モンタルチーノで最も標高の高い畑のひとつを所有!「レ ラニャイエ」

2025/04/30

2025/03/26

リッカルド カンピノーティ氏 Mr. Riccardo Campinoti

標高621mに及ぶ畑、標高「差」400mが生む多彩なクリュ ブルネッロ!気品あふれるエレガンスと卓越したバランスを追求する「レ ラニャイエ」

「レ ラニャイエ」は、現当主リッカルド・カンピノーティ氏が2002年、29歳の若さで創業したワイナリー。彼らは、モンタルチーノの南北に広がる6か所の畑を所有し、各地のテロワールを映し出す5つものクリュ ブルネッロを造っています。なかでも、創業時から所有するパッソ デル ルメ スペントは、標高621mを誇り、DOCG内で最も高い場所に位置する畑のひとつです。飲みやすく上品なエレガンスを持つワインスタイルについて、リッカルド氏は「標高の高さと、完熟させすぎない畑仕事、優しい抽出を心がけた醸造によるもの」と語ります。今回はリッカルド氏を迎え、ワイナリーの歴史や哲学、畑について話を伺いました。

土地の個性を映し出すエレガント ブルネッロの造り手
丹念な畑仕事と、極力手を加えない伝統的な醸造

――まずは、ワイナリーの歴史から教えてください。

レ ラニャイエは、1991年から続いていた農園を2002年に取得したことから始まりました。私たち家族はもともと、1960年代末に父が立ち上げた建設機械の製造工場を営んでおり、それが家業でした。私自身もその会社で5年間働いていましたが、かつてから情熱を持っていたワイン造りの道へと進みました。父の理解と支援があってこそ実現できたと感謝しています。

ワイナリー創業当初は、まったくの手探り状態でした。経験豊富な農夫や醸造家など、多くの方々の助けを借りながらワインを造ってきました。その過程で、「自分が本当に理想とするワインは、どのように造られているのか」を探るために、数々の優良生産者を訪問していったんです。そうして学びと経験を重ね、自分自身の哲学とスタイルが確立していきました。2005年から、オーガニック栽培も始めています。

「畑に多くの時間をかけ、醸造はシンプル」
名だたる生産者に学び、たどり着いたワイン哲学

――当時、訪問した生産者を教えてください。

モンタルチーノでは、ソルデラ、ポッジョ ディ ソット、ビオンディ サンティ、マストロ ヤンニなど多数。ピエモンテの生産者もよく訪ねました。なかでもサンジョヴェーゼに関しては、モンテヴェルティーネの、ワイン造りに真摯に向き合うスタイルが大好きです。

彼らはそれぞれのスタイルを持っていますが、「畑に多くの時間をかけ、醸造はシンプル」という共通点があります。私はそれが本質的な考え方だと捉えており、自らもその哲学を大切にしています。最新技術を取り入れながら、決して過剰な造りにならない。そんな土地の個性を明確に映し出すワイン造りを心掛けています。

「自然発酵」「優しい抽出」「大樽熟成」
バランス重視のエレガントなワインスタイル

私が目指すスタイルは、飲みやすく重すぎないエレガントなワインです。醸造においては、自然発酵、優しい抽出、大樽熟成を基本としています。新樽バリック熟成や高密植栽培、収量制限を行っていた時期もありましたが、2011年以降はバランスを重視したシンプルな造りに立ち戻りました。

DOCG内で最も標高の高い畑のひとつを所有
徹底的に追求するクリュ ブルネッロ

モンタルチーノ南北に広がる多彩なテロワール
――畑について教えてください。

モンタルチーノの北から南にかけて、5つのエリアにまたがる6か所の畑を所有しています。畑の総面積は23haで、そのうちブルネッロとロッソ ディ モンタルチーノの畑は12haです。畑は各地に点在しているので、標高、気候、土壌特性が異なります。

クリュ ブルネッロは醸造の仕方を統一して、各畑の異なるテロワールを表現しています。これこそが、私たちレ ラニャイエのスタイルです。クリュ ブルネッロを造る生産者のなかでも、私たちほど各畑の個性を追い求める生産者はいないと思います。

標高「差」400m、1ヶ月半かけて収穫を行うブルネッロの畑
畑の標高は200~621mと幅があり、その高低差によって収穫方針や期間が大きく異なります。標高の高い畑ではエレガンスを、低い畑ではフレッシュさを保つようにしています。両者の収穫時期には約1ヶ月半の差があり、たとえば2020年は、9月初旬から10月中旬にかけて収穫を行いました。

「各畑の個性が明確に異なる」5つのクリュ ブルネッロ
単一畑は6か所ありますが、クリュとして生産するのは5つです。もともとは区画ごとに分けて造っていませんでしたが、分析を進めるなかで各畑の個性が明確に異なることがわかり、2007年からクリュ ブルネッロとして生産するようになりました。

・ペトローゾ(北中部)/繊細なアロマとフィネスを備えた優美さ
創業時から所有する畑。モンタルチーノの街に近く、標高500mの冷涼な地。

・ヴェッキエ ヴィニェ(中部)/ピュアな旨味溢れる洗練された味わい
創業時から所有する畑「ラニャイエ」の区画。標高600m。1960年に植樹、カンティーナ前にある歴史的クリュ。

・パッソ デル ルメ スペント(中部)/「DOCG内で最も標高の高い畑のひとつ」
創業時から所有する畑「ラニャイエ」の区画。標高621m、DOCG内で最も標高の高い畑のひとつ。上限600mの規定が引き延ばされて2017年よりDOCGとして生産可能に。600mを超える畑は希少で、657mに達するDOCG内の最高標高の畑もラニャイエの周辺に位置。

・フォルナーチェ(東部)/味わい豊かでクラシカルなスタイル
2005年に取得した畑。レ ラニャイエと長く一緒に働いていたベテランの友人から、縁あって譲り受けたもの。

・カーザノヴィーナ モントーゾリ(北部)/気品さと力強さを兼ね備えた味わい
2014年から2020年にかけて取得した畑。モンタルチーノ北部の銘醸地。
標高621mの畑パッソ デル ルメ スペント

厳格な基準を満たした年だけ造る、クリュ ブルネッロ
クリュを含む全区画からなるスタンダード ブルネッロ

毎年すべてのクリュがリリースされるわけではありません。各区画にはそれぞれ異なる個性があり、すべてが一様に品質基準に達するとは限らないからです。クリュ ブルネッロとして使用されなかった、あるいはセレクションから外れたブドウは、すべてスタンダード ブルネッロに使用されます。クリュ以外の区画も同様に加えられます。つまり、スタンダード ブルネッロは、個性豊かな各区画のサンジョヴェーゼで造られているのです。

レ ラニャイエを手軽に楽しめる名刺代わりのサンジョヴェーゼ

トロンコーネ 2022

トロンコーネ 2022

リッカルド氏:
「トロンコーネは、私たちレ ラニャイエのエントリーワインです。私たちの哲学とスタイルを手軽に楽しめるうえ、お手頃な価格で、レストランではグラスでも気軽に味わっていただけます。安すぎるかもしれないですね(笑)。酸もフレッシュですし、まさに名刺代わりとなるワインです。所有畑の約半分の11haはトロンコーネ用の畑で、3万5000本から4万本くらい造っています。ロッソやブルネッロにならなかったサンジョヴェーゼも使用しています。大樽で1年間熟成させています。」
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。注いだ瞬間から華やかに広がる香りが印象的です。熟した果実や、つぶした花のような凝縮感、フレッシュさを感じます。若干のスパイスやレザーのニュアンス。ベリー系の黒系、赤系果実の香りが調和しています。味わいはフレッシュな果実味が親しみやすさを演出しつつ、ほどよく複雑で、エレガントさと凝縮感が両立しています。

優美な酸、エレガントな果実味、気品さが溶け合うロッソ ディ モンタルチーノ

ロッソ ディ モンタルチーノ 2021

ロッソ ディ モンタルチーノ 2021

リッカルド氏:
「2021年のロッソ ディ モンタルチーノです。2021年は非常に重要なヴィンテージで、より凝縮感と複雑性があります。骨格もしっかりとしていますね。法律的には、次の2022年ヴィンテージを出せますが、私たちのロッソはあえて熟成させてから出すスタイルにしています。かつての2014年ヴィンテージのように、ブルネッロを造らなかった時はロッソのクリュを造ることもありました。」
試飲コメント:ガーネットに近い深みのあるルビー色。上品な黒系、赤系果実の香りを基調にミネラル感があります。エレガントで繊細さも感じられ、わずかに土やレザーのニュアンス。複雑さと気品さが共存しています。味わいも香りと共通する要素を持ち、熟した果実やミネラル感、土っぽさがまとまり、バランスの良さがあります。滑らかなタンニンも相まって、綺麗な酸とエレガントな果実味の持続性のある味わいが広がっていきます。

クリュを含めたすべての畑を使用
エレガントで複雑な風味に満たされるスタンダード ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

リッカルド氏:
「2019年のブルネッロ ディ モンタルチーノです。すべてのブルネッロの畑を使用しており、クリュのブドウも含まれています。それぞれのクリュを大樽で3年間熟成させた後、バランス感を重視してセメントタンクでアッセンブラージュしています。2019年は温暖な年でしたが、エレガントに仕上がっています。これは、レ ラニャイエのスタイルである標高の高さと完熟させない畑仕事、優しく抽出する醸造スタイルによるものです。」
試飲コメント:淡いガーネット色。イチゴや森のベリー系果実の香りに、ほんのりとドライフルーツや落ち葉のニュアンスが感じられます。柔らかな口当たりから、エレガントで複雑な風味が押し寄せてきます。こなれた細やかなタンニンが長い余韻を演出しています。徐々にチョコレートの風味も現れ、熟成を経てさらに表情が変わっていく可能性を感じさせます。

古き良きスタイルが表現された
フレッシュな酸と上品さが寄り添うクリュ ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ ペトローゾ 2019

ブルネッロ ディ モンタルチーノ ペトローゾ 2019

リッカルド氏:
「モンタルチーノの街の近くに位置するクリュ ブルネッロ ペトローゾです。標高約500mの冷涼なエリアですが、湿気が溜まりやすい繊細な栽培が求められる畑です。そのため、収穫のタイミングが極めて重要です。幸い、2019年は理想的なコンディションとなり造ることができました。2019年のような優良なヴィンテージには、酸度の高さと複雑味を感じさせるフィネスがあります。古き良きブルネッロを思わせるスタイルで、派手すぎず、上品に寄り添うような味わいです。すでに飲み頃を迎えていますね。」
試飲コメント:ガーネット色。凝縮感のある果実に加え、枯葉や土のニュアンスが感じられる複雑でエレガントな香り。繊細ながら芯の強さを感じます。柔らかな口当たりながら、飲むとフレッシュな酸が口中を満たし、ほどよい骨格を持つタンニンとともに長く続く余韻を形づくります。ベリー系果実の風味が心地よく広がります。

インタビューを終えて

エレガンスあふれる上品なブルネッロを存分に堪能することができました。エントリーのトロンコーネから最後のクリュに至るまで、すべてのワインに凝縮感と複雑性がありながら、フィネスを感じさせる素晴らしいラインナップでした。

他のエリアのブルネッロとは一線を画すほどのエレガントさで、どこか涼やかな印象すら感じられる味わいに驚きました。当主リッカルド氏が話す「標高の高さと、抽出しすぎない優しい醸造」によって生まれるそのスタイルを、実際に試飲して理解することができました。今回試飲できなかった他のクリュ ブルネッロとの比較試飲を試してみたくなりました。

また、このインタビュー直後にお話を伺ったブルネッロの造り手「イル マッロネート」との味わいやスタイルの違いも非常に興味深く、同じ土地でありながらワインに込める哲学の違いを感じる、貴重な経験となりました。