2025/05/16
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ヴァルテル フィッソーレ氏 Mr. Valter Fissore
クリュ ラヴェーラの個性が詰まった伝統バローロの造り手!エレガンスと複雑性を兼ね備えるラヴェーラの先駆者「エルヴィオ コーニョ」

クリュ ラヴェーラのポテンシャルをいち早く見抜き、
未来を切り拓いたラヴェーラの先駆者
1990年、故郷ノヴェッロ村ラヴェーラで創業
――まずは、ワイナリーについて教えてください。
私はヴァルテル・フィッソーレです。コーニョ家の4代目にあたり、創業者エルヴィオ・コーニョの娘ナディアと結婚し、現在はオーナーとワインメーカーとしてワイナリーを運営しています。
義父エルヴィオは、1961年からラ モッラ村でマルカリーニとともにワイナリーを共同設立し、ワイン造りをしていました。自身のワイナリー「エルヴィオ コーニョ」を設立したのは、1990年のことです。場所は、彼の故郷ノヴェッロ村ラヴェーラ。1700年代の歴史的な建物「カッシーナ ヌオーヴァ」と、それを囲む11haの畑を取得し、1991年に初めての収穫を行いました。
現在、畑の広さは17haまで広がり、年間13万本のワインを生産しています。栽培するブドウ、醸造するワインはすべてピエモンテのものです。ドルチェット、バルベーラ、ネッビオーロ(バローロ、バルバレスコ)、ナシェッタといった土着品種に注力しています。
エルヴィオ・コーニョ氏、ヴァルテル・フィッソーレ氏
豊かなタンニンと優れた骨格が生まれる、バローロ南西部ノヴェッロ村
私たちが拠点を置くノヴェッロ村は、バローロ地区の南西部に位置しています。南側の山から冷たい空気が流れ込むため、バローロの中では冷涼な気候です。
バローロ全体の土壌は、主に泥灰土や石灰で構成されていますが、地質学的には渓谷を境に、トルトニアーノ土壌とエルヴェツィアーノ土壌に大きく分かれます。前者は砂質が多く、後者は少ないです。ノヴェッロ村はエルヴェツィアーノ土壌に属しており、豊富なタンニンと優れた骨格を持つ長期熟成に適したスタイルになります。
クリュ ラヴェーラで先駆的にワインを造り始め、一帯に広がる畑を所有
私たちが所有する唯一のクリュは、ノヴェッロ村のラヴェーラです。標高は380m。ノヴェッロ村から、わずかにバローロ村の一部にまたがる区域です。
創業当初、ラヴェーラでワインを造っていたのは私たちだけでした。当時この地にはブドウを栽培して販売する人はいましたが、自らワインを醸造する人はいませんでした。ラヴェーラが持つ唯一無二の個性と、高品質なブドウが育つポテンシャルを、エルヴィオは誰よりも信じていたのです。
そのエルヴィオの先見性によって、私たちはカンティーナを囲む一塊の畑を取得することができ、ラヴェーラの魅力あふれるワインをいち早く世に送り出すことができたのです。
「このワインには唯一無二のものがある」
エノテカ創業者・廣瀬恭久氏が一目惚れしたエルヴィオ コーニョ
最初に廣瀬さんとお会いしたのは15年以上前、『Vinitaly』の会場でした。私たちのブースに立ち寄り、「このワインには唯一無二のものがある」と言ってくださいました。翌年もまた来てくださり、「やはりこのワインにはアイデンティティがある」と感動されていたことをよく覚えています。その後、カンティーナにも訪問していただきました。まるで一目惚れのような印象でしたね。
あの頃から比べると、私たちのワインはさらに進化しています。当時のスタイルは今よりもストラクチャーがありましたが、現在はより洗練された味わいになっていると思います。ネッビオーロに関しては、気候変動の影響がプラスに働いており、ブドウの成熟度が向上したことで、タンニンが穏やかになり、より好ましいスタイルに仕上がっています。
――すぐに飲んでも美味しいバローロが増えてきましたよね。
その通りです。以前は、リリース直後に飲むには早すぎるとされ、「あと20年は寝かせましょう」と言われるようなワインでした。実際に寝かせてから飲んでも、まだタンニンが強く残っているようなこともありました。しかし、偉大なワインというのは、開けるタイミングにかかわらず、いつ飲んでも素晴らしいものだと思います。
ラヴェーラの個性を余すことなく体現
土地、歴史、哲学を映し出すワイン造り
私は、偉大なワインを造るには「明確なビジョンを持ち、決して妥協しないこと」が不可欠だと考えています。その信念のもと、3つの哲学を大切にしています。テロワールを表現すること、エレガントさを引き出すこと、そしてアイデンティティを示すことです。
伝統的な造りを重んじ、テロワールやその土地が持つ歴史的背景を尊重しています。発酵には非常に長い時間をかけ、大樽のみで熟成させます。50hl、30hl、15hlのトーストしないスラヴォニア産の大樽です。畑に隣接する小さな森が生物多様性を保ち、すべての畑がワイナリーに近いため、常に手間をかけた管理が可能となっています。
クリュ ラヴェーラだけで造る4種のバローロ
エルヴィオ コーニョを語る上で、クリュ「ラヴェーラ」は欠かせません。標高は380mの冷涼な環境で、石灰質と粘土質が主体の痩せた白い土壌が広がります。畑の向きは南、南東、南西。これらの条件が、非常に複雑な味わいのワインを生み出します。
私たちは、このラヴェーラで4つのバローロを造っています。「バローロ ラヴェーラ」「バローロ カッシーナ ヌオーヴァ」「バローロ ブリッコ ペルニーチェ」「バローロ ヴィーニャ エレナ リゼルヴァ」。同じクリュ内であっても、小区画ごとに異なる個性があり、繊細な違いを楽しめる点もラヴェーラの大きな魅力です。
村名バローロとしてリリース予定
ノヴェッロ村を体現する「カッシーナ ヌオーヴァ」
――「バローロ カッシーナ ヌオーヴァ」にはラヴェーラと記載していないのですか?
ラベルにラヴェーラと記載がないのは、将来的にノヴェッロ村内の畑を使用して、より広い視点から「カッシーナ ヌオーヴァ」を表現していく構想があるからです。そのため、2023年ヴィンテージからはバローロ カッシーナ ヌオーヴァ「コムーネ ディ ノヴェッロ」、いわゆる村名バローロとしてリリースする予定です。
冒頭でも触れた通り、「カッシーナ ヌオーヴァ」は畑の名前ではなく、古くから「カッシーナ(農場)」として地図に記載されている300年前の建物の名称です。この土地を象徴する名を冠することで、ノヴェッロというコムーネ(村)を体現する存在として位置づけています。
「忘れられないワイン」
エルヴィオ コーニョの哲学が息づくバローロ
ラヴェーラのワインは長期熟成に適した骨格を持ちますが、今開けてもすでに美味しいスタイルです。私自身は「熟成ワインのファン」ではありません。今飲んで美味しければ、それ以上に求めるものはないですから(笑)。もちろん、熟成とともに姿を変えるワインは素晴らしいです。けれども私は、Enjoy the momentと言いますか、その瞬間の美味しさを味わうことを大切にしています。
そして、何よりも重要なのは、飲む人がこのワインに込めた哲学を感じてくれることです。エルヴィオ コーニョが世界で最も美味しいワインかどうかはわかりませんが、忘れられないワインであると確信しています。誠実にワインと向き合い、心と魂を込めた唯一無二のワインです。ラベルを隠して飲んでも「これはコーニョのワインだ」とわかっていただけると思います。
香り豊かで綺麗な酸と際立つミネラル感
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ランゲ アナス チェッタ 2023 |
ヴァルテル氏: 「ノヴェッロ村の土着品種ナシェッタで造る白ワインです。このワインを造り始めたのは1994年。当初はテーブルワインで、DOCではありませんでした。創業者エルヴィオは忘れ去られていたナシェッタを守るために、小区画の畑から1000本だけ造ったんです。エルヴィオのおかげで復活を遂げ、今ではランゲで非常に重要な白ブドウ品種となっています。現在、私たちは2万本を生産しています。ナシェッタは熟成ポテンシャルも高く、セミアロマティックで香りも豊かです。若いうちはローズマリーや白い花のような香りがあり、5年ほど熟成が進むとリースリングのような火打石のニュアンスが出てきます。酸味がしっかりとあり、塩味も感じられ、食中酒として非常に優れています。特に日本食との相性が良いと思います」 |
試飲コメント:濃い麦わら色。凝縮かつフレッシュで華やかな黄色系や白系果実の香り。トロピカルな印象もあり、わずかにライチのようなニュアンスも感じます。アーモンドや火打石のようなミネラルの香りも。味わいは香りと同様に複雑です。綺麗な酸とミネラル、果実感が調和しており、しっかりとしたボディを持ちます。ミネラル由来のほのかな苦味が余韻に続きます。 |
ピュアな赤い果実が広がるランゲ ネッビオーロ |
ランゲ ネッビオーロ モンテグリッリ 2023 |
ヴァルテル氏: 「私たちのランゲ ネッビオーロは、最初からランゲ ネッビオーロとしてワインを造っています。決してバローロになれなかったブドウを使用しているわけではありません。畑はノヴェッロ村にありますが、バローロの認定外地域です。木樽は使用せず、ステンレスタンクのみで醸造、カーボニックマセラシオンをしています。フルーティでクリーン、エレガントなスタイルです。穏やかなタンニンがで心地よい飲み口です。モンテグリッリとは私の祖父の畑に由来しており、彼の記憶を残すために名付けました」 |
試飲コメント:淡いルビー色。ピュアでチャーミングな赤い果実の香り。口に含むと、香り同様に赤い果実の軽やかなエレガントな味わいが広がります。白胡椒のようなニュアンスが感じられます。 |
1年間の樽熟成で造る豊かで複雑なバルベーラ ダルバ |
バルベーラ ダルバ ブリッコ デイ メルリ 2021 |
ヴァルテル氏: 「私たちのバルベーラはふくよかなスタイルに仕上げています。温度管理されたステンレスタンクで10日間ほど発酵し、1年間木樽で熟成されます。バルベーラはタンニンが少ないため木樽との相性が良い品種です。2021年ヴィンテージは熟成が進み、チェリーやプルーン、ミネラル感、グラファイトのニュアンスもあり複雑な味わいに仕上がっています。」 |
試飲コメント:やや深みのあるルビー色。軽やかでフレッシュな黒い果実の香り。時間とともにまろやかな樽のニュアンスや胡椒のようなスパイスも広がってきます。味わいはフレッシュながら柔らかく、香りに感じた黒い果実味が広がります。存在感のあるタンニンによってエレガントでありながら深みと奥行きのある余韻が持続します。 |
繊細で奥行きのある優しい味わい
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バローロ カッシーナ ヌオーヴァ 2020 |
ヴァルテル氏: 「これは典型的なバローロであり、次世代に伝えたいワインです。ラヴェーラにある樹齢25年の若いブドウを使用し、早くから飲める味わいに仕上げています。ランピアとミケットという2つのクローンを使用。およそ50日間かけて発酵を行います。熟成は2年間大樽で行います。2020年ヴィンテージは、繊細でシルクのようなタンニンが特徴です。果実味のある、若々しいフルーツ感のある味わいを重視しています。コストパフォーマンスも良く、若い世代にも手に取ってもらいやすい価格のバローロだと思います。」 |
試飲コメント:ルビーよりのガーネット色。ドライフラワーや赤い果実などを感じる繊細で奥行きのある優しい香り。味わいにはドライフラワーや土、落ち葉のようなニュアンスがあり、香り同様の優しい味わいが口中を満たします。 |
多層的な風味が広がり、優美さと複雑さを兼ね備えたクリュ バローロ |
バローロ ラヴェーラ 2019 |
ヴァルテル氏: 「私たちの中で最も歴史あるバローロが、このラヴェーラです。樹齢80年ほどのランピアとミケットのクローンで造られています。層が重なるような複雑味とともに、エレガントな味わいです。タンニンは滑らかで、酸は美しく、果実味やスパイス、バルサミコのような風味も感じられます。2019年は素晴らしく熟成が期待できるヴィンテージですが、今開けてもすでに楽しめるおいしさがあります。」 |
試飲コメント:ガーネット色。香りをとった瞬間に赤い果実や落ち葉、ドライフラワー、ミントなどのハーブの香りが一斉に広がります。エレガントながら密度の高い印象です。香りと同様の要素を持つ味わいで、バランスが良く優美です。奥行きと繊細なタンニンが感じられ、全体の要素が複雑に絡み合いながら持続する長い余韻があります。非常にエレガントな印象です。 |
インタビューを終えて
