モンタルチーノで最大級の規模を誇る歴史的名門「コルドルチャ」

2025/07/04

2025/05/30

サンティアゴ マローネ チンザノ氏 Mr. Santiago Marone Cinzano、パオラ テアルディ氏 Ms. Paola Tealdi

その年最高の単一畑で造る新クリュ ブルネッロが誕生!近年脚光を浴びるDOCロッソ ディ モンタルチーノの原点を築いた歴史的名門「コルドルチャ」

「コルドルチャ」はブルネッロ協会設立メンバーのひとりで、黎明期からワイン造りを行う歴史的名門。拠点を置くのはモンタルチーノ南西部。500ヘクタールを超える広大な農園のうち、140ヘクタールがブドウ畑で、モンタルチーノで3番目の規模を誇ります。コルドルチャを手がけるのはチンザノ家。今回お話を聞いたのは、チンザノ家11代、コルドルチャ3代目となるサンティアゴ・マローネ・チンザノ氏です。彼は、チンザノ家のモンタルチーノ進出50年の節目として、「その年最高の単一畑で造る」というコンセプトの新たなクリュ ブルネッロ「ロット ウーノ」(2025年10月頃入荷予定)を造り出しました。その初ヴィンテージ2019年も試飲しながら、ワインジャーナリスト宮嶋勲さんの通訳・解説のもと、サンティアゴ氏にその背景と想いを伺いました。

1970年代、ポテンシャルをいち早く見出して進出
モンタルチーノで3番目の規模を誇る、140ヘクタールの自社畑

チンザノ家11代目、コルドルチャ3代目
サンティアゴ・マローネ・チンザノ氏

——まずは、サンティアゴさんご自身について教えてください。

サンティアゴ(以下:S) 私はチンザノ家で11代目、コルドルチャでは3代目にあたります。2歳から12歳まで、チリのマウレ・ヴァレーで過ごしましたが、頻繁にイタリアへ戻っていたため、イタリア人としての感覚や文化の中で育ちました。

大学では醸造学を学びたいと考えていましたが、父から「我が家は500年にわたってワインを造ってきたのだから、あえて学ぶ必要はない。それよりもビジネスを学びなさい」と言われ、大学卒業後は短期間ながら別の道に進みました。その後、2017年にワイナリーへ参画しました。

宮嶋 彼、ワイナリーに参画する前は銀行で働いていたんです。それに、彼がチリで育ったのは、お父さんがチリにもワイナリーを所有していたからなんです。

S そうなんです。自然な造りやビオディナミを初めて目にしたのも、チリが最初でした。幼い頃からブドウ畑で育ち、イタリアへ戻ってからもワイン造りへの関心はずっと持ち続けていました。ワインの造り方は本を読んでるだけでは習得できないので、実際に現場で自ら学んできました。

私には兄と妹がいますが、ワイン造りを担当しているのは私ひとりです。コルドルチャは広大な農園で、ハチミツやオリーブオイルの生産も行っており、兄はそちらを担当しています。最近では、地ビールも造っているんですよ。

120年の時を経て、ワイン造りへの原点回帰
ピエモンテからモンタルチーノへ進出したチンザノ家

——サンティアゴさんのお祖父さんが、モンタルチーノへやってきたんですよね。

S そうです。チンザノ家はかつて、軍隊に酒を供給していました。1850年からは自身で栽培するのをやめて、100人以上の栽培農家と協働で生産していました。そして、祖父は1973年にモンタルチーノへやってきて、約120年の時を経て自社栽培家に戻りました。

宮嶋 彼らチンザノ家はピエモンテの伯爵家です。彼のお父さんは、子どもの頃から厳格な教育を受けて育ったと聞いています。頭に本を乗せてピシッと姿勢を正して食事をしていたそうです。

S グリッシーニも脇に挟んでいたみたいです。そのグリッシーニが落ちたらパンッと叩かれるんです。ちなみに、私はその教育は受けてないですよ(笑)。

——お祖父さんもお父さんも帝王学のもとで育ったんですね。ただ、ピエモンテからトスカーナへの移住はカルチャーショックもあったと想像します。

S そうですね。当時からブルネッロ協会はあったとはいえ、まだバルク売りが多かった時代です。しかし、いくつかの高品質ワインの存在を知って、祖父はモンタルチーノの潜在力やテロワールを見出していました。

宮嶋 とあるブルネッロ生産者の伝記には「当時のモンタルチーノには何もなかった」と書いてあるほどです。水道も通っていなかったんじゃないですかね。チンザノ家はモンタルチーノに進出してから、前所有者から完全に土地の取得を終えたのは、1998年頃でした。

「地中海的な個性が好き」
モンタルチーノ南西部に広大な農園をまとめて所有

——コルドルチャは非常に大きな農園を持たれていますが、その当時から広く所有されていたのですか?

S 最初から農園自体は520ヘクタールのままです。しかし、取得当初はブドウ畑はほとんどなかったので、徐々に広げていきました。現在のブドウ畑は140ヘクタールで、そのうち75ヘクタールがブルネッロの畑です。ブドウ畑の広さは、モンタルチーノで3番目の大きさです。

宮嶋 コルドルチャのすごいところは、すべてのブドウ畑がその農園の中にあることです。多くのブルネッロ生産者が各地に畑を持つ中、彼らはすべての畑がここ南西部に集中しています。

S 他のエリアの進出は考えたことがありません。私たちの畑は砂の多い土壌で、ミネラルが感じられます。そんな地中海的な個性が好きです。

DOCロッソ ディ モンタルチーノ誕生の立役者
チンザノ家が50年間貫き続ける大樽熟成の伝統的ブルネッロ

「毎日飲めるスタイル」
DOC設立の約10年前から規範となるロッソを確立

S 私たちのロッソ ディ モンタルチーノは、現在のDOCの原型となっています。当時から、ブルネッロ用の畑のブドウを使い、毎日飲めるスタイルというコンセプトで、1974年に初めてボトリングしたワインです。1983年にDOC認定されるわけですが、それ以前はヴィーノ ロッソ デイ ヴィニェーティ ディ ブルネッロ(ブルネッロの畑の赤ワイン)という名前でした。

宮嶋 他の生産者もそのスタイルを取り入れ、モンタルチーノ中で流行ったためDOCが設立されたという流れです。まさに、コルドルチャが現在のロッソ ディ モンタルチーノの原型を造り上げたのです。

個性が明確に異なるグレートヴィンテージ
「古典的ヴィンテージの2019年」「今開けて美味しい2020年」

——2019年と2020年のブルネッロを比較試飲したのですが、見事に個性が異なっていました。2019年は非常にポテンシャルを感じ、2020年は今飲んで素晴らしく美味しいです。

S そうなんです。2019年のほうが酸が強くて古典的なヴィンテージです。友人との夕食に持っていくなら2020年で、セラーに入れておくなら2019年ですね。

宮嶋 2015年と2016年に似ています。2015年はすぐに美味しかったけど、2016年は今でも硬さがあります。両者ともに素晴らしい年ですが、グレートヴィンテージというのも考えものです。最近、ある生産者のリゼルヴァ2016年を開けたのですが、まだ硬かったです。でも、ワインの世界にはさまざまな飲み手がいて、飲み頃前のワインに惹かれる人もいますし、嗜好が変化していくこともありますよね(笑)。

S そういう意味では、コルドルチャはうってつけかもしれないです(笑)。というのも、私たちは樽の影響を全くワインにつけない大樽熟成スタイルを50年間貫いています。近年の気候変動により、リリース後すぐに開けて美味しいワインができるようになったとはいえ、古典的なスタイルで長く熟成していくコンセプトです。なので、2019年みたいなヴィンテージは、そういった嗜好の方には最適ですね。

祖父から孫へ、世代を超えて挑戦する単一畑ブルネッロ

チンザノ家が初めて植えた歴史的単一畑「ポッジョ アル ヴェント」
S 祖父がモンタルチーノへやってきて、最初に植えた畑で造っているのがクリュ ブルネッロ「ポッジョ アル ヴェント」です。ファーストヴィンテージは1982年。樹齢50年、3.5ヘクタールの畑です。近年は気候変動があるため毎年造れませんが、条件が整った年はベストな仕上がりを見せる素晴らしい優良畑です。

新ブランド「Conti Marone Cinzano」誕生
その年最高の単一畑で造るクリュ ブルネッロ「ロット ウーノ」(2025年10月頃入荷予定)

S 今年、新しいクリュ ブルネッロ「ロット ウーノ」をリリースしました。気候変動によって毎年ベストの畑が異なるという状況を鑑みて、「その年の最高の単一畑でブルネッロを造る」という私自身のコンセプトで生まれたワインです。ポッジョ アル ヴェントを毎年造りたくても畑は動かせないですからね。ロット ウーノは、いわば彷徨う単一畑として毎年造るベストのワインという位置付けです。

また、チンザノ家の名前を冠した新しいブランドでもあります。チンザノ家がモンタルチーノにやってきてから50年経ち、ピエモンテの時代を含めると300年以上前から土を耕してきました。祖父から父、父から私へと世代が変わっていき、「コルドルチャ」ではなく「チンザノ」の名前をつけたブルネッロを造りたい思いが芽生えてきて、生産に至りました。

幼少期から思い描いた新クリュ ブルネッロ構想
S 私がまだチリで暮らしていた頃、モンタルチーノに帰省した際の、今でも鮮明に覚えていることがあります。それは、2002年7月頃にポッジョ アル ヴェントの畑で、父と栽培責任者が「今年はクリュを造らないほうがいい」と話し合っていたシーンです。それを聞いた私は思わず「ここの畑がダメなら、他の畑で造ればいい」と言ったのですが、厳格な父は「単一畑は単一畑だ」と。それ以来、「なぜ造れないのか?」という疑問がずっと残っていました。それが「ロット ウーノ」の生まれた背景です。
ボトルに刻まれた「チンザノ」の名前

名門チンザノ家を背負い、未来を切り拓く3代目サンティアゴ氏
——どのタイミングでロット ウーノに使用する畑が決まるのですか?

S 収穫の時に決まります。まず畑を30ヘクタール程度に絞り、段階的に20ヘクタール、10ヘクタールと範囲を狭めていきます。最終的に数ヘクタールになります。すべて数値を見てアカデミックに行っています。醸造は、ひとつの樽で発酵させて、ひとつの樽で熟成させています。

——ロット ウーノについて、お父さんはどんな反応をされたのですか?

S 父の表情からは、満足しているのかどうかは読み取れません(笑)。彼はそういう人なんです。ただ、不満があれば何かを言ってくるはずです。黙っているということは、賛成していると判断していいと考えています。最初にこのワインのコンセプトを話した時も、一切反応がなかったですね。

しかし、チンザノの名を冠したことについては喜んでいます。というのも、現在チンザノはカンパリ社の傘下にあります。長い歴史を持つ会社を売却して自責の念を抱える父からは、「頼みに行くな」と言われていたんです。それでも私は、自分の判断でカンパリ社の社長を訪ね、名前の使用を願い出ました。そして、正式に許可を得ることができ、「チンザノ」の名を冠したワインが誕生したのです。

宮嶋 今年の『Vinitaly』でロット ウーノのプレゼンテーションが行われていて、彼もお父さんも忙しそうだったので、試飲だけでもできないかとスタッフに伺ったんです。すると、「ロット ウーノは、二人からしか注げない」と言われてしまいました。それくらい思いが込められているのだと思います。今回試飲する2019年はファーストヴィンテージですし、ロット ウーノの今後が楽しみですね。

冷やしても美味しいフレッシュな赤ワイン

スペツィエーリ トスカーナ 2022

スペツィエーリ トスカーナ 2022

サンティアゴ氏:
「スペツィエーリは、若樹のブドウをステンレスタンクとセメントタンクを用い、唯一、樽を使わないフレッシュな赤ワインです。80%サンジョヴェーゼ、20%チリエジョーロをブレンド。また、サンジョヴェーゼをよりフレッシュで早くから楽しめるようにするには、チリエジョーロがいい仕事をします。初ヴィンテージは1990年代前半。生産量は6万本で、夏には温度を低めにして楽しんだり、ピザと一緒に飲むのにも適しています。」
試飲コメント:ルビー色。軽やかな果実が香る繊細でエレガントなアロマ。口当たりはフレッシュで、滑らかさがあります。ほどよいタンニンで心地よい果実感が持続します。

DOCの模範となった元祖ロッソ ディ モンタルチーノ

ロッソ ディ モンタルチーノ 2022

ロッソ ディ モンタルチーノ 2022

サンティアゴ氏:
「このロッソは、現在のロッソ ディ モンタルチーノの原型として誕生したワインです。毎日飲めるスタイルというコンセプトで、1974年ヴィンテージを初めてボトリングしました。その後、1983年にロッソ ディ モンタルチーノDOCが認定されました。ブルネッロの畑のサンジョヴェーゼを、大樽で10カ月熟成しています。生産量は20万本です。」
試飲コメント:輝くルビー色。ほどよい果実の香りにスパイスやレザーが重なります。香り同様の果実感がそのまま口中にも広がる心地よい味わいです。

伝統を貫く大樽熟成のスタンダード ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

ブルネッロ ディ モンタルチーノ 2019

サンティアゴ氏:
「私たちのブルネッロは、50年間伝統的なスタイルを大切にし続けています。早くから飲めるような味わいを体現している一方で、熟成した古酒としても楽しんでもらいたいと考えています。ワイナリーには1970年代までの古いヴィンテージリストがあります。スタンダードのブルネッロの生産量は全体の5%です。」
試飲コメント:ガーネット色。果実とスパイスが調和した複雑な香り。口に含むと力強さと心地よい果実感があり、タンニンと見事に調和しています。スパイスのニュアンスとともに複雑な風味が持続します。

優良年のみ造る、チンザノ家が初めて植えた歴史的クリュ ブルネッロ

ポッジョ アル ヴェント ブルネッロ ディ モンタルチーノ リゼルヴァ 2016

ポッジョ アル ヴェント ブルネッロ ディ モンタルチーノ リゼルヴァ 2016

サンティアゴ氏:
「ポッジョ アル ヴェント ブルネッロ ディ モンタルチーノは、樹齢50年のサンジョヴェーゼで造っています。優良年のみ生産する、単一畑ブルネッロです。1982年から造っています。私の祖父がモンタルチーノに土地を取得し、最初に植えた畑がこのポッジョ アル ヴェントでした。私たちチンザノ家が初めて植えたサンジョヴェーゼです。畑の広さは3.5ヘクタールで、生産量は全体の10~15%ほどです。」
試飲コメント:ガーネットに近いルビー色。凝縮した赤い果実やスパイス、レザーの香り。香り同様に熟した果実やスパイス、レザーの風味が調和し、アタックから余韻の最後までふくよかな風味が持続します。

【2025年10月頃入荷予定】
3代目当主が造り上げた、その年最高の単一畑ブルネッロ

ブルネッロ ディ モンタルチーノ ロット ウーノ 2019

ブルネッロ ディ モンタルチーノ ロット ウーノ 2019

サンティアゴ氏:
「ロット ウーノの誕生には、2つの背景があります。ひとつは50年の歴史を持つ私たちチンザノ家の名を冠したワインを造りたいという思い。もうひとつは、気候の変動が激しくなり、毎年ベストな畑が異なることから、その年で最も優れた単一畑を選んで造るというコンセプトに至ったことです。この初ヴィンテージ2019年に、使用する畑はカンネート。1990年代末の植樹、標高230メートルの畑です。2019年は緩やかに成熟したバランスの取れた年。バランスの良さを求めて、30%粘土、30%砂、30%石灰岩という構成の土壌の畑を選びました。生産量は6000から9000本ほどです。」
試飲コメント:深い輝くルビー色。赤い果実や熟した果実に加えてフレッシュな香り。フレッシュな酸とピュアな果実、凝縮果実、スパイスが溶け合う味わいです。洗練されたエレガントな余韻に満たされます。

【2025年10月頃入荷予定】
酸とミネラルが際立つピノ グリージョ

ピノ グリージョ 2024

ピノ グリージョ 2024

サンティアゴ氏:
「ピノ グリージョはイタリアの全20州で栽培されている品種です。これは、モンタルチーノ内で造る唯一のピノ グリージョです。ステンレスタンクとセメントタンクのみで発酵、熟成しています。畑はオンブローネ川に近く、かつて砂浜だったため砂が多くミネラル豊富な土壌です。気候的にはピノ グリージョの故郷である北イタリアよりも暑いものの、土壌のpHが低いため酸がしっかり残ります。スペツィエーリと同様に、食事がなくても楽しめるスタイルで、食前酒として適しています。生産量は4万本です。」
試飲コメント:淡い黄色。リンゴや洋ナシなど、白い果実や黄色い果実の熟れた香り。果実味あふれた豊かな味わいです。

【2025年10月頃入荷予定】
フレッシュでまろやかな、新樽バリック熟成シャルドネ

ギアイエ ビアンケ 2022

ギアイエ ビアンケ 2022

サンティアゴ氏:
「ブルゴーニュ的な醸造法を採用したシャルドネ100%の白ワインです1986年頃に植樹された畑です。新樽フレンチオークのバリックで発酵、熟成しています。トスカーナは暖かいため、すべてを樽で造ると重くなりすぎることから、一部をステンレスタンクで発酵しています。」
試飲コメント:黄金色。黄色い果実やバターの香り。フレッシュな酸とまろやかさが共存し、バターやバニラの風味が広がる味わいです。

インタビューを終えて

今回初めて試飲をした新登場のクリュ ブルネッロ「ロット ウノ」(2025年10月頃入荷予定)は、サンティアゴさんの原風景やご家族の哲学、土壌分析や醸造技術の進化、そして気候変動への向き合い方など、歴史をも感じさせる多様な要素が込められたワインだと感じました。チンザノ家がモンタルチーノで初めて植えたサンジョヴェーゼで造られるクリュ「ポッジョ アル ヴェント」との違いも明確で、非常に興味深かったです。

最初に試飲した「スペツィエーリ」や「ロッソ ディ モンタルチーノ」もとても印象的でした。コストパフォーマンスの高さはもちろんですが、「毎日飲みたくなる」というコンセプトどおり、果実味と酸のバランスが心地よく、飲み飽きしない味わいでした。ピノ グリージョも含めて、冷蔵庫に常備したくなるような、日々の食卓に寄り添ってくれると感じました。