シチリア最古のDOCファロの造り手「カゼマッテ」

2025/06/18

2025/05/27

ジャンフランコ サバッティーノ氏 Mr. Gianfranco Sabbatino、アンドレア バルザーリ氏 Mr. Andrea Barzagli

メッシーナ丘陵が育む独自のエレガンスを追求!シチリア最古のDOC「ファロ」最大の造り手「カゼマッテ」

シチリア北東部メッシーナに拠点を構える、DOCファロ最大の造り手「カゼマッテ」。2008年、会計士ジャンフランコ・サバッティーノ氏と、元プロサッカー選手アンドレア・バルザーリ氏が創業したワイナリーです。畑はメッシーナ海峡を望む標高の高い丘陵地に位置し、冷涼な気候が特徴。従来のシチリアワインとは一線を画す、メッシーナならではのエレガントなワインが生まれます。彼らのフラッグシップ「ファロ」は、華やかで優美な酸に満ちた、唯一無二の個性を持つ赤ワイン。『ガンベロロッソ』で10年連続となる最高賞トレビッキエリを獲得しています。今回は、おふたりの当主をお迎えしてお話を伺いました。

標高550mに及ぶ丘陵地、メッシーナ海峡、冷涼な気候
独自のエレガンスが生まれるDOC「ファロ」

2008年、シチリア北東端メッシーナ丘陵で創業
――2年前にオンラインでお話を伺いましたが、改めてワイナリーについてお聞かせください。

ジャンフランコ(以下:G) カゼマッテは、私とアンドレア(・バルザーリ)が2008年に畑を取得して始めたワイナリーです。「カゼマッテ」とは戦時中に使われた弾薬庫や砲台を意味し、私たちの畑の中には今もその跡が残っています。畑は私たちの所有物ですが、弾薬庫自体は今も国が所有し軍が管理しています。

拠点はシチリア島の北東端に位置するメッシーナの丘陵地。メッシーナ海峡やペローロ岬、カラブリア州を一望できる場所です。ペローロ ロッソとビアンコのエチケットには、その岬の角度が表現されています。

私は生まれも育ちもメッシーナで、畑から5分の場所に住んでいます。いつもアンドレアと醸造家からは「お願いだから、カジーノ(めちゃくちゃにすること)はしないでくれよ」と冗談を言われるほど、毎日畑に出て管理しています。

DOCファロ最大の畑を所有し、ビオロジックで土着品種のみ栽培
G この地域を代表する原産地呼称DOCファロは、1976年に認定された、シチリアで最も古い非常に小さなDOCです。私たちの畑は、ファロの特性を最大限に活かせる理想的な場所に位置しており、現在は全体の9ヘクタールを所有しています。今やファロにおいて最も広い畑を持つ生産者となりました。

総面積13ヘクタールにおよぶ所有畑では、ビオロジック農法を採用しています。栽培するブドウはすべて土着品種。年間の総生産量は約6万本で、白ワイン3種と赤ワイン4種を造っています。

標高ごとに植え分ける多様なブドウ品種
メッシーナ海峡がもたらすDOCファロ独自の冷涼気候

G 畑の土壌は非常にふかふかとした粘土質です。標高は250~550mの範囲に広がっており、標高ごとに品種を植え分けています。最も高い場所にはネレッロ マスカレーゼと一部のグリッロ。その下にネレッロ カプッチョやノチェーラ、カリカンテなどと続き、最も低い場所にはネロ ダーヴォラを植えています。

ファロは、風が強く冷涼な気候です。狭い海峡に勢いよく海水が流れ込むことで水深が増し、冷たい海水が循環して水温が下がります。そこへ強い日差しが照りつけることで温度差が生まれ、強い風が発生します。これにより、メッシーナの気温は周辺地域に比べて5~6度ほど低くなるのです。

「シチリアらしくない」メッシーナならではのエレガントスタイル
G このような独自の微気候によって、メッシーナで造られるワインは「シチリアらしくない」とも言える個性を持っています。シチリアのワインと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ネロ ダーヴォラを使ったエネルギッシュなスタイルでしょう。

一方で、「ペローロ ロッソ」をはじめとした私たちのワインは、メッシーナならではのエレガントスタイルが特徴です。メッシーナで生まれ育った私にとって、ファロがそうした気品を備えていることは理解していましたが、創業当初は誰にも注目されないと思っていました。当時は、エトナも有名産地になる前でしたからね。

けれども今では、多くのワインがエレガントなスタイルへと移行しつつあります。そんな時代の流れの中で、私たちはファロの個性を信じ、エレガンスを追い求めてきました。それが今、評価され始めていることに大きな手応えを感じています。そして同時に、その時代の変化と重なったことは、本当に幸運だったとも思います。

極少量生産ワインが新しく登場
「畑の樹齢」「醸造設備」「経験値」が進化し続けるワイン造り

メッシーナの土着品種ノチェーラ100%赤「ナヌチ」
小区画&厳選グリッロ100%白「ファリス」

G 生産量が非常に少ない日本初上陸のワインを紹介します。まずは、メッシーナとその周辺にしか植えられていない土着品種ノチェーラで造る赤ワイン「ナヌチ」です。単一品種で造ることで、メッシーナのアイデンティティを表現しています。私たちの最上級キュヴェである「ファロ」にもブレンドされている品種です。生産量は毎年1300本です。

そして、グリッロ100%で造る白ワイン「ファリス」。わずか1ヘクタールの畑にある最良ブドウを厳選して造られています。生産量は毎年3000本。ファリスとは、本拠地のファロ スペリオーレ村の昔の呼び名(ギリシャ語読み)に由来しています。

過去最高の完成度を誇る最上級キュヴェ「ファロ」
G フラッグシップワインである「ファロ」は、年々品質が向上しており、最新の2023年ヴィンテージは過去最高の出来栄えとなりました。凝縮感、エレガンス、優れたバランス、飲み心地の良さに加えて、自ら育てたブドウの個性がしっかりと表れたブレンドワインに仕上がっています。

こうした品質の向上は、日々畑と真摯に向き合い、細かな改良を積み重ねてきた結果にあります。畑の樹齢が増したことに加え、ファロに不可欠なブレンド技術の習熟も大きな要因です。また、2021年に完成した新しいワイナリー設備が徐々に馴染んできたことも、品質向上を後押ししていると思います。

10年連続トレビッキエリ受賞の快挙
ゼロから築き上げた確かなクオリティ

――ところで、前回のインタビューでも伺いましたが、アンドレアさんがパレルモでプレーしていた時に、ジャンフランコさんはワイン造りのお誘いをしたんですよね。

G 最初はパレルモのレストランで会ったんです。私はふざけるのが好きで、その時もカツラを被って遊んでいましたね(笑)。一緒にやろうと誘ったのはその後です。当時、アンドレアはドイツでプレーし始めた頃で、サッカー漬けの日々だということで、私はワインをたくさん送り続けていたんです。そこから自然と一緒にプロジェクトを行うようになりました。

アンドレア(以下:A) とにかくジャンフランコは積極的で熱心な人なんです(笑)。

――そこからどのように進展していったのですか?

A ワイナリー創業当初、私はまだ現役選手でしたし自前の醸造設備もなく、ワイン造りに完全に集中できていたわけではありませんでした。初めてできたワインの品質には納得がいかず、模索が続きました。そこから一つひとつ、やるべきことをクリアしていき、軌道に乗ったのはカンティーナを建設した2013年頃だったと思います。ファロが初めて『ガンベロロッソ』でトレビッキエリを獲得したのも2013年ヴィンテージでした。

G 2013年から10年連続でトレビッキエリを受賞しています。アンドレアが持っている「リーグ優勝9回」の記録を超えましたね(笑)。

次世代とDOCファロの未来をつなぐ信念
G 現在、標高の高い畑の取得を進めており、4年前には新たに3ヘクタールの畑を取得しました。ここではグリッロとカリカンテを栽培しています。DOCファロには標高に関する制限がないため、メッシーナ県内であればDOCファロとして造ることが可能です。とはいえ、これらの畑はあくまで次世代のための準備です。将来、私の甥やアンドレアの子どもがワイナリーを継いでくれたとき、スムーズに歩みを進められるための投資にすぎません。

カゼマッテのワインの品質については、今回の試飲でしっかりと感じていただけたと思います。ただし、メッシーナやDOCファロといった産地は、まだ広く知られているとは言えません。それでも、一度ワインを味わっていただければ、この土地ならではの魅力や可能性を理解していただけるはずです。私たちは、そうした出会いの積み重ねこそが、ファロを新たなワイン産地として確かな存在へと導いてくれると信じています。

フレッシュな酸と熟した果実味の優れたバランス

グリッロ シチリア 2023

グリッロ シチリア 2023

ジャンフランコ氏:
「ステンレスタンクで造るグリッロです。収穫してからクリオマセレシオンをするためにドライアイスを用いて温度を下げた状態にします。その結果、フレッシュで飲みやすい味わいが表現されています。そして、グリッロの特徴である柑橘系の香りや白い果実のニュアンスが感じられます。」
試飲コメント:麦わら色。注いですぐに広がる、フレッシュでほどよく複雑な香り。やや濃密な黄色い果実や柑橘、熟した果実のニュアンスがあります。味わいも香りと同様にフレッシュな酸と熟した果実感があり、ややボディを感じさせます。

「ジャスミン畑にいるかのような白い花のニュアンス」
華やかに広がる心地よい味わい

ペローロ ビアンコ シチリア 2024

ペローロ ビアンコ シチリア 2024

ジャンフランコ氏:
「65%グリッロ、35%カリカンテをステンレスタンクで造るペローロ ビアンコです。カリカンテ由来の、ジャスミン畑にいるかのような白い花のニュアンス。グリッロ100%の白ワインよりもフレッシュな酸が印象的です。生魚や前菜に合いやすいですが、アルコール度数が13.5%あるので、食事の最後まで使いやすいワインです。」
試飲コメント:麦わら色。白い花や白い果実、ややライチのようなアロマティックな香り。味わいも香りと同様で、飲みやすく親しみやすい印象です。フレッシュさと柔らかさがあり、口の中に広がる感覚が心地よく、長い余韻が続きます。

年産3000本
わずか1ヘクタールの厳選ブドウで造る単一畑グリッロ

ファリス 2023

ファリス 2023

ジャンフランコ氏:
「ファリスは、わずか1ヘクタールの畑にある厳選したグリッロで造られる白ワインです。今から3年前くらいから造り始め、毎年3000本しか生産しません。ファリスとは、本拠地のファロ スペリオーレ村の昔の呼び名(ギリシャ語読み)に由来しています。発酵はステンレスタンク、熟成は500、600リットルの木樽で3ヶ月行ったあと、セメントタンクでまた3ヶ月熟成させます。長い余韻とともにミネラル感、塩味を感じられます。温度が上がってきてもまた表情が変わって楽しめると思います。」
試飲コメント:麦わら色。黄色い果実に加え、バナナやパイナップルのような南国果実、バニラといったふくよかな香りが広がります。エレガントな印象もあります。口に含むとフレッシュな酸と厚みのある味わいが見事に調和し、バランスの優れた仕上がりです。フレッシュな余韻が長く持続します。

上品でやさしさあふれるネロ ダーヴォラ

ネロ ダーヴォラ シチリア 2022

ネロ ダーヴォラ シチリア 2022

ジャンフランコ氏:
「ネロ ダーヴォラは濃くて重いイメージがあると思いますが、このワインは非常にハツラツとしたフレッシュな印象です。ベリー系果実を感じますね。発酵も熟成もステンレスタンクです。発酵時は、ブドウが自然と循環してくれる円錐型の開放樽を使っています。そのため、やさしく上品な味わいにも仕上がっています。」
試飲コメント:やや淡いルビー色。赤い果実や黒い果実の繊細な香りがあり、エレガントでフレッシュな印象です。小粒な果実のニュアンス。味わいは香り同様の果実感があり、タンニンは非常に繊細でスムーズです。それでいて持続性のある味わいです。

メッシーナらしさを表現
優美な果実味と酸が広がるエレガントな味わい

ペローロ ロッソ 2023

ペローロ ロッソ 2023

ジャンフランコ氏:
「ネロ ダーヴォラがシチリアらしさを象徴するとすれば、ペローロ ロッソはメッシーナらしさを表現しているワインです。ネレッロ マスカレーゼ70%、ノチェーラ30%のブレンド。ノチェーラは9月初旬、ネレッロ マスカレーゼは9月末から10月初旬にかけて収穫します。発酵はステンレスタンク、熟成は500から700リットルの新樽で行い、最後にアッサンブラージュされます。非常にフレッシュな味わいで、タンニンはしっかりと感じられるものの、やさしい印象です。肉料理に限らず、魚料理とも好相性。カジキマグロにオリーブやケッパーを合わせたギオッタという料理と合います。」
試飲コメント:輝きを持つ濃いルビー色。赤い果実に少しのスパイス感が加わるエレガントな香り。口に含むと綺麗な果実感とタンニンが広がり、美しい酸とともにエレガントな余韻が持続します。

年産1300本
メッシーナの土着品種ノチェーラ100%で造る赤ワイン

ナヌチ 2023

ナヌチ 2023

ジャンフランコ氏:
「ナヌチは、メッシーナとその周辺にしか植えられていない土着品種ノチェーラで造る赤ワインです。メッシーナのアイデンティティを表現すべく単一品種で造っており、他のワインとは比較できない独自性を持っています。私たちの最上級キュヴェのファロにもブレンドされている品種です。今のところ毎年1300本ほど生産しています。樽発酵のあとにセメントタンクで熟成しています。口中にスパイシーな香りが広がり、丸くバランスの取れた味わいに仕上がっています。」
試飲コメント:ルビー色。ピュアな赤い果実、花、若干のスパイス感が混ざり合う複雑な香り。ピュアな果実味とミネラル感が溶け合う味わいがあります。杏のようなニュアンスも。香りで感じた華やかさ、スパイスといった風味が長く持続します。

エレガントで魅惑的な風味に満たされるフラッグシップ 2021年

ファロ 2021

ファロ 2021

ジャンフランコ氏:
「ファロは、この土地を代表するDOCであり、私たちのフラッグシップワインです。ファロDOCでは4種類のブレンドが義務付けられており、ネレッロ マスカレーゼ、ネレッロ カプッチョ、ノチェーラの使用が必須。私たちが4品種目に選んだのはネロ ダーヴォラです。比率はそれぞれ55%、25%、10%、10%としています。長期熟成ポテンシャルを秘めたワインで、2021年もまだフレッシュで、非常に柔らかく余韻の長い味わいです。バニラのような甘みのある余韻が美味しいです。ビロードのような口当たりです。唯一の欠点は、値段が安すぎることですね(笑)。年間生産本数は8000本です。9ヘクタールのファロ認定畑の中から一番いいブドウをファロに使い、それ以外はペローロに使用しています。2年目の樽で熟成させることで、バランスが取れてまろやかになります。」
試飲コメント:淡いガーネット色。繊細な果実にドライフラワーのニュアンスを持つ、繊細で魅惑的な香り。口当たりはなめらかで、繊細なタンニンも相まって奥行きのある果実感が広がります。じわじわと持続する余韻に満たされます。

カゼマッテ史上最高の出来を誇るフラッグシップ 2023年

ファロ 2023

ファロ 2023

ジャンフランコ氏:
「2023年は、私がファロを造り始めて以来、最も出来の良いヴィンテージです。凝縮感、エレガンス、バランスに優れ、飲み心地も抜群。自ら育てたブドウの個性がはっきりと表れたブレンドワインに仕上がりました。2021年のような柔らかさはまだ出ていませんが、いずれ現れてくるような味わいですね。」
試飲コメント:ガーネット色。華やかで奥行きを感じる繊細で魅惑的な香り。口に含むとなめらかなタンニンが広がり、豊かで複雑、そしてエレガントな風味に満たされます。ミネラル感もあります。また、どこかブラッドオレンジのような柑橘類のニュアンスを感じます。

インタビューを終えて

カゼマッテのワインを通して、シチリアが持つ多彩な表情とポテンシャルをあらためて実感しました。どのワインにも清らかな果実味と美しい酸があり、メッシーナという土地の個性を存分に堪能できました。

初めて試飲した「ナヌチ」は、ピュアな果実の風味に、ミネラルやスパイスのニュアンスが繊細に溶け合った味わい。続く「ペローロ ロッソ」では、口に含んだ瞬間に思わず「美味しい」と声が漏れるほどの完成度で、以前に試飲したヴィンテージよりも一段と洗練されている印象でした。そして圧巻だったのが、最後に試飲したフラッグシップの「ファロ」(2021年、2023年)。ジャンフランコ氏が「過去最高の出来」と語る2023年ヴィンテージは、凝縮感、複雑味、そして染み入るような優美さが見事に融合した逸品でした。

唯一の難点は、どのキュヴェも少量生産であること。「ファリス」は3000本、「ナヌチ」は1300本、フラッグシップの「ファロ」も8000本と限られています。年々進化を遂げる希少なカゼマッテのワインを、ぜひお楽しみください!