2025/06/18
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アルカンジェロ ガルッピ氏 Mr. Arcangelo Galuppi、マルティーナ ダレッシオ氏 Ms. Martina D’Alessio
SO2無添加、軽やかで旨みあふれるナチュラルワイン!高樹齢の畑を再生して未来へつなぐプリヴェルノ唯一の自然派「セーテ」

若き3人が地元プリヴェルノで創業
耕作放棄された古樹の再生プロジェクト
私たちセーテは、ラツィオ州プリヴェルノにあるワイナリーです。2013年に、私とマルティーナ、エミリアーノの3人で立ち上げました。創業のきっかけは、この地域の高樹齢の畑が次々に失われていったことです。祖父母の世代が守ってきた畑は世代交代がうまくいかず、多くが耕作放棄され、樹が抜かれていきました。その現実を目の当たりにしたため、アマセーノ渓谷周辺の古い畑を復活させることを最大の目標にしています。
(左から)マルティーナ、エミリアーノ、アルカンジェロ
自然派ワインへの想いを分かち合うメンバー
——メンバーについても教えてください。
私(アルカンジェロ)は以前から自然に触れる農業に携わりたいと考えていました。セーテを始める前は、ビオロジック栽培で野菜や果物を育てたり、プリヴェルノのオリーブオイルメーカーで働いていました。ビオディナミ農法に精通した方から教えも受けました。
エミリアーノは、自然派のレ コステで働いていた経験を持っていました。もともとは同じ街で育った知人でしたが、ワインバーで再会し、自然派ワインに対する情熱を共有し合ったことをきっかけに、セーテのプロジェクトが始まりました。マルティーナは私の幼馴染で、セーテを始めた時はまだ大学生でした。現在は人生のパートナーでもあります。
創業から3~4年は、3人ともそれぞれ別の生活をしながら活動していましたが、2019年からは全員がセーテに専念しています。

SO2無添加に挑む使命
エリア唯一の自然派ワイナリー
ワイナリーはローマとナポリの中間、レピニ山脈と海の間に位置しています。この地域はオリーブ栽培が盛んで、樹齢何百年のオリーブがあるほどです。レピニ山脈側には「コッリーネ ポンティーネDOP」という認証も存在しています。
一方でブドウ栽培はそれほど盛んではなく、プリヴェルノを拠点とする自然派ワイナリーは私たちだけです。セーテは持続可能な自然農法を実践し、ブドウのみを用いたワイン造りをしています。SO2を添加せずとも美味しいワインを生み出せることを証明すること。それが私たちの挑戦であり使命だと考えています。
古代ローマ時代から続く「畑の個性」を、次世代へ継承
プリヴェルノやアマセーノ渓谷は、約350万年前には水深500メートルほどの海の底でした。長い年月のうちに海は干上がり、やがて海水湖のような地形となり、塩分が地中深くまで染み込みました。その結果、石灰岩のある一番深い層まで塩が浸透しています。
畑は海からおよそ15キロ圏内に位置し、アマセーノ渓谷を通り抜ける海風の影響を直接受けています。こうした環境によりブドウは塩分を吸収し、すべてのワインに共通して塩味を感じることができます。
「プリヴェルノのワインは軽やかで飲みやすい」
実はプリヴェルノには古代から続くワイン造りの歴史があります。最近、古代ローマ時代のアンフォラが海底から発見され、その中には液体の痕跡が残っていました。アンフォラにはプリヴェルノの旧名「ピペルノ」と記されており、当時からワイン産地として認識されていたことがわかります。
また、古代の文献には「プリヴェルノのワインは軽やかで飲みやすく、頭をフレッシュに軽くしてくれるようなワイン」と記されています。それはまさに、私たちが造るワインの特徴と重なるので、それを聞いた時は驚きました。

未来へとつなぐ、世代を超えた畑の継承
——畑についても教えてください。
大部分は契約畑で、長年この土地で農業を営んできた高齢の方々が管理していたものです。若かった私たちが異なる方法で管理しようとしたため、当初は信頼を得るのに多くの時間を要しました。しかし時間をかけて関係を築き、今では世代を超えてリスペクトを持った関係性を結べています。
現在、私たちが所有する畑は2区画あります。かつては高齢の農家が自給自足のために使っていた畑で、野菜や果実も植えられ、鶏が放し飼いされていた場所でした。そんな愛情が注がれてきた畑を、大切に守り続けていくことを誇りに思っています。
1919年植樹の土着品種オットネーゼを栽培
このエリアで最も主要な品種はオットネーゼです。オットネーゼは、収穫のタイミングやマセラシオンによってさまざまな表情を見せますが、共通して酸と力強さを備えています。私たちの最も古い畑に植わっているのもオットネーゼで、1919年に植樹された樹が今も残っています。
土地、歴史、人の思いを乗せ、
ゼロから切り拓くワイン造り
苦難と試行錯誤がもたらした、大きな成果
近年は気候変動の影響が大きく、2021年以降の3ヴィンテージは厳しいものでした。特に2023年は雨が続いたことによる病害で収量が95%減となりました。しかし、その経験は自分たちを見直す契機となり、何が良くて何が足りないのか、どう改善すべきかを考える時間になりました。まさに創業期のように試行錯誤を繰り返した変革の時期だったのです。
その結果、2024年ヴィンテージからは小さな改良を積み重ねています。深夜の収穫や、CO2ガスによる酸素接触の抑制、温度管理がしやすい小型容器の導入など。こうした変化により、2024年以降は安定してきれいで飲みやすいワインへと進化しています。厳しい状況の中でも自然な造りを貫き、美味しいワインを生み出せたことは大きな成果となりました。

「この土地の可能性を試したい」
情熱で歩み出した、セーテの物語
——最初に畑を任せてくれた方は、どなただったのですか?
エラズモさんという方です。バッフォ ビアンコやバッフォ ロッソのラベルに描かれている人物ですが、まさにその絵の通りの外見をしています。もしプリヴェルノで「彼っぽい人」がいたら、エラズモさんで間違いありません(笑)。「イケメンだからすぐわかるよ(笑)」という彼の言葉だけを頼りに、バールで落ち合い畑を見せてもらいました。
セーテを始めた当初は資金も土地もなく、情熱しかありませんでした。この土地の可能性を試したいという思いだけを支えにしていたんです。だからこそ、エラズモさんたちと知り合った最初の数年間は、大変であると同時にかけがえのない時間だったと感じています。
前例のない土地で築く「未来」
今では手伝ってくれる若い世代もいます。しかし、創業当初に短い間でも手を貸してくれた人々や家族の存在がなければ、今日の私たちはありません。心から感謝しています。
しかし、私たちはまだ成長過程にあります。近隣にワイナリーはなく、オットネーゼの栽培や醸造に関する道しるべもない中で始まったワイナリーです。現在は所有畑を含め15区画でワインを造っており、今後は区画ごとの特性を反映したクリュの醸造を進め、より深く土地を理解してワイン造りをしていきたいと考えています。
可愛い猫ラベルと飲みやすさが際立つオレンジワイン |
キャプテン ミャウ 2022 |
| アルカンジェロ氏: 「キャプテン ミャウは、2つの異なる時期に収穫したブドウを使用しています。前半は8月末、後半は9月中旬です。前半のブドウはマセラシオンを一晩、後半は数日間行います。これにより糖と酸のバランスが整い、前半のブドウからは酸とサクサクした果実感、後半からは深みや香り、ボディがもたらされます。」 |
| 試飲コメント:にごりのある黄金色。黄色い果実や柑橘系の香り。みかんのようなニュアンスも感じます。口に含むとフレッシュでコクのある風味が広がります。香りで感じた果実と酸を感じる爽やかな味わいです。 |
爽やかでコクが広がるオットネーゼ主体オレンジワイン |
サファラ 2022 |
| アルカンジェロ氏: 「サファラは、キャプテン ミャウ同様にブドウの収穫を2回に分けて、酸と完熟度のバランスをとっています。前半のブドウはマセラシオン カルボニックを15日間行い、オットネーゼ、トレッビアーノ、マルヴァジアといったニュートラルな品種を用いて、複雑な香りを引き出します。グラスファイバーのタンクで発酵、熟成しています。」 |
| 試飲コメント:澱を多く含むオレンジ色。黄色い果実やわずかに濃密な南国系果実の香り。凝縮感のある酸を感じ、爽やかさに加えてコクや旨みが広がる味わいです。 |
オットネーゼの骨格とモスカートの香り高さが融合 |
インフラスカート 2022 |
| アルカンジェロ氏: 「70%オットネーゼと30%モスカートをそれぞれ別に収穫して造るワインです。モスカートは8月中旬から末の早摘み、オットネーゼは9月中旬に収穫し、1週間マセラシオン。モスカートの香り高さとオットネーゼの酸やボディを合わせ、フレッシュで飲みやすいワインに仕上げています。」 |
| 試飲コメント:にごりがあり深みのある黄金色。黄色果実に加え、白い果実のニュアンスを伴うフレッシュで軽やかな香り。味わいも同様にフレッシュながら、コクや苦味、タンニンを感じるボリューミーな印象です。凝縮感のある酸の余韻が続きます。 |
オットネーゼ100%を長期マセラシオン
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ビア 2020 |
| アルカンジェロ氏: 「ビアは、樹齢70~80年の古い畑のオットネーゼ100%で造るワインです。一部が乾燥し始めた頃のブドウを収穫し、長めにマセラシオン。これにより白いフルーツや南国果実に加え、リンドウの根やアーモンドのニュアンスを表現します。」 |
| 試飲コメント:にごりのある琥珀色。濃密な柑橘や杏などの果実に加え、複雑で土のニュアンスもある香り。味わいは複雑で飲み心地が良く、フレッシュさとコクが共存し、全体の要素が見事に調和した長い余韻が持続します。 |
軽やかなフルーティ感のサンジョヴェーゼ100%ロゼ |
クランデスティーノ 2022 |
| アルカンジェロ氏: 「クランデスティーノは、サンジョヴェーゼ100%を24時間マセラシオンして造るロゼワインです。フレッシュで飲みやすいスタイルに仕上げています。畑は鉄分を多く含む赤い粘土質の土壌。名前は2013~2017年の創業期に父と祖父の設備で実験的に造った経験から、秘密の、違法の、を意味するクランデスティーノとし、ラベルは剪定ハサミとコルク抜きで一年の始まりと終わりを表しています。」 |
| 試飲コメント:非常に淡い赤色。赤い果実やいちじく、華やかさや花のニュアンスを感じる香り。口に含むとほのかな発泡感とともに軽やかな果実感が綺麗に広がります。 |
柔らかく上品な味わいの4品種ブレンド赤ワイン |
セーテ ロッソ 2022 |
| アルカンジェロ氏: 「セーテロッソは白ブドウの畑に混植された黒ブドウ4品種を使用して造る赤ワインです。数列しかないため、収量は年間20~30キンタルほど。混植のため割合は毎年変動し、その年ごとに異なる表情を見せるワインになります。」 |
| 試飲コメント:やや深みのあるルビー色。赤い果実の香り。柔らかい味わいで、ほどよいタンニンと果実感、凝縮感のある酸が溶け合った余韻が持続します。 |
インタビューを終えて
インタビューの最後には「アマセーノ渓谷は水牛の飼育が盛んで、カンパーニャよりも塩分が少なく繊細なモッツァレラが味わえる」と教えていただきました。実際に食べてみたくなりましたし、セーテの軽やかで飲みやすく、旨みあふれるワインと合わせて楽しみたいと思いました。










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