ネイヴェ村で5世代続く老舗ワイナリー「フラテッリ ジャコーザ」

2025/06/10

2025/05/19

アレッサンドロ ジャコーザ氏 Mr. Alessandro Giacosa、マウリツィオ ジャコーザ氏 Mr. Maurizio Giacosa

卓越した単一畑で生み出されるお値打ちクリュ バルバレスコ&バローロ!
ネイヴェ村で5世代続く老舗ワイナリー「フラテッリ ジャコーザ」

1895年、バルバレスコ地区ネイヴェ村に創業した老舗ワイナリー「フラテッリ ジャコーザ」。創業者ジュゼッペ・ジャコーザ氏が、夢で見た数字をもとに購入した宝くじが見事に当選。その資金でネイヴェの土地を取得に至ったという驚きのエピソードを持つワイナリーです。以来、5世代にわたりネイヴェ村に根ざし、家族経営でワインを造り続けています。現在は、バルバレスコやバローロを中心に、ネイヴェ村、モンフォルテ ダルバ村、カスティリオーネ ファッレット村に単一畑を所有。なかでも、バルバレスコ「バサリン」を筆頭に卓越した品質を備えながら、クリュワインとしては驚くほどのお値打ち価格を実現しています。今回は5代目当主、アレッサンドロ・ジャコーザ氏にオンラインでお話を伺いました。

1895年創業、5世代にわたりネイヴェ村に根ざす老舗

19世紀末、ジャコーザ兄弟がネイヴェに移住し土地を取得
――ワイナリーの歴史からお聞かせください。

ワイナリーの歴史は、1895年、ジャコーザ家の兄弟がそろってコスティリオーレ ダスティからバルバレスコ地区のネイヴェへ移住したことから始まりました。4兄弟のうち、実際に会社を運営していたのはジュゼッペ・ジャコーザでした。

ジュゼッペはある日、夢の中でとある数字が暗示されたといいます。翌日、その数字をもとに宝くじを購入したところ、見事に当選。その当選金で本拠地であるネイヴェの土地を取得することができたのです。

1920年代、2代目がガラス瓶でワインの販売を開始
1960年代、3代目が自社ボトリングを開始

1920年頃、2代目がワイナリーを引き継いだ当時のピエモンテでは、ワインを大きな容器に入れて食事とともに楽しむのが一般的でした。そのため、当時は15リットルや34リットルのダミジャーナ(ガラス瓶)にワインを詰めて販売していました。

その後、私の祖父や叔父にあたる3代目は、ミラノやトリノへと販売網を広げていきました。ちょうど戦争の時代と重なって厳しい状況ではありましたが、それを乗り越え、1960年代からは自社でのボトリングを開始しました。

4代目(左2人)、3代目(右2人)

1990年代、畑を拡大しワイナリーが大きく発展
2000年代、バルバレスコ、バローロをリリース

1990年代に入ると、祖父(3代目)と父(4代目)が畑を拡大し、自社ブドウを用いたワイン造りが可能になったことで、ワイナリーは大きく発展していきました。1991年にはバローロのモンフォルテ ダルバ、1994年にはカスティリオーネ ファッレットの畑を取得。2008年にDOCGバローロとして認定を受けてリリースしました。バルバレスコについては、2004年にリリースしています。

ビオロジック農法&ゼロエネルギー醸造施設
伝統と革新が融合した次世代のワイン造り

現在は、優良年にのみ造る上級バルバレスコに加え、スプマンテも生産するようになりました。近い将来には、いとこたちもワイナリーに加わり家族全員で運営していく予定です。さらに、新たなカンティーナの建設も進めています。この新しい施設は、より自然で環境に配慮したワイン造りができる設計となっており、排出エネルギーを限りなくゼロに近づけることが可能です。

畑でも環境負荷の軽減を実現するべくビオロジック栽培を導入しています。これは持続可能な農業を実現するうえで、非常に重要なステップだと考えています。ただし、醸造においては完全な自然派ワインというわけではありません。自然な手法は時に不安定さを伴うため、これまでの伝統的な製法を尊重して、安定した品質を維持することを心がけています。

卓越した単一畑が生む、クリュ バルバレスコ&バローロ

バルバレスコ、バローロを中心に約50haの畑を所有
――それぞれの畑について教えてください。

本拠地のネイヴェをはじめ各地に畑を所有し、合計50haに及ぶ畑を管理しています。
■バルバレスコ地区ネイヴェ
・バサリン畑(5ha):クリュ「バサリン」
・ジャンマテ畑(2ha):クリュ「バサリン」のサブゾーン
・ボルディーニ畑(2ha):クリュ「ボルディーニ」

■バローロ地区カスティリオーネ ファッレット
・マンドルロ畑(3ha):クリュ「スカッローネ」のサブゾーン

■バローロ地区モンフォルテ ダルバ
・カッシーナ カナヴェーレ(11ha):クリュ「ブッシア」と「ブリッコ サン ピエトロ」にまたがる畑
クリュ「バサリン」:主に左側の畑を所有

所有畑の中で最高品質を誇る、クリュ バルバレスコ「バサリン」
――昔から所有していることもあって、条件の良さそうな畑ですね。

クリュ「バサリン」は、私たちにとって最も品質の高い畑です。バサリンとは、ピエモンテの方言で「太陽の光を浴びる」という意味で素晴らしい位置にあります。標高300m、化石や粘土量が非常に多い土壌です。優良年しか造らない上級バルバレスコ「ヴィーニャ ジャンマテ」は、この中の区画で造られています。

クリュ「スカッローネ」に独占所有する頂上区画「ヴィーニャ マンドルロ」
カスティリオーネ ファッレットのマンドルロの畑も特に素晴らしいです。クリュ「スカローネ」のサブゾーンで、マンドルロを所有するのは私たちだけです。カスティリオーネ ファッレット城のすぐ下、丘の頂上に位置しています。標高は380mで、南東向き。バサリン同様に化石や粘土で構成された土壌です。天候的にも非常に恵まれた場所です。バローロ自体の収量が最大8クインターリのところ、さらなる品質を追求するマンドルロは6~7クインターリに抑えています。
「マンドルロ」区画:カスティリオーネ ファッレット城(中央部)すぐ下

フレッシュ&ミネラル感あふれるガヴィ

ガヴィ 2023

ガヴィ 2023

アレッサンドロ氏:
「現地で造ったワインを自社施設でボトリングするガヴィです。ステンレスタンクのみで造られています。サービス温度は7度程度が理想です。熟成させないタイプのチーズや魚料理に最適です。フレッシュなスタイルですので、その年のうちに飲むタイプのワインです。」
試飲コメント:麦わら色。レモンや熟した黄色い果実、ミネラル感のある香り。甘やかな果実感も感じます。口当たりは滑らかながら非常にフレッシュな酸が口中に広がります。塩味やミネラル由来の苦みも。香りに感じた熟した黄色い果実に加えて、ややオレンジのようなニュアンスを持つ濃密な印象もあります。

昔ながらの典型的な味わいが表現されたバルベーラ

バルベーラ ダルバ 2022

バルベーラ ダルバ 2022

アレッサンドロ氏:
「バルベーラは、この地域における伝統的なワインです。祖父の時代の味わいを踏襲し続けており、典型的なバルベーラに仕上がっています。設備は新しくなっていますが、昔のスタイルを保っています。醸造はステンレスタンクのみ。酸がしっかりあるフルーティな味わいです。サービス温度は18度前後で、豚肉料理やスパイシーな料理、パスタなど幅広い料理に合います。2022年と2023年は似た気候で、いずれも雨が非常に少なく暑い年でした。例年なら7月に葉を落としますが、日照の調整のため控えめにするなどして対応しました。」
試飲コメント:やや濃いルビー色。プルーンのような黒い果実を感じさせる濃厚でフレッシュな香り。そのフレッシュさと柔らかさが共存した口当たり。ほどよいボディと果実由来の甘みが調和しています。温度が上がるとリコリスといったスパイスの風味が現れます。食事と合わせたくなる味わいです。

力強さと繊細さが共存するスタンダード バルバレスコ

バルバレスコ 2020

バルバレスコ 2020

アレッサンドロ氏:
「私たちの通常のバルバレスコは、ネイヴェから約3km離れた畑で造られています。12~18ヶ月間フレンチオークの大樽で熟成しています。スミレの繊細なニュアンスもあり、エレガントながらしっかりとしたボディを持っています。」
試飲コメント:縁がガーネットの淡いルビー色。ドライフラワーや小さい赤い果実が調和した、華やかでエレガントな香り。力強さと繊細さが共存した味わいで、口に含むとしっかりしたアタックと豊かな果実感がありながら非常にエレガントな風味に満たされます。滑らかなタンニンとともに、華やかな余韻が長く持続します。

果実、スパイス、華やかさが綺麗に溶け合う
卓越した自社畑で生まれるクリュ バルバレスコ

バルバレスコ バサリン 2019

バルバレスコ バサリン 2019

アレッサンドロ氏:
「バサリンは、所有畑の中で最も品質の高いワインが生まれる単一畑です。化石や粘土が豊富な土壌。30または60ヘクトリットルのフレンチオークの大樽で18~20ヶ月間熟成します。ジビエやキノコ料理、白トリュフをかけたタヤリンなどと相性が良いです。スタンダードのバルバレスコと大きく異なるわけではありませんが、明確な違いを感じていただけると思います」
試飲コメント:縁はガーネット色で、綺麗に輝くルビー色。赤い果実や熟した果実、花の香りに加えて、ややスパイシーでレザーのようなニュアンスも感じられます。全体としては優美でエレガントな印象です。口当たりは滑らかですが、しっかりとした力強さがあります。ボディやタンニンのバランスがよく、果実味やスパイス、華やかさが美しく溶け合っています。

赤い果実に満たされる優美な味わい
フレンチオークの大樽で造る伝統的バローロ

バローロ 2020

バローロ 2020

アレッサンドロ氏:
「自社ブドウに加え、一部買いブドウで造るバローロです。20~25年以上付き合いのある農家の高品質なブドウです。収穫前には畑を訪れ、糖度やブドウの状態を分析し、納得できる品質のものだけを使用しています。2020年のバローロはバランスの取れたヴィンテージです。30か60ヘクトリットルのフレンチオークの大樽で2年間熟成しています。赤い果実のニュアンスが際立っていますね。熟成由来の第三アロマも少し感じられますが、まだ色調は若々しく生き生きとしており、高い熟成ポテンシャルを持っています。肉や熟成チーズとよく合います。」
試飲コメント:ガーネット色がかった輝くルビー色。赤い果実のエレガントな香り。口当たりは滑らかで、香りで感じた繊細な果実味が穏やかに広がります。全体的にエレガントで柔らかく優美な余韻が持続します。

複雑で奥行きを感じさせる熟成ヴィンテージのクリュ バローロ

バローロ ヴィーニャ マンドルロ 2014

バローロ ヴィーニャ マンドルロ 2014

アレッサンドロ氏:
「カスティリオーネ ファッレットにある単一畑スカッローネにある区画マンドルロで造るクリュ バローロです。カスティリオーネ ファッレット城のすぐ下にあり、丘の頂上部にある畑です。マンドルロを所有するのは私たちだけです。4年間大樽で熟成しており、タバコやスパイスのニュアンスがあります。熟成ヴィンテージなので、味わいに広がりが感じられると思います。やはり牛肉の料理との相性が抜群です。」
試飲コメント:ややレンガ色がかったガーネット色。赤い果実やスパイス、レザー、タバコのようなニュアンス。骨格と奥行きのある香りが広がります。口当たりは滑らかでありながら、しっかりとした味わいです。ドライフラワーやドライフルーツ。タンニンはこなれていながら存在感があり、余韻がエレガントに持続します。

インタビューを終えて

フラテッリ ジャコーザのワインを通じて、あらためて品質と価格のバランスに驚かされました。なかでも際立っていたのが、クリュ バルバレスコ「バサリン」でした。果実味、スパイス、華やかさが見事に調和し、思わずうっとりするような優美な味わいです。「このクオリティで、この価格はすごい」と圧倒されました。丘の頂上という恵まれた区画で造られるクリュ バローロ「ヴィーニャ マンドルロ」もまた印象的でした。しかも、今回試飲したのは2014年という熟成ヴィンテージ。まさに、驚きの連続となる試飲体験でした。