2025/11/04
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アレッサンドラ・アヴァンザーティ氏 Ms. Alessandra Avanzati
『ジェームズサックリング』イタリア第3位に輝いたクリュ ブルネッロ「ピアンロッソ」!モンタルチーノ南部を代表するエレガントブルネッロの最高峰「チャッチ ピッコロミニ ダラゴナ」

伝統とエレガンスを受け継ぐ、南ブルネッロの代表格
――改めて、ワイナリーの歴史や畑について教えてください。
ワイナリー名の「チャッチ ピッコロミニ ダラゴナ」は、かつてこの土地を所有していたローマ教皇の親族、チャッチ ピッコロミニ家に由来します。その最後の当主であったエルダ女史には跡継ぎがいなかったため、当時ブドウ畑を管理していた責任者、ジュゼッペ・ビアンキーニ氏がワイナリーを引き継ぎ、農業法人として新たに再出発しました。現在はその息子たちが中心となり、家族でワイナリーを運営しています。
ジュゼッペ・ビアンキーニ氏
1985年植樹の単一畑「ピアンロッソ」
アミアータ山の影響を受ける、南東部独自のテロワール
ジュゼッペは1985年、この地にブルネッロ用のブドウを初めて植樹しました。これが単一畑「ピアンロッソ」です。その後、少しずつ畑を拡大し、現在は総面積220ヘクタールを所有。そのうち60ヘクタールがブドウ畑、40ヘクタールがオリーブ畑で、残りは穀物畑や狩猟区、そして森として保全されています。
拠点を置くのは、ブルネッロ ディ モンタルチーノDOCGの南東部。すぐ南には境界となるオルチャ川が流れます。海まで約50キロ、死火山アミアータ山まで14キロの距離です。こうした自然条件が、チャッチ ピッコロミニ ダラゴナ独自のテロワールを形づくっています。
栽培するのは、この土地の伝統に則り、黒ブドウのみ。主にサンジョヴェーゼを中心とし、温暖な区画では国際品種も取り入れています。全体の年間生産量はおよそ30万本です。
畑の先にはアミアータ山
伝統的ブルネッロのエレガンスを守り続ける信念
ワイナリーの信念は、伝統を受け継ぎ、それを次の世代へとつないでいくこと。そして、量ではなく品質にこだわることです。近年の温暖化の影響で、ブルネッロ ディ モンタルチーノ全体としては、やや筋肉質で力強いスタイルへと変化している傾向があります。
しかし私たちは、そうした方向性ではなく、あくまで伝統的なブルネッロを追求しています。それは、エレガントで洗練された、フィネスを感じさせるワインです。それこそが、モンタルチーノ本来の姿だと考えています。
『ジェームズサックリング 2025』イタリア第3位、
世界第15位に輝いた単一畑「ピアンロッソ」
ワイナリーを象徴する最高区画
「ピアンロッソ」は所有畑の中で最も樹齢が高く、また日照条件や土壌の性質にも恵まれた理想的な区画です。アミアータ山の噴火によって生じた火山灰や溶岩の痕跡が今も残っており、土壌にはミネラル分が非常に豊富です。とりわけ鉄分を多く含む火山性の特徴を持っています。
こうした特異なテロワールを反映するこの畑こそが、私たちのワイナリーを象徴する特別な存在であり、「ピアンロッソ」はその精神を体現する最も重要なワインなのです。そんなピアンロッソの2020年ヴィンテージは『ジェームズサックリング 2025』でイタリア第3位、世界第15位に選ばれました。
ピンが立つ細長い一帯すべてピアンロッソ
優良年のみ厳選して造る、ピアンロッソの頂点「リゼルヴァ」
本当に優れた年にのみ、ピアンロッソの中からさらに厳選した樽を選び、リゼルヴァとして生産します。今回試飲するリゼルヴァは2019年ヴィンテージで、その前回のリリースは2016年でした。生産本数も非常に限られているため、試飲会などで出す機会はほとんどありません。
――ピアンロッソとリゼルヴァは、どの段階で分けるのですか?
まず収穫の時点で、その年のブドウがリゼルヴァにふさわしいポテンシャルを持つと判断した場合、醸造過程からリゼルヴァを意識して仕込みます。そして発酵後、熟成が進んだ段階で、品質を厳密に見極め、最終的にリゼルヴァとしてふさわしい樽を選抜して造ります。
品質を最優先に、低収量を徹底
――2019年のリゼルヴァは、ピアンロッソ全体のうちどのくらいの割合になりますか?
ピアンロッソの生産本数はおよそ3万5000本で、そのうちリゼルヴァは最大でも1万本ほどです。ただし、リゼルヴァを造らない年は、単純にその分がピアンロッソに回るわけではありません。なぜなら、リゼルヴァを造らない年とは、私たちが「優良年ではない」と判断した年だからです。理想とするクオリティを維持するためには、収量そのものを抑える必要があるのです。
クリュ ブルネッロ「ピアンロッソ」
手間と時間を惜しまぬ畑仕事が生む、理想のブルネッロ
「多様な生態系と共存する畑づくり」
近年は気候の不安定化が顕著で、夏に40日間雨が降らなかったり、逆に集中的な豪雨が続いたり、激しい雹害に見舞われたりと、想定できない極端な気象が頻発しています。
こうした環境下で健全なブドウを育てるためには、人の手による丁寧な畑の管理が欠かせません。私たちはオーガニックな手法を用い、多様な生態系と共存する畑づくりを実践しています。畑に常に注意を払い、ブドウの健康を保つことでこそ、理想的なキャラクターを備えたブルネッロを生み出すことができると考えています。

「心情的にも非常にポジティブ」
コロナ禍が導いた、最良の畑仕事のかたち
ワイナリーとして、これまでになく全員で畑仕事に全力を注げた時期がありました。それが、コロナ禍です。観光客の訪問が途絶え、通常業務も減ったことで、スタッフ全員が毎日ハサミを手に畑へ出ることができました。
過剰と思えるほどの労力を畑に注ぎ込むことができた、稀有な経験でした。そのうえ、その年の気候は温暖で、60ヘクタールのブドウをわずか1ヶ月で収穫できました。
モンタルチーノの街は人影も車も少なく、空気が澄み渡っていました。そんな環境で進める畑仕事は、心情的にも非常にポジティブで、スタッフ全員が「一緒に働ける喜び」を実感しながら収穫に臨むことができたのです。
世界的には決して良い状況とは言えない時期でしたが、だからこそ畑と真摯に向き合う時間が生まれました。結果として、ワインにとっても大きな恵みとなったと思います。
軽快なフルーティさ溢れるサンジョヴェーゼ主体ロッソ |
ロッソ トスカーナ 2024 |
| アレッサンドラ氏: 「ロッソ トスカーナは、他のワインとは異なる唯一、品種をブレンドして造るワインです。サンジョヴェーゼ85%、残り15%はカベルネ ソーヴィニヨン、メルロー、シラーです。木樽を使わない点も特徴です。発酵はステンレスタンク、熟成はセメントタンクとガラスコーティング容器を使用しています。今飲んで美味しく、フルーティでサンジョヴェーゼのフレッシュさを感じられる、ボジョレーのような軽快さがあります。エントリーワインとして親しみやすく、最初に手に取ってもらうのに最適な個性を持っています。」 |
| 試飲コメント:ルビー色。スミレや赤い果実の香りが広がり、ジューシーな果実味と生き生きとした酸が感じられます。軽やかで心地よい飲み心地です。 |
生き生きとした酸とクリスピーな果実感を表現 |
ロッソ ディ モンタルチーノ 2023 |
| アレッサンドラ氏: 「ブルネッロよりも若い畑で造るロッソ ディ モンタルチーノです。サンジョヴェーゼの若々しさとフレッシュさを味わっていただく位置付けのワインです。スラヴォニアンオークの大樽で6ヶ月、瓶内で4ヶ月熟成しています。輝く外観に、フレッシュな香りと生き生きとした酸、クリスピーな赤系果実の風味が特徴です。樽の影響を抑え、果実味をストレートに表現するためステンレス発酵を採用しています。生産量は約6万本。ブルネッロの弟分と見られがちですが、独自のアイデンティティを持つワインです。」 |
| 試飲コメント:ややガーネットを帯びたルビー色。チェリー系の果実に凝縮感があり、ほのかな甘みを帯びた香りです。フレッシュでフルーティ、軽やかさの中にも芯のある味わいで、バランスの取れた飲み心地です。 |
力強くエレガント、複雑性あふれる洗練された味わい |
ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2020 |
| アレッサンドラ氏: 「複数の畑のブドウで造るスタンダードのブルネッロです。使用する畑の土壌はガレストロで、粘土を多く含むためやわらかな味わいになります。クリュのピアンロッソとは異なる個性の土壌ですね。2年間スラヴォニアンオークの樽で熟成し、6ヶ月の瓶内熟成を経ます。生産量は約7万本で、私たちが最も多く造るワインです。」 |
| 試飲コメント:ガーネット色。赤い果実やスミレの華やかさを伴う、力強く複雑でエレガントな香りです。香りの要素がそのまま味わいに広がり、洗練された甘やかさと複雑味が調和して長く続きます。 |
『ジェームズサックリング』イタリア第3位、世界第15位
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ブルネッロ ディ モンタルチーノ ピアンロッソ 2020 |
| アレッサンドラ氏: 「私たちが、1985年に最初に植樹してピアンロッソの畑で造るクリュ ブルネッロです。ピアンロッソとはファンタジーネームではなく、実際の地名に由来し、その土地の個性をそのまま表したものです。近くに死火山アミアータ山があり、火山灰や溶岩を含むミネラル豊富な土壌が特徴で、特に鉄分が多く典型的な火山灰質の性質を持ちます。最も古い樹齢の畑で、日照や土壌条件にも恵まれ、ワイナリーを象徴する重要なワインです。2020年ヴィンテージは『ジェームズサックリング』でイタリア第3位、世界第15位に選ばれました。生産量は約3万5000本です。」 |
| 試飲コメント:淡いガーネット。繊細な香りで完熟した赤系果実のニュアンス。香りの印象と重なる味わいで、ミネラル感と複雑さが加わり、柔らかく奥行きのあるエレガントな余韻が続きます。 |
偉大な区画ピアンロッソからさらに厳選
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ブルネッロ ディ モンタルチーノ ピアンロッソ リゼルヴァ 2019 |
| アレッサンドラ氏: 「特に優れた年のみ、ピアンロッソの中からさらに厳選して造るのがリゼルヴァです。今回のヴィンテージは2019年で、前回は2016年でした。生産は最大1万本と少なく、試飲会に出ることはほとんどありません。規定上の通常より1年長く熟成を行ってリゼルヴァを名乗れますが、私たちは最低でも2年以上多く熟成させてからリリースしています。」 |
| 試飲コメント:ガーネット色。赤系果実やコンポートのような香りが広がり、力強さとエレガンスを併せ持ちます。味わいにもその要素が重なり、こなれたタンニンと熟した果実が長く調和します。余韻は非常に長く、上品なエレガンスが続きます。 |
インタビューを終えて
ロッソ トスカーナ、ロッソ ディ モンタルチーノ、スタンダード ブルネッロ、ピアンロッソ リゼルヴァと、他のキュヴェそれぞれにも明確なアイデンティティがあり、非常に興味深いテイスティングとなりました。モンタルチーノ南部を代表する造り手「チャッチ ピッコロミニ ダラゴナ」を、ぜひご堪能ください。









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