土着品種アンソニカを追求する新世代ワイナリー「フォルミケ」突撃インタビュー

2024/11/22

2024/10/22

ディラン ワレン氏 Mr. Dylan Warren

トスカーナ海岸沿いの土着品種アンソニカの新たな可能性を追求した白ワイン!4人の若き栽培家と醸造家が創業した新世代ワイナリー「フォルミケ」突撃インタビュー

2018年に創業したトスカーナ沿岸部の最南端DOCアンソニカ コスタ デッラルジェンタリオの造り手「フォルミケ」。友人同士である1人の栽培家と3人の醸造家が「一緒にワインを造ろう」と集まり、立ち上げられました。『Vinitaly』の若手生産者を応援する「Drink with Love」イベントでは、「新世代のワインメーカーを代表するワイン」と評価されています。彼らが注力するのは、土着品種「アンソニカ」。シチリアではインツォリアとして知られ、トスカーナやその近郊の島々の海岸沿いで古くから栽培されてきました。現在は、3.5haの畑で2種類の白ワインを生産しています。その味わいは「まさに海のアンソニカ」というように旨みと塩気が感じられます。そして、力強さと複雑性がありながらもクリーンでフレッシュ。そんな彼らが追求するアンソニカを試飲しながら、オーナー兼栽培家のディラン ワレン氏にお話を聞きました。

4人の若き仲間が創業した新世代ワイナリー
~理想の白ブドウ品種アンソニカを探し求めて~

1人の栽培家と3人の醸造家で結成、2018年に創業
――まずは、ワイナリーの成り立ちや哲学について教えてください。

今回は遠く離れた私たちに興味を持っていただき、ありがとうございます。フォルミケは、2018年に4人の友人同士で立ち上げたワイナリーです。私はアグロノモ(栽培家)として、他の3人はエノロゴ(醸造家)として、別々のワイナリーで働きながらこのプロジェクトを始めました。

私はトスカーナとラツィオで、他の3人はトスカーナでそれぞれ働いており、みんな1時間ほどの距離で活動しています。私も含めて、その場所でワイナリーを所有しているわけではありません。
創業者メンバー4人

シチリアからトスカーナ海岸沿いへと広がった土着品種アンソニカ
私たちはアンソニカという品種に注力しています。この品種は古代ギリシャ人がシチリアに持ち込み、そこからイタリア沿岸を通じてトスカーナへと広がりました。アンソニカはアロマティックでもないし、やや粗野な印象を持つ品種ですが、土地の個性を存分に表現する長年親しまれてきた品種です。

エレガンスと力強さを生む、海から数kmの理想的な畑を発見
私たちは、アンソニカが持つエレガントさと筋肉質な個性を表現できる畑を、2年間にわたり探していました。そして、最終的に辿り着いたのは海から数kmの樹齢30年以上の畑でした。砂質が多く軽やかな土壌が特徴です。見つけた当初は荒れた状態でしたが、手作業で剪定を行い、自分たちのスタイルに合わせた改良を施しました。

現在はアンソニカで造る白ワイン2種を生産
こうして、フォルミケは2019年に初めてワインをリリースして、造り手としての第一歩を踏み出しました。現在は、アンソニカ100%の白ワインを2種類造っています。畑は3.5haあり、年間生産量は約8000本から1万3000本です。今後も良い畑があれば、さらなる拡大を計画しています。
拠点を置くのは、ティレニア海沿いのDOC アンソニカ コスタ デッラルジェンタリオ(黄色エリア)

「まさに海のアンソニカを表現」
トスカーナ白の潜在能力を示すアンソニカの特性

――トスカーナで活躍されるメンバーのみなさんが、白ワインに注力する理由を教えてください。

トスカーナといえば赤ワインが中心と見られがちですが、私たちは「赤だけではない」というメッセージを込めて、当時見放されていたアンソニカを使った白ワインのポテンシャルを示したいと考えています。特に海岸沿いの暑くて乾燥した地域では、赤ワインは重たくなりがちです。そのため、この土地の特性に合ったアンソニカを選び、白ワインの新たな可能性を追求しています。

じっくりと時間をかけて成熟し、味わいを深める
また、「無名な品種」だということも魅力で、注力し始めた理由の1つです。アンソニカは乾燥した地域でよく育ち、晩熟で生育期間が長いため、ゆっくりと味わいを深めていきます。例えば、今年のアンソニカは10月7日に収穫しましたが、他の生産者の多くはシャルドネなどの白ブドウを8月に収穫していました。これほどの差がある品種なのです。

――アンソニカで影響を受けたワインや造り手はいますか?

もちろんいます。しかし、誰も知らないローカルな小規模生産者の自家用ワインです。彼らのワインをたくさん飲ませてもらい、多くの影響を受けています。この地域の伝統製法であるマセレーションを駆使したワインも造っていますが、なるべくアンソニカの個性を最大限に引き出すよう努めています。
(DOC アンソニカ コスタ デッラルジェンタリオはマセレーション無し)

旨みと塩気が感じられる生き生きとした味わい
今回試飲するアンソニカ コスタ デッラルジェンタリオは、アンソニカの特徴が見事に表れたワインです。バターのような風味が広がり、フィニッシュにかけて旨みと塩気が感じられます。まさに「海のアンソニカ」を表現しています。2022年は非常に暑い年でしたが、アンソニカはその暑さとうまく付き合いながらしっかりとした酸を保つことができるので、生き生きとした味わいが維持されています。

「一番純粋で綺麗な状態をワインに映し出す」
――自然派のアプローチでありながら、飲むとすごいクリーンな印象を受けます。このギャップも素晴らしいですね。

クリーンであることは、私たちが本質的にこだわる部分です。温度管理も行わない自然に任せた発酵で、SO2の使用量も極めて少量に抑えているため、正直言って不安定な面もあります。しかし、その中でも、一番純粋で綺麗な状態をワインに映し出すことを目指しています。あとは、もちろん私たち自身が好む味わいも大切にしています。

「飲むたびに新たな味わいが広がっていく」
――余韻も非常に長い一方で、アルコール度数が12.5%で飲み疲れしないですね。

特に醸造に気を配って、長い余韻がありながらも決して重たくなく、飲みやすいワインに仕上げています。と同時に、エレガントで複雑な味わいを求めています。じっくりと噛み締めながら、飲むたびに新たな味わいが広がっていく。そんなワインを造りたかったのです。

「まさに海のアンソニカ」
複雑性とエレガンスを兼ね備えたアンソニカ100%白ワイン

アンソニカ コスタ デッラ アルジェンタリオ

アンソニカ コスタ デッラ アルジェンタリオ

ディラン氏:
「アルジェンタリオは、収穫は3回に分けて行っています。最初の収穫は早めに行い、旧樽バリックで発酵させます。2回目と3回目の収穫分は、直接圧搾してステンレスタンクで発酵させています。最終的にそれらをアッセンブラージュ。このプロセスが、アルジェンタリオの独自の味わいを生み出しています。

バターのような味わいが特徴的で、フィニッシュにかけて旨みと塩気が感じられます。まさに海のアンソニカが表現されています。飲み疲れしにくいながらも、複雑味が感じられるエレガントなワインですね。2022年は非常に暑い年でありながら、アンソニカは酸をしっかりと保ち、生き生きとした味わいを保っています。一方、2023年は非常にフレッシュで、両年の違いが面白いと思っています。毎年同じワインができるわけではなく、その違いこそが私たちの哲学です。

ラベルデザインは友人のデザイナーが描いたものです。アンソニカは海との関係性が高いので、ミステリアスで知性的な海の生き物であるタコをラベルに採用しました。魚料理はもちろん、脂の多いチーズとの相性が良いです。ワインの酸味とミネラル感が、チーズの油分を洗い流す効果があります」

試飲コメント:深みのある黄金色。熟した黄色い果実や柑橘類、生姜、ミネラルを感じるフレッシュな香り。滑らかな口当たりながら、フレッシュで鋭い酸がやってきて、その後旨みと塩味が溶け合った余韻が持続します。非常にバランスの取れた味わいです。外観の印象とは異なり全体的に非常にクリーンで、下支えとなる旨みが果実味やミネラル感を引き立てています。

インタビューを終えて

トスカーナ州南部、マレンマ地区のDOCアンソニカ コスタ デッラルジェンタリオの造り手、フォルミケ。彼らのワインを試飲した時、さまざまなギャップに驚いたことを今でも鮮明に覚えています。外観は深い色合いで、香りは豊かで複雑。その一方で、口に含むと滑らかなテクスチャーと鋭い酸が調和し、クリーンでありながら豊かな旨みが広がる味わい。非常に印象的で、美味しかったです。「今ではイタリア全国津々浦々でワイン造りが行われ、注目されなかった土地でも素晴らしいワインが生まれるようになりました」と、先日インタビューしたばかりのバンフィ社の宮島義明さんの言葉を思い出しました。

今回お話を伺ったディランさんは、自身のアンソニカについて詳細かつ明確に解説してくださいました。その一方で、「フィードバックが欲しい」と私たちに感想を求め、その姿勢からは向上心に溢れる熱意を感じ取ることができました。また、「彼らの畑近く(トスカーナ沖)に浮かぶ小さな島々」をも意味する「フォルミケ」という名前からも、創業者たちの「この土地に根付いた偉大なアンソニカを造る」という強い覚悟が伝わってきました。