グレコの補助品種とみなされてきた「コーダ ディヴォルペ」から1993年に初の単一品種ワインをリリースし、ワイン評価誌で絶賛されるヴァディアペルティの突撃インタヴュー。

2019/08/02
突撃インタビュー
 
2019年7月24日 トラエルテ / ヴァディアペルティ ラファエレ トロイジ氏

カンパーニャの二大品種グレコ、フィアーノに加え、それまでグレコの補助品種とみなされてきた「コーダ ディヴォルペ」に注目、1993年に初の単一品種ワインをリリース。スローワイン等の評価誌で高評価を受けるヴァディアペルティの突撃インタヴュー。

ラファエッレトロイジ氏
カンパーニャの名醸地イルピニアでブドウ栽培農家に生まれた父が打ち出したワインのスタイルを、ナポリ大学で化学を学んだ息子ラファエッレが引き継ぎ、当地を代表する造り手としての地位を確立しました。高い標高とヴェスヴィオ火山がもたらした火山性土壌を特徴とするテロワールのもと、フィアーノ、グレコ、コーダ ディ ヴォルペなどの土着品種で造るヴァディアペルティのワインは、”唯一無二のミネラルと酸”を感じさせるとして『ガンベロロッソ』『スローワイン』等でも高く評価されています。このたび初来日された3代目当主ラファエレ トロイージ氏から、ご自身のワイン哲学についてお話をうかがいました。

アペニン山脈麓の高い標高400~600mに加え、3万年前のヴェスヴィオ火山の噴火がもたらした特筆すべき火山性土壌によるテロワール

ワイナリーが位置するアヴェッリーノのあたりは、ナポリから内陸へ70kmほど入ったところにあります。イタリア語でアリアーノ イルピーノと呼ばれる人口2万人弱ほどのコムーネ(基礎自治体)ですが、アペニン山脈の麓で標高およそ400mから600mの比較的高い土地にあります。典型的な山岳性気候帯ですが、ティレニア海からの気流とアペニン山脈沿いの気流が交わるため、朝晩の寒暖差が大きくブドウの成熟を助けてくれます。

さらに、ヴェスヴィオ火山まで50キロと近接しているのが大きな特徴です。なぜなら、ヴェスヴィオ火山は一般によく知られているポンペイの噴火よりもずっと古い3万年以上も前から噴火活動を続けていたため、地層の深いところまで火山性土壌がみられるのです。これがワインの味わいに深いニュアンスを授けてくれます。

ブドウ栽培農家からワイン生産者へ。父が拓いたイルピニアのワイン造りの道を引き継いだ現当主ラファエレ氏

1980年11月、戦後イタリア史上最も大きな被害をだしたイルピニア地震に襲われたあとにヴァディアペルティ社は誕生している。その当時の様子をラファエレ氏は淡々と話してくれました。

曾祖父にあたるアントニオレが1900年代初頭にアメリカに渡り、南イタリアから優れたシングルヴァラエティのワインを輸入していました。その息子でわたしの祖父にあたるラファエレが、ここイルピニアでブドウ栽培を始めました。祖父が若くして亡くなったあとしばらくは祖母がブドウ栽培農家を切り盛りしていました。その息子が私の父のアントニオです。父は歴史学者でしたが、祖母とともに祖父の遺志を継いでブドウ栽培を続け、1984年にフィアーノ種100%のワインを瓶詰めしました。

畑とラファエレ

大震災後、遅々としてはかどらない復興計画。過疎化が進むイルピニアを再生させるためワイン醸造に励む父。その背中をみて育ったラファエレ氏はナポリ大学で化学を学び故郷に帰ったという。

大学を出て家業を継ぐことにしましたが、はじめはなにもわからずとにかく手探りでした。何年ものあいだ、畑でブドウの世話をし、醸造所を手伝い、時間をかけて経験を積み上げていきました。父は単一品種のワイン造りを進めていましたが、畑にはグレコとコーダ ディ ヴォルペが以前からずっと混栽されていました。父が単一品種で優れたワインを造り成功を収めると、次第に近隣の醸造所でも単一品種にシフトするひとたちが増えていきました。そんななか、コーダ ディ ヴォルペだけが人気がなく安値で取引されるようになってしまい、嘆く声が聞かれるようになりました。元来、強い酸味のあるグレコの特徴を中和するために混醸されていたコーダ ディ ヴォルペは、酸味が少なく穏やかな味わいのため、長期熟成の偉大なワインには向かないと思われていました。私はこのブドウから父を納得させるような白ワインを造ってみようと思い立ったのです。

 

土着品種フィアーノとグレコ。それらの補助品種であったコーダ ディ ヴォルペ単一品種のワインを造り父の信頼を獲得。方言で表現される3つのクリュに込められた思いとは

ブドウ当時コーダ ディ ヴォルペだけでワインを造ろうと考える生産者はまったくいなかったので、私は折に触れ、「コーダ ディ ヴォルペを100%使ったワインなんて、美味しいわけがない。冗談だろう」と言われました。しかし私には勝算がありました。やがて1993年に収穫したブドウから、私はついにコーダ ディ ヴォルペの単一品種による白ワインを造ることに成功しました。出来上がりのワインを試飲したときの父の驚きと喜びの表情をいまでもはっきりと思い出すことができます。砂岩混じりの石灰質土壌を指すイルピニアの方言であるトラマという言葉をこのワインの名前にしました。苗木には野生の台木を用いており、標高450mの畑は伝統的なテンドーネ式の棚栽培をしています。

単一品種の良いワイン造りにこだわり続けているヴァディアペルティの伝統を体現したといえるフィアノ ディ アヴェッリーノには、やはりイルピニア方言でヴァディアペルティを意味するアイピエルティという名前をつけることにしました。グレコ ディ トゥーフォには、父がフェデリコ2世という名前をつけていましたが、一族の生まれ故郷(原点)であるこのイルピニアのブドウ畑へと続くつづら折れの道をイメージしてトルナンテ(イタリア語で「返る」意味をもつ)という言葉に変えました。

できるだけ手を加えずに土地のもつテロワールとブドウ品種本来の味わいを最大限に表現するラファエレ氏のワイン哲学について

醸造技術にはさまざまなものがあり、その時代によってのトレンドもありますが、私は良いブドウを育てるためにはなるべく人工的に手をかけないほうがよいと考えています。たとえ大勢の生産者が実施している方法でも、それが土壌やブドウの木にとって、長い目で見てどういう影響をあたえるのかはわからないわけです。ボルドー液は安全だと言っても、土からしたらやはり金属物質であることにはかわらないので、使い続けたときにどれだけのストレスが土にかかるのかは我々人間にはわかりません。だからそういうものも、できるだけ避けたいということを考えています。

塩味のニュアンスのあるヴァディアペルティならではのフィアノ
フィアーノ ディ アヴェッリーノ
フィアーノ ディ アヴェッリーノ


標高400mの畑より10月上旬に収穫。樹齢はおよそ35年。ステンレスタンクのみで発酵と熟成をおこなう。
試飲コメント:たいへん明るくて淡い金色の輝きがあり、はじめのミネラルな印象を覆うように青いパイナップルや蜂蜜の香りあり。口中で少し塩味を感じさせる。アフターテイストは熱いしっかりしたパンチ力がある。野菜のリゾットに合わせて楽しみたい。

まさにヴァディアペルティを代表するフィアノの上級キュヴェ
フィアーノ ディ アヴェッリーノ アイピエルティ
フィアーノ ディ アヴェッリーノ アイピエルティ


標高450mの畑から10月上旬に収穫される。ソフトプレスで収量を抑えステンレスタンクのみで発酵熟成をおこなう。
試飲コメント:色調はより淡く、輝きはとてもよい。青いリンゴやユーカリプタスの香りに干し草のニュアンスがある。よりミネラルがしっかりしている。若い。スライスしたバゲットにリンゴのスライスとカマンベールをチーズをのせたオートヴルなどに。

グレコらしさが存分に引き出され酸味とアーモンドのニュアンスが美しい
グレコ ディ トゥーフォ
グレコ ディ トゥーフォ


標高600mの畑から10月上旬に収穫。ステンレスタンクのみで発酵と熟成をおこなう。
試飲コメント:やや黄色味のトーンが強い淡い色調。果実の豊かさをたっぷりのミネラルが支えている。アフターの酸味がとてもよい切れを感じさせる。黒オリーブとチェリートマトを添えたカサゴのアクアパッツァに合いそう。

イルピニア人の誇りをかけたグレコの上級キュヴェ!Gambero Rosso 3 Bicchieri 実績
グレコ ディ トゥーフォ トルナンテ
グレコ ディ トゥーフォ トルナンテ


標高650mの畑から10月上旬に収穫され、ソフトプレスで収量を抑えてステンレスタンクのみで発酵と熟成をおこなう。
試飲コメント:淡い麦藁色の、輝きのよいレモンイエロー。熟した果実の香りがハーブと交ざり合い心地よい。厚めにカットした豚肉のソテーに、ピオーネと生クリームで軽く仕立てたソースを添えていただきたい。

ヴァディアペルティの転換点となったコーダ ディ ヴォルペ100%のイルピニアDOCトラマ
コーダ ディ ヴォルペ トラマ
コーダ ディ ヴォルペ トラマ


標高450mの畑から10月上旬に収穫。石灰質と砂岩の混じった土壌を意味する「トラマ」という名を冠した。
試飲コメント:白い小さな花や白桃の皮の香り。蜂蜜のニュアンス。硬質なミネラルと切れのよい酸がある。新鮮なモツァレラチーズに白桃をカットしてサラダ仕立てにしたものに合わせて。またはゴルゴンゾラチーズとくるみをのせて焼いたピッツァに百花の蜂蜜を添えて合わせたい。
インタビューを終えて
初めて日本に来たというラファエレ氏は、見た目のインパクトにそぐわないはにかんだ表情で朴訥に自社の説明を始めました。雄弁なマーケタータイプというより、ラボで黙々と試験管を並べている研究者のようなラファエレ氏。会社の説明からワインの解説になると次第にに顔の表情が明るくなりました。試飲も進み、質問に答えるうちにやっと打ち解けた様子で、最後に挨拶の盃を交わしたあとはひと息にグラスを空けてにこやかな笑顔をみせてくれました。地下深くから滋養を吸い上げ、長い熟成期間を経てゆっくりと開いてゆく彼のワインはその造り手の人柄を映しているような気がして、グラスの底にわずかに残ったワインを今一度、丁寧に飲み干したい気分になりました。ミネラルの効いたヴァディアペルティのワインで夏の英気を養いたいと思います。
ヴァディアペルティのワインはこちら⇒
突撃インタビューバックナンバーはこちら⇒