2025/11/06
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ジュリア スプリングス氏 Ms. Julia Springeth
アルト アディジェの隣り合う2つの村が生む、偉大なピノ ノワールと超長期熟成白!イタリア最古の協同組合「アンドリアーノ」&「テルラーノ」

アルト アディジェの二つの村に根ざす
1893年創設、イタリア最古の協同組合
「テルラーノ」と「アンドリアーノ」は、ともに1893年に創設されたイタリア最古の協同組合です。拠点を構えるアルト アディジェは、地域全体の8割を山と森が占め、農家が所有できる土地はごく限られています。かつて、このエリアはオーストリア=ハンガリー帝国の一部で、当時の畑の所有者の約70%が小規模栽培農家、残り30%が貴族階級という構図でした。
小規模農家が未来を切り拓いた「アンドリアーノ」
アンドリアーノは、当時の小規模農家たちが力を合わせて創設した協同組合です。当時、彼らは自身のブドウを大手に売って生計を立てていましたが、どれだけ品質の高いブドウを育てても正当な価格では買い取ってもらえない時代でした。
そこで農家たちが迫られた選択肢は二つでした。一つは土地を大きな会社に売り、従業員として働くこと。もう一つは、互いに協力し、自分たちの力で未来を切り拓くこと。彼らが選んだのは後者でした。
こうして誕生したアンドリアーノは、オーストリア=ハンガリー帝国で初めて、そしてイタリアでも最初の協同組合となったのです。現在、組合員の数は60、畑の広さは80ヘクタールです。
アンドリアーノ村(奥)、テルラーノ村(手前)
貴族文化が築いた白ワイン産地「テルラーノ」
一方のテルラーノは、オーストリア貴族の影響を色濃く受けて発展した協同組合です。ただし成り立ちの根本には、アンドリアーノと同様に小規模農家を守るという目的がありました。
当時、貴族たちが購入していた土地の多くがテルラーノ村に集中していました。彼らはヨーロッパ中を旅する中で、テルラーノの「年間100日以上の日照」と「広大な土地」に魅了され、邸宅や城を構えました。同時に、交流の深かったフランス貴族から多くの白ブドウ品種を持ち帰り、植樹していたのです。
結果として、約50年前まで赤ワイン産地とされていたアルト アディジェの中で、テルラーノは早くから白ワイン文化が発展していきました。現在は143の組合員がいます。現在、組合員の数は143、畑の広さは190ヘクタールです。

約110年の時を経て提携
両者は1世紀にわたり、隣り合う存在でありながら別の道を歩んできました。その間、片方が好調な時にもう一方が苦しい状況にあるなど、互いに協力を模索する動きはありませんでした。
しかし2008年、両者はそれぞれの強みが補完し合える関係であることを再認識して、110年以上の時を経て初めて提携を結び、歩みを共にすることになりました。
個性はそのまま、品質基準はテルラーノに統一
両者はそれぞれが守るべき条件を明確にしたうえで、提携に至りました。
アンドリアーノの条件:
「生産拠点と従来のラインナップをそのまま維持すること」
テルラーノの条件:
「品質基準をテルラーノ側の基準で統一すること」
一般的に「協同組合は高品質を実現しにくい」と思われますが、実際には、その逆です。組合員はいずれも小規模な家族経営の農家で、自らの畑に深く向き合う時間と手間を惜しみません。そして、私たちは、年5~6回にわたり全区画を細かくチェックし、品質を評価します。その評価に応じて農家への支払い額が決まるという仕組みを採用しています。
アディジェ川を隔てた両村のコントラスト
気候・地形・土壌の違いが描く二つのテロワール
ストラクチャーと酸を生む圧倒的な寒暖差
私はテルラーノに住んでいますが、「あなたのエリアは暑いのか、寒いのか」と聞かれることがあります。答えは「両方」です。今年は最高気温が40.7度に達し、冬はマイナス13度まで下がります。非常に寒暖差の大きい地域です。
その理由のひとつが風です。昼間は南に位置するガルダ湖から、Ora(オーラ=時間、今)と呼ばれる温暖な風が吹きます。その名の通り、午後4時になるとピタリと止まる風です。
夜になると、今度はすぐ隣のガントコフェル山から冷たい風が吹きます。この昼夜の風がもたらす寒暖差こそが、ワインにしっかりとしたストラクチャーと、バランスの良い酸を与えてくれるのです。

山が光を遮る冷涼な「アンドリアーノ」
標高900mに及び、西日を浴びる温暖な「テルラーノ」
アディジェ川を挟んで東西に分かれている二つの村ですが、アルプスの麓という大きなくくりでは同じですが、受ける山の影響が異なるため、気候や土壌が大きく変わります。つまり、両者は明確に異なるテロワールを持っているのです。
なかでも大きな差が生まれるのが日照です。アンドリアーノは山を背にした東向きで、日照は朝6時頃から夕方7時頃まで。テルラーノは山を背にした西向きで、朝9時頃から夜8~9時頃まで太陽が当たり、特に長い西日を受けることが特徴です。
その結果、アンドリアーノはより冷涼で、標高180~200メートルの畑が中心となり、向きは主に南や南東。一方のテルラーノはより温暖で、最大900メートルまでブドウ栽培が可能で、南向きの畑が多いです。
石灰質土壌で華やか&エレガンス「アンドリアーノ」
火山性土壌でミネラル感あふれる「テルラーノ」
両者の土壌は、かつての大噴火によって生まれたアディジェ川が形成した二種類に分かれます。アンドリアーノはブルゴーニュに似た石灰岩質土壌、テルラーノは石英斑岩を主体とした火山性土壌です。そのため、アンドリアーノは華やかでエレガントに、テルラーノはミネラル感が表れます。
アンドリアーノ村(左)、テルラーノ村(右)
徹底した収量制限とテロワールが導く「多彩なラインナップ」

最低10年間、澱と熟成させる最上級ラインの「ラリティ」
私たちの醸造家だったセバスチャン・ストッカーが、長期熟成ポテンシャルを示すために取り組む特別なキュヴェがあります。それが、最上級アイコンラインの「ラリティ」です。
このワインは、1978年ヴィンテージ以来、毎年最良のブドウだけを選び、長期熟成に耐えるキュヴェとして造り続けてきました。醸造にはステンレスタンクのみを使用し、最低でも10年間、澱とともに熟成しています。現在もワイナリーには、1979年ヴィンテージが熟成され続けています。
「ラリティ」が眠るステンレスタンク
「歴史と個性を最も純粋に映す」
テルラーノを象徴する伝統的ブレンド
アイコンラインのもう一つのワイン「テルラーネル プリモ グラン キュヴェ」は、テルラーノが世界の偉大な白ワインと肩を並べる存在であることを示すために造り出したものです。品種構成はピノ ビアンコ、シャルドネ、ソーヴィニヨン ブラン。
このブレンドはテルラーノDOCに受け継がれる伝統的な構成でもあり、セバスチャンは「この3品種こそがテルラーノの歴史と個性を最も純粋に映す」と考えていました。
超長期熟成を遂げるテルラーノの白
世界が認めたアンドリアーノのピノ ノワール
白ワインの長期熟成ポテンシャルを証明した「隠しセラー」
かつてからテルラーノが大切にしてきたのは、「瓶詰め後、さらにまたワインは造られていく」という考えです。
1955年に醸造家に就任した当時、セバスチャンはセラーで偶然、古いヴィンテージの白ワインを見つけました。試飲すると、その圧倒的な長期熟成ポテンシャルをすぐに理解しました。しかし当時の経済状況では、その年のワインを一部保管する余裕など到底ありませんでした。
そこで彼は取締役には内緒で、毎年500本ずつワインを隠して保管し始めました。隠し扉の中や大樽の中に巧妙に隠し続けたのです。結果的に、30年後にバレてしまったわけですが(笑)、今では白ワインを中心に約100年分、120万本ものストックが保管されています。「ピノ ビアンコ ヴォルベルグ リゼルヴァ」と「ノヴァ ドムス」は、そのうちの一つです。

「テルラーノの白ワインは赤ワインよりも長期熟成する」
――当時は、白ワインを長期熟成させる生産者はほとんどいなかったのでは?
いませんでしたね。今でもこの話をすると、お客様の多くが信じてくれません(笑)。けれど、彼が隠し続けてくれたおかげで、今では唯一無二の熟成白ワインを味わうことができます。
テルラーノの白ワインは赤ワインよりも長期熟成することができるのです。理由はテロワールです。まず畑の樹齢が非常に高いこと。土地自体が痩せていてミネラルが豊富なこと。そして昼夜の寒暖差が大きく、アルコール度数と豊かな酸がしっかりと確保できること。このすべてが、驚くほどの熟成ポテンシャルを生み出しています。

「この価格で、この品質は絶対に見つけられない」
パリ三つ星レストランを魅了した「ピノ ノワール リゼルヴァ アンラー」
私たちのピノ ノワールは、多くのブルゴーニュに引けを取りません。もちろん、莫大な投資ができれば話は別ですが(笑)、この価格帯であれば間違いなくトップクラスのクオリティです。
先日、パリの三つ星レストランのシェフと話す機会がありました。欲しいワインは何でもリストに載せられる店ですが、そのシェフが「私たちの料理と、アンドリアーノのアンラーを合わせたい」と。
「そんな素晴らしいリストがあるのに、本当に良いのか」と尋ねると、「この価格で、この品質は絶対に見つけられない」と言ってくださいました。日本は世界でも屈指のピノ ノワール愛好家が多い国ですよね。だからこそ、ぜひみなさんに一度味わっていただきたいです。

トラディションライン
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シャルドネ ソメレート 2024 |
| ジュリア氏: 「ステンレスタンクで造るトラディションラインのシャルドネです。シャルドネは樽のイメージがありますが、私たちは以前からバリックをきかせたシャルドネは造っていません。半年間のシュールリーを行っています。ソメレートは石灰土壌で、非常にフレッシュで香りがすぐに開くワインです。小さい夏という意味を持ち、重くなく料理と合わせやすいことが特徴です。」 |
| 試飲コメント:輝く麦わら色。黄色い果実や凝縮した柑橘の香りにミネラルがやってきます。口に含むと香りの印象そのままに心地よくフルーティで、親しみやすい味わいです。余韻には果実味とミネラルが調和し、引き締まった酸が心地よく残ります。 |
トラディションライン
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シャルドネ 2024 |
| ジュリア氏: 「ステンレスタンクで造るトラディションラインのシャルドネです。シャルドネは樽のイメージがありますが、私たちは以前からバリックをきかせたシャルドネは造っていません。半年間のシュールリーを行っています。このシャルドネは、最初は香りが閉じていますが、アンドリアーノのものよりもストラクチャーを感じると思います。」 |
| 試飲コメント:麦わら色。ハーブやミネラルを思わせるエレガントな香り。軽やかで柔らかさのある口当たりで、きゅっとした酸とジューシーな果実感が上品に広がります。 |
セレクションライン
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セレクション シャルドネ リゼルヴァ ドーラン 2022 |
| ジュリア氏: 「アンドリアーノのセレクションライン、上級シャルドネです。ドーランとは、ドラート(黄金色)とアンドリアーノをかけた言葉で、アンドリアーノの金を意味します。500リットルの樽で2年間熟成。そのうち1年はトノーを使用します。2022年は非常に暑い年でしたが、石灰土壌由来のフレッシュさが表現されています。」 |
| 試飲コメント:黄金色。熟した果実やバナナ、バター、樽の香りが重なります。口に含むとフレッシュな酸があり、樽由来の風味と美しく溶け合っています。香りの印象そのままの味わいで、余韻は長く、樽が過度に主張しない心地よさが持続します。 |
セレクションライン
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テルラーネル クラシコ 2024 |
| ジュリア氏: 「テルラーネルはベストセラーワインです。セレクションラインの位置付けですが、造りはクラシカル。使用品種は、テルラーノDOCの伝統的なブレンドのピノビアンコ、シャルドネとソーヴィニヨンです。平均樹齢は60年ほどで、最も古いものは100年近くに達します。80%はステンレスタンクで、20%は大樽で6ヶ月ほど熟成しています。」 |
| 試飲コメント:やや淡い麦わら色。アロマティックな香りに小石やミネラルのニュアンス。ほどよいフレッシュ感を備え、華やかでフルーティな味わいが広がります。適度な骨格があり、フレッシュでフルーティな余韻が持続します。 |
セレクションライン
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ピノ ビアンコ ヴォルベルグ リゼルヴァ 2023 |
| ジュリア氏: 「ヴォルベルグは、厳選したピノビアンコで造るリゼルヴァです。1925年にピノビアンコ100%を初めて造って以来、ちょうど100年の歴史を持つ、ワイナリーにとって重要なワインです。平均樹齢60年、古いものは100年に達します。寒暖差が大きく痩せた土地で、偉大なブドウが育つ畑なのです。このワインやノヴァ ドムスは、1950年代のヴィンテージでも今なお飲めるほど60年の熟成に耐えるポテンシャルがあります。」 |
| 試飲コメント:黄金色。ミネラル、バナナ、ハーブ、柑橘、火打石が一体となった香り。口に含むと、柑橘やミネラル感、ハーブといった風味が広がります。フレッシュな酸と樽のニュアンスが溶け込んだ余韻が持続します。 |
セレクションライン
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セレクション ソーヴィニヨン ブラン アンドリウス 2023 |
| ジュリア氏: 「力強すぎない広がりを意識したソーヴィニヨンです。アンドリウスはアンドリアーノの冷涼な気候が反映された、繊細なフローラルな香りです。また、石灰土壌でもあるので、香りが開きやすいことも特徴です。」 |
| 試飲コメント:黄金色。ミネラルと熟した果実、白い花の濃密な香り。ほどよくアロマティックな風味が広がり、やや濃密な果実感とミネラルが調和しています。 |
セレクションライン
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ソーヴィニヨン クオルツ 2023 |
| ジュリア氏: 「テルラーノがソーヴィニヨン100%を造り始めたのは1956年です。アルト アディジェでは間違いなく初、イタリアでも恐らく初だと思います。長年醸造家として活躍したセバスチャンが、ピノビアンコ同様に品質を求めた1本です。赤ワイン同様に高めの温度で発酵させ、古い樹齢のブドウを使うことで複雑味と広がりを引き出しています。そして、アロマティック酵母を使用しないことでエレガントさとストラクチャーを表現しています。」 |
| 試飲コメント:黄金色。白い花やミネラル、レモンなどの柑橘が重なるフレッシュでフルーティな香り。香りと一致した味わいで、フレッシュで鋭い酸があり、ジューシーな果実感に満たされます。 |
トラディションライン
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ピノ ノワール 2024 |
| ジュリア氏: 「ブルゴーニュスタイルを目指して造られたピノ ノワールです。暑さによる濃さや焼けた印象ではなく花のニュアンス、フルーツ感、エレガントで繊細なスタイルを追求しています。飲むと複雑さが広がるワインです。」 |
| 試飲コメント:ルビー色。赤い果実とやや熟した果実、花や潰した花の香り。軽やかでエレガントな口当たりで、繊細ながら複雑に広がる風味が持続します。 |
トラディションライン
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ピノ ノワール 2024 |
| ジュリア氏: 「ブルゴーニュスタイルを目指して造られたピノ ノワールです。濃さよりも花のニュアンスとエレガンスを重視しています。テルラーノの区画は小さく、標高500~600メートルで風通しが良く寒暖差があります。ボリュームが出過ぎないよう、フレッシュな味わいに仕上げています。」 |
| 試飲コメント:やや淡いルビー色。エレガントで複雑な香り。香り同様に繊細かつ複雑な味わいです。こなれたタンニンによって、ふくよかでエレガントな余韻をもたらしています。 |
セレクションラインの最上級ピノ ノワール
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セレクション ピノ ノワール リゼルヴァ アンラー 2022 |
| ジュリア氏: 「アンドリアーノの最上級ピノ ノワールです。アンラーとは、アンドリアーノとラリティ(テルラーノの最上級ラインの名)を掛け合わせた名前です。畑は1ヘクタールの小区画で、1ヘクタールあたり8000本の密植度で非常に低収量に抑えています。平均樹齢は35年。バリック100%、うち3分の1を新樽で熟成しています。」 |
| 試飲コメント:ルビー色。土のニュアンスを伴う複雑でエレガントな香り。非常にエレガントで複雑な味わい。タンニンは心地よく、優美さと厚みのある風味が見事に溶け合っている印象です。 |
インタビューを終えて
加えて、「国際品種でありながら、実はシャルドネは300年前から植えられてきた」という話も印象深かったです。貴族たちが持ち込んだこの品種は、いまやピノ ビアンコと並ぶ歴史的な品種と言えるほど土地に根づき、テルラーノDOCの伝統的ブレンドに欠かせない存在になっているのだと実感しました。
アンドリアーノもテルラーノも非常にクリーンで洗練された味わいです。そのうえで、テロワールの違いがはっきりと現れていました。アンドリアーノには繊細で華やかなキャラクターがあり、テルラーノには骨格とエレガンスの調和がありました。今回は試飲の際にグラスを2脚用意していただきましたが、みなさんにもぜひ二つのテロワールを同時に感じていただきたいです。














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