ピアチェンツァに根付く完全無添加の自然派「アンドレア チェルヴィーニ」

2025/03/11

2025/02/20

アンドレア チェルヴィーニ氏 Mr. Andrea Cervini、カロリーナ チェルヴィーニ氏 Ms. Carolina Cervini

徹底した長期マセラシオンが生む土地の個性と奥深い味わい!ピアチェンツァに根付く完全無添加の自然派「アンドレア チェルヴィーニ」

エミリア ロマーニャ州ピアチェンツァ県トラーヴォの造り手「アンドレア チェルヴィーニ」。多くの自然派が集うピアチェンツァにおける最年長の自然派ワイナリーで、自然を尊重した化学物質不使用のワイン造りを行っています。また、非常に長い時間をかけたマセラシオンを重視することで、土地やブドウの個性、深みのある壮大な味わいを最大限に引き出しています。今回は当主のアンドレア チェルヴィーニ氏とご息女カロリーナ チェルヴィーニ氏をお迎えして、お話を伺いました。

ピアチェンツァ・トレッビア渓谷に根差す完全無添加の自然派

――まずはワイナリーの説明からお願いいたします。

私たちはエミリア ロマーニャ州ピアチェンツァのトレッビア渓谷、トレッビア川沿いに拠点を置くワイナリーです。畑の栽培面積は全部で11ha、そのうち所有畑が4haです。ワインはすべてノンフィルターで造っており、畑から醸造まで化学物質は一切使用しません。完全に無添加です。

ピアチェンツァの自然派として屈指の経験を持つ最年長生産者
幼少期から家族とともにブドウ栽培に携わる私は、今やこのエリアの最年長生産者となりました。ピアチェンツァ周辺には自然派ワイナリーが点在し、トレッビア渓谷だけでも7社が存在します。この地域で最も歴史のある「ラ ストッパ」をはじめ、私と同時期にワイナリーを立ち上げた「カゼ」など。私は、この仲間たちとともに、ピアチェンツァのワインを世界に広めるために努力しています。

ピアチェンツァは小さな街ですが、古代ローマ時代に築かれた歴史的な場所です。エチケットに描かれるゾウのデザインは、この地域の歴史を反映しているものです。ここトレッビア川で、紀元前200年代に古代ローマとカルタゴの間で第二次ポエニ戦争が起こりました。その時に、ハンニバル(勝利を収めたカルタゴ側の将軍)が騎馬の代わりに乗っていたのがゾウだったのです。

「もはやピアチェンツァの土着品種」
200年以上根付くソーヴィニヨン ブラン&マルサンヌ

畑は石灰と粘土の混合土壌で、標高は200mです。栽培する品種は、所有畑ではバルベーラ、マルヴァジア、ボナルダ。借りている畑ではソーヴィニヨン ブランや少量のマルサンヌとオルトゥルーゴです。ソーヴィニヨンとマルサンヌがピアチェンツァに持ち込まれたのは、ナポレオンによるイタリア侵攻があった18世紀末のことです。

それ以来、200年以上にわたってこの地で栽培されてきたため、国際品種でありながら、もはやピアチェンツァの土着品種と呼べる存在です。この土地の気候と土壌を反映し、ソーヴィニヨンの香りはフランス・ロワール地方などと比べると控えめです。マルヴァジアやモスカートといった土着品種のほうがアロマティックさが際立ちますね。

「長期マセラシオンによる感動するようなワインを造りたい」

自然派ワイナリーが集結するピアチェンツァの特異性
――ピアチェンツァには、どのくらいの自然派ワイナリーがいるのでしょうか。また、なぜ自然派の方たちが根付くのでしょうか。

ピアチェンツァ県内だけでも約12社の自然派ワイナリーが存在します。他の地域では州全体でも5社程度しかない場所があることを考えると、このエリアにいかに自然派ワイナリーが集中しているかがわかります。その背景には、ブドウ栽培に適した恵まれた環境と、長期マセラシオンの伝統を受け継いできた歴史が大きく関係しています。

また、このように特定のエリアに自然派ワイナリーが集まる様相は、フリウリのスロヴェニア国境沿いの産地とも共通点があります。そこでは長期マセラシオンの伝統が根付き、グラヴネルやラディコン、プリンチッチなどが集結していますよね。

さらに、この地域は生物多様性が保たれていることも、ナチュラルなワイン造りを後押しする要因の1つです。自然派といっても造り手によってスタイルが異なりますが、それぞれが独自の哲学に基づき、自然なアプローチでワインを造り続けています。
ブドウの搾りかすを持って見せるアンドレア氏

ピアチェンツァで息づく長期マセラシオンの伝統
「ブドウの果皮こそが土地の個性を最もよく表す」

私は、ブドウの果皮こそが土地の個性を最もよく表すと考えています。だからこそ、長期マセラシオンを行うのです。実際にブドウを食べるとよくわかります。果汁とは別に、果皮だけを噛めばその品種の特徴がはっきりと感じられます。

長期マセラシオンは、ピアチェンツァに限らず、昔はどこでも行われていました。その後、技術が発展すると、シンプルに果汁を絞り出して(圧搾して)造られる美味しいワインが世界中に広まっていきました。しかし、あくまで私は、このピアチェンツァという土地で長期マセラシオンによる、感動するようなワインを造りたいと強く思っています。

フレッシュな酸と甘みが綺麗に調和するバルベーラ100%ロゼ

ポッジョ ロザート 2021

ポッジョ ロザート 2021

アンドレア氏:
「このロゼワインは、バルベーラ100%で造っています。私たちが唯一、長期マセラシオンはしていないワインで、品種や土地の個性が少し隠れているようなワインです。ですが、本来バルベーラが持つ酸と残糖が綺麗にあわさることで、素晴らしいバランスに仕上がっています」
試飲コメント:濃いサーモンピンク。注いだ瞬間に甘やかな香りが広がり、イチゴをかじったような印象にスパイスやシナモンのニュアンスが感じられます。口に含むと非常にフレッシュな酸と甘みが広がり、バランスに優れた余韻があります。

40日間のマセラシオン
旨みが広がるソーヴィニヨン100%オレンジワイン

ポッジョ ビアンコ ソーヴィニヨン 2022

ポッジョ ビアンコ ソーヴィニヨン 2022

アンドレア氏:
「もはやピアチェンツァの土着品種と言えるソーヴィニヨン100%で造るワインです。ソーヴィニヨンは、ナポレオンがイタリアを侵攻した18世紀末にピアチェンツァにもたらされたブドウ品種で、以来、200年以上栽培され、この地の気候と土壌に適応しました。フランスのロワール地方など他の地域と比べると控えめな香りが特徴です。このワインは、40日間のマセラシオンを行っています」
試飲コメント:ややにごりのある黄金色。少し煮詰めた黄色い果実の香りに、生姜のようなニュアンスが感じられます。柔らかな口当たりで、黄色い果実のコンポートを感じる味わい。ほどよくフレッシュな酸と苦味、そして後口には旨みが広がっていきます。

90日間のマセラシオン
アンドレア チェルヴィーニを世界に知らしめた大人気マルヴァジア

ポッジョ ビアンコ マルヴァジア 2021

ポッジョ ビアンコ マルヴァジア 2021

アンドレア氏:
「マルヴァジア ディ カンディア アロマティカ100%を約90日間マセラシオンをして造るワインです。アンドレア チェルヴィーニは、このマルヴァジアを通して世界中に知っていただけました。ジョージアやギリシャから運ばれてきたとされるマルヴァジアは、今日イタリアではあらゆる場所で栽培され、場所によって個性が異なります。私たちが位置する地中海側のマルヴァジアは、よりアロマティックさが際立っています」
試飲コメント:にごりのある茶色に近い黄金色。フレッシュな黄色い果実や、アンズやドライフルーツ、オレンジのニュアンスが感じられます。口当たりは柔らかいながらも鋭い酸があります。香り同様の要素が口中に広がり、甘みと酸が共存した、爽やかな味わいです。心地よいタンニン、生姜のような後味とともに酸が長く続きます。

しっかりとした酸と甘みが合わさる優しいバルベーラ

ポッジョ ロッソ 2018

ポッジョ ロッソ 2018

アンドレア氏:
「バルベーラ100%の赤ワインです。とてもしっかりと酸があります。この酸が、私たちのエリアでよく食される豚肉料理や、ローストしたコッパ(首の後ろから肩にかけての部位)の脂身と非常によく合います」
試飲コメント:ガーネット色。赤系果実と黒系果実のアルコール漬けのニュアンスを感じる熟成香。香りからも、しっかりとしたボディを感じます。縦に伸びる酸と甘みがあわさる優しい味わい。タンニンはわずかで、果実味と酸の余韻が長く持続します。

バルベーラとボナルダの個性が見事に調和する熟成赤ワイン

ヴィーノ デル ポッジョ ナヴェル 2013

ヴィーノ デル ポッジョ ナヴェル 2013

アンドレア氏:
「ナヴェルは、バルベーラとボナルダで造る赤ワインです。バルベーラの強い酸と野生味を和らげるために、力強いタンニンを持つボナルダを加えています。バルベーラは酸が強くタンニンが少ない品種で、ボナルダはその逆の特性を持ちます。この2つを組み合わせることでバランスの取れた味わいに仕上がります。ネッビオーロやサンジョヴェーゼのようなしっかりとしたワインを造るには、この地域ではバルベーラとボナルダのブレンドが最適です。ワイナリーによってセパージュが異なりますが、私は半分ずつで造っています。化学物質を使用していないので、ヴィンテージによって熟成過程が異なります。前回のヴィンテージで言えば、2011年よりも前に2012年がリリースされています。ボナルダのアグレッシブなタンニンが丸くなるまでに、たくさんの時間がかかってしまうのです」
試飲コメント:ガーネット色。熟成ヴィンテージながらも、チェルヴィーニのワインの中でも最もフルーティさを感じる香り。凝縮した赤系果実と黒系果実があり、果実の砂糖漬けのような甘みも感じられます。フルーティながらもぎゅっと詰まったような奥行きのある味わいで、タンニンと一緒に甘みのある果実味と酸が心地よく持続します。

メルロー&カベルネで造る飲み心地に優れた軽やかな赤ワイン

ヴィーノ デル ポッジョ MC 2020

ヴィーノ デル ポッジョ MC 2020

アンドレア氏:
「2018年に借りた畑に植えられていたメルローとカベルネを使った、最も新しい赤ワインです。もともとは白ブドウの収穫量を増やす目的で借りた畑で、国際品種のブドウを活かすつもりはありませんでしたが、試作で造ったワインの評判が良かったため本格的に造ることにしました。他の赤ワインに比べて、早くリリースされるシンプルなワインです」
試飲コメント:やや深みのあるガーネット色。明るく赤いベリー系果実にライチのようなニュアンスが混ざるエレガントでフレッシュな香り。味わいは香り同様で、ライチや赤系果実の軽やかで飲み心地の良さがあります。

インタビューを終えて

最初に試飲をしたロゼワインから美味しく、惹きつけられました。特にマルヴァジアとナヴェルが素晴らしかったです。90日間のマセラシオンをして造られるマルヴァジアは、凝縮感と爽やかさを兼ね備えた複雑な味わい。バルベーラとボナルダで造るナヴェルは、2013年ヴィンテージとは思えないほど生き生きとした味わい。フルーティさと奥行きのある風味に満たされました。

長期マセラシオンが根付き、多くの自然派ワイナリーが集まるという地域性の話も非常に興味深いものでした。土地やブドウ品種、他の生産者の動向など、インタビューを終えてからも次々と質問が浮かんでくる充実した時間となりました。