キャンティ コッリ セネージの造り手「ラ トッレ アッレ トルフェ」突撃インタビュー

2024/05/24

2024/05/10

ジャコモ マストレッタ氏 Mr. Giacomo Mastretta

偉大な醸造家ガンベッリ氏の弟子ジャコモ マストレッタ氏!
土壌本来の姿を映し出すキャンティ コッリ セネージ「ラ トッレ アッレ トルフェ」突撃インタビュー

ラ トッレ アッレ トルフェは、シエナ近郊のトルフェ村にある自然派ワイナリー。キャンティ コッリ セネージ地区に13ヘクタールのブドウ畑を所有し、その他にもオリーブ畑や森、宿泊施設など約100ヘクタールを所有しています。獣医である3代目当主マニア カステッリ氏をはじめ、植物学者、昆虫学者らとともに環境構築を目指した有機栽培を行っています。2018年に巨匠ジュリオ ガンベッリ氏の弟子であるジャコモ マストレッタ氏を醸造家として迎え入れました。彼が造るワインは、土壌由来だというタンニンとクリアな味わいが綺麗に表現されています。今回はそんなジャコモ氏をお招きしてお話を聞きました。

環境構築を掲げて有機栽培を行う
キャンティ コッリ セネージの自然派

シエナ中心街から5キロ北、キャンティ コッリ セネージに拠点を置く
――ボンジョルノ。まずはワイナリーの紹介をお願いします。

ボンジョルノ。私はラ トッレ アッレ トルフェの醸造家ジャコモ マストレッタです。ワイナリーの名前は、西暦785年にカール大帝の騎士トルフォ デイ グリッチがトルフェ村に建てた塔(トッレ)に由来しています。シエナを代表する中世の画家ロレンツェッティの絵画にも、このトルフェの塔が描かれています。

エリアはキャンティ コッリ セネージで、シエナからすぐ北に位置しているので、ほぼ街のワイナリーと言えますね。キャンティクラシコ地区の最南端ベラルデンガに近く、骨格に優れたワインが生まれます。

――それでいてクリアな味わいですよね。素晴らしい場所にあって、それがワインに表現されているのだろうと想像します。

ありがとうございます。とても良い場所ですよ(笑)。

獣医、植物学者、昆虫学者らと自然環境の構築を目指す有機栽培
1950年にカステッリ家がトルフェを取得し、現在は3代目マニア カステッリがワイナリーを手掛けています。獣医である彼女は多様な生物と共存できる環境作りを重視しており、13ヘクタールのブドウ畑を含めて、オリーブ園や耕作していない森など合計約100ヘクタールを所有しています。

2004年から有機栽培を始めました。ワイナリーには醸造家の私以外にブドウ栽培責任者はもちろん、植物学者や昆虫学者もいるので、あらゆる視点で有機栽培に取り組むことができています。(ブドウを栽培するだけでなく)包括的に行う環境構築がマニアとの共通理念となっています。

キャンティ補助品種の単一区画を初めて発見
私たちはキャンティ以外に補助品種のカナイオーロ、コロリーノ、チリエジョーロを単一品種ワインとして生産しています。それらの補助品種が区画ごとに植わっている畑を初めて見つけたトスカーナのワイナリーが私たちだったこともあり、好奇心が掻き立てられて単一品種で瓶詰めし始めました。

――単一品種シリーズはジャコモさんが始めたのですか?

私が始めました。それまでは全てキャンティ用として使っていました。最初は単体でワインとして成立するかわからなかったのですが、各品種の個性と品質が素晴らしくてとても満足しています。

国内外で経験を積み、偉大な醸造家の弟子として活躍
トルフェの哲学を体現する醸造家ジャコモ マストレッタ氏

イタリアで自然学、農学、醸造を学び、
唯一のイタリア人としてフランスの学校で勉学に励む

――改めてジャコモさんのご出身、ご経歴を教えてください。

カール大帝のような経歴はありませんよ(笑)。私はピエモンテ出身です。トリノとパルマで自然学と農学を学び、ピアチェンツァで醸造を学んだ後にフランスのシャプティエ社で1999年から働き始めました。シャプティエで知り合った女性がモンペリエの醸造学校に通っていたので、彼女の紹介で私もそこで3年間勉強しました。

――イタリア人の方がフランスの醸造学校に行くのは珍しいですよね。

珍しいです。当時在学するイタリア人は私だけでしたし、私が入学するまでは何年もイタリア人の学生はいなかったそうです。今となっては多くのイタリア人が通っていると思います。

世界各国のワイナリーで修行後、トスカーナで醸造家として活躍
2018年、ラ トッレ アッレ トルフェに参画

――フランスの後はどこに行かれたのですか?

オーストラリア、ニュージーランド、南米でワイナリー修業をしました。それからイタリアに戻り、テヌータ ラ マッサとラ ポルタ ディ ヴェルティーネで働きました。ナチュラルなワイン造りを重視するようになったのは、その頃からです。

そして、とある試飲会に行った時に偶然マニアと出会いました。彼女はすでに有機栽培を始めていて、さらに畑を活性化させたいと考えていた時でした。それは私の理想に近いということもあり、トルフェで働く意思を固めて、2018年に醸造家として参加しました。

巨匠ジュリオ ガンベッリ氏から得た醸造家としての自信
――ジュリオ ガンベッリさんと一緒に働いていたのはラ ポルタ ディ ヴェルティーネ時代ですか?

そうです。彼と一緒に働いた約3年間は私の財産となりました。私が何か新しいことにチャレンジしようとすると、「いいね。やってみたら?」と彼はいつも勇気づけてくれるんです。それが私の自信につながりました。

ある時は彼の事務所に呼んでいただき、彼がコンサルティングする偉大なワインをたくさん試飲させてもらいました。彼の説明を聞きながら試飲する時間はかけがえのないものでしたね。天才ギタリストのジミ ヘンドリックスと一緒に過ごしてるような感覚です(笑)。

美味しさと持続可能性を両立してこその自然派ワイン
他のコッリ セネージと一線を画す熟成ポテンシャル

――ジャコモさんが初めて自然派ワインに携わったのはいつですか?

まず、ビオディナミの先駆者であるフランソワ ブーシェがコンサルタントを務めていたシャプティエでの経験がスタートです。海外修行を終えてトスカーナで働き始めると、有機栽培の生産者と交流する機会が増え、徐々に興味を持つようになりました。

「自然派ワインとは理論上の考えだけでなく、より美味しいワインでなければならない」
自分自身が「有機栽培をしよう」と明確に決断したのではなく、様々な方と出会い、周囲で自然派ワインを好む人が増えていったので有機栽培を追い求めるようになりました。モンペリエやボーヌなど自然派が盛んな場所だけでなく、イタリアで初めて行われた自然派の試飲会にも足を運びました。

自然派ワインとは理論上の考えだけでなく、より美味しいワインでなければならないと考えています。持続可能性も大切ですが、私にとっては味わいが最も重要なのです。

リッチで熟成ポテンシャルを秘めるトルフェのコッリ セネージ
――ワイナリーが拠点を置くコッリ セネージの特徴について教えてください。

コッリ セネージは広いエリアで、モンタルチーノやモンテプルチアーノでも造ることができます。そのため、ブルネッロやノービレの生産者が造るキャンティ コッリ セネージはエントリーラインであることが多いです。

一方で、私たちトルフェは最上級のワインとして造っています。その辺りが飲み手の方々に混乱を与えていると思います。トルフェが拠点を置くのはキャンティクラシコ地区のベラルデンガにほど近く、リッチな味わいで熟成ポテンシャルを秘めたワインが生まれる優れた産地です。他のコッリ セネージとは場所も特徴も異なるということを知っていただきたいです。

ニューヨークタイムズ紙「オールシーズンで飲める20ドル以下のワイン20選」
キャンティ コッリ セネージが選出!

そのキャンティ コッリ セネージが、『ニューヨークタイムズ』2023年9月掲載の「オールシーズンで飲める20ドル以下のワイン20選」として紹介されました。それにより多くの方に知っていただきましたし、信頼を得ることになり大変満足しています。

野生的なタンニンが生まれる畑の個性を最大限に表現
私はこれまで醸造家として国内外のワイナリーで様々な土地を見てきました。それはもちろん重要な経験でしたが、その土地に対する理解を深め、土壌が持つ潜在力を最大限に表現することこそが大事だと考えています。

例えば、トルフェの畑は砂質土壌が多く、野生的なタンニンが生まれます。サンジョヴェーゼは土壌の個性が反映されやすいので、土壌や標高が異なるラ ポルタ ディ ヴェルティーネとは全く異なる個性が現れるのです。

そのため、土地の個性を反映すべく、なるべく栽培と醸造において介入しないように心がけています。都度ブドウ(やキュヴェ)の様子をチェックして、ブドウがなりたいように成熟、熟成していけるような手伝いをしています。

赤ワインの後に試飲するロゼに込められた想い

――試飲するのはキャンティ2種、単一品種シリーズ2種、ロゼワインの順です。最後にロゼワインを飲むのは何故ですか?

今は市場におけるロゼの認識が凝り固まっていると感じています。「ロゼワイン」という飲料の一つとして商業的に造られているものが多く見受けられます。そして、試飲会にロゼワインを出しても「ロゼではなく赤ワインを飲みたい」「自分は飲まないけど妻が飲む」などと言われることが多いんです。

私は2007年に初めてロゼワインを造ったのですが、私が造るロゼワインは飲み応えのある骨格とタンニンがあります。赤ワインと同じように自然酵母で温度管理もせずに造られたこのロゼを試飲会の最後に出せば、全員が飲んで新しい発見が生まれると思ったのです。

このロゼは他の赤ワインよりも抽出が少ない分、土壌由来の塩味をより感じやすいです。もちろん赤ワインからも感じ取れますので、まずはキャンティから試飲を始めていきましょう。

セメントタンク熟成!野生味溢れるタンニンと塩味が光るキャンティ コッリ セネージ

キャンティ コッリ セネージ

キャンティ コッリ セネージ

ジャコモ氏:
「2021年のキャンティ コッリ セネージです。この年は少しカナイオーロを入れていますが、年によって変えています。野生的なタンニンのテクスチャーが特徴です。それにより、何か食べた後に口中を洗い流してくれます。また、食欲をそそるような塩味がありますね。セメントのみで醸造しています。砂質土壌のサンジョヴェーゼが持つタンニンの表現をしたかったので、木樽を使わない判断をしました。繊細なサンジョヴェーゼの良さを表現できていると思っています」
試飲コメント:濃いルビー色。フレッシュかつ濃厚な香りがあります。黒系果実、甘草、スパイス、ハーブのトーン。口に含むと柔らかい口当たりで、香り同様の濃厚な風味が広がります。複雑ながら飲みやすさがあります。ほどよく主張するタンニンも相まって、長く持続する余韻に満たされます。

最も古い区画で造る栗樽熟成キャンティ リゼルヴァ

キャンティ コッリ セネージ リゼルヴァ

キャンティ コッリ セネージ リゼルヴァ

ジャコモ氏:
「リゼルヴァはトルフェの中で最も古い2ヘクタールの区画で造っています。主に砂質土壌でありながら、キャンティの区画と比べて粘土質の割合が高いです。マセラシオンも長く行っています。ぜひ食事と一緒にお楽しみいただきたいワインですね。私がワイナリーに参画してから、リゼルヴァの熟成に栗樽を使用しています。産業的なものではなく、ラツィオの職人が一人で造っている1000リットルの樽です。ワインと一体化した穏やかな印象を与えてくれる栗樽の選択には大変満足しています」
試飲コメント:やや濃いルビー色。明るい赤系果実と少しの黒系果実の香り。柔らかい口当たりで、濃厚かつエレガントな味わいです。キャンティ コッリ セネージよりもタンニンは繊細で、果実感と綺麗に溶け合っている印象です。

華やかさと柔らかさを兼ね備えるカナイオーロ100%赤ワイン

カナイオーロ

カナイオーロ

ジャコモ氏:
「キャンティの補助品種カナイオーロ単一で造るワインです。カナイオーロは華やかで非常に柔らかい味わいを持っています。サンジョヴェーゼ100%で造るワインと比べて、よりなめらかな印象を与えてくれます。生産本数は最大で5000本程度です」
試飲コメント:ルビー色。主には赤系果実と黒系果実のフレッシュな香り。凝縮果実、花、ハーブ、メンソールなども感じる複雑かつチャーミングな香りも感じます。旨みと凝縮感のある目の詰まった風味の余韻が長く持続します。

上品な果実感とハーブ、スパイスが漂うコロリーノ100%赤ワイン

コロリーノ トスカーナ ロッソ

コロリーノ トスカーナ ロッソ

ジャコモ氏:
「キャンティの補助品種コロリーノ単一で造るワインです。コロリーノは、サンジョヴェーゼに色を加える目的で使われる品種です。黒胡椒のようなスパイス感が特徴的です。パンフォルテというお菓子を思わせるアニスのようなニュアンスもあります。生産本数は畑が小さいので1000本程度と少量です」
試飲コメント:ルビー色に近い紫色。上品な果実感とハーブを感じる涼しげで香り高いアロマ。香りで感じたフルーティさと繊細な味わいがあります。甘草や黒胡椒などのスパイスの後口。

季節を問わずに楽しめる優れた骨格を持つロゼワイン

トスカーナ ロザート ルネッラ

トスカーナ ロザート ルネッラ

ジャコモ氏:
「いつも試飲会で最後に試飲するのが、このロゼワインです。やや高めの温度で飲んでいただくのがベストだと考えています(白ワイン用セラーから出して2時間後に試飲)。そのくらいのほうが土壌由来の塩味をよく感じていただけます。赤ワインと全く同じように自然酵母で温度管理せずに造っているので、ワインらしい味わいに仕上がっています。通常、ロゼワインは春に飲むことが多いですが、前職のワイナリーで造ったロゼワインが秋に飲むロゼワインとしてニューヨークタイムズに紹介されたことがあります。このトルフェのロゼも、リリース直後だけでなく何年後でも(いつでも)楽しめるようなロゼワインとして造っています。以前は一部バリックを使用していましたが、今はセメントとステンレスで造っています」
試飲コメント:濃い玉ねぎの皮色。イチゴのような赤系果実の力強く香ばしい香り。力強さがありながら、飲み口は柔らかくフレッシュな酸が口中を駆け上がります。優れた骨格の上に、旨みとミネラル感が溶け合う複雑で綺麗な余韻が持続します。

インタビューを終えて

「サンジョヴェーゼを造るピエモンテ人として、酸とタンニンは大事」「自分の好みを醸造に介入させたくない」「ブドウがなりたいように成長させる」と話されていたのが印象的でした。

その言葉通り、どのワインも一貫してクリアな味わいとタンニンが調和していて素晴らしかったです。区画が異なるキャンティとリゼルヴァに関してはタンニンの感じ方が異なっていて、区画や熟成容器の違いも堪能することができました。これがジャコモさんの言われる「土壌の個性をそのまま反映させる」という哲学なのだと感じました。

最後に試飲したロゼは、他のロゼとは一線を画す味わいでした。一般的なロゼより若干高い温度で飲みましたが、力強く複雑で圧倒される風味です。それでいて柔らかくフレッシュな酸があり、綺麗な余韻がいつまでも続いていくようでした。