2025/10/31
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ディレッタ ネンベル氏 Ms. Diletta Nember、フランチェスコ フランツィーニ氏 Mr. Francesco Franzini
600年根ざす土地と家族の信念を貫き、フランチャコルタ協会を脱退!華やかさとエレガンス際立つ、究極のメトドクラシコ「カヴァッレーリ」

フランチャコルタ協会設立メンバーのひとり
世代を超えて追い求める、哲学と理想の品質
1960年代、祖父ジョヴァンニ・カヴァッレーリは志を同じくする仲間たちと共に、フランチャコルタ協会を設立しました。その理念は「世界的な最高品質のワインを追求する」というものでした。祖父の信念は娘たちへ、そして現在は私たちいとこの世代へと受け継がれ、変わることなくワイン造りをしています。

家族の歴史と深く結びつく土地「エルブスコ」
――おふたりは、いつ頃ワイナリーに参画されたのですか?
2008~2009年です。祖父は2005年に亡くなりましたが、それまでに本当に多くのことを教えてくれました。祖父の家があったエルブスコの丘は、私たちにとって第二の家のような存在でした。幼い頃から多くの時間を過ごし、自然とワイン造りの環境の中で育ったのです。エルブスコは、私たち家族にとって深い絆で結ばれた特別な土地です。
受け継がれる古樹とワイン造り
私たちは、祖父がフランチャコルタ協会設立時に掲げた「最高品質を追求する」という信念を受け継いでいます。その品質を支えているのは、古い樹齢の畑での栽培です。フランチャコルタの規定に従えば、40ヘクタールの所有畑からおよそ34万本を生産できますが、私たちは平均18万本ほどしか造っていません。
これは古木ゆえに収量が限られるためでもあり、土地とブドウの調和を尊重した結果でもあります。つまり、「生産量を無理に増やさず、受け継いだ畑で品質を追求すること」で、品質を保っています。

人気上昇に伴い、フランチャコルタの生産量が増加
1990年代以降、フランチャコルタは国内外で人気を高め、成功とともに生産量も急速に拡大しました。これは自然な流れで、生産量の増加自体は本質的な問題ではありません。しかし、過去15年ほどの間に、限度なく生産が増え続ける傾向が見られるようになりました。特に直近10年では、その生産量が倍増したほどです。
私たちにとって「フランチャコルタ」という名が意味するのは、常に高い品質を維持し、すべての工程に細心の注意が払われたワインであるということです。土地への深い敬意と結びつきを失わずに、どれほど生産量が増えようとも、フランチャコルタと呼べるのは「最高品質」を保ち続けるワインだけなのです。
フランチャコルタ協会を脱退
この地に根ざした家族として、貫く哲学
この10年ほどの間に、「フランチャコルタ」という言葉や存在そのものが、私たちの知る本来の姿から変わってしまったと感じています。私たちはその現状と行く末に強い危機感を抱き、協会の中で問題提起を行ってきました。フランチェスコは副会長として改革を訴えましたが、それは実りませんでした。
そして私たちは、二つの選択肢に直面しました。市場の需要に合わせて大量生産の道を進むのか、それとも家族が受け継いできた信念を貫くのか。私たちが選んだのは、もちろん後者です。協会を脱退し、フランチャコルタの地に根ざした家族として、自らの哲学を守り抜く道を選びました。そのため、2025年春から私たちのワインには「フランチャコルタ」という名は冠されません。
私たちが大切にしているのは目先のことではなく、100年先を見据えたワイン造りです。この決断を理解していただくのは難しいかもしれないですが、私たちにとっても厳しい決断となりました。

協会脱退も、揺るがぬ哲学
「品質の高さ」と「家族の味わい」を追求
協会を脱退することにはなりましたが、ワインの中身はこれまでと何ひとつ変わりません。フランチャコルタの規定に沿った造りで、使用するブドウはすべて自社畑から。従来の規則、そして祖父の代から受け継いできた造りをそのまま尊重しています。
カンティーナの中では、今も「フランチャコルタとして造られている」という協会のお墨付きを得ていますが、最後の工程であるデゴルジュマンを終えた瞬間、自らその証を外し、その名を冠さずにリリースします。
――つまり、エチケットから名前が消えるだけなのですね。
そうです。それ以外は何も変わりません。

代々受け継がれる「家族の味」
――昔から、このワインのスタイルなのですか? シャンパーニュの影響を受けているように感じます。
祖父は確かにシャンパーニュから多くの影響を受けています。歴史ある産地であり、メトドクラシコの発祥地でもありますからね。ただ、私たちのワインの核にあるのは、あくまでフランチャコルタとしての個性です。その個性を代々受け継ぎ、磨き上げてきた結果が、いまの「家族の味」であり、私たち自身が愛するスタイルです。
――カヴァッレーリのワインは個性が際立つ味わいで、そのクオリティの高さは明らかです。ご自身たちが考える本来のフランチャコルタ像を踏まえれば、今回の決断は自然な流れのようにも思えます。
私たちにも、フランチャコルタの一員として果たすべき役割や責任があると感じています。ただそれ以上に、この土地と家族との結びつきが何よりも深いんです。だからこそ、今回の決断に至りました。
伸びやなかな酸と上品な味わい
土地に根ざし、自然の力を最大限に生かすワイン造り
全体で約40ヘクタールあり、25の区画に分かれています。どれか一つが突出して大きいわけではなく、すべてが小規模の区画です。いずれもカンティーナから1キロ圏内に位置しています。主に栽培しているのはシャルドネで、ピノ ネロが1.5ヘクタール、カベルネ フラン、カベルネ ソーヴィニヨン、メルローが合わせて3ヘクタールです。
自然と共生する畑づくり
畑では2013年からビオロジック農法へと転換し、一部ではビオディナミも取り入れています。昔から自然を尊重する姿勢は変わりませんが、研究や技術への投資を重ねてきた結果、ようやく本格的に移行できる段階に至りました。
現在は環境負荷を最小限に抑える取り組みを進めており、畑にはできる限り人の手を加えない方針を採っています。また、生物多様性を守るため、森と畑の調和を維持するプロジェクトにも取り組んでいます。

豊かなアロマをもたらす「自然酵母」
カンティーナでも、極力人の手を加えない手法をとっています。2009年頃から自然酵母の使用を試み、2018年以降はすべての発酵を自然酵母で行っています。その結果、より広がりのあるアロマが生まれるようになりました。
区画ごとに使い分ける「多彩な醸造容器」
発酵に使うタンクの種類も増えました。かつてはステンレスと大樽を使用していましたが、近年は酸化を適度に促す目的から、セラミックやセメントのタンクも導入しています。区画ごとに最も適した容器を選び醸造することで、キュヴェごとの香りや味わいといった個性を最大限に引き出しています。
既定の約16%まで抑えた酸化防止剤
デゴルジュマン後の添加も行わず、すべてのキュヴェをドサージュなしで仕上げています。また、酸化防止剤の添加量も極めて低く抑えています。規則上の上限が185mg/Lに対し、私たちは30~50mg/Lです。

垂直に伸びる酸、フレッシュでエレガントな味わい
長期間の澱との接触がもたらす、深みとバランス
私たちがワイン造りで最も重視しているのは、まっすぐに伸びるような酸の存在です。フレッシュでありながらエレガントさを感じさせるもの。そのバランスこそが、私たちの理想とする味わいです。
しかし、近年の気候変動によって、30年前と同じ方法では酸を保つことが難しくなっています。酸を維持するためにはカンティーナでの調整も必要になりますが、私たちは醸造における介入はしません。畑での仕事に重点を置き、ブドウ本来の力で理想の味わいを引き出すことに注力しています。
また、二次発酵後の熟成期間を長く取ることで、澱との接触がもたらす奥行きと調和が生まれ、ワイン全体にさらなるバランスと深みを与えています。
飲み手に届けたい、多くの想い
――裏ラベルに、かなり多くの情報が記載されていますね。
そうなんです。できるだけ多くの情報を伝えたいという思いがあるからです。飲み手の方と直接お話しする機会は限られていますので、ラベルを通して、私たちの考えやこだわりを届けたいのです。私たちのワインには、本当に語るべきことがたくさんありますから。
もちろん、裏ラベルに多くの情報を記載するほど検査が増えるため、書くことを避ける造り手も少なくありません。それでも、私たちは毎年伝えたいことが変わるので、どうしても書きたくなってしまうんです。その分、仕事は増えますけどね(笑)。

綺麗な酸と華やかさが調和
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フランチャコルタ ブラン ドゥ ブラン ブリュット ナチュール NV |
| フランチェスコ: 「ブラン ドゥ ブランは、生産量の70%を占める代表的なワインです。エントリー的な存在でありながら、造るのに最も時間がかかり、収穫時から最優先でブドウを選別して造られます。まず、このワイン用のブドウを確保することから始まるくらい重要な位置づけです。複数区画のシャルドネ100%で、主にその年のブドウを使用。5~10%ほどリザーブワインをブレンドしています。発酵はステンレスタンクと木樽で行います。年ごとのキャラクターを反映するため、今回試飲しているのは、90%が2020年、10%が2018年のものです。最低24ヶ月間澱とともに熟成しています。」 |
| 試飲コメント:輝きのある黄金色に近い麦わら色。香りは凝縮感とフレッシュさを併せ持ちます。綺麗でフレッシュな酸があり、りんごなど白い果実のピュアな果実味と華やかさが調和しています。余韻は長く、柑橘の果実感が心地よく持続します。 |
「家族の哲学を完璧に体現」
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セラディーナ ブリュット 2021 |
| フランチェスコ: 「セラディーナは家族の哲学を完璧に体現するワインで、他のフランチャコルタやシャンパーニュとは異なる独自の存在です。毎年造らず、約1万3000本の生産。セラディーナとは、祖父が丘のブドウで造ったスティルワインに使っていた名前を商標化したもので、1日中太陽を受ける土地を意味します。主に大樽で発酵し35%がマロラクティック発酵しています。アロマ豊かで酸は控えめ、そしてエレガントでリッチ。深みと柔らかさを備えています。自然なビオディナミ栽培によるブドウから造られ、ドサージュゼロ。熟した果実が生むまろやかさが、自然な甘みを感じさせます。」 |
| 試飲コメント:麦わら色。繊細でエレガントな白い果実の香りが広がります。香りに通じる綺麗な果実味が口中に広がり、余韻も上品で、口の中で柔らかく広がります。 |
1970~80年代植樹の古樹を使用
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フランチャコルタ ブラン ドゥ ブラン パ ドセ 2020 |
| フランチェスコ: 「その年の個性が表現された、パドセ2020年ヴィンテージです。約40ヶ月澱とともに熟成し、酸とミネラルのバランスを重視して造られています。使用するシャルドネは1970~80年代に植樹された古い2つの区画から。熟し方がゆっくり進むことで、フレッシュ感を保ちながら味わいの奥行きが引き出されています。発酵は主にステンレスタンクで、一部を大樽で行い、酸と味わいのバランスを追求しています。」 |
| 試飲コメント:黄金色。パン生地やドライフルーツ、黄色い果実の香りが複雑に重なり合います。味わいも香り同様に奥行きがあり、凝縮感のある果実味が心地よく続きます。 |
美しく繊細な果実感に満たされるロゼ スプマンテ |
ロゼ 2020 |
| フランチェスコ: 「2020年のロゼは80%ピノ ネロ、20%シャルドネで北側の風通しの良い畑のブドウで造っています。ピノ ネロは4時間のみマセラシオンし、ステンレスタンクで発酵、マロラクティック発酵は行いません。生産量は約7000本で、特定区画のピノ ネロのみを使用。2021年以降はピノ ネロ100%に切り替え、マセラシオンを8~12時間に延ばして個性を際立たせる予定です。繊細な作業が求められますが、より明確なパーソナリティを追求したロゼを目指しています。」 |
| 試飲コメント:玉ねぎの皮を思わせるピンク色。赤い果実の繊細でフレッシュな香りが立ちのぼります。香りの印象そのままに、繊細さとしっかりした骨格が調和し、余韻には美しい果実味が長く続きます。 |
生産量わずか1000本
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フランチャコルタ ブリュット コッレツィオーネ エスクルージヴァ ジョヴァンニ カヴァッレーリ 2014 |
| フランチェスコ: 「祖父に捧げる特別なワインが、このコッレツィオーネ エスクルージヴァ ジョヴァンニ カヴァッレーリです。優良年のみ造られ、造れても約1000本程度です。非常に長期熟成を経た複雑なワインで、標高300メートルのエルブスコの高地の畑から生まれます。発酵は主にステンレスタンクで一部大樽を使用し、9年間熟成します。さらに2008年ヴィンテージでは15年熟成の試みも行われており、今後リリースする予定です。長期熟成によって複雑さと魅惑的な味わいを備え、軽やかで疲れを感じさせない酸が特徴です。」 |
| 試飲コメント:黄金色。ナッツやバターを思わせる香ばしい香りに、繊細さな香りが広がります。口当たりは軽やかでフレッシュな酸があり、香りの要素が余韻まで続きます。長い余韻が印象的です。 |
複雑性と心地よさを兼ね備えた国際品種ブレンド |
ディ マーノ イン マーノ セビーノ ロッソ 2021 |
| フランチェスコ: 「実は私たちは、1979年までは赤ワインのみを造っていました。現在もその伝統を受け継ぎ、フランチャコルタでは希少なスティルの赤ワインを造り続けています。単一区画で栽培するメルロー、カベルネ フラン、カベルネ ソーヴィニヨンを使用。ヴィンテージにより比率や醸造法を柔軟に変え、長期熟成型にも早飲み型にも対応しています。2021年ヴィンテージは軽やかでフレッシュなスタイルです。約2700本限定。ワイン名のディ マーノ イン マーノは、手渡していくことを意味しています。ラベルには次世代への継承を象徴する、私たちの子どもたちが描かれています。」 |
| 試飲コメント:ルビー色。ハーブやカシス、土を思わせる滋味深い香りが漂います。味わいも香りと調和し、複雑で魅惑的な風味を持ちながら、軽やかで飲み心地の良さがあります。 |
インタビューを終えて
試飲したワインはどれも、一線を画す華やかさとエレガンスがあり、非常に完成度の高い仕上がりです。それでいて、区画ごとに最適な発酵容器を選ぶというこだわりにより、ワイン(テロワール)ごとの個性が見事に表現されていました。
なかでも、最も手間をかけて造られるエントリーキュヴェ「ブラン ド ブラン」は、美しい酸とピュアな果実味、そして華やかさが見事に調和していました。また、ワイナリーを象徴するという「セラディーナ」は、深みと上品な味わいで素晴らしかったです。彼らが追求し続けるワインを、ぜひご堪能ください。










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