プーリアの真のポテンシャルを映し出す「トルマレスカ」突撃インタビュー

2025/05/07

2025/04/18

ヴィト パルンボ氏 Mr. Vito Palumbo

常識をくつがえす、産地の枠を超えた唯一無二のアリアニコ「ボッカ ディ ルーポ」多様なプーリアの真のポテンシャルを映し出す造り手「トルマレスカ」

「トルマレスカ」の歴史は、1998年に名門アンティノリ家がプーリアの土地を取得したことから始まりました。現在はプーリアの3つのエリアに畑を所有し、異なるテロワールの個性を生かして、2つのワイナリーブランドとして展開しています。ひとつは、サレント半島を拠点とする「トルマレスカ」。大人気のロゼワイン「カラフリア」を筆頭に、プーリアらしい華やかで親しみやすいスタイルのワインを手がけています。もうひとつは、DOCカステル デル モンテの丘陵地に位置する「ボッカ ディ ルーポ」。ここでは、産地の枠を超えた唯一無二のアリアニコで、トップキュヴェ「ボッカ ディ ルーポ」を生み出しています。今回は、アンティノリ家とともに歩みを始めた家族の一員で、ブランドマネージャーを務めるヴィト・パルンボ氏にお話を伺いました。

プーリアに根付く家族が、アンティノリ家と歩み始めた新たな歴史

「ボッカ ディ ルーポの土地は素晴らしい」
1998年にアンティノリ家が取得、トルマレスカを創業

――まずは、ワイナリーについて教えてください。

私たちは、プーリアで5世代続く家族です。1970年代半ばまでは、ガンチャをはじめとする大手生産者にバルクワインを販売したり、食用ブドウの栽培を行っていました。転機は1998年。アンティノリ家が、私たち家族が所有していた「ボッカ ディ ルーポ」を取得し、ワイナリー「トルマレスカ」の歴史が始まりました。

その後、マッセリア マイメとテヌータ カッルーボというサレント半島にある2つの土地を取得しました。トルマレスカは、アンティノリのワイナリーの中では若い存在ですね。

創業前のボッカ ディ ルーポ所有者ペッピーノ・パルンボ氏(左)
ピエロ・アンティノリ侯爵(右)

――アンティノリ家が土地を取得した経緯を教えてください。

私たちがかつてブドウを卸していた(ヴィットーリオ)ガンチャが、友人であるピエロ・アンティノリ侯爵に「ボッカ ディ ルーポの土地は素晴らしい」と推薦したことがきっかけです。当時、アンティノリ家は南イタリアでの事業展開を模索していたタイミングでした。

さらに、醸造家のレンツォ・コタレッラが初めてプーリアを訪れた時、ボッカ ディ ルーポ産の杏の味に感動したことも取得の後押しとなりました。マッセリア マイメについては、もともと私たち家族がバルクワイン用に所有していた土地でしたが、アンティノリ家に紹介したことで取得に至りました。

約200kmの距離が生む、トルマレスカ独自の二面性
「トルマレスカ」&「ボッカ ディ ルーポ」

トルマレスカは、ひとつのワイナリーというよりも「トルマレスカ」と「ボッカ ディ ルーポ」という、2つの異なるワイナリーブランドを手がけている感覚に近いです。異なるテリトリー、異なる生産者として、それぞれが独自の個性を持っています。

実際、両者は約200kmもの距離があり、テロワールも、栽培品種も、栽培家も異なるため、ワインのキャラクターに大きな違いが生まれます。そのため、トルマレスカとして一括りにすることは不可能です。実は、それほどまでにプーリアという地域は多様性に富んでいるのです。

たとえば、フランス人はプーリアを複数形で「プーリエ」と呼びます。それは、彼らがこの土地を「文化や料理、ブドウ、建築までもが多様に混在するエリア」として認識しているからだと言えるでしょう。

「海」と「丘」のプーリアの多様性を体現
異なる顔を持つトルマレスカの2つのワイナリーブランド

サレント半島のテロワール、プーリアらしさが詰まった「トルマレスカ」
トルマレスカでは、サレント半島に位置する2つのエステート「マッセリア マイメ」と「テヌータ カッルーボ」を手がけています。いずれもアドリア海とイオニア海に挟まれた美しい土地にあり、「窓を開ければ海が見える」ような、まさにプーリアらしい風景が広がっています。

代表的なロゼワイン「カラフリア」を筆頭に、トルマレスカはポップなワインを展開していて、プーリアにとどまらずイタリア全土で認知度の高いワイナリーです。このエリアでは、ネグロアマーロやプリミティーヴォ、フィアーノ、シャルドネ、シラーなどを栽培しています。マイメは海が目の前にあり、常に風が吹く環境。マンドゥーリアにあるカッルーボは、やや内陸に位置した暑い土地です。

プーリアのもうひとつの顔を見せる未開の丘陵地「ボッカ ディ ルーポ」
ボッカ ディ ルーポは農業的な側面が色濃い場所です。原産地呼称で言えば、カステル デル モンテに属し、所有面積は約120ha。アリアニコやフィアーノ、カベルネ フラン、カベルネ ソーヴィニヨンなどを栽培しています。ボッカ ディ ルーポとは「狼の口」を意味し、古くから地図に記される地名です。狼が多く生息し、フェデリコ2世が狩猟を楽しんだことでも知られるエリアです。

厳しい斜面の丘陵地で、一般的なプーリアのイメージとはまったく異なります。世界遺産マテーラのように白く痩せたカルスト化した土地で、月面のような、どこか未開の地を思わせる場所です。プーリアにありながら、プーリアでない。そんな個性を持っています。

プーリアの常識をくつがえすトルマレスカのワイン造り

華やかな成功の陰に隠れた、プーリアのポテンシャル
プーリアを語る上で、プリミティーヴォは欠かせない存在のひとつです。ただ、私にとってこのブドウは「喜びと苦しみが表裏一体」のような存在でもあります。素晴らしくあると同時に、悲劇的でもあるのです。

「喜び」は、プリミティーヴォがもたらしたポジティブな変化にあります。世界中で愛されたことにより、プーリアという産地は国際的なワイン市場においてしっかりと認知されました。これは大きな功績です。

しかし、この成功によってプーリアに対する先入観という「苦しみ」が生まれたと考えています。近年飲まれる多くのプリミティーヴォは、糖度とアルコール度数が高く、甘くて重いスタイル。そのため、たとえばバローロを飲み慣れた人が「プーリアのワイン」と聞けば、「甘いワインはちょっと……」と敬遠してしまうことも少なくありません。

このように、プーリアが世界的産地になった一方で、「プーリアのワイン=ジャムのように甘い」という先入観や偏見が浸透してしまい、プーリアの隠れたポテンシャルに触れる機会が失われていると感じています。

「本当にプーリア?」
トルマレスカが打破するプーリアワインへの先入観

私たちは、そんなプーリアワインへの先入観を打ち破るために「エレガントでバランスに優れたワイン像」を打ち出して造っています。ボッカ ディ ルーポの白ワイン「ピエトラビアンカ」を飲まれた方からは「本当にプーリア?」という驚きの声が上がったこともあります。

トルチコーダは、プリミティーヴォ特有の甘みやチェリーリキュールのような香りを持ちながらも、しっかりとした酸味やスパイシーなニュアンスがあり、単調さや重さを感じさせません。その明確な個性こそが、プーリアの本来のポテンシャルです。

圧倒的な存在感を放つ地中海的アリアニコ「ボッカ ディ ルーポ」

 そのなかでも、最も重要なワインが、アリアニコ100%で造る「ボッカ ディ ルーポ」です。南のバローロと呼ばれるアリアニコらしく、長期熟成に適した骨格とタンニンを備えると同時に、他の産地のアリアニコとは異なる個性を持っています。

その違いは、土壌にあります。タウラージやアリアニコ デル ヴルトゥレが火山由来であるのに対し、ボッカ ディ ルーポは海由来の土壌も有しています。エレガントでスパイシーな要素に加えて、ローズマリーやセージといった地中海のハーブが感じられます。

原産地呼称では語れない「まったく異なる世界観を持つワイン」
――すごいアリアニコですね。ラベルを隠して出されたら、どこで造られたワインなのかわからないと思います。ボッカ ディ ルーポとして単独で打ち出したほうがいいくらいの個性を感じます。

そうなんです。たとえば、チェルヴァロ デッラ サラやティニャネロを飲むときに、「これはウンブリアのワインだ」「キャンティのワインだ」とは思わないでしょう。むしろ「アンティノリが造るワインだ」と意識が向くはずです。ボッカ ディ ルーポも同様で、私たちトルマレスカが造る「産地の枠を超えた唯一無二の個性」を感じていただけると思います。

ボッカ ディ ルーポが属すのは、カステル デル モンテDOCです。イタリアでいち早くDOC認定を受けた歴史的産地でもあります。しかし、そのエリアは広大で、ワイン用ブドウ畑のほかに、オリーブや食用ブドウの畑も含まれていて、生産スタイルに大きな幅があるのが実情です。

そのなかで私たちは、単なる「DOCのひとつ」としてではなく、際立った品質を追求しています。畝ごとにセレクションを行い、収量も40クインターリほどに抑えています。同じDOCでも、まったく異なる世界観を持つワインに仕上がっているのです。

ボッカ ディ ルーポの名刺代わりとなるシャルドネ主体の白ワイン

ボッカ ディ ルーポ ピエトラビアンカ 2023

ボッカ ディ ルーポ ピエトラビアンカ 2023

ヴィト氏:
「このワインは、ボッカ ディ ルーポの土地をすぐに理解していただける名刺代わりとなる白ワインです。ピエトラビアンカ(白い石)という名前の通り、白くてもろい土壌で水を貯えやすい特徴があります。畑の標高は平均270mで、昼は乾燥して暑く、夜は涼しく寒暖差が大きいです。有機栽培を行うことで、ブドウに高いストレスをかけて品質向上を図っています。品種構成はシャルドネ90%、フィアーノ10%。シャルドネは旧樽フレンチバリックで5カ月間熟成させます。フィアーノはステンレスタンクのみです。白ブドウながら黒ブドウのような特徴を持つフィアーノ由来の、骨格と熟成力があります。」
試飲コメント:麦わら色。フレッシュで苦味を伴う爽やかな香り。やや凝縮感のある白い果実と黄色い果実。フレッシュな酸が口中に広がり、まろやかさも感じられる味わいです。果実味と酸、ミネラル感がバランスよく調和しており、余韻もほどよく続きます。

フレッシュで軽やかに広がる果実味
イタリアで大成功を収め、プーリアを象徴するロゼワイン

カラフリア 2023

カラフリア 2023

ヴィト氏:
「カラフリアは、イタリア国内でも認知度の高いロゼワインです。誰もが気軽に飲めるようなスタイルで、トルマレスカらしいポップさが表現されています。白桃やスイカ、メロンのような果実感と、塩味とのバランス感に優れています。使用品種はネグロアマーロ。プロヴァンス風の色調に、海岸沿いの塩味が加わったようなワインに仕上げています。ラベルには、プーリアを象徴するトゥルッリや海辺の塔(トルマレスカ)、太陽などがデザインされた帽子をかぶった女性が描かれています。」
試飲コメント:淡いピンク色。白い果実のフレッシュな香りに加え、ブルーベリーなどの赤い果実も感じます。ヨーグルトのニュアンスも。味わいは香り同様で、まろやかなベリー系果実の風味に、最後は苦味が心地よく現れます。軽やかでありながら芯のある飲み口です。

フレッシュな酸と熟した果実味、スパイスが調和するプリミティーヴォ

トルチコーダ 2022

トルチコーダ 2022

ヴィト氏:
「トルチコーダは、典型的なプリミティーヴォへの先入観を覆すワインです。しっかりとした酸や白胡椒のニュアンスが感じられ、単調で重いワインではありません。品種特有の甘みは感じますが、これは私が祖母と食べていたサクランボのスピリッツ漬けのような自然な甘さです。フレッシュでバランスを重視しているため、アルコール度数の高さは感じません。」
試飲コメント:ルビー色。熟した果実やチェリー、リコリス、スパイスの香りがあり、やや濃密さはありながら明るいフレッシュな印象です。口に含むと鋭い酸と熟した果実が広がり、フレッシュさと心地よさを感じさせます。余韻にはリコリスやスパイスが残り、赤身肉と合わせたくなる味わいです。徐々に華やかさが増していきます。

果実の凝縮感が広がるフレッシュなカベルネ ソーヴィニヨン

ボッカ ディ ルーポ ロコーネ 2021

ボッカ ディ ルーポ ロコーネ 2021

ヴィト氏:
「ロコーネは、アプローチしやすいスタイルのカベルネ ソーヴィニヨンです。黒い果実というよりも、フレッシュな赤い果実の香りが特徴で、カリカリしたニュアンスがあります。ワイン名は、実際にこの土地に存在する大きな湖の名前に由来しています。乾燥地ゆえに農業が難しく、水が非常に重要だったため名付けました。灌漑をしていることはワイン業界ではタブーかもしれませんが、水がなければ緑も育たない痩せた土地であるので、誇りを持って「ロコーネ」と名付けています。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。豊かな果実とほのかな緑のニュアンス、黒胡椒の香りがあります。やや力強いアタックから、凝縮感のある果実味が広がります。しっかりしたタンニンも相まって、スパイス感と果実感が一体となって最後まで持続します。

トルマレスカが誇るトップキュヴェ
ここにしかいない個性が際立つ地中海的アリアニコ

ボッカ ディ ルーポ 2020

ボッカ ディ ルーポ 2020

ヴィト氏:
「ボッカ ディ ルーポはアニアニコで造られる非常に重要なワインです。アリアニコは、ネッビオーロと同様に長期熟成に適し、しっかりとしたタンニンを備えた品種です。アリアニコの主な産地には、火山由来の土壌のタウラージやヴルトゥレがありますが、ボッカ ディ ルーポは海由来の土壌です。そのため、このアリアニコは地中海的ブドウと言えます。スパイシーさだけでなく、ローズマリーやサルヴィアといった地中海の低木のニュアンスが感じられます。マセラシオンの際に種を取り除き、苦味や酸味を抑えて、シルキーな仕上がりにしています。DOC内のワインや、他の産地のアリアニコとは個性がまったく異なるため、いわばサッシカイアDOCのように、単独でボッカ ディ ルーポとして打ち出したいと考えています。」
試飲コメント:濃いルビー色。バラを思わせる華やかで豊かな香り。飲むとエレガントな印象で、黒系果実やスパイスが感じられつつも、香り同様の華やかさがあり、繊細な余韻が続きます。それでいて骨格のあるスタイルで、爽やかさもあり、タンニンはこなれていて洗練された味わいが持続します。

インタビューを終えて

プーリアの多様性をあらためて実感させられる、非常に印象深いインタビューとなりました。なかでも圧巻だったのは、トップキュヴェ「ボッカ ディ ルーポ」。口に含んだ瞬間に、プーリアの固定概念を覆すほどの味わいに衝撃を受けました。華やかで涼やかな香りをまとい、爽やかさとエレガンスを備えた味わい。しっかりとした骨格と複雑性もあいまって、長く続く余韻に満たされました。まさに「産地の枠を超えた唯一無二のアリアニコ」だと感じました。

そして、ヴィトさんが語ってくれた「プーリアワインにおける光と影」の話もまた、とても印象的でした。「トルマレスカ」と「ボッカ ディ ルーポ」という、明確に個性が異なる2つのワイナリーブランドを手がけているからこそ語れる、説得力に満ちたお話だったと思います。プーリアという土地の幅の広さと、そこに秘められた可能性の大きさを感じるトルマレスカのワインを、ぜひご堪能ください。