2025/11/13
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ミリアム リー マシャレッリ氏 Ms. Miriam Lee Masciarelli、キアラ ルドヴィカ マシャレッリ氏 Ms. Chiara Ludovica Masciarelli
偉大な創業者の精神を受け継ぎアブルッツォの新時代へ!州全域300haの多様なテロワールを追求し続ける「マシャレッリ」

創業者ジャンニの革新性を継ぐ2代目
ミリアム&キアラ氏が切り拓く、マシャレッリの新時代
ミリアム(以下:M) 私が本格的に参画したのは18年前です。それ以前からカンティーナで暮らし、父が自宅でワインを造っていた頃から、ワイナリーが大きくなっていく過程をずっと見てきました。この18年の間には、ニューヨークのワイン会社で働いていた経験もあります。
私たちは家族経営で大規模ワイナリーではないので、母からは「すべてを理解していなければならない」と教わっています。畑仕事、マーケティング、ロジスティクスなど、あらゆる業務を把握する必要があります。そのため、ワイナリーの仕事全般に携わっています。
キアラ(以下:C) 私が働き始めたのは1年前からなんです。
――じゃあ、ミリアムさんは大先輩ですね。
C そうですね(笑)。
左からマリナ氏、キアラ氏、ミリアム氏
土壌、植物、虫など
生態系の理解をさらに深める新たな取り組み
――最近、何か取り組んでいることはありますか?
M 最近取り組み始めたのは、各産地の植物の特性をより深く調べるプロジェクトです。私たちはアブルッツォ州の4つの県それぞれに畑を所有していますが、その土地ごとに「どのような植物が最適なのか」を研究しています。そこから、どんな虫が病気をもたらすのかといった、生態系の理解を深めています。
父の時代も化学薬品を使っていたわけではありませんが、自然へのアプローチをより充実させる狙いです。私たちの畑の多くは国立公園内にあるため、生物多様性を守ることは使命でもありますし、その取り組み自体が地球温暖化への対策にもつながっていると考えています。

導入例はイタリアにわずか2社
最先端の自動ロボットを導入
M 技術の導入も積極的に行なっています。実際、投資の約90%は畑に関するもので、クボタのトラクターをはじめ、最先端の自動ロボットを導入しています。このロボットは、バローロの造り手「ジャコモ コンテルノ」の当主ロベルト・コンテルノが開発したものです。iPadで操作でき、畑に入って自動で剪定などを行ってくれるんです。
イタリア国内で導入しているのは、彼らと私たちマシャレッリの2社だけです。イタリアに限らず、多くの国で地方の労働人口が減少しているなか、こうした技術に頼る必要性を感じています。
「一切酸化しない」「非常にニュートラル」
ガラス容器「ワイングローブ」による醸造
M 今、私が個人的に取り組んでいるのが、「ワイングローブ」と呼ばれるガラス容器を使った醸造です。容量300リットルの球状の吹きガラスで、最大の特徴は一切酸化しないこと。そして非常にニュートラルな特性を持っている点です。
そのため、使用できるブドウは畑とカンティーナで厳選を重ねた、状態の良いものに限られます。最初に試したワインは、清澄をせずに1年半熟成させましたが、驚くほど美味しい仕上がりでした。現在は黒ブドウを使った醸造もしており、球状のものに加えて、より大きな立方体タイプのガラス容器も導入しています。
ガラス容器「ワイングローブ」
VT違いのペコリーノ(左)、モンテプルチアーノ(右)
創業者ジャンニ氏の精神を受け継ぐ、ミリアム氏の探究心
――ミリアムさんはチャレンジャーですね。
M そうしないと楽しくないですからね(笑)。父も好奇心の塊で、一つのやり方に固執せず、常にオープンな考えを持っている人でした。いつも「どうすればもっと良くなるか」を考え続けていました。
ヴィッラ ジェンマ1995年が『ガンベロロッソ』で最高賞を受賞した時でさえ、翌日には「次は造り方を変えるから、95年は全部売ってしまえ」と。どんな状況でも品質向上を追い求め、その姿勢のまま最高賞を取り続けてきました。
イタリアで屈指の多様性を誇るアブルッツォ
40年前からラクイラの将来性を見抜いていた先見性
M 父が最初に約2ヘクタールの畑から始め、現在は合計300ヘクタールにまで拡大しました。加えて、森やオリーブ畑、サクランボの木などが植えられている土地が50ヘクタールあります。
――4つの県に300ヘクタールもの畑が点在するとなると、管理が大変ですよね。
M 本当に大変です(笑)。エリアごとに生物多様性もテロワールも樹齢も異なるため、管理方法がすべて変わります。例えば、キエーティは冬の冷害が問題になりますが、他のエリアではまた別の課題があります。そのため、畑では約70名の専属スタッフが活躍しています。

他エリアの生産者を惹きつける、
アブルッツォの際立つ多様性とポテンシャル
M アブルッツォはイタリアの中でも際立って多様性に富んだ場所です。車で20分走れば海に着き、20分走れば山に入る。景色も気候も一気に変わっていきます。そうした特性から、トレッビアーノは長期熟成のポテンシャルを持ち、モンテプルチアーノは重厚でありながら甘やかなタンニンを持ちます。
ブドウの品質の高さに加え、エリアごとにまったく異なる個性が生まれるため、今ではイタリア北部の生産者も土地を求めてやってくるほどです。アブルッツォの時代が到来したと言えるかもしれません。
「他とは全く個性の異なる特別な場所」
標高700メートルを誇るラクイラに、新たにシャルドネを植樹
M その中でもラクイラは標高700メートル(畑は500メートル)に位置し、広さは15ヘクタールあります。ここもまたグランサッソ国立公園内にあり、昼夜の寒暖差が激しく、平均気温も非常に低い、他とは全く個性の異なる特別な場所です。
11月の時点で気温は5~10度ほどで、氷点下に達することもあります。一方で夏は、アブルッツォで最も気温が高くなる地域です。まるで「アブルッツォのグリル」ですね(笑)。こうした環境ではモンテプルチアーノは成熟しないため、メルローやカベルネ ソーヴィニヨンを栽培しており、さらに新しくシャルドネの植樹をしたところです。
ラクイラにあるメルローの畑
中心には1200年代の教会があり、マシャレッリによって保全されている
誰も注目しなかった頃から確信していた、ラクイラの可能性
――近年、標高の高い畑は評価されていますが、そのラクイラの畑はいつ取得されたのですか?
M 父の時代に取得したものです。当時は誰も欲しがらないような畑でした。また、本来なら太陽が当たる南向きの斜面が好まれるところ、父が選んだのは北東や北西向きの畑でした。理由は、よりフレッシュな味わいを求めていたからです。
父は翌日や1年後だけでなく、40年先のことまでを見据える人でした。その証拠に今では、ラクイラの畑は多くの生産者が欲しがり、買い手も売り手も多い状況です。
未来を言い当てていた、25年前のインタビュー記事
M とても興味深いのは、父の生前のインタビュー記事です。読んでいると、まるで「今」の状況について語っているかのように感じるのですが、実際は25年前に掲載されたものなんです。それほど将来を見据えていた人でした。
現在注目されているペコリーノについても同じです。祖父の世代は、生産量が少ないという理由で見捨てられていたペコリーノを、父はあえて造り続けました。今では多くの生産者が手がけ、広く飲まれ、マシャレッリの中でも最も飲まれるワインのひとつになっています。ちなみに、「ワイングローブ」(ガラス容器)で最初に醸造したのもペコリーノなんですよ。
――ワイングローブのワインや、ラクイラに植えたシャルドネは、「マリナ ツヴェティッチ」のような新たなラインになるのでしょうか?
M それはまだわからないですね。「マリナ ツヴェティッチ」は父が母に捧げたラインですし、「ジャンニ マシャレッリ」は母が父に捧げたラインですから。誰かに名付けてもらう必要がありますね。
C じゃあ、私が名付けてあげる!(笑)

毎日飲めるフレッシュ&フルーティなトレッビアーノ |
リネア クラッシカ トレッビアーノ ダブルッツォ 2024 |
| ミリアム: 「イタリアには多くのトレッビアーノがありますが、トスカーナやエミリア ロマーニャのものとは全く異なります。リネア クラッシカは、父が最初に造ったワインです。さまざまな畑のブドウをブレンドし、毎日飲めるスタイルに仕上がっています。2024年は素晴らしい出来のヴィンテージとなりました。」 |
| 試飲コメント:黄金色に近い麦わら色。繊細で心地よい果実の香りがあり、フレッシュな印象です。柔らかい口当たりで白い果実のフルーティな味わいが広がります。 |
爽やかでフレッシュな飲み心地のモンテプルチアーノ ロゼ |
リネア クラシカ ロザート 2024 |
| ミリアム: 「モンテプルチアーノで造るリネア クラッシカのロゼです。リネア クラッシカは、父が最初に造ったワインです。さまざまな畑のブドウをブレンドし、毎日飲めるスタイルに仕上がっています。ステンレスタンクのみで造り、フレッシュな飲み心地です。」 |
| 試飲コメント:輝く濃いサーモンピンク。グラスからフレッシュで繊細な赤い果実の香りが広がります。口当たりがよく、ベリー系果実の爽やかな味わいが感じられます。 |
ステンレスタンク醸造で飲み心地抜群のモンテプルチアーノ |
リネア クラシカ モンテプルチアーノ ダブルッツォ 2022 |
| ミリアム: 「リネア クラシカのモンテプルチアーノ ダブルッツォです。リネア クラッシカは、父が最初に造ったワインです。ステンレスタンクのみで造り、若々しくデイリーワインに仕上げています。」 |
| 試飲コメント:ルビー色。明るく熟したベリー系果実の香り。味わいも香り同様でベリー系果実が広がり、ほどよいタンニンと骨格で飲み心地が抜群です。 |
最上級リゼルヴァと同じ単一畑
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ヴィラ ジェンマ チェラスオーロ ダブルッツォ スペリオーレ 2024 |
| ミリアム: 「ヴィラ ジェンマ チェラスオーロ ダブルッツォは、最低12時間のマセラシオンを行って、複雑味とフレッシュさを併せ持つワインです。アジアンスタイルのように多様な食材が一皿にまとまった料理のおともに最適です。フラッグシップのヴィッラ ジェンマを名乗っているのは、赤(リゼルヴァ)のヴィッラジェンマと同じ単一畑で造っているためです。この畑は、最も成熟したブドウは赤に使い、それ以外をチェラスオーロに回しています。私たちはこのワインを自宅で飲むときはきんきんに冷やして楽しんでいます。」 |
| 試飲コメント:淡い透き通ったルビー色。チェリーや赤系果実の魅惑的でエレガントな香り。柔らかな口当たりからフレッシュな酸が広がり、わずかにシナモンのようなニュアンスもあり、軽やかさと複雑さを併せ持つフルーティな味わいです。 |
柔らかくエレガントなバリック熟成シャルドネ |
シャルドネ マリナ ツヴェティッチ 2023 |
| ミリアム: 「キエーティ県マイエッラ(マジェッラ)国立公園内で造る、極少量生産のシャルドネです。父が植えたもので、アブルッツォで最初の国際品種とも言われています。ブルゴーニュのクローンをのシャルドネで、新樽と2年目バリック(中程度のトースト)を半分ずつ使用しています。」 |
| 試飲コメント:麦わら色。バナナなど南国果実のエレガントな香り。エレガントさとフレッシュさが感じられます。口当たりは柔らかく、南国果実と樽の風味が広がります。香りに感じたエレガントでフレッシュな風味の余韻が長く続きます。 |
凝縮かつ複雑な果実味、華やかさが広がるメルロー |
メルロー マリナ ツヴェティッチ 2017 |
| ミリアム: 「国立公園内の畑で造られる極少量生産のメルローです。その証に、ボトルにはParco Nazionaleとテープが貼られています。霜害を受けやすいため毎年造れるわけではありません。できても1haあたり30キンタルほど。祖父の時代は250キンタル、父が品質向上のため60~70に下げ、さらに減らして品質を追求しています。」 |
| 試飲コメント:やや深みのあるルビー色。凝縮した赤系果実や黒い果実の複雑で華やかな香りがあり、果実の甘やかさも感じられます。柔らかな口当たりでエレガントかつふくよかな果実味が広がり、心地よいタンニンとともに複雑味が長く持続します。 |
濃密さとフレッシュな酸が融合する柔らかな上級モンテプルチアーノ |
マリナ ツヴェティッチ モンテプルチアーノ ダブルッツォ リゼルヴァ 2021 |
| ミリアム: 「キエーティ内の4つの畑のモンテプルチアーノを使用して造るモンテプルチアーノ ダブルッツォ リゼルヴァです。すべて別々に醸造してから、どうブレンドするかを決めます。柔らかくエレガントで、タンニンはなめらかで甘みが感じられます。」 |
| 試飲コメント:深みのあるルビー色。プルーンや熟した黒い果実の濃密な香りがあり、フレッシュ感も感じられます。口に含むとフレッシュな酸と果実味が広がり、酸とタンニンが調和して持続します。 |
マシャレッリの最重要キュヴェ
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ヴィッラ ジェンマ モンテプルチアーノ ダブルッツォ リゼルヴァ 2019 |
| ミリアム: 「ヴィッラ ジェンマのリゼルヴァは、私たちにとって非常に重要なワインです。キエーティにある5haの単一畑のモンテプルチアーノを使用しています。畑で徹底したセレクションを行い、10月末~11月に収穫します。収穫年から5年後にリリースします。2年バリック、3年ボトル熟成。」 |
| 試飲コメント:紫に近い非常に濃いルビー色。黒い果実や潰した花、ベリー系果実が広がるエレガントな香り。味わいもエレガントで凝縮感があり、タンニンは存在感がありますが心地よく、凝縮した豊かな果実味の余韻が続きます。 |
インタビューを終えて
標高の高い北向きの畑を選び続けていたことをはじめ、「25年前のインタビュー記事が、まるで今現在を語っている内容だった」というエピソードは非常に印象的でした。ミリアムさんの「先見性のある天才でした」という言葉は、まさにその通りだと実感しました。
また、ジャンニ氏が取り組んでいた「街や畑周辺の建物の保全、規定づくり」を受け継いで、地域全体に目を向けた活動をしているという話もありました。ワイン造りの枠を超えて、エリアそのものを牽引する造り手であることを改めて感じました。
試飲したワインの完成度の高さには、いつも驚かされます。なかでも印象に残ったのが「ヴィラ ジェンマ チェラスオーロ ダブルッツォ」です。軽やかさと複雑さが共存し、フルーティでありながら奥行きがあります。どんな料理にも寄り添う懐の深さを感じ、冷やしても、やや赤ワイン寄りの温度でも楽しめる1本だと思いました。
ライン全体を通じてキャラクターが明確で、シーンごとに選び分けられる多彩さもあります。アブルッツォの可能性を切り拓き、先頭を走り続ける存在感の大きさも強く感じました。












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