シャトージスクールの醸造技術が融合!スーパータスカンの新世代「カイアロッサ」突撃インタビュー

2023/11/17
突撃インタビュー
 
2023年10月13日 ダニエレ パッリ氏 Mr. Daniele Parri

美しい調和を奏でる多品種ブレンドの美学!ボルゲリを見下ろす丘陵地帯とシャトージスクールの醸造技術が融合したスーパータスカンの新世代「カイアロッサ」突撃インタビュー

トスカーナ州西海岸沿い、世界的有名産地ボルゲリのすぐ北の丘陵地「リパルベッラ」に拠点を置く「カイアロッサ」。平地のボルゲリにはない「高標高」がもたらす冷涼感、類を見ないほどの「多品種ブレンド」、創業当初から貫く「ビオディナミ農法」。カイアロッサは、それらの特性を最大限に引き出して、力強さとフレッシュさが絶妙に調和したワインを生産しています。今回お招きをした輸出マネージャーのダニエレ パッリ氏は、「スーパータスカンのエリアにありながら、他にはできないワインを生み出しています。カイアロッサはスーパータスカンの新世代」と話します。同氏にワイナリーの歴史や哲学、ワインの個性などについてお話を聞きました。

ティレニア海とボルゲリを見下ろす丘陵地帯!
ジスクールが所有するスーパータスカンの新世代「カイアロッサ」

――それでは、ワイナリーのご紹介からお願いします。


パッリ カイアロッサは、トスカーナの沿岸部リパルベッラという街にあるワイナリーです。有名産地ボルゲリからほど近い、標高200メートル以上の丘陵地帯に位置しています。今から約20年前にワイナリープロジェクトが始まり、2003年にファーストヴィンテージがリリースされました。

もともとカイアロッサは、とあるベルギーの方が所有していたものでした。バカンスで訪れた創業者がこの地に惚れ込み、土地を購入したのが始まりでした。当時はブドウ畑がほとんどなく、ゼロからのスタートでした。その後、2004年にシャトー ジスクールのオーナーであるアルバダ イエルヘルスマ氏がカイアロッサを取得し、前所有者のプロジェクトを引き継いだのです。

――フランスの生産者がイタリアに進出するのはあまり聞いたことがないですよね。

パッリ そうですね。彼はフランスのワイナリーのオーナーですが、オランダ人ですからね。リパルベッラは海に近く、白ワインが造れることも進出する大きな要素となりました。ジスクール関連のイベント時には、カイアロッサの白、ジスクールのロゼ、両社の赤を出しています。数年前のVinitalyでは両社のワインを出展しました。

風水によってデザインされたカンティーナ

パッリ カンティーナは、風水を参考にしてデザインされています。ワイナリー名に「ロッサ(赤)」と入っていますが、建物の壁を赤くすることにより、空の青や自然の緑とのコントラストを表現しています。大きな窓から日光をより取り入れるために建物の中は黄色に統一しています。

――創業者の方が風水を取り入れて最初に建設したということですね。

パッリ そうです。また、自然溢れる環境を気に入ってカンティーナの建設を決めたそうです。リパルベッラには私たち以外に7つのワイナリーしかなく、動物や森に囲まれた場所なのです。

ボルゲリの地中海性気候と標高の高さを有する「リパルベッラ」

パッリ カイアロッサのワインは、リパルベッラの特徴である標高の高さと、地中海性気候の特徴が表れています。ボルゲリ近郊かつ力強い味わいというスーパータスカンの個性を持つと同時に、地中海性ブドウ品種(シラーやアリカンテなど)や冷涼感によって、フレッシュさも感じるワインに仕上がっています。

スーパータスカンのエリアでは類を見ないワインを生み出すという意味では、カイアロッサはスーパータスカンの新世代です。地中海(mediterranean)とスーパータスカンを組み合わせた「メディタスカン」の造り手とも言えます。

「標高の高さ」「日照条件」「海からの風」
地形と気候に恵まれた丘陵地帯で栽培する多品種ブドウ

合計30ヘクタール、3つの所有畑で多数品種を栽培

パッリ 所有畑は3箇所あります。カンティーナがある標高225メートルのセッラ アッローリオ、やや低いレ ラーメ、標高400メートルの新しい畑のノコリーノです。現時点では合計30ヘクタールの広さですが、数年後に38ヘクタールに拡大する予定です。

リパルベッラは海からだんだんと標高が高くなる丘陵地帯で、距離が近く平地のボルゲリとの大きな違いは、標高の高さにあります。昼夜の温度差があり、雨や湿度を乾かすティレニア海からの風によって、健康的なブドウの栽培を可能にしています。海から反射する太陽の光も当たるので、全ての畑が日照条件に優れています。

カイアロッサでは多くの品種を栽培しています。トスカーナ沿岸部で栽培されるボルドー系品種のカベルネ ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ フラン、プティヴェルド。地中海沿岸で栽培されるシラー、アリカンテ(グルナッシュ)。トスカーナの主要品種サンジョヴェーゼも栽培しています。各区画の土壌に最適な品種を多く植えています。

セッラ アッローリオの畑

 

数%の差が大きな違いを生む絶妙なセパージュ
カイアロッサの独自性を映し出すブレンドの美学

創業当初から貫き続ける多品種セパージュ

――カイアロッサのワインは多くの品種を組み合わせて造られているので、セパージュを決めるのも大変ですよね。

パッリ そうなんです。まず、47区画に分けられた畑から約50種のサンプルを造ります。カベルネフランだけでも5種類のサンプルが存在しており、それらのサンプルから各ワインのセパージュを決めていきます。

――何種類もの品種で構成されるワインを造る上で、細かく丁寧にブレンドを決めるんですよね。

パッリ その通りです。「ペルゴライア」は、80%前後のサンジョヴェーゼをベースにカベルネ ソーヴィニョンとメルローを加えていくのですが、他のワインの場合はより複雑な組み合わせになります。「アーリア ディ カイアロッサ」は5品種、「カイアロッサ」は7品種のブレンドです。比率が数%変わっただけでも大きく味が変わってしまいます。

左からペルゴライア、アーリア ディ カイアロッサ、カイアロッサ

モザイク状に異なる畑の個性を融合させる綿密なブレンド

――創業時から、これほど多くの品種を植えていたのですか?

パッリ 最初からですね。

――最初からはすごいですね。ちなみに、サンジョヴェーゼ100%など単一で造ることはしないのですか?(笑)

パッリ ノー(笑)。単一のほうが生産も説明も容易だと思います。しかし、カイアロッサは流行やトレンドには左右されない独自のスタイルを貫く造り手です。モザイク状に異なる畑に植えられた品種の特徴を鮮明に抽出し、カイアロッサにとって重要な要素である「調和の取れた味わい」を生むためには、様々な品種を綿密にブレンドする必要があると考えています。

しかし、唯一「エッセンツィア」という、優れた年にだけ1~2種で造るワインがあります(マグナムボトル限定)。昨日ご参加いただいたディナーで飲みましたよね。イタリアでもリリースされていない、世界で初めて開けたプティヴェルド100%のワインです。そのため、もしかしたら単一で(定期的に)造る可能性はあるかもしれません(笑)。

――大変美味しかったです。ブレンドは、いつどのように行っているか教えてください。

パッリ カイアロッサ社のエノロゴが2人、ジスクールのコンサルタントが2人、両社のGMの計5人が意見交換をして決めています。2、3日かけて行い、意見が分かれた場合はGMが最終決定をします。マロラクティック発酵をした後に、その年の樽熟成を経た後の味を想像して、カイアロッサのスタイルを表現するセパージュを決めます。

多品種ブレンドこそカイアロッサ最大の個性

――マロラクティック発酵のあとにブレンド比率を決めてしまうということですか?

パッリ そうです。ボルドーのノウハウをトスカーナに持ち込み、2018年からこのタイミングで行うようになりました。ブレンドを早めに行うことで各品種の個性がうまく融合し、一つの完成されたワインに仕上がります。

――ブレンドはフランス的な発想から来るものだと思いますが、これだけ多くの品種をブレンドするワインはフランスでもないですよね。

パッリ とても珍しいです。

――複雑に絡み合う多数品種を綿密に組み合わせているからこそ生まれるカイアロッサのオリジナリティがあるんですね。創業当初から一貫したスタイルということを考えると、やはり単一品種で造らないほうがいいですね(笑)。ブレンドこそが最大の個性であると。

パッリ その通りです!(笑)

創業当初から取り組むビオディナミ農法でクリーンネスを表現

――創業時からビオディナミなのですか?

パッリ そうです。畑では最初からビオディナミとビオロジック農法に取り組んでおり、両方とも認証を取得しています。創業当初、そういった考えを持つ生産者は多くありませんでした。現オーナーがワイナリーを引き継いだ時にビオを継続しないという選択肢もありました。しかし、何十年もの先の将来を見越し継続したことで、現在のカイアロッサの地位を築けたと思います。

――ジスクールでも、ビオディナミ農法を行っているのですか?

パッリ ビオディナミではありません。イタリアの気候はビオディナミに向いているんです。ジスクールの周りには、非常に大きい公園があり動物を放し飼いにしていたり、自然に溢れているという点では共通していますね。

豊かな自然を循環させるビオディナミ農法

――実際に行っているビオディナミ農法を教えてください。

パッリ 畑ではプレパラシオン(※)500と501をメインに使用します。牛の角の中に牛のフンを詰めた「500」を土の中に入れ、動物の堆肥など土の養分を水で溶いた「501」を霧状にして散布しています。畑と自然を一体化させるという意味で、もともと土中にあったものを上から散布して自然を循環させています。

※天然成分からなる農園散布用の調合剤

剪定したブドウやブドウ皮、カスも肥料と混ぜて畑に戻しています。また、様々な種も植えています。多種多様な草を生やすことで様々な養分を生み出すことができるんです。ブドウの生育にも非常に重要な要素となります。満月の時に収穫をするといったことはしていません。

ビオディナミ農法で表現するバランスに優れたクリーンな味わい

パッリ 私たちは創業時からビオディナミに取り組んでいますが、伝統的なスタイルも貫き続ける造り手です。そして、「クリーンネス」も大きな理念の一つです。自然的なアプローチで造り、ワインに欠点は出さず、ハーモニーを奏でるクリーンな香りと味わいを表現しています。

――ワインはビオディナミであることを忘れてしまうくらいクラシックでありながら綺麗な味わいですね。

パッリ ありがとうございます。それはまさに私たちが実現したいことです。みなさんにお届けしたいワインは、ビオディナミのワインではなく、美味しいワインであるということです。

まだまだ品質向上が見込める若い樹齢の畑

――最初の創業者の頃から、ビオディナミで多数の品種を複雑にブレンドするというスタイルだったのですか?

パッリ 創業者の時代はワインをリリースすることなくワイナリーを譲渡したのでわかりませんが、現オーナーは取得時からずっとテイスティングを重ね、このスタイルを築き上げてきました。ボルドーでの経験があったから実現できたスタイルですね。

カイアロッサを取得した時の畑は、まだ赤ちゃんくらいの樹齢でした。あれから20年ほど経ちましたが、それでもまだ20年と若いです。樹齢を重ねてもっともっと高品質になったブドウを用いて、一貫したスタイルでワインを造っていきます。

樽熟成シャルドネ&セメント熟成ヴィオニエで造る長期熟成力を秘めた白
カイアロッサ ビアンコ トスカーナ 2020
カイアロッサ ビアンコ トスカーナ 2020


パッリ氏
「シャルドネとヴィオニエを使用した白ワインです。トスカーナ沿岸部のワイナリーは、ソーヴィニヨン ブランとヴェルメンティーノを使用することが多いので、少しユニークな白ワインと言えますね。シャルドネは樽で、ヴィオニエはセメントタンクで発酵と熟成を行います。シャルドネからは力強さと骨格、ヴィオニエからはフレッシュさとミネラルが引き出されます。その骨格とミネラルの影響で長期熟成ポテンシャルを秘めたワインに仕上がります。数年経ってもまだまだフレッシュがあり、これからもっともっと寝かせられます。海由来の塩味も感じると思います」
試飲コメント:輝く麦わら色。グレープフルーツのようなジューシーな白い果実の香り。火打石のようなミネラルもあります。まろやかな口当たりで、香りで感じたジューシーな白い果実感が口中に広がります。クリーンでエレガントな印象で、綺麗な酸が長く持続します。

スーパータスカンの新世代が造るサンジョヴェーゼ主体のエントリー赤
ペルゴライア トスカーナ 2019
ペルゴライア トスカーナ 2019


パッリ氏
「ペルゴライアは、私たちの赤ワインのイントロダクションに優れた1本だと言えます。トスカーナを感じていただけると思います。海近くで栽培されたのサンジョヴェーゼ80%に、カベルネ ソーヴィニヨンとメルローが加わります。丸みと骨格を兼ね備えたワインです。親しみやすい赤ですが、余韻も長く骨格もあります。赤い果実、フローラル、スパイスの香り。様々な料理と合わせることができます」
試飲コメント:ルビー色。赤いベリー、スミレの花の親やすい香り。奥のほうに黒い果実も感じます。まろやかで軽やかな口当たりで、果実味、酸、スパイス、タンニンが全て中程度に調和しています。ほどよいタンニンがじわじわと持続する余韻を演出します。

凝縮感と冷涼感が絶妙に調和する5品種ブレンドのスーパータスカン
アーリア ディ カイアロッサ 2019
アーリア ディ カイアロッサ 2019


パッリ氏
「アーリアは、一番標高の高いノコリーノの畑のブドウだけを使用しています。(エントリーの)ペルゴライアより骨格や濃厚さがあります。5品種を使用しています。ボルドー品種以外に、地中海ブドウを加えて冷涼な雰囲気が出るようにしています。リパルベッラの特徴である標高の高さ、地中海性気候の特徴を感じていただけると思います。スーパータスカンでありながら、フレッシュさも同時に感じることができると思います」
試飲コメント:ルビー色。力強く複雑な香り。赤い果実と黒い果実のやや凝縮した要素と、樽由来の甘やかさとバターのようなオイリーさが絶妙にバランスよくまとまっています。味わいは香り同様に各要素が見事に調和し、奥行きと冷涼感ある味わいがあります。タンニンもほどよく果実味を引き立て、エレガントな余韻が持続します。

7つの品種が奏でるハーモニー!
他のスーパータスカンにはない個性が表現された濃厚かつ清らかな逸品
カイアロッサ 2016
カイアロッサ 2016


パッリ氏
「ワイナリー名を冠したカイアロッサは、7つの品種をうまく凝縮させて生まれた新しいスタイルの赤ワインです。それらの品種をバランスよく調和させることが重要です。凝縮した赤い果実とバルサミコのニュアンスを感じる、軽やかで複雑な香り。タンニンはしっかりありますが、滑らかでフレッシュさが特徴です。スーパータスカンのエリアにありながら、他の場所ではできないワインを表現しています」
試飲コメント:ややガーネットよりのルビー色。凝縮した赤い果実と黒い果実、ドライフルーツ、ドライフラワー、トマトの葉など、力強く複雑でありながらエレガントば香り。バルサミコ、黒胡椒、青っぽい印象もあります。香り同様の統一感ある味わい。樽由来のバターのニュアンスが他の要素と綺麗に絡み合い、エレガントかつ上品な味わいです。黒胡椒のニュアンスが加わった余韻が持続します。
インタビューを終えて
「高標高」「多品種ブレンド」「ビオディナミ農法」が融合したスーパータスカンの新世代「カイアロッサ」。

その3つの特性が引き出されていることが、今回のお話と試飲したワインによって非常によく理解できました。特に、綿密にブレンドした多品種の調和に驚きました。どのワインも決して何かの要素が突出し過ぎることなく、味わいの各要素が綺麗に馴染んでいます。「美味しいです…」と自然と声が出てしまうほど美しかったです。

数%単位の多品種セパージュで、この美しさとバランス感を表現するのは並大抵のことではないだろうと思います。「単一のほうが生産も説明も容易。トレンドには左右されない独自のスタイルを貫く」という言葉に強い信念を感じました。

力強さと冷涼感の融合もカイアロッサの特徴の一つです。「リパルベッラの特徴である標高の高さと、地中海性気候の特徴が表れています」と話されるように、ボルゲリにはない個性を強く感じました。それでいて、赤ワインはグレード分けをせず全て並行に扱っているそうで、赤ワイン3種は見事に個性が分かれていました。赤ワイン3種を飲み比べて、その違いをお楽しみいただきたいです。

また、所有する若い畑はこれから樹齢を重ねてどんどん品質が向上していきます。これ以上に複雑で美しいワインが生まれるのかと想像するとワクワクしてしまいました。今後のカイアロッサから目が離せません。

スーパータスカンの新世代「カイアロッサ」をぜひご堪能ください。

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