2018年5月16日 ヴィナイオータ 太田 久人氏
自然派ワインの先駆者「ヴィナイオータ」太田久人氏に聞く!
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ラ ビアンカーラ、マッサヴェッキア、フランクコーネッリッセン、ヴォドピーヴェッツ、カーゼコリーニらを始め綺羅星の自然派ワイン生産者を輸入するインポーター「ヴィナイオータ」さん。「自然派ワイン」というフレーズが無いに等しかった20年前から、情熱をもった造り手達を訪ね、ブドウ本来の豊かな味わいが詰まったナチュラルなワインを日本に紹介する先駆者的存在です。今回ヴィナイオータの太田 久人氏に歴史的農法を守り抜くトスカーナの自然派「パーチナ」を試飲しながら、太田氏とパーチナの出逢い、ワイナリーの歴史、生態系を尊重したパーチナのワイン造り、パーチナのこだわりが詰まった素晴らしいワインのエピソードについてお話を聞きました。
Part2ではパーチナのワインを試飲しながら、それぞれのワインの特徴とそれに寄り添う興味深いエピソードについて、太田氏にたっぷりとお話を聞きました。 |
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「パーチナの白は、僕がけしかけた事で産まれたワイン」 |
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試飲ワイン:パクナ ビアンコ(2014/2015)
実は売る予定の無いワインだった「パクナビアンコ」 元々彼らは甘口のヴィンサントを造っていた訳なんですが、ヴィンサントってブドウを陰干しするじゃないですか。ある意味「凝縮感」は否が応でも出てしまうので、だったらヴィンサントには樹齢が若いブドウ樹でもいいんじゃないかと考えるようになったんです。 「元々パーチナの白は、僕がけしかけた事で産まれたワイン」 Q.美味しいですね。豊かなコクがありますね。陰干しをしているのですか? 陰干しは一切していません。中身はトレッビアーノマルヴァージアの樹齢の古いブドウの2013、2014年がブレンドされているスペシャルキュヴェです。通常の白「チェッレッティーナ」と違うのは、ヴィンサント等を熟成させる80リットルくらいの小さな樽で熟成させたもので、酸化防止剤完全無添加でボトリングされています。2013年が揮発酸が高くなってしまった事、2014年が強い年ではなかった事の2つのヴィンテージの特徴を上手くブレンドする事で造られたワインです。より辛口に造る事で、ブドウそのものの情報量が多い方が良いのではないかという点でも造られています。 「トスカーナにサッサイア見つけた!」位の気持ちになりましたね(笑) 白ワイン「チェッレッティーナ」が、今や一瞬で無くなってしまう状況に Q.オレンジワインについて、なかなか形容しづらい部分もありますが? オレンジワインと言い始めたのはとあるアメリカ人、若しくはイギリス人という話です。オレンジワインで最も代表的な造り手をもし仮に挙げたとしたのなら、ヴィナイオータが扱っている生産者が幾つか出てくるとは思います。 それはラディコンであり、グラウヴネルであり、マッサヴェッキアでありと。しかし「オレンジワイン」という言葉は僕自身はあまり言葉として好きでは無くて、、、それこそヴィナイオータが扱う、とある生産者が言うには「白に女装した赤ワインだ」と。赤の特性を持った白ワインという事ですね。 「皮ごと発酵させた方がスムーズに醗酵が進む事も体感的に会得していったのではないかと」 ですけど、最初の段階でブドウを軽く足で潰して、桶の中で醗酵させると、ある程度醗酵が進むと、ブドウの皮もモロくフニャフニャになってきます。その後搾ろうと思ったら、結構搾れたんじゃないかと。多かれ少なかれ、とある期間の間ブドウの皮ごと浸っている状況は白ワインであれ赤ワインであれ、そうしていたんじゃないかと思うんですね。ワイン自体を安全な水分として考えた際に、出来る限り搾り取りたかったんじゃないかと。あと、皮ごと発酵させた方がスムーズに醗酵が進む事も体感的に会得していったのではないかと思うんですね。 |
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樽醗酵、樽熟成のロゼ「ラ ローザ」、艶やかな雰囲気「イル セコンド」 |
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試飲ワイン:ラ ローザ ディ パーチナ 2015
赤ワインのクオリティを維持する為に産まれたロゼ そのブドウをいつも通りに醸してしまえば、普段パーチナが持つ「凝縮感、タンニン」みたいなものが出来ないんじゃないかと。それで収穫したブドウをタンクに一晩入れて、タンク下のバルブを開けて、約1000リットル位のジュースを外に出しました。皮の量に対してジュースの量を減らしたことで、(フランスではセニエって言いますが、)皮の割合を高めようとしました。 樽醗酵、樽熟成でリリースされるロゼ Q.抜いたモストを樽で醗酵、熟成させるロゼはあまり聞いたことがありませんね。 赤ワインを造る為のちゃんと完熟させたブドウでロゼとして造っている それに対してパーチナのブドウは、赤ワインを造る為のちゃんと完熟させたブドウでロゼとして造っているので、他のロゼワインとは線が分かたれるポイントであると思います。ブドウが熟しているので尖った酸味とか一切ないですし、樽で醗酵しているので乳酸発酵も完全に終わっていて、とてもこなれた状態になっていますね。 Q.パーチナのロゼは一般的なロゼワインのイメージとは違いますね。 そうですね。私達が思う一般的なロゼのイメージっていったい何処から来ているのだろうと(笑) 全世界的に食事もライト化してきている傾向もあると思うので、ロゼがもてはやされてると思うのですが、まだ世の中に真っ当なロゼが少ないと思ってロゼを造る生産者もいると思います。ヴィナイオータが扱うモンタルチーノの「カンピ デ フォンテレンツァ」はいわゆるグリーンハーベストして、残したブドウ(ロッソ、ブルネッロ用)のテンションを上げる為に完熟前1ヶ月程で摘んだブドウを捨てるのも勿体ないので、自家用にロゼを造って残ったら売る、みたいな選択をする生産者もいます。イタリアが赤ワイン主体の歴史を持つ地である事も、新たにロゼワインを造る動きに関係しているとも言えますね。 試飲ワイン:イル セコンド 2014 パーチナ 飲ませてもらったら、すごく美味しくて。「これって何なの?」 それを飲ませてもらったら、すごく美味しくて。「これって何なの?」って聞いたら、当時キャンティ コッリ セネージを造る為に一番良い表現力を持った選りすぐりの区画のブドウでワインを造ろうと思った時に、それ以外のブドウで造ったワインは地元で量り売りしていたんですよ。僕がパーチナに行った当初はまだ量り売りをしていたんですが、その需要自体がすぼまっていっていた事、僕が強烈にリクエストした事もあって実現しました。イルセコンドという名前は2006、2007年頃から呼ばれるようになりました。 「ヒサト、ほんの少しの量ずつ始めようよ。それで問題がなければ徐々に増やしていこうよ」 「ヒサト、ほんの少しの量ずつ始めようよ。それで問題がなければ徐々に増やしていこうよ」で始まったイルセコンドですが、すごく評判が良くて。ある程度量も買うようになって日本の為に多くボトリングするようになったら、今度は他の国のインポーターも飛びついみたいで。パーチナも量り売りは一切止めて、イルセコンドのワインを毎年造るようになりました。 イルセコンドは今や殆ど単一ヴィンテージで造っています この価格帯でなかなか味わえない「艶やかな雰囲気」が既に出ているかと |
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ある区画のブドウだけが「ツヤツヤな綺麗なブドウ」を付けた「ヴィッラパーチナ」 |
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試飲ワイン:ヴィッラ パーチナ 2013
セメントタンクで醗酵、熟成後そのままノンフィルターでボトリング 2009年は物凄く暑い年で、夏がやたら乾燥して多くのブドウの樹が苦しんで干しブドウ的なワインが多くみられた年でした。パーチナもアルコール度数15%のあるようなワインが出来たんですね。パーチナの土地は太陽に恵まれていて、リッチなワインを産み出すエリアではあるんですが、ただ2009年はあまりにも暑さが強い年で、畑でもブドウの皮が既に乾燥が始まっている状態が多く見かけられた年でした。 物凄くストレスフルな年なのにとある区画のブドウだけが「ツヤツヤな綺麗なブドウ」を付けたんです Q.その区画はどのヴィンテージも同じ区画ですか? 2011、2013年は一緒の区画です。2009年は違っています。彼らは区画毎に収穫をします。大きな畑においてはブドウの熟度に見て何回も収獲を分けて行い収穫毎に仕込み樽が出来ます。その樽の状況から「イルセコンド」や「パーチナ」というようにキュヴェを分けていきます。 収穫して半年後のワインが持たないような「アダルトな雰囲気」が既にあった ブドウが健全な成長、醗酵、健全な熟成を経た時にだけ造られるワイン |
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2009ヴィンテージでDOCGの官能検査を落とされ独自の道を進む「パーチナ」 |
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試飲ワイン:パーチナ 2012
若干乾燥に苦しんだ2012年 「2009ヴィンテージでDOCGの官能検査を落とされてしまった」 「SO2を追加しなさい」と判断された 「どれだけ飲み手の事を考えてSO2をギリギリまで減らせるかを考えているのに・・・」 「郷土愛に満ちた彼らが敢えて郷土のワイン名を使わない。そこにどれだけの心の葛藤があったのかと」 そんな時、ジョヴァンナからこんなメールが来たんです。「ヒサト、DOCGから(脱退)出ようかと思っているんだけど、キャンティが付かない事で日本のマーケットでヒサトが売りに困ったりすることにならないか?」と。 「これは素晴らしいネタでしかない!有り難うと思いましたね!」 「ゾーンがワインを造るのではなく、人がワインを造る」 パーチナに関しては現在、2013、2014ヴィンテージが瓶内熟成中です。彼らは瓶に入れてより長く熟成させてからリリースした方がより味わいが柔らかくなると気づくようになったからかも知れません。大体2~3年の瓶熟後にリリースしています。2013年はパーチナとしては生産量が多かった年なので、売り切るまでの時間がかかった分、その後の2014年は更に遅いリリースとなります。熟成スペースに限りがある中でも、出来るだけ熟成させてからリリースさせる事を良しとするパーチナにとってはそれもまた良い事ではないかと。 Q.パーチナのような素晴らしいワイナリーが将来的にキャンティコッリセネージと名乗る事が出来たら本当に良い事ですね。 そうですね。そしてキャンティの世界って、どうしても「クラシコ」が付いた方が良いという「クラシコ至上主義」的な所があるじゃないですか。クラシコと比較して考えたとしても、パーチナがコッリセネージで自分たちの信じるワインを造っていた事はとても良い事だと思うんですね。 土地の「力」の表現力を追求していった時に行きついた。それが「ナチュラルなワイン造り」だった あと小さな事なんですが、パーチナが瓶詰めするボトルってあまり高くない瓶を使っているんです。ボトルを見てもらえれば解ると思うんですけど。当然のことながら、ボトルが重いってことは「ガラスの厚さがある」って事ですから、重量に比例して瓶価格が高くなります。彼らは味わいの内容の割に安い瓶を使っているのは「価格を抑えている」という部分もあると思います。ワインだけではなくボトルからも彼らの良心が感じられますね。 |
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唯一シラーを使う「ラ マレーナ」、そうそう現れない特別なワイン「パクナ ロッソ」 |
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試飲ワイン:ラ マレーナ 2013
パーチナで唯一植えている外来品種シラーを使っているワイン シラーに土着品種「チリエジョーロ」をブレンド 僕個人としてはシラー100%の時よりもチリエジョーロが入った方が、飲んでいてすごく楽しさを感じますね。ステンレスタンクないし、セメントタンクでの醗酵後、3週間~数ヶ月にわたるマセラシオン後、ステンレスないしセメントタンクに、もう一度戻し、乳酸発酵が終わったのを確認してから、木樽に入れて熟成後、瓶熟させてからリリースしています。白に関しては赤に比べ1年位ボトリングが早いですね。 Q.チリエジョーロは色はけっこう濃いですが柔らかい味わいがありますね その昔、キャンティに白ブドウを混ぜていた時代って、サンジョヴェーゼのアグレッシブさをソフトにする為に元々使われていました。それ位サンジョヴェーゼってタンニン質にとある「固さ」みたいなものがあって。補助品種がある事で比較的早い段階から飲み頃を迎えるようになるんだと思います。 ワインが「生活に根ざしたモノ」と考えた時に、早い段階で飲み頃を迎えるに越した事はなかった 試飲ワイン:パクナ ロッソ2011 一部ブドウの収穫を諦めてしまったほど困難を極めた2011年 パーチナは2011年のワインを造るにはものすごく選りすぐった「本当に完熟したブドウ」だけを使わなければなりませんでした。それでも「パーチナ」2011年はアルコール度数が15.5%もなってしまったんです。本当に干しブドウ化したブドウは「干しブドウ」として彼らは食べていたと言っていましたね。 樹齢の古い区画では「とあるフレッシュさを残した」不思議なブドウが生った 酵母が100%仕事をして限界まで糖分を食い切ったからこそ出来たワイン 「こういったワインはそうそう現れないと思いますね」 ある意味「2011ヴィンテージがプレゼントしてくれた」ものだと思うんです。 Q.パクナは2011年以前にも造られていたんですか? 2003年から「パクナ」というワインは少しずつ造られてはいたんですが、これまで造られた「パクナ」は2011年のような個性のあるワインではありませんでした。これまでの「パクナ」はパーチナとしてリリースされるワインの中で、とある樽が他のキュヴェと違った方向性を持っていて、その樽をもう少し時間を置いてリリースした方がいいんじゃないかという判断からマグナムボトルのみに詰めてリリースする事で始まったワインです。 2016年のパクナロッソは傑作!「トスカーナのカーゼコリーニ」 |
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■インタビューを終えて | ||||||||||
パーチナの素晴らしさをたっぷりと知る事が出来た素晴らしいインタビューとなりました。昨年2017年、11月にイベント「ヴィナイオッティマーナ」で来日したパーチナのジョヴァンナさん、娘のマリーアさんにお会いした時のお二人の温かい雰囲気、試飲した「ヴィッラ パーチナ」の素晴らしい風味と滑らかさが思い起こされました。
土地にストレスを与えないようにブドウ、農作物を有機的に栽培、その土地のテロワールを表したワインを造りながらもDOCGの官能検査で落とされてしまい、キャンティを名乗る事が出来ず、DOCGから抜けたエピソードを太田氏から改めてお聞きして、パーチナのような素晴らしいワイナリーこそ将来的にDOCGキャンティコッリセネージを名乗って欲しいと思いました。 それ(以前も)以降も、変わらず素晴らしいワインを造けているパーチナ。太田氏の「ゾーンがワインを造るのではなく、人がワインを造る」と話されていた事が印象に残りました。試飲した全てのワインからは一般的なキャンティのイメージをに明らかに超えた、緻密で滑らかな素晴らしい味わいがありました。「イルセコンド」はパーチナを知るにふさわしい抜群の飲み心地。「パーチナ」は果実感、香りの深みレベルは見事なもの。作為感のないブドウの飲み心地がありながらも、風味は絶大で心地よさが長く余韻に残ります。 トスカーナで素敵な家族が造る、温かくて深い味わいのワイン「パーチナ」。是非多くの方に日常の食事とゆっくりと楽しんでもらいたいワインです。 |
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自然派ワインの先駆者「ヴィナイオータ」太田久人氏に聞く自然派トスカーナ「パーチナ」Part2
2018/09/06