長期熟成バルベーラの可能性を見出した第一人者「コッポ」

2025/10/03

2025/09/03

ジュディッタ ソルダディーノ氏 Ms. Giuditta Soldadino、エリカ アバーテ氏 Ms. Erika Abate

長期熟成バルベーラの可能性を見出した第一人者!130年以上の歴史と驚異の改革力で進化を遂げる老舗「コッポ」

コッポは1892年、ピエロ・コッポ氏がアスティ県カネッリに創業したワイナリーです。カネッリはイタリアにおける瓶内二次発酵の発祥の地であり、コッポは初めてメトド クラシコによるスプマンテを生んだ造り手のひとつです。また、バルベーラの長期熟成力を見出した第一人者でもあり、バルベーラの最高峰「ニッツァ DOCG」の規範となった存在でもあります。2021年にはジャンフランコ・ランチ氏とジュディッタ・ソルダディーノ氏がコッポを取得すると、わずか3年余りで大規模な改革を次々と実現。新生コッポとして大きな飛躍を遂げています。今回は、現当主ジュディッタ氏と輸出マネージャーのエリカ・アバーテ氏にお話を伺いました。

イタリア最古のワイナリーのひとつ
瓶内二次発酵の発祥の地「カネッリ」で創業

ジュディッタ氏(以下G) コッポは、1892年にピエロ・コッポが創業したワイナリーです。イタリアで最も古い歴史を持つワイナリーのひとつで、2012年には(同一業種で1世紀以上事業を続ける)歴史的企業として国の登録簿に掲載されました。

世界遺産の「地下の大聖堂」に構える自社セラー
G 拠点はピエモンテ州アスティ県カネッリです。丘の斜面を掘り抜いて造られた地下セラーは、海抜マイナス40メートル、全長は約2キロにも及びます。130年以上の歳月を経てもなお、内部は常に気温13度に保たれています。

このセラーは、1800年代にすべて人の手によって築かれた歴史的価値と、まるで教会に足を踏み入れたかのような静けさがあります。その両面が評価されて「地下の大聖堂」と呼ばれ、ユネスコ世界遺産に登録されています。

イタリア初のメトド クラシコを生産
G カネッリはイタリアの瓶内二次発酵の発祥の地で、コッポはイタリアで初めてメトド クラシコのスプマンテを造ったワイナリーのひとつです。ピエモンテはフランスに近いことから、当時の生産者たちはシャンパーニュの技術を学びに行き、その経験をもとにモスカートを用いたメトド クラシコを造り上げたのです。

「アルタ ランガ」「ニッツァ」「バローロ」
イタリアが誇る最高峰の銘醸地に畑を所有

G 畑の広さは、モンフェッラートからランゲにかけて点在しており、合計86ヘクタールあります。ピエモンテの特徴でもありますが、私たちは区画を細かく分けることで、各地の個性を活かしながらバランスに優れたワインを造っています。

造るワインは、メトド クラシコの「アルタ ランガ」、バルベーラの特性を最も表現できる「ニッツァ」、そして「バローロ」など。コッポは本来バローロ地区の外に位置しますが、1957年から生産を続けてきた歴史が認められ、特別に醸造を許されています。
ラ モッラ村のバローロ、最高峰バルベーラ「ポモロッソ」

新生コッポ誕生
惜しみない投資で、大改革を次々と展開

2021年、ランチ家とソルダディーノ家がコッポを取得
G コッポは130年にわたり、代々コッポ家が守り続けてきたワイナリーです。しかし、当主の高齢化に伴い売却が決断され、2021年に私たち(ランチ家とソルダディーノ家)が引き継ぐこととなりました。

取得後、まず取り組んだのは老朽化した施設の刷新でした。130年前から変わらず使い続けられてきたカンティーナを整備し、建物を改修。さらに最新設備を導入し、畑の手直しや拡張にも着手しました。大きく変えた部分は多くありますが、「この土地でワインを造り続ける」という本質だけは変わっていません。

新ボトリングラインを導入
95%の消費エネルギー削減を実現

G 設備投資のひとつに、最新のボトリングラインの導入があります。従来はボトルをシャワーで洗浄し、大量の電力を消費して乾燥させていましたが、この新設備により水とエネルギーの使用量を95%削減することに成功しました。これは特許取得済みの機械で、私たちはそれを導入した最初のワイナリーでもあります。

全86ヘクタール、わずか3年でサステナブル認証取得
G ワイナリーを取得してからの3年間で、合計86ヘクタールに及ぶすべての畑でサステナブル認証を取得しました。畑が各地に点在していたため決して容易ではありませんでしたが、着実に取り組み、達成することができました。その過程で導入した最新ボトリングラインも、認証取得に大きな役割を果たしました。

クリュ バローロ&バルバレスコ、ガヴィ
各地の優良畑を立て続けに取得

G 畑の拡張も進めています。新たにバローロに6ヘクタール、バルバレスコに3ヘクタールを取得しました。バローロではすでにラ モッラをリリースしており、ブッシアやラヴェーラといったクリュも来年には登場する予定です。

さらに、ガヴィの優良畑モンテ ロトンドも取得しました。これまでは買いブドウを用いてきましたが、現在は自社畑に切り替え、新たに取得したワイナリーで醸造を行っています。

130年の歴史と伝統、前オーナーの意志を継承

異業種からの挑戦と、受け継いだ意志が導いた改革
――2021年にワイナリーを取得してから、わずか3~4年でここまでの改革は驚きです。もともとはどのような事業をされていたのですか?

G 私はインテリアデザイナーをしていました。夫(ジャンフランコ・ランチ氏)は、40年にわたり情報テクノロジー業界に携わり、レノボの最高執行責任者を務めていました。彼はピエモンテの出身で、定年を迎えるにあたり「ピエモンテ人として、できることは何か」との思いから、ワイナリーを取得していったのです。

しかし、2023年1月、彼は志半ばで亡くなりました。私が事業を引き継いだ後は、以前から所有していたドージオを手放し、コッポと同時期に取得したヴィッラ ジャーダの2つのワイナリーに絞って取り組んでいます。

「たった1日で情報や技術は古くなる」
G 経営については、夫と40年を共にした経験が支えとなりました。加えて、情報テクノロジーの世界で「たった1日で情報や技術は古くなる」という考えを持っていたことも大きかったです。それはワイン造りにも通じるものであり、私も「時代に取り残されないために常に前進するべきだ」という思いで取り組みました。

伝統に寄り添うコッポ社のワイン造り
――ワイナリーを取得する際、エノロゴも変わったのですか?

G エノロゴは変わっていません。30年、25年と長年にわたりコッポを支えてきた2人の醸造家が引き続き担当しています。コンサルタントはリッカルド・コタレッラ。そして畑の責任者も同じです。私たちが持ち込んだ新しい哲学を軸にしつつも、この土地で長年ワインを造ってきた人々は変わりません。

彼らの存在があったからこそ、バローロの中でも取得が極めて困難とされるクリュを取得することができました。長年この地で働いてきた彼らは、畑の状況や動向を熟知、把握しているのです。

今を集中し、未来へ突き進む当主ジュディッタ氏
――外部から入ってワイナリーを経営することに、難しさはありませんでしたか?

G それはありませんでした。私たちが「方針」「哲学」「将来性」を明確に示したことで、スタッフ自身に新たなエネルギーが芽生え、ワイナリーは力強く前進していきました。ただし、現時点ではやりきったとは考えていません。常に「今」に集中し、前を向いて取り組むことが大切だと思っています。

厚みある酸とミネラル感溢れるシャルドネ

コステビアンケ 2023

コステビアンケ 2023

エリカ氏:
「コステビアンケは、白い土の丘にある畑で造られるシャルドネです。ランゲやピエモンテはかつて海の底だったため、今でも化石や貝、船が見つかり、その要素を感じられるワインですね。1800年代半ばにフランスからもたらされ、モンフェッラートの畑に根付いた歴史があり、国際品種でありながらピエモンテの食事とよく合う味わいに仕上がっています。軽快に飲めるタイプです。」
試飲コメント:麦わら色。注いだ瞬間から香りがグラスから広がり、冷涼感を伴いながら凝縮した黄色い果実のニュアンスが感じられます。エレガントで、ミネラル感とスパイスの印象があります。口に含むと生き生きとした酸と豊かな果実味が広がり、厚みのある酸としっかりした骨格が余韻まで長く続きます。

コッポ社のフラッグシップワイン
凝縮果実と樽感が溶け合うエレガントバルベーラ

ポモロッソ ニッツァ 2020

ポモロッソ ニッツァ 2020

エリカ氏:
「ポモロッソは、バルベーラの特性を最も表現できるニッツァDOCGのワインです。フラッグシップワインで、多様な土壌を持つニッツァのクリュをブレンドして造っています。フレッシュな酸を備え、14ヶ月のバリック熟成で造る長期熟成型のワインとなります。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。赤い果実に濃密なバルサミコのニュアンスが加わった凝縮感のある香り。口に含むと香りに感じた果実感が広がり、後味にはバニラやバターなど樽由来の要素が美しく溶け込みます。力強さを備えながらもエレガントで、綺麗な酸と凝縮した果実味が長く持続します。

柔らかさ、フィネス、エレガンスに富むラ モッラ村のバローロ

バローロ デル コムーネ ディ ラ モッラ 2020

バローロ デル コムーネ ディ ラ モッラ 2020

エリカ氏:
「海外市場向けに造られるラ モッラ村のバローロです。砂質の多い若い土壌を持つラ モッラで造られているため、香り高くタンニンが穏やか、早くから飲めるのが特徴です。加えて、フィネスやエレガンスに富み、繊細さが表現されています。」
試飲コメント:ガーネットを帯びた淡いルビー色。バラや潰した花のニュアンスに加え、土や枯れ葉、トリュフの香りが重なります。口当たりは非常に柔らかく、香り同様の要素を持つ非常にエレガントな味わいです。後口には、繊細な樽の要素が果実感と絶妙に溶け合った余韻が持続します。

インタビューを終えて

当主ジュディッタさんたちが取り組んできた大規模な改革と、そのスピード感にはとても驚かされました。ただ、それは、130年以上にわたってコッポ家が築いてきた伝統を大切にしながら、この土地を知り尽くした仲間同士で形にしているものなのだと感じました。

「たった1日で情報や技術は古くなる」という言葉も印象的でした。その考えをもとに、時代の変化に応えながらもクラシカルなスタイルを守り、親しみやすさとエレガンスを兼ね備えたワインを生み出しているのだと思いました。今回試飲したコステビアンケ、ポモロッソ、バローロはまさにその象徴で、綺麗な酸、果実味、エレガンスが見事に調和していて素晴らしかったです。

ピエモンテの伝統に根ざし、力強く前進するコッポ社。そしてジュディッタさんのエネルギーと前向きな姿勢に、強く心を動かされたインタビューとなりました。