アルトアディジェとトレンティーノ。品種の個性を最大に表現するテロワールを追求し続ける家族経営の造り手「ホフスタッター」

2019/06/13
突撃インタビュー
 
2019年5月27日 ホフスタッター社 マーティン フォラドーリ ホフスタッター氏

アルトアディジェとトレンティーノ。品種の個性を最大に表現するテロワールを追求し続ける家族経営の造り手「ホフスタッター」突撃インタビュー

ホフスタッター社長マーティン フォラドーリ ホフスタッター氏
アルトアディジェで4世代にわたってワイン造りを続けるホフスタッター。160年前、アルトアディジェに最初にピノネロが植えられた畑「バーテナウ」を所有していることからわかるように、イタリアにおけるピノネロ生産の伝統を支えてきました。さらにアルトアディジェの主要品種を最大限表現するテロワールを追求し、その実現のためにトレンティーノの好条件の畑も購入。ホフスタッターのワイン造りの今、について現オーナーのマーティン フォラドーリ ホフスタッター氏に新しい土地でのワイン造りなどについてお話しをお聞きしました。

アルトアディジェからでは得られなかった畑を求めてトレンティーノへ

2年ぶりにお目にかかれて嬉しいです。ちょうど2年前の2017年、私達はこれまでのアルトアディジェ以外に新しい場所に畑を広げました。アルトアディジェの南、トレンティーノです。歴史的に見ても、アルトアディジェとトレンティーノはひとつに考えられてきましたので何か別の土地に来た、という感覚はありません。ミクロクリマ的にも似ています。

マーゾミケイ

新しい畑は、トレンティーノの標高823メートルほどの場所にあります。全部で13ヘクタール購入しました。畑の向きは全て南向きです。

トレンティーノのこの場所に新しい畑を購入した理由は2つあります。まず、アルトアディジェには自分が欲しいと思う畑を見つけるのが困難だったからです。例え見つかったとしても非常に高額になります。そしてもうひとつが、ミュラートゥルガウとソーヴィニョンブランの2つの品種に最適なミクロクリマがこの畑にはあったからです。この2つは私がそれまであまり経験をしたことのなかった品種です。この畑を得たことで、アルトアディジェ~トレンティーノの重要な品種が全て揃ったことになります。現在4つのエステートがあり、それぞれに相応しい品種を造っています。「コルベンホフ」にゲヴルツトラミネル、「バーテナウ」にピノネロ、「オーベルケウスバウム」にソーヴィニョンブラン、そしてトレンティーノの「ミケイ」がミュラートゥルガウとソーヴィニョンブランです。

トレンティーノの新しい畑は「マーゾ ミケイ(MASO MICHEI)」と言って、ヴェネトとの州境の近くになります。以前の所有者が15年前に植えたブドウがありました。ミュラートゥルガウ、ソーヴィニョンブラン、シャルドネ、ピノネーロです。そのうち、どの品種がこの畑に最も適しているのか、まだ判断できていません。言えることは、ここで造られるワインは新しい形のワインになると言うことです。それは、標高が高い畑だからです。まず、しっかりとした酸があり、そしてエレガントなボディになります。標高が高い場所にある畑のブドウから造られるワインということは、酸がしっかりとある、エレガントなワインに違いない。そうイメージする消費者の方が多いと思いますので、その期待に対してどのように応えていくかということも考えています。

トレンティーノとアルトアディジェの一般的評価の差は協同組合のブドウ買い取りの考え方の違いから来ている

地図一般的に、アルトアディジェの方が品質が高く、価格も高い、と思われている方が多いかもしれません。でも、アルトアディジェとトレンティーノはどちらも平野もあり、山もあり、斜面地もあるエリアです。ブドウの品質にそこまでの大差はないです。

この2つのエリアはどちらも生産者協同組合が発達しています。その組合の考え方が違っているのではないかと思います。アルトアディジェではその畑が平野なのか、斜面地なのか、標高はどれぐらいなのか、というように畑の条件によって買い取る値段を変えています。一方で、トレンティーノでは一律の値段になっていることが多い。実に、トレンティーノのブドウ畑の90%は大手の生産者協同組合(2社)が所有しています。その結果、品質による価格差が生まれず、せっかく良い畑なのに低い価格に抑えられてしまう状況が生まれています。コストパフォーマンスをより重視しているとも言えますが。

しかし、その結果、トレンティーノの標高の高い栽培農家たちは、苦労して造ったブドウが安い値段でしか売れないので、ブドウ栽培を放棄する人たちが出てきました。

私の父がトレンティーノの出身なので、私自身もトレンティーノの事情については良くわかっています。私は、トレンティーノにはまだまだ良い畑があり、良い土地があると考えています。気持ち的には、10年前からトレンティーノでのブドウ造りを始めておけばよかったと思っています。ただ、現在、何もない土地をブドウ畑にするには許可が必要ですので、簡単にはいきません。現実的には、既存にある畑を購入して、始めることになります。

 

トレンティーノとアルトアディジェのブドウをブレンドしたワインは「IGTドロミティ」としてリリース

IGTドロミティ現在造っているワインには、トレンティーノとアルトアディジェのブドウをブレンドして造っているものがあります。トレンティーノには私達の醸造設備はありませんので、全てアルトアディジェに運んで醸造することになります。このエリアをまたいでワインにした場合は、「IGTドロミティ」になります。

先ほど、トレンティーノとアルトアディジェの違いについてお話ししましたが、DOCの基準にも明確にそれが表れています。例えば、DOCアルトアディジェのピノグリージョの場合、収量が13000kg/ヘクタールまでになっていますが、DOCトレンティーノのピノグリージョは15000kg/ヘクタールです。しかも、IGTドロミティにするとさらに量を造ることができるのです。

トレンティーノの生産者の中には、DOCを名乗ることに抵抗を感じている人も少なくありません。例えば、私のいとこのエリザベッタ フォラドリは、トップキュヴェのグラナートをIGTドロミティとしてリリースしていますし、サンレオナルドもあえてIGTにしていますね。

いずれにしても、「DOC=重要」、という考えを与え過ぎていると思っています。ワインの品質レベルには関係がないのです。ホフスタッターのワインを信頼してくださっている消費者の方は、DOCだろうが、IGTだろうが関係なく、ホフスタッターのワインだから選んでくださっていると思います。実際、IGTに変更したワインもそれに気付いた人は1%もいませんでした(笑)。それに、DOCの規定よりも収量を下げてIGTを造っています。かつては「サッシカイア」がまさにそうで、そういうカテゴリーに属さずにリリースされましたよね。

2017年、2018年、そして2019年のワインについて

ホフスタッターオーナー マーティン氏2018年は、収穫の90%は良く、10%はあまり良くなかったです。というのも、7月8月は非常に暑く、雨も降らずに乾燥が続きました。そのため早い時期に収穫したブドウは結果的にあまり良い状態ではありませんでした。9月になってからは雨が降り、水不足が解消され、さらに10月末までは非常に素晴らしい天候が続きました。そのため、遅く収穫したブドウは、つまりそれが全体の90%になるのですが、非常にいいヴィンテージなりました。

2019年は、つい昨日栽培責任者から連絡があったのですが、2018年に比べると収穫量は減るだろうと報告がありました。できについては、今申し上げることはできません。

2017年のお話もすると、2017年は涼しい年で、ワインも非常にフレッシュなスタイルです。酸の値も高いですね。この酸が多いということは、ワインにとっては将来性がある、ということになります。2018年ヴィンテージが丸みのあるしっかりとしたボディで、例えるならば100メートル走の選手。2017年は酸がしっかりとしたワインで、例えるならマラソン選手ですね。

160年にわたって育て続けているピノネロ

アルトアディジェは第1次大戦前までオーストリア領で、オーストリア皇帝にも近い一族の兄弟がアルトアディジェに住んでいました。彼らは農業に詳しく、フランスのブドウ栽培家たちとも関係が深かったようです。そして、フランスの王族たちとも通じていました。そのおかげで、アルトアディジェとトレンティーノにはフランス品種が早くから栽培されるようになりました。彼らによってアルトアディジェのワイン造りに活力を与え、それまでにない新しいワイン造りの文化が生まれました。

ピノネロ
アルトアディジェにおいてピノネロは160年の歴史があります。ピノネロをアルトアディジェに初めて持ち込み育てたのがホフスタッターの畑名にもなっているバーテナウ氏です。バーテナウ氏はウィーン大学の教授であり、ピノネロを最初に植えた畑の所有者でもあります。彼は160年前にここでピノネロを栽培し、カンティーナを建設し、ワインを造りました。そして、私の祖父が1941年にその畑を購入した時にもピノネロが植えられていました。私の家族は、イタリアの中でも最も長くピノネロとのつながりの伝統を持ち続けていることになります。

ホフスタッターでは4種類の異なるピノネロによるワインを造っています。いくつかの異なる畑のブレンドをしたもの、単一畑のもの、ステンレスタンクだけで発酵したもの、セメントタンクで発酵したもの、というように変えて、キャラクターの違う4種類のワインを造っています。

ピノネロの苗木ですが、10年前まではフランスから購入していました。1996年以降は、自分たちの畑の樹齢の高いピノネロから選んで植え替えるようにし始めました。ここ5年は、自分たちの畑の苗木だけを植えています。

バーテナウ

誰もが納得するフレッシュな白。マーティン氏のハウスワインのような存在
デ ヴィテ 2017
デ ヴィテ 2017


ピノビアンコ、ミュラートゥルガウ、ソーヴィニョンブラン、リースリングの4つの品種をブレンドして造っています。ブドウは2つのエリアのものを使っていますのでIGTドロミティになります。

2017年は冷涼で収穫量も落ちましたが、フレッシュで綺麗な酸があり、スイスイと飲めるワインになっています。10人いれば10人ともが納得するワインだと思います。私もこのワインはいつも飲んでいて、ハウスワインのようなものです。

リースリングの畑を売ったので、2020年ヴィンテージからはリースリングは入りません。やはりアルトアディジェではドイツのリースリングにはかなわないと思ったからです。10年前から、ラベルにリースリングを表示することはしていません。

自分が納得するリースリングを造るため、実はドイツにリースリングの畑を買ってワインを造っています。私のワイン造りの考えとして、テロワールを表現する単一品種でのワインを造りたいと思っています。そういう意味で納得できるリースリングのためにドイツを選びました。

試飲コメント:リンゴや柑橘系の果実や花やナッツなど、様々なニュアンスのある華やかなアロマ。果実の心地よい甘みとフレッシュな酸がバランス良く調和して抜群の飲み心地になっている。ハーブのニュアンスやミネラルなど清涼感も。最初の一杯にもってこい。

トレンティーノとアルトアディジェのソーヴィニョンをブレンド。記憶に残る素晴らしいヴィンテージ2017
ミケイ ソーヴィニヨン 2017
ミケイ ソーヴィニヨン 2017


トレンティーノとアルトアディジェのソーヴィニョンをブレンドして造っています。なのでカテゴリーはIGTドロミティになります。2017年ヴィンテージですが、素晴らしい酸のある、まさにこのヴィンテージの特徴を表現したワインです。香りはまだ最大限には開ききってはいないですね。2017年は記憶に残る素晴らしいヴィンテージになっていくと思います。
試飲コメント:ソーヴィニョンらしい華やかなアロマがエレガントで繊細なスタイルで広がっていく。しっかりとした骨格に支えられた伸びのある味わいで、後味まで心地よく、長い余韻となって続く。

理想的な酸が効いた飲み心地良いゲヴルツトラミネル
ジョセフ ゲヴェルツトラミネール 2017
ジョセフ ゲヴェルツトラミネール 2017


2017年のゲヴルツトラミネルです。2017年は、この年にしかない特徴があります。それは「酸」です。ゲヴルツトラミネルは本来は酸が低い品です。ところがこの2017年のゲヴルツトラミネルには、甘みや重たさが目立たず、理想的なバランスとなっています。このような味わいになったのは正直、初めてです。

ゲヴルツトラミネルはどうしても厚みのある味わいになるので、普段はたくさんは飲めませんが、この2017年のゲヴルツトラミネルは負担なく飲み続けられますね。一般的なゲヴルツトラミネルの味わいや特徴とは少し違うかもしれませんが、このようなスタイルが続いてくれたらいいな、とは思います。

試飲コメント:ゲヴルツトラミネルらしいバラやライチの華やかなアロマ。飲むとイキイキとした素晴らしい酸が口の中を伸びやかに広がり、想像以上にすっきりとした味わい。美しい果実のコクと素晴らしいハーモニー。

芳しいアロマとフレッシュな果実味が表現されたピノネロ
メクザン ピノ ネロ 2017
メクザン ピノ ネロ 2017


ホフスタッターのピノネロの中で、最も若い畑から造っているピノネロです。フレッシュさ、フルーティーさが前面に出ているタイプになります。
試飲コメント:明るいルビー色の外観で、香りにはベリーやチェリーなどの赤い小さな果実系やスミレの花などの可愛らしいニュアンスとともに、ミネラルのニュアンスも感じられます。果実味に溢れるスムーズながらもコクのある味わい。

長期熟成させることでさらに素晴らしさを増すポテンシャルの高い2014ヴィンテージのピノネロ
リゼルヴァ マゾン ピノ ネロ 2014
リゼルヴァ マゾン ピノ ネロ 2014


2014年について、ジャーナリストたちが「最悪の年」と酷評しているのを良く目にしますが、正直、何も分かっていないと思いますね。2014年のように涼しい年は長い熟成をさせるとよりさらにいいヴィンテージになるんです。2015年は一般的に「良年」です。これはとってもフレンドリーですぐに美味しいヴィンテージ。一方、2014年はワインのことを本当によくわかっている人のためのヴィンテージだと言えます。

イタリアは南北に長い国ですので、ブドウの出来も様々です。例えば、2002年は非常に冷涼でしたので、ジャーナリストたちは2002年のワインをこてんぱにしました。でも、実際は、アルトアディジェとシチリアは全く違い、非常に良いヴィンテージになりました。

試飲コメント:濃厚なルビー色。グラスからはその色から連想される通りの深みのあるアロマがすぐに広がってくる。しっかりとした果実味、リッチな濃密感。甘みのあるタンニンと十分な旨みの調和が素晴らしい。
インタビューを終えて
今回は最近のトピックを、ということでまずはトレンティーノに新しく購入した畑のお話からして頂きました。アルトアディジェとトレンティーノは隣接していてもワインのキャラクターは少し違うという漠然としたイメージを抱いていましたが、マーティン氏の「2つの州は似ているし、元々はひとくくり。10年前からトレンティーノでワイン造りを始めておけばよかった」という言葉を聞いて、先入観やイメージだけで捉えていてはいけないなと思いました。

品種の個性を表現するテロワールの追及、というのも徹底していると感じました。この品種にはこの条件を満たしたこの土地でなければならない、という明確な考えが、ホフスタッターのそれぞれのワインを造っているのだと実感しました。

品種の個性を生かしながら、人に寄り添うようなナチュラルなエレガントさを持ち合わせるホフスタッター。まだまだ挑戦を続けるマーティン氏がこれからどんなワインを造ってくれるのかも楽しみになりました。

ホフスタッター社長マーティン フォラドーリ ホフスタッター氏
ホフスタッターのワインはこちら⇒
突撃インタビューバックナンバーはこちら⇒