2018年11月12日 ガヤ社 アンジェロ ガヤ氏、ジョヴァンニ ガヤ氏
イタリアワインの巨匠ガヤの新世代を担うジョヴァンニガヤさんに聞く!注目のボルゲリ「カマルカンダ」 |
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誰もが認めるイタリアワインの巨匠、ガヤ。バルバレスコの偉大さを世界中に知らしめ、さらにトスカーナのモンタチーノとボルゲリへも進出。現在はシチリア・エトナでの新規プロジェクトが進行中という意欲的な生産者です。現当主で今日のガヤの地位を築いたアンジェロガヤ氏とともに、今年25歳になる長男ジョヴァンニ ガヤ氏が半年前から本格的にワイナリーに参画し、長女ガヤ ガヤ女史とともに海外マーケットの重要な仕事を任されています。今回はジョヴァンニ ガヤ氏に1996年創業のボルゲリ「カマルカンダ」について、そしてセミナーでは偉大な父アンジェロガヤ氏と偉大なガヤ親子に話をお伺いしました。 | ||||||||||
ワイナリーにとって根本を成す「職人的仕事」 |
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5人の偉大な家族 初めまして。ジョヴァンニ ガヤです。今年で25歳になります。まずガヤ社について説明しましょう。1859年に設立し、現在5人の家族で運営しています。TOPは父アンジェロガヤで今年78歳になりますが、立ち止まる事無く前進を続ける人物です。姉のガヤ ガヤは海外の輸出を担当し世界各国を飛び回っています。実際ガヤの生産量の85%は海外で消費されています。もう一人の姉のロッサーナ ガヤは母のルチアとイタリア国内マーケットを担当しています。母のルチアはオフィスの責任者でもあります。ロッサーナは生産分野も担当していて、所有する3つのワイナリーに携わっています。私はガヤガヤの14歳下、ロッサーナの12歳下になります。 私が本格的にワイナリーに参加したのは約6か月前で、姉のガヤ ガヤの海外担当のサポートが現在の仕事になります。今は世界各国へのプロモーション活動の一部を受け持っています。私自身は醸造学を一切勉強していなくて、大学では経済学を勉強してきました。 父は私に「あれをしなさい、これをしなさい」と言う事はありませんでした。「今日こんなイベントがあるから一緒に行くか?」とワインイベントに連れて行ってくれる事が良くありました。その時に父の話をしっかりと聞いていましたね。大学を卒業してからは1年半位イタリア国外(イギリス、アメリカ)で仕事をしていました。実際にワイナリーに100%仕事に入るようになって、改めて父の下で勉強をしています。 ピエモンテ、トスカーナに3つのワイナリーを所有 ワイナリーにとって根本を成す「職人的仕事」 自分たちが納得したモノだけを販売。そうでなければボトリングしない 1年間通して、畑仕事をしている人、カンティーナで仕事をしている人をずっと雇い続けている 私達にとって、サンジョヴェーゼとネッビオーロは非常に重要な品種です。この2つ本種はキャラクターも違いますし、正しく栽培するのが難しい品種です。そういう意味でも、その品種について深い理解を持つ人材が必要になってきます。自分たちの中には3世代に渡って働いてくれる人もいます。お爺ちゃんがやっていて、今は息子や孫もブドウを向き合っている。品種の事を良く理解してくれている人間と仕事をしています。 「家族であるからこそ、価値を守る続ける事が出来る」 私達にとって「家族である」事が非常に重要で、家族であるからこそ、今まで価値のあると思うものを守る続ける事が出来ました。そして代々受け継いでいく事が出来ていると思います。私も姉たちも非常に幸せだと思っています。4世代前の思想だったり、価値や恩恵というものを私達はしっかりと受け継ぐことが出来、更に将来的につなげていく事が出来るからです。 「自分たちが造りたいものを造る。例えそれが市場の傾向とは違っていたとしても」 |
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国際品種にフォーカスした地「ボルゲリ」で1996年創業 |
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1996年ボルゲリで創業「カマルカンダ」 それではカマルカンダのお話をしましょう。 カマルカンダは1996年に始めたワイナリーです。その時には既にモンタルチーノの「ピエーヴェ サンタ レスティトゥータ」でブルネッロを造っていました。「ピエーヴェ サンタ レスティトゥータ」は既にワイナリーがあった場所を購入しましたが、カマルカンダに関しては新たに土地を購入する所から始まりました。自分たちで畑に植樹を行い、カンティーナも一から造り、3つの赤ワインを2000ヴィンテージで初リリースしました。私が1993年に産まれ、その少し後の1996年にカマルカンダは誕生しました。カマルカンダの成長と自分の成長が同じく進み向上している事に、私自身とカマルカンダと結びつきを感じています。 国際品種にフォーカスした地「ボルゲリ」 イタリアは20州ありますが。それぞれの場所で適した土着品種が栽培されています。ピエモンテのネッビオーロ、ヴェネトのアマローネのコルヴィーナやロンディネッラに、トスカーナのサンジョヴェーゼもあるし、カンパーニャのフィアーノもそれにあたります。それぞれの土地毎で沢山の品種があるので「イタリアワインは難しいね」という意見もありますが、ボルゲリは今お話したような場所とは少し異なります。カベルネソーヴィニョン、カベルネフランを中心に国際品種に特化した土地であるからです。 19回にも亘って土地に所有者に会いに行き、ようやく土地を購入 |
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気候変動に負けない「ブドウの生命力」を高める取り組み |
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「ガヤ」の新しい2つのトピックについてお話します。 まず、今まさに「気候変動」が起きていますね。2年前、11月に日本に来た時、寒かった事を覚えていますが、今日はとても暖かいですね。カマルカンダのブドウ畑が出来て約20年間経ちましたが、今どういった気候の状況にあるのか調査をしています。近年は夏の期間がますます長くなり、暑さが増しています。冬の期間はますます短くなり、暖かくなってきています。 「ワインのエレガントさや繊細さを保つにはどうしたら良いか」 同時に色々な生物、植物が育つような「生物多様性」の環境造り 植物学、生物学、気候学のエキスパートを招聘 特に寄生虫に対処する方法に注力しています。40~50年前は寄生虫がブドウ樹にカビを生やす病気に対して化学的なアプローチをしていたのですが、今は虫を寄せ付けないフェロモンカプセルを使い化学的なアプローチに頼らない方法を採っています。 また畑の近くに木を植えて、鳥を呼び込むようにしています。鳥がくるおかげで若干ブドウは食べられてしまうのですが、ブドウにとって害のある虫も食べてくれます。畑には花を植えています。ピエモンテ、トスカーナ、ナパといった世界各国のワイン畑を見ても、ブドウだけ、つまり1つの農作物だけを植えている状況が殆どです。一つの農作物だけだと段々と生命力は落ちていきます。それに加えて、10~15種類の花を植えました。それで色々な虫が寄ってくることが分かりました。 綺麗な土地に住むミツバチの巣箱を設置 今申し上げた取り組みの中で、ピエモンテでは1年間で1200ミリリットルの雨がまばらに強かったり、弱かったりと降るのですが、土地の持つ水の保水性が高まったおかげで影響も少なくなりました。もう1つは豆類と小麦類の2つの植物を植えました。土地の特徴により2つを使い分けています。肥沃な土壌であれば穀物を植えます。穀物類を植える事で生産が増えすぎないようにしています。土壌が痩せていれば豆類を植えます。豆類は空気中の窒素を取り入れ、土地にエネルギーとして還元してくれます。これらの植物は5月位までに育ちます。5月になったらトラクターで育った草を刈り倒していきます。刈り倒した事で夏の温度が上がっても表土に湿度を与える事が出来ます。夏の暑さから保護する役割も果たしています。 Q.8人のコンサルタントは何年前から行っていますか? ビオロジックとかオーガニックとかカテゴライズされたものではない「メト ド ガヤ」 高い品質」と「環境のリスペクト」「150年間脈々と受け継がれるワイン造り」 これらの仕事は全て畑で行われます。一般的な生産者の4倍以上の労力と時間をかけて畑仕事をやっています。こだわりを持って仕事をしていますが、結果こういったワインとなるという確実な保証は出来ませんが、自分たちが目指しているワイン造りの方向性は「長期熟成出来るワイン」です。それはより強いブドウ由来のものであり、土地のキャラクターをずっと保ちつつ、環境の変化に適応するブドウでなくてはなりません。それが「長期熟成出来るワイン」となる手助けになると思います。 人間に例えると、熱が出たり病気になると薬を飲みますよね。そしてまた病気になって薬を飲む。何度も繰り返すと最終的には体が薬に侵されてしまう。しかしそもそも薬が必要無い肉体があれば、外敵が入ってきたとしても対応出来、結果的に強い体になっていきます。つまり何か攻撃されたとしても自分の力で対応できる。そういうブドウこそが必要なのです。 Q.ガヤのワインに感じられる「エレガントさ」と「生命力に溢れる強いブドウ」の関係性はどのようなものですか? エレガントなワインを造るには収穫のタイミングを図る事が重要です。例えばネッビオーロ一つとって見ても今は10月になったら収穫をします。昔は11月になるまで収穫はしませんでした。気候変動により以前にも増してブドウが凝縮していくのが早くなっています。遅すぎるとアルコール度数が高くなりますから。収穫のタイミングを見極める事が重要です。凝縮感のあるブドウはアルコール度数も高くなり、円やかで分かりやすいワインとなりますが、エレガントなワインというものは良質な酸を伴います。個性が豊かで複雑な、一種の「解りにくさ」のようなものが感じられます。ここ20年の気候変動でエレガントなワイン造りを目指していますが、実際にこれまでのワインと比べて長期熟成できるかどうかはまだ分かっていません。その違いや結果が解るにはまだ先になるかと思います。 |
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~カマルカンダ テイスティング~ |
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ここからは試飲しながら2番目の新しいトピック「カマルカンダ」のワインについて詳しくお話しましょう。カマルカンダでは1つの白ワインと3つの赤ワインを造っています。白「ヴィスタマーレ」は2009年に誕生したワインです。このワインを造ったのはトスカーナで白ワインのポテンシャルを証明したかったからです。まずトスカーナと聞いて、白を思い浮かべる人はそう多くはないですよね。トスカーナと言えば「赤」であって、モンタルチーノ、キャンティに使用されるサンジョヴェーゼが一般的にイメージされるものだと思います。カマルカンダは設立当初は70ヘクタールで現在126ヘクタールになります。一部はビッボーナ地区で「プロミス」と「ヴィスタマーレ」用の畑となります。ヴィスタマーレは畑から海が広がる景色が見える事から名付けられています。 2017年からヴェルメンティーノ、ヴィオニエ、フィアーノのブレンドへ ボルゲリは元々暖かい土地であったので、気候変動を受けてさらに暖かくなりました。ヴェルメンティーノにとって、酸を保つために栽培において手助けが必要となりました。2017年からフィアーノを新たにブレンドする事にしました。フィアーノはカンパーニャ州の土着品種で暑さに好むと同時に酸を保つことが出来る品種です。つまり、フィアーノはヴェルメンティーノとヴィオニエが持つ2つの個性を有しています。2017年のヴィスタマーレは40%ヴェルメンティーノ、40%ヴィオニエ、20%フィアーノという新たなブレンドになりました。ボルゲリでヴィオニエ、フィアーノを栽培している生産者はいたかも知れませんが、この3品種のブレンドで造ったのは私達が初めてです。 2015年から、メルローは「プロミス」のみに使用 気温が高くなる事でメルローのもつ本来の個性が失われつつあります。メルローあまり暑さを好む品種ではなく、暑すぎるとジャムのような果実味になり、ボディも大柄になっていく傾向があります。 Q.ボルゲリ全般で近年カベルネフランを使ったワインが増えているような印象をうけますが? カベルネフラン主体「マガーリ」 カベルネソーヴィニヨン主体「カマルカンダ」 「プロミス」の品質が向上 3つの赤ワインの特徴が鮮明に際立つ仕上がりに ボルゲリの風景を切り抜いたラベルデザイン |
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「アンジェロガヤ氏祖母の4つの言葉」と「ラベルに込められたガヤの誇り」 |
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翌11月13日はアンジェロ ガヤ氏のセミナーに参加させて頂きました。アンジェロガヤ氏のお話は地球全体の気候変動から始まり、未来の地球を守る為に一人一人が意識をしなければならないというものでした。常に新しい事へチャレンジするガヤさんらしいお話でした。 アンジェロ ガヤのお話の中でも特に印象的だったのが、「ガヤ氏の祖母の4つの言葉」と「ラベルに込められたガヤの誇り」のお話でした。 祖母が常々言っていたのは立派な職人になる為には4つの段階があるという事です。 1.FARE:(何かを)行う事です。 2.SAPER FARE:技能を会得する事です。 3.SAPER FAR FARE:伝える事です。 4.FAR SAPERE:知らせる事です。 ガヤの歴史において最も偉大な職人「ジョヴァンニ ガヤ」 左側に見えるボトル(1937ヴィンテージ)ですが、父の名前が入った(父の代の)最初のボトルです。父がガヤと言う名前をラベルの高い位置に大きく表示しました。当時ラベルにこれだけワイナリーの名前を大きく出している所はありませんでした。 父はワインを買うにあたり「何という名前の職人がこのワインを造っているか」知る必要性があると信じていたからです。バローロだから買うとかバルバレスコだから買うという事ではなく、「誰が造っているのか?」生産者を知る事が大切だと考えた訳です。父のコンセプトを継承しつつ、ガヤのブランド名がハッキリと分かる、現在のガヤのラベルに至っています。 「まだ引退はしたくありません。新しい事にもチャレンジしたいと思っています」 |
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■インタビューを終えて | ||||||||||
ジョヴァンニ ガヤ氏はインタビュー中もずっと、ガヤのこだわりについて、話し続けて下さいました。インタビュー翌日のセミナーでジョヴァンニ氏の偉大な父、アンジェロガヤ氏も1時間近くノンストップで、気候変動、植物生態系を配慮した栽培の取り組みと、お話された内容が親子で殆ど一緒である事に驚きました。ガヤ社の「確固たるポリシー」と揺らぐ事の無い「ファミリーの強い絆」を感じた瞬間でした。
「私は今78歳ですが、まだ引退はしたくありません。もちろん子供達への(仕事の)スペースを大きくさせてあげなければなりませんので、ある部分では後ろに引く事が必要だと解っていますが、新しい事にもチャレンジしたいと思っています」というアンジェロ ガヤ氏の力強いメッセージにワイン造りにかける情熱に尊敬の念を持たずにはいられませんでした。 |
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イタリアワインの巨匠ガヤの新世代を担うジョヴァンニガヤさんに聞く!注目のボルゲリ「カマルカンダ」
2018/12/06