3つのクリュが100点獲得するブルネッロの最高峰「カサノヴァ ディ ネリ」

2025/12/09

2025/11/20

ジャンロレンツォ ネリ氏 Mr. Gianlorenzo Neri

新クリュ「ジョヴァンニ ネリ」誕生!3世代の象徴的クリュがそろって100点満点を獲得するブルネッロの最高峰「カサノヴァ ディ ネリ」

「カサノヴァ ディ ネリ」は、1971年にジョヴァンニ・ネリ氏が設立した家族経営ワイナリーです。モンタルチーノが世界的に注目される以前から最良の区画を探し求め、後のクリュ ブルネッロ「チェッレタルト」を誕生させました。チェッレタルトは、『ジェームズサックリング』をはじめとする主要評価誌で幾度も100点満点を獲得。2代目のジャコモ氏が手がけたクリュ「テヌータ ヌオヴァ」も同様に満点評価を受けています。まさにブルネッロの最高峰としての確固たる地位を築いてきました。さらに近年では、3代目が手がけた新たなクリュ「ジョヴァンニ ネリ」も『ルカガルディーニ』で100点(特別評価の110点)を獲得するなど、世代を超えて各クリュが世界最高評価を得ています。今回は、3代目当主ジャンロレンツォ・ネリ氏にお話を伺いました。

3代目を象徴する新クリュ ブルネッロ「ジョヴァンニ ネリ」

創業年と同じ1971年植樹の単一畑
――6年ぶりですね。またお会いできて嬉しいです。

お久しぶりです。この数年間で、実は新しいワインをリリースしました。それが、私の祖父であり創業者の「ジョヴァンニ ネリ」の名を冠したクリュのロッソ ディ モンタルチーノとブルネッロ ディ モンタルチーノです。偶然にも、その畑が植樹された年と創業年が同じ1971年だったことから、そう名付けることにしました。
新クリュ ブルネッロ「ジョヴァンニ ネリ」

モンタルチーノの家族から、モンタルチーノの家族へ
――どのようにして畑を取得したのですか?

前所有者が、祖父の友人だったんです。その畑を相続したご息女がワインを造らないと知り、取得を申し出たという流れです。

もともと手入れがなされていた畑で、私たちはそのポテンシャルを十分に理解していました。カサノヴァ ディ ネリの歴史的なラインナップと肩を並べるワインを生み出せる畑だと確信していました。

実は、外資系グループも取得を希望しており、提示額は私たちより高かったそうです。それでも「モンタルチーノの家族に託すべきだ」と判断してくださり、畑を受け継ぐことができました。
(左)初代ジョヴァンニ氏、2代目ジャコモ氏
(右)3代目ジョヴァンニ氏、2代目ジャコモ氏、3代目ジャンロレンツォ氏

「畑こそが最も重要な要素」
1日過ごして見抜くテロワールの本質

――畑を選ぶ際の基準を教えてください。

まずは実際に畑へ行き、その土地で1日を過ごすことです。土、風、太陽など、その場に立てば、畑が持つ特性が自然と見えてきます。私たちは、「畑こそが最も重要な要素」だと考えています。優れたテロワールなしに、良いワインは造れても優れたワインは生まれません。

その考えのもと、祖父はチェッレタルトを、父はテヌータ ヌオヴァを取得してきました。私たち3代目も、幼いころから畑で過ごし、畑と向き合ってきた経験が取得につながりました。

そして、伝統を守りながらも、少しずつ新しい醸造手法も取り入れ、この畑でクリュ ブルネッロを造ることを決めました。

世界に名を轟かせるモンタルチーノ最高峰の単一畑

北、東、南の7つの区画が描く「モンタルチーノの多面性」
現在、私たちはモンタルチーノ内の7箇所に畑を所有しています。かつては村の周辺だけに畑を構える造り手が多かったものの、実際のモンタルチーノは丘陵地で、斜面の角度、日照、土壌が大きく異なり、ワインの表現も多様です。車で10分南へ走るだけで、自生する植物も地面に転がる石も全く異なります。

そのため、私たちのように「異なる個性の畑」を複数所有し、それぞれから異なる表現のブルネッロを造る生産者は多くありません。また、ビオ認証は取得していませんが、全畑でビオロジック農法を採用し、収穫はすべて手作業。灌漑は行わず、根を深く張らせることで、自然な凝縮感を引き出しています。

初代が見出した唯一無二の個性
最東端の極上クリュ「チェッレタルト」

チェッレタルトは、私たちが初めて手がけた単一畑ブルネッロであり、モンタルチーノ最東端に位置する唯一無二の畑です。何より特筆すべきは、鉄分を豊富に含む赤土の存在で、モンタルチーノの中でもこの区画だけに見られる特別な土壌です。

もともとはオリーブや小麦が作られていた場所で、当時は誰もそのポテンシャルを信じていませんでした。しかし、祖父だけはその価値を見抜いていたのです。所有する畑のなかで最も昼夜の気温差が大きく、3つのクリュの中でもひときわ個性が際立つ味わいを生み出します。初ヴィンテージは1981年です。
チェッレタルト

2代目が探し求めた理想のテロワール
カサノヴァ ディ ネリを世界に広めた「テヌータ ヌオヴァ」

テヌータ ヌオヴァは、1980年代末に父が手がけた単一畑ブルネッロです。毎年安定して上級ブルネッロを造れる場所を求め、父はモンタルチーノ中を歩き回りました。その末に辿り着いたのが、もともと羊飼いが所有していた、ブドウが植えられていなかったこの土地でした。

味わいの特徴は、バルサミックやハーブのニュアンスを伴う風味豊かな後味。初ヴィンテージは1993年で、『ワインスペクテーター』においてブルネッロ史上初の「年間最優秀ワイン」に選ばれた実績を持ちます。カサノヴァ ディ ネリの名を世界に広めた1本です。
テヌータ ヌオヴァ

3代目を象徴する新たなクリュ
高樹齢の希少なクローンが根ざす「ジョヴァンニ ネリ」

ジョヴァンニ ネリの畑は、2018年に取得しました。樹齢は50年を超えており、植え替えずに20年、30年と造り続けていこうと考えています。父は既存の畑に満足していましたが、私たち3代目を象徴するブルネッロを造りたかったのです。

場所はテヌータ ヌオヴァからわずか1.5キロほどですが、土壌、標高、樹齢が大きく異なります。特にモンタルチーノでも珍しい凝灰岩が味わいに影響を与えており、実際に醸造してみると明確に異なる個性が表れ、父もその違いを認めざるを得ませんでした。

さらに特筆すべきはクローンです。実の数が少ない一方で房が長く、モンタルチーノではほとんど見られないタイプです。枝までしっかり熟すため、一部全房発酵を行っています。
チェッレタルトは他の評価誌でも多数100点を獲得

幸運のピッツァが導いた畑の取得
――ジョヴァンニ ネリの畑を取得するにあたり、どのくらい時間はかかりましたか?

実はすぐに決まったんです(笑)。偶然、モンタルチーノのピッツェリアで前所有者とばったり出会い、「今後ワインを造らないという噂を聞いたのですが、もし本当なら私たちに造らせてください」と伝えたところ、その場で話が進みました。

本来なら不動産会社を通じて市場に出され、より高額なオファーを提示できる外資系グループに渡っていたはずです。もしピッツェリアで出会っていなければ、この畑を取得できなかったでしょう。まさに幸運を呼ぶピッツァだったのかもしれませんね。

ただし、譲渡には一つだけ条件がありました。契約書にも明記されていますが、「一生、ジョヴァンニ ネリのワインを一部受け取ること」と(笑)。

「モンタルチーノを変えた造り手の一つ」
「最良の畑」と「サンジョヴェーゼの真髄」を追求した先駆者

誰よりも早く畑の重要性を説いた創業者ジョヴァンニ氏
「優れた畑を所有すること」という考えは、祖父ジョヴァンニの時代から変わらず受け継がれてきました。1971年に畑を取得した当時は、むしろ多くの生産者が畑を手放したいと考えていた時代です。世界的にモンタルチーノが注目される前から、祖父がより良い畑を探し回った結果、素晴らしい畑を取得することができました。

さらに、モンタルチーノ中心部だけでなく周辺エリアへと畑を取得していった点でも、祖父はパイオニアでした。当時30社ほどしかなかったワイナリーは、現在では250社以上へと増加するまでになりました。

「長期熟成」と「すぐに飲める美味しさ」を両立
かつてのブルネッロは、長期熟成のみを目的として造られたワインが多く、タンニンが固いものばかりでした。そんな中、私たちは長期熟成のポテンシャルを備えながら、現行ヴィンテージでもすぐに美味しく楽しめるブルネッロを求めて造り上げてきました。

サンジョヴェーゼの特性である酸をしっかりと保ちながら、エレガントでしなやかなタンニンを持つワインです。そのようなブルネッロを実現した私たちは、「モンタルチーノを変えた造り手の一つ」であると自負しています。

その背景には、理想の畑を求めてモンタルチーノ中を歩き回り、最良の区画を選び抜いてきたことがあると考えています。優れた畑であるほど、タンニン、酸、糖のバランスに優れたブドウを生みます。そしてその調和を壊さないよう、醸造技術や経験を駆使して最高品質のワインを造り上げていくのです。

深みと熟成ポテンシャルを秘めた、
単一畑ロッソ ディ モンタルチーノ

ジョヴァンニ ネーリ ロッソ ディ モンタルチーノ 2022

ジョヴァンニ ネーリ ロッソ ディ モンタルチーノ 2022

ジャンロレンツォ氏:
「ジョヴァンニ ネリのロッソ ディ モンタルチーノは、品質の高さを追求しています。生産量は約6000本。ブルネッロに近い深みと長い余韻、熟成ポテンシャルを持つロッソです。加えて、より早く楽しめるスタイルに仕上げています。初ヴィンテージは2018年で、2022年は5つ目のヴィンテージです。非常に暑い年で、果実味豊かな味わいになっています。ベースのロッソとの差も表れています。ブルネッロと同じく50ヘクトリットルの大樽で醸造。このサンジョヴェーゼのクローンは、実が少なく長い房が特徴。今まで見たことがないクローンです。10%を全房発酵しています。」
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。香りは凝縮した赤系果実とカシス、奥にレザーやハーブが漂います。味わいはフレッシュな酸が最後まで持続し、ぎゅっとした果実と細やかなタンニンが調和します。果実の厚みとレザーのニュアンスが重なり、余韻が長く続きます。

約50年変わらないスタイル
カサノヴァ ディ ネリを象徴するブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ジャンロレンツォ氏:
「カサノヴァ ディ ネリの歴史を象徴するワイン、いわゆる白ラベルです。初ヴィンテージは1978年で、約50年間ほぼ変わらないスタイルを守っています。エレガントでフレッシュ、リリース直後から楽しめる一方、熟成ポテンシャルも備えます。唯一、畑のブレンドで造るブルネッロです。2020年はチェッレタルトを造らなかったため、そのブドウも使用したヴィンテージです。エレガントなタンニンが感じられると思います。」
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。香りは赤系果実、カシス、ブラックベリーが力強く立ち上がり、エレガントなアロマにレザーが加わります。時間とともに甘いシナモンやバニラのニュアンスが現れます。味わいは香りと一致し、フルーティで力強く、奥行きのある風味がじわりと広がります。

『ワインスペクテーター』年間最優秀賞の実績
ブルネッロ初の快挙を達成した単一畑ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ テヌータ ヌオヴァ 2020

ブルネッロ ディ モンタルチーノ テヌータ ヌオヴァ 2020

ジャンロレンツォ氏:
「テヌータ ヌオヴァは、カサノヴァ ディ ネリを世界に広めたワインです。白ラベルとはまた別軸で象徴的な存在です。毎年造ることができない最上級の単一畑チェッレタルトとは違い、コンスタントに造る特別なブルネッロとして、父が造り上げました。白ラベルと同じフレッシュさを保ちながら、バルサミックやハーブの複雑味、きめ細やかさ、塩味を伴う後味が特徴で、他のブルネッロにはない個性があります。テイスティングするとすぐにわかる個性が感じられます。1990年と現行ヴィンテージを比較しても、バルサミックなトーンや地中海ハーブなど、テヌータ ヌオヴァらしさが明確に表れています。初ヴィンテージは1993年。ブルネッロとして初めて『ワインスペクテーター』のワイン オブ ザ イヤーに選出された実績もあります。」
試飲コメント:やや深みのあるガーネットに近いルビー色。香りは力強く複雑で爽やか。赤系果実、ブラックベリー、カシス、ハーブ、レザー、バニラが混ざり合います。味わいは柔らかな口当たりで、香りの要素がエレガントに広がります。樽の風味が綺麗に溶け込み、やや甘やかさを伴う余韻が続きます。

年間生産量9000本、新たな畑で挑むクリュ ブルネッロ

ジョヴァンニ ネーリ ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ジョヴァンニ ネーリ ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020

ジャンロレンツォ氏:
「3年目のヴィンテージを迎えたジョヴァンニ ネリのブルネッロ ディ モンタルチーノ2020年です。このサンジョヴェーゼのクローンは特別で、実が少なく長い房が特徴です。今まで見たことがありません。20%全房発酵、年間生産量は9000本。バルサミコや赤い果実、ミネラルに加えて、柑橘のニュアンスが感じられ、しっかりしたストラクチャーが特徴です。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。香りは力強く複雑で、赤い果実や柑橘、チョコレート、レザー、甘やかなスパイスが立ち上がります。口当たりは柔らかく、存在感がありながらも滑らかなタンニンが果実とスパイスと重なり、長い余韻へと続きます。

モンタルチーノ最東端、鉄分豊富な赤土土壌
独自の個性を放つ最上級クリュ ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ チェッレタルト 2019

ブルネッロ ディ モンタルチーノ チェッレタルト 2019

ジャンロレンツォ氏:
「チェッレタルトはモンタルチーノ最東部にある唯一無二の畑です。林に囲まれた畑で、所有畑の中で最も温度差の大きい場所です。モンタルチーノで唯一の鉄分豊富な赤土で構成される、非常に特殊な土壌です。他の3つのブルネッロと比較しても、チェッレタルトだけは特別な味わいだと感じていただけます。45年前、祖父によって見出された畑ですが、当時は誰からも信じられていない畑でした。18度の急斜面は普通の車では辿り着けない険しさです。他のブルネッロより瓶内熟成を1年多く行い、合計6年間熟成してリリースします。リゼルヴァに分類できますが、特別な畑そのものに焦点を当てているため、リゼルヴァ表記はしていません。チェッレタルトの特徴が表れない年には造りません。近年では2019、2018、2016、2015年は生産しました。2018年は多くの生産者が良い年とは言いませんが、チェッレタルト独自の個性が出たヴィンテージとなりました。」
試飲コメント:深みのあるルビー色。香りは凝縮感があり力強く複雑で、赤系と黒系果実がぎゅっと詰まったエレガントな印象です。チョコレートなどの甘やかなスパイスが重なります。エレガントな口当たりで、力強さと上品さが調和した味わいが綺麗に広がります。余韻は非常に長く持続します。

インタビューを終えて

3つのクリュ ブルネッロ、「チェッレタルト」「テヌータ ヌオヴァ」「ジョヴァンニ ネリ」の贅沢な飲み比べをさせていただきました。驚かされたのは、偉大で厳格な骨格を持ち、長期熟成のポテンシャルをしっかりと感じさせるにもかかわらず、抜栓してすぐに華やかな風味を堪能できたことです。「長期熟成ポテンシャル」と「開けてすぐ美味しい」という彼らの哲学が、まさに体現されていると実感しました。

さらに、各世代を象徴するクリュ ブルネッロに込められた想いの違いも、お話と実際の味わいを通して深く理解することができました。チェッレタルトは、初代が誰よりも早く畑の重要性を説き、最高峰の区画を求め続けた結果として生まれた一本。テヌータ ヌオヴァは、2代目が「常に最高品質を、毎年安定して造れる場所」を求めて歩き回り、理想のテロワールを手にしたことから誕生したワイン。そしてジョヴァンニ ネリは、3代目が新たな感性や醸造のアプローチを取り入れながら、自らの世代を代表するクリュとして追求した位置づけです。

そのジョヴァンニ ネリは、凝縮感とミネラル感が際立つ奥行き深い味わいでした。ロッソにおいては、フレッシュさと厚みが共存し、複雑な層がいくつも重なる複雑性があり、ロッソ ディ モンタルチーノの領域を超えた仕上がりでした。ぜひブルネッロの最高峰をご堪能ください。