2025/05/14
/
ロベルト マエストリ氏 Mr. Roberto Maestri
やさしい味わいに満ちたフリッツァンテ!土着品種の表現力を最大限に引き出すエミリアの自然派「クアルティチェッロ」

家族と飲んだ原体験が導くワイン哲学
土着品種と自然な造りで引き出す、表現力豊かな微発泡ワイン
――まずは、ワイナリーについてお聞かせください。
クアルティチェッロは、2001年にエミリア ロマーニャ州レッジョ エミリア県で創業しました。当初、私は生物学を専攻する大学生で、まだ進路が決まっていない状態でした。そんな中、偶然売りに出ていた畑を見つけて取得したことが、このワイナリーの始まりです。瓶詰めを始めたのは2006年。それまでは実験的にワインを造りながら、収穫したブドウを販売していました。
家族と飲んでいた自家用ワインを求めてワイン造りを開始
――創業当初から、現在のスタイルで造っていたのですか?
最初はワインメーカーになるつもりはなく、あくまでブドウ農家を目指していました。ところがすぐにワイン造りに魅了され、創業の翌年には大学の専攻を栽培・醸造学へと切り替えました。市場に出回るワインの多くが、私の原点である祖父や父と一緒に飲んでいた自家用ワインとはまったく異なることに気づいたのもその頃です。そこから自然と、その慣れ親しんだ味わいを再現する現在のスタイルに行き着きました。
やさしく飲みやすい味わいが生まれる、スプマンテの伝統産地
畑は、パルマ県とレッジョ エミリア県を隔てるエンツァ渓谷沿いに位置し、すぐ近くをエンツァ川が流れています。古くからスプマンテの伝統が根付く土地でもあります。沖積層の土壌で石が多く、水はけの良さが大きな特徴です。こうした土壌特性から、アルコール度数も過度に上がらない飲みやすいワインが生まれます。
土着品種のみを使い、瓶内二次発酵の微発泡ワインを中心に生産
この地域は、大量生産による工業的な造りが目立つのが実情ですが、私は地域の伝統を尊重したワイン造りを行っています。ビオロジック農法を実践し、土着品種を用いた瓶内二次発酵によるフリッツァンテを中心に生産しています。
豊かな表現力を最大限に引き出すワイン哲学
私は、自然派ワインには2つの要素があると考えています。1つは、化学物質の使用量などの測定可能な物理的要素。もう1つは、ワインが持つ表現力の豊かさという測定不可能な感覚的要素です。私は特に、後者を重視しています。その表現力を最大限に引き出すために、畑では土壌の生命力を最も大切にし、化学物質は一切使用しません。醸造でも、すべてのワインが自然発酵です。
生きた土が育んだ健全なブドウを用い、できる限り人の手を加えない造り。それこそが、土地の個性がそのままワインに表現される手法だと考えています。たとえば「レモーレ」は、単にオレンジワインを造ることが目的ではなく、マセラシオンによって果皮の風味を自然に引き出すことを意図しています。
一つひとつに想いを込め、品質を追求する当主ロベルト氏
陰干しを行わない大人気キュヴェ「レモーレ」
近年のレモーレでは、樹上アパッシメントを行っていません。かつては、マルヴァジア ディ カンディア特有の強いタンニンを和らげるために取り入れていましたが、現在ではその必要がなくなっています。その背景には、私自身がタンニンのコントロール技術を習得したことがあります。
セメントタンクを用い、マセラシオン中は果皮を動かさないようにしたことで、タンニンの過剰抽出を防ぎ、ワインのフレッシュさを保ちながら果皮の要素を果汁に落とし込むことができるようになりました。また、近年の気候変動でアルコール度数が高くなりすぎたり、収穫期に雨が多いことも陰干しを行わない理由です。
セメントタンクの微細な酸化が引き出す、丸みと安定感
実際に、同じ「レモーレ」をセメントタンクとステンレスタンクに分けて、試験的に造ったことがあります。その結果、セメントタンクで造ったワインのほうが、より丸みがあり、安定した仕上がりになりました。これは、セメント素材の特性によるものです。ステンレスに比べて温度変化が緩やかで、発酵が安定しやすいのです。さらに、私が使用するセメントタンクは、内側にグラスファイバー加工が施されていないため、空気の行き来があり、発酵や熟成の過程で微細な酸化が自然に起こるのです。
セメントタンクの上に座るロベルト氏
各ワインラベルに込められた物語
――ラベルやワイン名について教えてください。
・カッシーナロンキ/スペルゴラ100%メトドクラシコ(白泡)
酪農を営んでいた、母方の祖父へのオマージュ
母方の祖父へのオマージュです。ロンバルディア州で酪農場(=カッシーナ)を営んでいた祖父の名前がロンキであることから、「ロンキ農場」という意味を込めて名付けました。
・デスピナ/マルヴァジア ディ カンディア100%(白泡)
思い出のオペラに登場する、生き生きとした女性をイメージ
モーツァルトのオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』に登場する人物の名にちなんでいます。かつて妻と観に行った思い出の作品です。ラベルの「くるくる」は、デスピナの髪を表現しています。彼女は浮気を勧めるやんちゃな女性で、その生き生きとしたイメージがワインに合うと感じて名付けました。
・レ モーレ/マルヴァジア ディ カンディア100%(オレンジ)
中世から根付く城と歴史的人物へのオマージュ
畑へと続く道の名前が由来です。カノッサ城を治めていた中世の女性、マティルデ・ディ・カノッサ女伯へのオマージュでもあります。ラベルのフクロウは中世の伝説でよく紐づけられる存在で、被っている冠はカノッサ城の城壁を模しています。
・ロゼーダ/ランブルスコ サラミーノ100%ランブルスコ(ロゼ泡)
収穫時期に現れる露(つゆ)に由来
ロゼーダとは、エミリア方言で「露(つゆ)」を意味します。ロゼーダ用のブドウは9月10日頃から2、3週にかけて収穫しますが、その時期に畑に露が現れ、葉が濡れる様子に由来して名付けました。
・ネロ マエストリ/ランブルスコ マエストリ&ランブルスコ グラスパロッサ(赤泡)
品種、苗字にちなんだ父方の祖父へのオマージュ
父方の祖父へのオマージュです。「ネロ」は黒を意味し、濃いワインの色と祖父ネリーノの愛称にちなんでいます。「マエストリ」は使用品種と私たちの家族の苗字に由来しています。ラベルに描かれた帽子は、祖父が愛用していたものです。
・ボルドーネ/マルボ ジェンティーレ100%(赤)
巡礼用の杖をくわえた愛犬プッチ
ボルドーネとは巡礼者の杖を意味します。私がパルマに住んでいた頃、巡礼者たちがその杖を手に歩く姿をよく見かけました。その杖をくわえる犬は、私が兄弟同然で育ち、21年生きた愛犬プッチです。片目を事故で失ったため、目を閉じています。
フレッシュながらやさしい飲み口
|
カッシーナロンキ スプマンテ 2022 |
ロベルト氏: 「カッシーナロンキは、スペルゴラ100%をメトドクラシコで造るスプマンテです。2年間瓶内で澱とともに寝かせた後、デゴルジュマンし、ノンドサージュで仕上げられています。スペルゴラは、レッジョ エミリア県のみで栽培される歴史ある土着品種で、文献上は1500年代に記載があり、1000年代にカノッサ城でバルサミコ酢の原料として使われていたという記録もあります。酸がしっかりしており、泡のワインに適しているだけでなく、長期熟成の可能性を持つワインに仕上がります」 |
試飲コメント:輝きを持つ麦わら色。白い果実やはっきりとした洋梨の香りがあります。やや熟した果実のトロッとした印象も感じられます。クリーミーな口当たりで、やさしい味わい。香りと共通する要素があり、繊細ながらもフレッシュな酸があり、爽やかさが感じられます。 |
華やかで繊細、親しみやすさにあふれる大人気フリッツァンテ |
デスピナ 2023 |
ロベルト氏: 「デスピナは、マルヴァジア ディ カンディア100%をメトド アンセストラーレで造るフリッツァンテです。デゴルジュマンを行わず、澱と一緒に瓶詰めしています。非常に飲みやすく、フレッシュで親しみやすい味わいが特徴です。アロマティックさも特徴のひとつです。私のワインの中で最も販売本数が多く、多くの人に気に入られているワインです。」 |
試飲コメント:ややにごりのある黄色。リンゴやレモンが香る華やかなアロマがあります。口に含むとフレッシュな酸が広がりますが、繊細で飲みやすく、心地よさがあります。柑橘の皮のような苦味があり、食欲をそそられる味わいです。 |
完熟果実とスパイスが複雑に溶け合う、優美で柔らかなオレンジワイン |
レモーレ 2022 |
ロベルト氏: 「レモーレもマルヴァジア ディ カンディア100%で造られていますが、デスピナよりも標高が高い約150mの畑のブドウを使用しています。2週間のマセラシオンのあと、セメントタンクで発酵、熟成しています。単なるオレンジワインを目指すのではなく、厚い果皮が持つ味わいや香りを素直にワインへと反映させるためにマセラシオンを行っています。」 |
試飲コメント:琥珀に近い黄金色。杏やドライフルーツ、熟したオレンジ色の果実の香り。濃密さも感じられます。味わいは杏やシナモンのような甘やかさがあり、熟れたレモンのニュアンスも。温度が上がると、柔らかさややさしい風味が増し、優美で滑らかな余韻に満たされます。 |
フレッシュ果実、ミネラル感、細やかなタンニンが調和
|
ロゼーダ 2019 |
ロベルト氏: 「ロゼーダは、ランブルスコ サラミーノ100%で造るメトドクラシコのランブルスコです。5年間、澱とともに瓶内熟成をし、ノンドサージュで仕上げています。ランブルスコのポテンシャルを示すために造ったワインで、若飲みタイプにはない複雑さやミネラル感が引き出されています。生産するワインをすべて5年間熟成しているわけではなく、何回かに分けてデゴルジュマンを行っています。最初のワインは3年熟成となり、現在試飲しているものは5年熟成となっています。」 |
試飲コメント:深いローズピンク。ブルーベリーやイチゴなどフレッシュ果実や、茶葉のような香りがあります。口に含むと、ベリー系果実のフレッシュな味わいが広がり、ミネラル感や細かいタンニンと溶け合います。フレッシュな酸がエレガントに長く持続します。 |
黒系果実&スモーキー、繊細で深みのあるランブルスコ |
ランブルスコ ネロ マエストリ 2022 |
ロベルト氏: 「ネロ マエストリは、ランブルスコ マエストリとランブルスコ グラスパロッサのブレンドで造るランブルスコです。1週間のマセラシオンにより、しっかりしたボディとドライな味わいが生まれ、地元の伝統料理と非常によく合うランブルスコです。」 |
試飲コメント:ややにごりのあるルビー色。黒系果実の瑞々しい香りに加え、やや土っぽさやスモーキーな奥行きがあります。味わいはフレッシュでフルーティですが、同時に香りで感じた土やダシのような繊細で深みのある余韻が持続します。 |
独特な味わい深さが光るマルボ ジェンティーレ100%赤 |
ボルドーネ 2019 |
ロベルト氏: 「イタリアでもあまり知られていない土着品種、マルボ ジェンティーレ100%で造る赤ワインです。ランブルスコの補助品種としても知られ、色やボディ、アルコール感がしっかりある品種です。1年間、古い木樽で熟成しています。今試飲している2019年ヴィンテージは、まだまだ若々しい色を保っています。」 |
試飲コメント:にごりのあるルビー色。土や杉、針葉樹を思わせるような森の香り。わずかにスモーキーで奥行きも感じられます。アタックにはフレッシュな酸があり、フレッシュな果実や少しの甘やかさがあります。味わい深くふくよかな余韻が持続します。 |
甘味と酸味が綺麗に溶け合う、複雑でやさしい甘口ワイン |
ストラドーラ 2022 |
ロベルト氏: 「マルヴァジア ディ カンディア100%で造る甘口ワインです。果皮が厚いためアパッシメントに適しており、気候条件が整えば樹上で1週間から10日間のアパッシメントを行います。その後、カゴでも約2ヶ月間陰干しします。条件が合わない場合は収穫後すぐ陰干しを行い、ダイレクトプレスで圧搾し、ステンレスタンクで発酵、醸造されます。」 |
試飲コメント:淡い琥珀色。金柑やレモン、熟した黄色い果実、レモンピールの砂糖漬けの香り。ハーブのような爽やかさも感じられます。口に含むと柔らかい口当たりのあと、すぐにフレッシュな酸がやってきます。その酸が甘い果実感と綺麗に溶け合い、やさしい風味の余韻が長く持続します。 |
インタビューを終えて
人気キュヴェの「デスピナ」と「レモーレ」からは、その魅力に溢れています。柔らかな口当たりに始まり、寄り添うような複雑味と旨みがじんわりと広がります。最後に味わった甘口ワイン「ストラドーラ」もまた、甘みと酸のバランスがやさしく、アタックから余韻まで心地よい味わいに満たされました。
