ヴェルディッキオ一筋のスペシャリスト「サルタレッリ」

2025/06/23

2025/05/28

カテリーナ キアッキアリーニ氏 Ms. Caterina Chiacchiarini

多様な個性を表現するヴェルディッキオのスペシャリスト!化学的残留物ゼロを体現するイエージ屈指の造り手「サルタレッリ」

サルタレッリは、ヴェルディッキオのみを手がけるイエージ地区屈指のスペシャリスト。創業者フェッルッチョ氏がマッサルセレクションにより選抜した、32種ものクローンを用いてワイン造りを行っています。そのヴェルディッキオを用いて、すべてステンレスタンクで醸造した(泡を含む)白ワインを造るスタイルを貫いています。4種類のカステッリ ディ イエージ クラシコは、それぞれに畑の個性が見事に反映されており、味わいの幅広さを存分に感じさせる仕上がりです。近年では、畑での化学的残留物ゼロを実現する「サルタレッリ ゼロ」に取り組み始めるなど、探求と挑戦を続けています。今回は、3代目となるカテリーナ キアッキアリーニさんにお話を伺いました。

多様なクローンと、化学物質ゼロの畑で
イエージの土地を純粋に映すヴェルディッキオ

妻への愛が導いたワイン造りへの道
――2019年以来のインタビューとなります。改めてワイナリーについて教えてください。

私たちはマルケ州サン マルチェッロに拠点を置くワイナリーです。海と山に挟まれた産地、カステッリ ディ イエージでワイン造りを行っています。海から山に向かって連なるゆるやかな丘陵地帯に位置し、夏は暑く冬は寒い、四季の変化がはっきりと感じられるエリアです。

1972年にワイナリーとしてのサルタレッリの歴史が始まりましたが、もともと私たち家族はパン屋を営んでいました。1950年代、アルゼンチン移住を考えていた祖父フェッルッチョは、後の妻となる祖母マティルデの両親から「行ってもいいが、彼女は行かせない」と言われ、妻への愛情を貫いて移住を断念しました。

そして、この地にとどまり、まずはパン屋を経営していたという経緯があります。私自身もパン屋で育ちましたし、今もサルタレッリ家にはパン職人としてのパッションは息づいています。イタリアで「パンとワイン」は日常や命の糧でもありますからね。現在もそのパン屋は、親戚によって受け継がれています。

32ものクローンからなるヴェルディッキオのみ栽培
ステンレスタンク醸造で造る白ワインを徹底

私たちは土着品種ヴェルディッキオのみを栽培していることが最大の特徴です。そして、ステンレスタンクで白ワインを造るスタイルを貫いています。私たちのヴェルディッキオは、祖父がマッサルセレクションを通じて32のクローンを選抜したものです。

現在も、長年にわたり大切に育てて受け継いでいます。市場に出回るヴェルディッキオの苗木は、通常3~4種のクローンに限られますが、私たちがそれをはるかに上回る多様なクローンを保持していることも大きな強みです。

例えば、1953年に植樹されたヴェルディッキオは、一房で1.87キロにも達します。一般的なヴェルディッキオの重量が800~900グラムであることを考えると、非常に稀有なサイズです。このブドウは風の強い畑で育ち、自然と耐性が高まり、外傷にも強く、見事なまでに大きく実ります。遺伝子操作を疑ってしまうほどですが、すべて自然の力によるものです。

化学的残留物ゼロを実現する新プロジェクト「サルタレッリ ゼロ」
現在、畑における化学的残留物ゼロを目指す独自のブドウ栽培プロジェクト「サルタレッリ ゼロ」に取り組んでいます。土地や畑、そしてブドウに負荷をかけたくないという思いから始めました。2013年から小さな畑でスタートし、現在では所有畑の全50ヘクタールにまで広がっています。2019年には、私たちの哲学に賛同してくれた国際機関(Rina Agroq)より、正式な認証を取得しています。

発想自体はシンプルですが、プロジェクト内容は少し複雑に見えるかもしれません。開花前に、海藻やオレンジの皮、独自のバクテリアなどからなる自然由来のワクチンを畑に散布します。これにより畑自身の免疫力を引き出し、病気を未然に防ぐのです。銅を含むボルドー液など、土地に負荷をかける成分は一切使用しません。ビオロジックやビオディナミとの共通点はありますが、あくまで畑と人の健康を守るという独自の方法論です。

「ゼロ」という名前には、化学的残留物ゼロを意味すると同時に、「ここから始まる」という意思も込められています。逆を言えば、少しでも化学物質を使ってしまうと、最初からやり直しになってしまうのです。芽吹きのモチーフは、まさにその想いを象徴しています。

畑の個性を見事に反映し、低収量で造られる
「カステッリ ディ イエージ クラシコ」

 自社畑はDOCヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ「クラシコ」区域内にあります。このエリアのヴェルディッキオは、豊かなミネラル感に加え、アルコールと酸の優れたバランスが特徴です。私たちはクラシコ、クラシコ スペリオーレ、クラシコ リゼルヴァ(DOCG)を生産しており、いずれも規定よりも1ヘクタールあたり約20~30トン少ない収量に抑えています。

所有する畑は8区画に分かれており、それぞれ異なる個性を持っています。その特性を最大限に引き出すため、畑ごとに最適なアプローチでワイン造りを行っています。たとえば収穫時期は、クラシコから上級キュヴェのトラリヴィオ、ミレッタ、バルチャーナへと進むにつれ、徐々に遅くなります。また、畑ごとにブドウの果皮の色合いが異なる点も、私たちのワインの個性を形作る重要な要素です。

左から、「クラシコ」「トラリヴィオ」「ミレッタ」「バルチャーナ」

キレのある酸が特徴の若樹ヴェルディッキオ「クラシコ」
「クラシコ」のブドウは、8月下旬から9月初旬にかけて収穫を行います。10~15年ほどの若い樹齢の3つの畑で構成されています。その名の通り伝統的なヴェルディッキオが表現されていて、しっかりした酸を感じる夏向けのワインができます。

エレガンスと熟成力を備えた樹齢30年の「トラリヴィオ」
「トラリヴィオ」は、樹齢25~30年のやや古木のブドウを使用し、3区画ほどの畑からなります。状態を見極めながら、熟度の高いブドウを選び抜き、5~6週間かけて収穫します。その区画の若いブドウはすべてクラシコに使用されます。クラシコよりもエレガントでありながら、熟成力と力強さを備えた個性が生まれます。名前は「オリーブ畑の間」を意味し、ラベルのオリーブ色はそれに由来しています。

上品で包み込むような味わい
家族を支えた祖母に捧げる特別キュヴェ「ミレッタ」

「ミレッタ」は、トラリヴィオと同じ区画内の北向きの畑からなります。収穫はトラリヴィオより1週間遅く、9月末に完了します。ミレッタとは祖母マティルデの愛称で、彼女に捧げる特別なワインです。祖父のアルゼンチン移住計画を思いとどまらせ、ワイン造りの道へと進んだのは、祖母の存在があったからこそです。

困難な時代を乗り越え、支え続けてくれた祖母の50年にわたる献身に感謝と敬意を表しています。畑は祖母の家の周辺に位置しています。上品で包み込むような人柄が表現された味わいで、ラベルカラーは彼女が生前に身に着けていたネックレスの色にちなんでいます。

太陽の光が届かず、最も遅く熟す奇跡の畑
貴腐菌をまとうブドウを厳選した、最上級キュヴェ「バルチャーナ」

「バルチャーナ」は、パッシート用区画に隣接する単一畑です。パッシートよりも遅い、11月末まで収穫を行います。最大8%ほどの貴腐菌が付着したブドウを厳選します。ここだけ非常にゆっくりと成熟する畑で、紫に変色するわずか3~4日の間に収穫を行います。日光が当たる部分だけはオレンジ色になり、その色はワイナリーのイメージカラーにもなっています。将来的にはリゼルヴァとして格上げされる予定です。

父は「素晴らしい場所」と思って取得したわけですが、当時は周囲からの懐疑的な声もありました。なぜなら、この畑は北東向きで非常に寒く、森が背後にあることで太陽の光が全く当たらないからです。他の畑とはミクロクリマが異なり、ゆっくり成熟するのはそのためです。

はじめはパッシートを造ろうと試みましたが、思うような結果が出ませんでした。しかし数年後、「まだ未熟だ」と放置していたら、紫色に色づき、そのブドウで現在のスタイルで造ったら、素晴らしい出来になったのです。これこそがバルチャーナの真の姿だと気づき、1994年に初めてリリースしました。

バルチャーナは、この地が1200年前に「ヴァルサーナ(健康な渓谷)」と呼ばれていた歴史的エリアです。実は、その事実を知ったのはリリース後のことでした。「焦らず待つ者に、健全なブドウが与えられること」と、バルチャーナは秘められた価値を持つ「小さな宝物」なのだと改めて実感しました。

バルチャーナ(右の濃い緑の畑)

フレッシュで苦みが伴うやさしいヴェルディッキオのスプマンテ

サルタレッリ ブリュット NV

サルタレッリ ブリュット NV

カテリーナ氏:
「2011年から造っているこのブリュットの特徴は、長く持続するデリケートで優しい泡です。食欲をそそる味わいですが、酵母の風味があり単体でも楽しめるワインです。畑は標高150m、8月第2~第3週に収穫しています。5~6ヶ月間澱とともに醸造しています。醸造時に一度パドヴァの施設に移しているため、サルタレッリ ゼロの認証は取得していません。」
試飲コメント:輝く麦わら色。レモンなどの柑橘や砂糖漬けのフルーツ、ドライフルーツのような香りがあります。口に含むと香りと同様の味わいが広がり、柑橘の皮を思わせるフレッシュさとほろ苦さが感じられます。

軽やかでフレッシュな夏に最適なヴェルディッキオ

ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ クラシコ 2023

ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ クラシコ 2023

カテリーナ氏:
「酸がしっかりした伝統的なヴェルディッキオが表現されています。優しさも感じますね。クラシコは10~15年樹齢の若い畑から造られていて、ピアチョーネ(人懐っこい)というあだ名がつくほど親しみやすく、軽やかさと飲み応えを兼ね備えた味わいです。仕事から帰ってきた時に癒しを与えてくれるようなワインですね(笑)。夏に最適な1本でもあると思います。」
試飲コメント:深みのある麦わら色。凝縮感のある果実や濃密さ、爽やかさのバランスが良く、親しみやすい香りです。柔らかい口当たりで、豊かな果実味とフレッシュさが共存しています。柑橘の皮のようなニュアンスがあり、長い余韻の中にわずかに石のような印象も奥に感じられます。

幅広い料理と相性の良さを見せるエレガントな味わい

トラリヴィオ ヴェルディッキオ デイ カステリ ディ イエージ 2022

トラリヴィオ ヴェルディッキオ デイ カステリ ディ イエージ 2022

カテリーナ氏:
「トラリヴィオは、私たちのクラシコよりエレガントで熟成力と力強さを持つワインです。時間をおいて楽しむこともできます。25~30年の樹齢の畑から厳選しています。オリーブ畑の間に位置するため、ラベルの色は緑色にしています。24時間のマセラシオンによって、アロマとストラクチャーが引き出され、シュールリーは6~8ヶ月。アスパラやアーティチョーク、トリュフ、生魚から肉料理まで幅広く合わせられ、世界のレストランでも評価されているヴェルディッキオです。」
試飲コメント:黄金色に近い麦わら色。白い果実や白い花、ミネラル、フローラルな香りに、凝縮した果実の気配も感じられます。口当たりは柔らかく、香りと同様の要素に南国果実のニュアンスも加わり、重さはなく気品のあるエレガンスが特徴です。

力強さと優しさを併せ持つ豊かな果実味

ミレッタ カステッリ ディ イエージ ヴェルディッキオ リゼルヴァ 2021

ミレッタ カステッリ ディ イエージ ヴェルディッキオ リゼルヴァ  2021

カテリーナ氏:
「ミレッタはトラリヴィオのブドウをさらに厳選したヴェルディッキオで造っています。48時間のマセラシオン、12~15ヶ月のシュールリーと6ヶ月の瓶内熟成を経ています。アルコール度数は14.5%で、強さと優しさを併せ持ちます。辛口ながら甘さもあるため、キノコ料理や卵料理などの料理と好相性です。」
試飲コメント:麦わら色。フレッシュかつ凝縮した黄色い果実の香り。なめらかな口当たりで、果実味豊かな味わいです。柑橘の皮やミネラルなど複雑な風味が長く持続します。

厚みと複雑味に富んだエレガントな最上級ヴェルディッキオ

バルチャーナ ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ 2020

バルチャーナ ヴェルディッキオ デイ カステッリ ディ イエージ  2020

カテリーナ氏:
「バルチャーナは単一畑で造る最上級キュヴェです。紫までに変色するまで成熟したブドウを用いており、そのブドウが太陽の光でオレンジ色に見えることからラベルをオレンジ色にしています。収量は1haあたり3トン。アルコール度数は15~15.5%ながらも、エレガントで洗練されたスタイルを感じていただけると思います。肉料理や干し鱈、フォアグラ、七面鳥など厚みのある料理に最適です。特にサフランリゾットとは驚くほど相性が良いです。」
試飲コメント:黄金色。黄色い果実やバナナ、ミネラルの香りに、ドライフルーツのようなニュアンスも感じられます。口当たりは柔らかくフレッシュでありながら、ボリューム感に富んだ味わいです。余韻は非常に長く、複雑な果実味の風味が持続します。

フレッシュかつ複雑味に満ちたパッシート

サルタレッリ パッシート 2022

サルタレッリ パッシート 2022

カテリーナ氏:
「以前のパッシートは、畑で過熟させてから収穫し、さらにアパッシメントしていました。しかし、2020年頃からはブドウが乾燥する前に収穫し、40日間の陰干しすることにしています。これにより、フレッシュさや塩味のようなミネラル感が残るようになった。このパッシートを使ったチョコレートも作っているんですよ。」
試飲コメント:琥珀色。ドライフルーツに加え、シナモンや落ち葉、スパイシーなアロマが広がる複雑な香り。爽やかさもあります。口に含むと香りで感じた複雑でエレガントな風味に満たされます。

インタビューを終えて

今回お話を聞いたカテリーナさんは、質問に対して一つひとつ丁寧かつ詳細に語ってくださいました。「家族の絆」「ヴェルディッキオ一筋」「ステンレスタンク醸造を徹底した白ワイン」「化学物質ゼロの畑で、各個性を反映すること」といった、サルタレッリ哲学の理解をより一層深めることができました。

そして、今回試飲した4種のスティルワインからは、ひとつの品種から引き出される幅広い個性に驚かされました。若樹から造られる「クラシコ」、料理を引き立てる「トラリヴィオ」、祖母マティルデさんの物語を彷彿とさせる「ミレッタ」、圧倒的な存在感を放つ最上級キュヴェ「バルチャーナ」。

ブリュットやパッシートも併せて、これほど多彩な魅力が引き出されたサルタレッリのヴェルディッキオを、ぜひお楽しみください。