イタリア最北の修道院ワイナリー「アバツィア ディ ノヴァチェッラ」

2025/09/12

2025/07/15

ウォルナー ヴァルドボッヒ氏 Mr. Werner Waldboth

イタリア最北、標高850mを誇る白ワインの銘醸地イザルコ渓谷!アルト アディジェの由緒ある修道院「アバツィア ディ ノヴァチェッラ」

アバツィア ディ ノヴァチェッラは、1142年から続く修道院が手がけるイタリア最北のワイナリーです。拠点を置くのはアルプス山脈のふもとに位置するアルト アディジェのイザルコ渓谷。標高2000~3000メートル級の山々に囲まれた環境でワイン造りを行っています。歴史的にオーストリア領であった背景や類似した気候条件もあり、栽培される品種はシルヴァネールやケルナーなど、オーストリアやドイツ系が中心。冷涼な産地ならではのフレッシュな果実味とミネラル感を備えたワインを生み出しています。今回は輸出マネージャーのウォルナー・ヴァルドボッヒ氏にお話を伺いました。

1142年設立、由緒ある修道院のイタリア最北ワイナリー

――まずは、ワイナリーの紹介をお願いします。

アバツィア ディ ノヴァチェッラは、1142年設立の修道院に併設するワイナリーです。約150年前までは、修道院内のミサなど宗教行事のためだけにワインが造られていましたが、その後は徐々に修道院の外向けにも造られるようになりました。さらに約60年前には60軒の農家と協力してワイン造りを行うようになり、国外への輸出も始まりました。

1997年にはチェレスティーノ・ルチーン(※)が醸造家に就任。彼の指導により上級ライン「プレポージトゥス」が誕生し、品質重視のワイン造りが本格化しました。その結果、私たちのワインの品質は、過去30年で飛躍的に向上しました。
※2009年度『ガンベロロッソ』年間最優秀エノロゴ

イザルコ渓谷のテロワール
3000メートル級の山々と、豊かな日照が育むフレッシュな味わい

ワイナリーが位置するのは、オーストリア国境に接するアルプス山脈のふもと、イザルコ渓谷。イタリア最北のワイナリーと言える場所です。2000~3000メートル級の山々に囲まれ、標高はおよそ600~900メートルです。

年間300日が晴天で昼は日差しが強い一方、夜には山から冷たい空気が流れ込むため、大きな寒暖差があります。その気候条件が、フレッシュさとフルーティさを兼ね備えたワインを生むのです。

オーストリア系品種が根付き、
白ワインが98%を占めるイザルコ渓谷

――ウォルナーさんは、このエリアのご出身ですか?

そうです。ヴァッレ イザルコDOCですね(笑)。イザルコ渓谷では、生産されるワインのうち98%が白ワインです。そこから南に下ると赤ワインの産地になります。ワイナリーとしては、白が約80%、赤が約20%です。ちなみにアルト アディジェ全体では、赤35%、白65%という割合です。

アルト アディジェは、第一次世界大戦までオーストリア領に属しており、イザルコ渓谷の気候もオーストリアに近いため、グリューナー ヴェルトリーナーをはじめとするオーストリアやドイツ系の品種が定着しています。

イザルコの伝統品種「シルヴァネール」
ノヴァチェッラが確立した最重要品種「ケルナー」

シルヴァネールはイザルコ渓谷で長い歴史を持つ品種で、20年前までは最も広く栽培されていました。しかし現在はケルナーにその座を譲り、イザルコ渓谷において最重要品種となっています。

ケルナーは1929年にドイツで誕生し、アルト アディジェで栽培が始まったのは1960年頃です。私たちもいち早く導入し、実験を重ねたのち1992年ヴィンテージを初めてリリースしました。それ以来ケルナーを造り続け、現在のこの品種の発展に大きく貢献してきたと自負しています。

標高850メートル、全体の90%を占める壮大な段々畑

――畑の規模について教えてください。

合計で100ヘクタールあり、うち30ヘクタールが自社畑、70ヘクタールが契約農家の畑です。畑はワイナリーの周囲に広がり、その約90%が段々畑です。20年前まではすべてが段々畑でした。機械の導入が難しいため、収穫はすべて手摘みで行っています。

標高によって植え分けられる多彩な品種
最も高い畑は標高850メートルに位置し、標高に応じて品種を植え分けています。上部にはミュラー トゥルガウやケルナー、中部にはグリューナー ヴェルトリーナー、リースリング、シルヴァネールなどを配置。その下にはピノ グリージョ、ソーヴィニヨン ブラン、ゲヴュルツトラミネールといった品種が続きます。

寒波から畑を守るキャンドル
近年の気候変動はイザルコ渓谷にも影響を及ぼしています。2017年には、それまで40年間発生しなかった寒波に見舞われ、重要な畑を失う被害を受けました。その経験を踏まえ、寒波時には畑にキャンドルを設置して守る方法を導入しました。結果として、2019年と2024年に再び寒波が襲った際も、この備えによって被害を防ぐことができました。

温暖化対策で、ピノ ネロを高地に植樹
――将来的に考えていることや試していることはありますか?

近年の温暖化の影響で低地のブドウに悪影響が出ています。そのため、実験的に中部の畑にピノ ネロやシャルドネを植え始めました。南から吹きつける熱風の影響をいかに抑え、畑を守っていくか。今後はその対策に注力していきます。

食前酒に最適な華やかでフレッシュなエントリー白

オムネス ディエス 2024

オムネス ディエス 2024

ウォルナー氏:
「オムネス ディエスは、毎日を意味するラテン語に由来します。アルコール度数が低く、毎日飲んでほしい、食前酒として楽しんでほしいという思いが込められています。モスカート ジャッロとミュラー トゥルガウのブレンドです。モスカートは温暖なエリア、後者は標高800メートルのイザルコ渓谷で栽培されています。醸造はステンレスタンク100%で、モスカートのフルーティさとミュラー トゥルガウのフレッシュさを引き出しています。夏にぴったりのワインです。」
試飲コメント:麦わら色。フレッシュかつ熟した白い果実の香りがアロマティックに広がります。エレガントさも感じます。やや厚みのある酸を感じさせる口当たりで、爽やかさと親しみやすいフルーティな味わいです。

エレガントな果実感のオーストリア系品種グリューナー ヴェルトリーナー

グリューナー フェルトリーナー 2023

グリューナー フェルトリーナー 2023

ウォルナー氏:
「オーストリアの土着品種グリューナー ヴェルトリーナーです。イザルコ渓谷はオーストリアと気候条件が似ているため、栽培に適しています。オーストリアよりもフルーティさが特徴です。醸造は70%ステンレスタンク、30%オーク大樽で行っています。2023年は暑かったため、より骨格を感じるワインになっています。」
試飲コメント:やや濃い麦わら色。繊細な白い果実や柑橘系の爽やかな香り。グレープフルーツのニュアンスが印象的です。柑橘の皮のような苦味を伴った、繊細な果実感と心地よいフルーツ感が広がります。

長期熟成ポテンシャルを秘めた、
イザルコ渓谷の歴史ある伝統品種シルヴァネール

シルヴァネール 2023

シルヴァネール 2023

ウォルナー氏:
「シルヴァネールはイザルコ渓谷で長い歴史を持つ品種で、20年前までは最も広く栽培されていました。70%をステンレスタンク、30%をアカシアの大樽で熟成させることで、骨格のある力強さと深みを備えた味わいに仕上がります。長期熟成のポテンシャルも高く、60年代のワインを今開けても美味しさを保っているほどです。幅広い料理に合わせられることも特徴の一つです。」
試飲コメント:麦わら色。白い果実にライチのニュアンスや白胡椒のスパイス感があります。フレッシュな酸と果実味が広がり、蜜のようなニュアンスを伴いながら余韻までフレッシュさが続きます。

その年最高の畑で造る上級ライン
柔らかく凝縮感あふれるシルヴァネール

プレポージトゥス シルヴァネール 2022

プレポージトゥス シルヴァネール 2022

ウォルナー氏:
「プレポージトゥス シルヴァネールは、厳選ブドウを使用した上級ラインです。プレポージトゥスは修道院長を意味するラテン語で、私たちにとって最も重要なワインです。生産量も少ないです。醸造はステンレスタンク、アカシア樽、そしてバリックを10%使用して、まろやかに仕上がるようにしています。所有畑、契約畑を問わず、その年に最高のブドウがプレポージトゥスになります。2022年は非常に暑く、骨格のしっかりしたワインに仕上がりました。」
試飲コメント:やや濃い麦わら色。凝縮した黄色い果実や熟した柑橘、白胡椒のようなスパイスの香りがあります。柔らかな口当たりで、香りに感じた風味が広がり、ミネラル感や南国果実のような印象もあります。

その年最高の畑で造る上級ライン
イザルコ渓谷を代表し、近年存在感を増す白品種ケルナー

プレポージトゥス ケルナー 2022

プレポージトゥス ケルナー 2022

ウォルナー氏:
「今やイザルコ渓谷で最重要品種となったケルナーです。リースリングとスキアーヴァに似た要素を持ち、桃やペトロール香があり、口当たりはフレッシュでスパイシーです。近年ますます存在感を増す現代的なスタイルのワインになります。ステンレスタンクのみで造り、澱とともに10か月熟成、さらに最低2か月の瓶内熟成を経てリリースされます。」
試飲コメント:輝く黄金色。南国果実やペトロール香、白い果実の香りがあります。エレガントで厚みのある果実感と複雑さがあり、フレッシュで美しい酸とミネラル感が持続し、熟した果実の余韻が持続します。

初リリース!
若樹で造るフレッシュ&フルーティなラグライン ロゼ

ラグレイン ロゼ 2024

ラグレイン ロゼ 2024

ウォルナー氏:
「ラグライン ロゼは、2024年が初ヴィンテージです。伝統的なワインですが、私たちのラグラインの畑が小さくて造っていませんでした。新しく取得した畑は若いため、ロゼ用として造り始めました。生産量は5000本で、将来的に拡大していく予定です。収穫後すぐ圧搾し、ステンレスタンクのみで醸造。フルーティでフレッシュなスタイルを目指しています。ラグラインは果皮の色が濃いため、即圧搾でも美しい色調となります。」
試飲コメント:淡いロゼ色。ベリー系果実が香る、エレガントで繊細なアロマ。香り同様に綺麗でフルーティな味わいが広がります。

軽快でフルーティな味わい
アルト アディジェ伝統品種スキアーヴァ

スキアーヴァ 2024

スキアーヴァ 2024

ウォルナー氏:
「スキアーヴァはアルト アディジェで600年以上栽培されてきた伝統品種です。かつては最多の栽培面積を誇っていました。軽快で夏向き、タンニンは穏やかで、白ワインの代わりにもなれる赤です。近年、重厚さより軽やかな赤を求める声が増え、そのニーズにも合致しています。醸造はステンレスタンクのみで、フレッシュ&フルーティな仕上がりです。」
試飲コメント:淡いルビー色。赤い果実に加え、甘いスパイスを思わせる香り。軽やかでフレッシュ、タンニンは控えめでスムーズな飲み口です。

インタビューを終えて

アバツィア ディ ノヴァチェッラがワイン造りを行うエリアの魅力や、テロワールの特異性を改めて実感しました。900年以上続くワイン造りの歴史、オーストリアの影響、20キロメートル先のアルプスから吹き下ろす冷たい風、(今年イタリアで一番気温が高くなった日があったという)盆地のボルツァーノから届く暖かい風、そして標高850メートルに連なる段々畑。これらが折り重なって、この土地ならではの個性が築き上げられているのだと感じました。

そのエリアで造られたワインは、フレッシュで美しい酸とミネラルをしっかりと感じる味わいです。特に上級ライン「プレポージトゥス」のシルヴァネールとケルナーは、その特徴がはっきり表れており、酸とミネラルのバランスが絶妙でした。ぜひ、イタリア最北ワイナリー「ノヴァチェッラ」のワインをお楽しみください。