセラとコスタセラ リゼルヴァに使うブドウの品質は同じですか?

品質の違いはアパッシメントにあります。つまり、どちらも同じ優良畑から厳選したものなので収穫時の品質は同じですが、陰干しをした後にリゼルヴァにするか否かが決まります。また、リゼルヴァにはオゼレータ種が使われていることも違いの一つです。

これもまた祖父のサンドロが着目したもので、一度失われたオゼレータの可能性を見出してリゼルヴァに使用し始めました。現在オゼレータは約30ha栽培されており、そのうち18haをマァジが所有しています。オゼレータにより、濃い色合いと力強いタンニン、複雑性が増しているので玄人好みのワインに仕上がります。

陰干しした土着品種ヴェルドゥッツォ入り!
フリウリで造るフレッシュで華やかなスプマンテ

モクセ ピノグリージョ ヴェルドゥッツォ ブリュット

モクセ ピノグリージョ ヴェルドゥッツォ ブリュット

アレッサンドロ:
「フリウリで造るピノ グリージョ80%、土着品種ヴェルドゥッツォ20%のスプマンテです。畑は粘土質の豊富な土壌で、ピノ グリージョは酸度の高い時期の8月中旬に収穫します。ヴェルドゥッツォは収穫後に陰干しをします。別々に発酵をさせてからブレンドし、シャルマ方式で造っています。ピノ グリージョ特有のフレッシュな果実感と華やかさがあり、ヴェルドゥッツォ特有のボディと丸みがあります。陰干しをするとどうしてもアルコール度数が高くなってしまいますが、フレッシュに楽しみたいという狙いもあり、どうにか12度を保っています。とてもバランスに優れたワインに仕上がっていると思います」
試飲コメント:麦わら色。ドライフルーツや甘やかさを感じる凝縮果実の香り。口に含むと、フレッシュな酸が持続する爽やかな味わい。優れたバランスがあります。

熟した果実と酸が見事に調和!
マァジが初めて陰干しブドウで造った白ワイン

マジアンコ

マジアンコ

アレッサンドロ:
「マァジが最初に造ったアパッシメントの白ワインです。フリウリで造られるピノ グリージョ85%、ヴェルドゥッツォ15%を使用しています。スプマンテのモクセよりも少し長い時間をかけてヴェルドゥッツォを陰干しし、木樽で発酵させてマロラクティック発酵させます。15%と少量にもかかわらずヴェルドゥッツォのニュアンスが、ピノグリージョを覆っている印象です。濃厚なジャムや熟した果実の風味と、樽由来のバニラ香やバターが感じられると思います」
試飲コメント:やや濃い麦わら色。南国果実や凝縮感のある果実の香り。味わいは香り同様の親しみやすさがあり、果実と酸が見事に調和しています。

マァジを象徴するワイン!
ダブルファーメーテーションが引き出す凝縮したまろやかな味わい

カンポフィオリン

カンポフィオリン

アレッサンドロ:
「カンポフィオリンは、ベースワインに陰干しブドウを加えて再発酵させるダブルファーメーテーションという技術で造るワインです。セパージュは、アマローネの黄金比率と言われるコルヴィーナ72%、ロンディネッラ23%、モリナーラが5%。コルヴィーナはチェリー、ロンディネッラはタンニンと酸、モリナーラは胡椒の香りを生みます。今試飲している2020年から陰干しブドウの比率を30%にして凝縮感をアップさせました。スラヴォニアオーク樽で18ヶ月熟成させて、タンニンは豊かですが柔らかく、まろやかな味わいに仕上がっていると思います」
試飲コメント:ルビー色。凝縮したベリー系の赤い果実、バラや潰した花などの複雑でエレガントな香り。口に含むと軽やかながら複雑な風味が口中に広がります。黒胡椒のスパイスのニュアンスもあり、タンニンを含めた充実感のある風味が持続します。

力強さとまろやかさが融合したフラッグシップ アマローネ

コスタセラ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシコ

コスタセラ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシコ

アレッサンドロ:
「マァジはいくつものアマローネを造っていますが、その中でコスタセラはアイコニックなワインです。コスタセラとはガルタ湖を望む丘の名前で、最良のブドウ畑がある場所です。コルヴィーナ、ロンディネッラ、モリナーラを90日間陰干し、28カ月の樽熟成、最低6ヶ月の瓶内熟成をしてリリースされます。優しき巨人というあだ名がついているほど、アルコール度数が高く、力強さとまろやかさが融合した味わいです。2018年ヴィンテージは栽培もアパッシメントも素晴らしく、10年に3回あるかないかの5つ星の出来となりました」
試飲コメント:ガーネットに近いルビー色。完熟したチェリーなどの複雑で力強いジャミ―な香り。滑らかなタンニンと骨格に優れ複雑な味わいが綺麗に溶け込んでいます。上品な果実感とチョコレートの風味がエレガントに持続します。

複雑味を与える希少品種オゼレータが入ったアマローネ リゼルヴァ

コスタセラ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシコ リゼルヴァ

コスタセラ アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシコ リゼルヴァ

アレッサンドロ:
「通常のコスタセラにオゼレータを少量加えて造るのがコスタセラ リゼルヴァです。70%コルヴィーナ、15%ロンディネッラ、10%オゼレータ、5%モリナーラ。36~40ヶ月間木樽で熟成して造られています。オゼレータは一度失われた時期があったのですが、偶然祖父の友人がオゼレータの畑を見つけ、可能性を見出した祖父は研究、投資、植樹を始めました。コスタセラよりも、色合いが濃く、力強いタンニン、複雑性が増しているので玄人好みのワインです」
試飲コメント:ガーネットに近いルビー色。凝縮した果実やドライフルーツ、チョコレートを感じる、力強く複雑ながら上品な香り。香り同様の要素を持つエレガントな味わいです。果実、スパイス、酸、濃厚な風味がタンニンと綺麗に調和しています。非常に長い余韻が心地よさを演出しています。

インタビューを終えて

アパッシメント製法を用いた数々の革新的なワインを生み出してきたマァジ。アパッシメント用の白ブドウは収穫のタイミングが非常に重要で、時期を間違えると適切な陰干しがされないそうです。黒ブドウと異なり色素を持たないことから酸化が進んでしまうのだと、アレッサンドロさんが教えてくれました。

マジアンコは初めて飲みましたが、親しみやすいフレッシュな果実感と酸に加え、陰干し由来の熟したニュアンスが見事に融合していて素晴らしかったです。また、同様に陰干しブドウで造るスプマンテのモクセも凝縮感に加え、爽やかさも持ちあわせる逸品でした。

ダブルファーメーテーションのカンポフィオリンも含めて、これらのワインはマァジが何十年、何百年と重ねてきた歴史と研究があるからこそ生まれているのだと、今回のお話を聞いて改めて実感しました。