ピエモンテの次世代を担うニューウェーブ!新星「ムステラ」

2018/05/24
突撃インタビュー
 
2018年2月16日 株式会社モトックス 市橋 孝浩氏

「イタリアワインの達人」市橋氏が発掘したピエモンテの次世代を担うニューウェーブ!
土着品種×国際品種の異色ブレンドへ挑戦する新星「ムステラ」

ジュリアーノ イウオリオ氏
バローロ、バルバレスコで名高い伝統的なワイン産地、ピエモンテでは従来の保守的なスタンスから、世代交代により、他の生産者とコミュニケーションを取り活発な意見交換を行なう等、柔軟な考え方をもつ若い醸造家が増えてきています。ムステラは、父から受け継いだトレッツォ ティネッラ村の畑で伝統的品種に捉われずに、土着品種に国際品種をブレンドしたり、異なるブドウを全て一緒に混醸する等、唯一無二とも言える独創的発想と注意深い栽培哲学で注目を集める生産者です。
イタリア現地でワイナリーに赴き、試飲を重ね、綺羅星の実力を持つ新世代ワインを発掘している「イタリアワインの達人」市橋孝浩氏にピエモンテ若手ニューウェーブの実力派「ムステラ」についてお話を聞きました。

「イタリアワインの達人」市橋 孝浩氏

市橋氏大画像イタリアワイン好きから絶大な支持を得る「イタリアワインの達人」市橋氏
本場イタリアで伊ソムリエ協会認定ソムリエを取得し、日本ではワインスクール「アカデミー デュ ヴァン」でイタリアワインの講師も務める、「イタリアワインの達人」。

彼の情熱的なトークと関西出身の明るい人柄はファンが非常に多く、イタリアワイン好きから絶大な支持を得ています。

イタリアに情熱を注ぎ、イタリア文化とイタリアワインの魅力について熱く語る市橋氏はイタリアに毎年のように足を運び、生産者からの信頼も絶大です。

ピエモンテの次世代を担うニューウェーブ!独創的発想のジュリアーノ氏

地図

バルバレスコに程近いトレッツォ ティネッラ村に1978年に設立
「ムステラ」はバルバレスコに程近いトレッツォ ティネッラ村に1978年に設立したワイナリーです。元々は栽培農家で、モスカート ビアンコ種に特化し、「モスカートダスティ」で有名になったワイナリーで、赤白は主に地元民を対象に量り売り販売していました。2代目に代わり徐々に別の品種にも着手。2003年には自社にて醸造と瓶詰めを行なうようになります。

ピエモンテの次世代を担うニューウェーブ!独創的発想のジュリアーノ氏

2003年からワイナリーで働くようになったワイナリー2代目、1981年生まれのジュリアーノ イウオリオ氏は土着品種に国際品種をブレンドしたり、異なるブドウを全て一緒に混醸する等、ジュリアーノに代替わりしてムステラはモスカートダスティ以外にも独創的発想で新しい事にチャレンジしてきました。

ジュリアーノ氏強いパッションを持つ男、「自己流」ジュリアーノ氏
イウオリオ氏を一言でいうと、まさに「自己流」。所有する畑の半分はバルバレスコというのに、DOCGバルバレスコのワインは一切リリースせず、完熟白ブドウに黒ブドウを混醸して造るDOCランゲ「ジョヴィネ」等、斬新でアウトサイドな考え方をもち、ワイナリーに新しい息吹を投入した挑戦者です。「他と同じ」を嫌いウニコ(唯一)という言葉をよく使い、自らのスタイルを貫く強いパッションを持ち、そして、とにかくしゃべりだしたら止まらない情熱的な性格の持ち主です。

 

「やっている事が全部面白い!」

カンティーナ減農薬による「リュットレゾネ」を採用
農薬も基本的には撒かない方針(雨が多い年はブドウ畑のケアが必要である為、ビオロジックなどの認証は取りに行かない)です。葡萄の株間及び畝間には雑草が生い茂っていますが、オーナーのジュリアーノ氏曰く「雑草が伸びているということはブドウ畑自身がしっかりと生きている証拠」と後世に渡すことが出来る健康的な畑を維持しています。

特にこだわりだと言うのが、完熟ブドウを得るためにブドウが日陰にならないように畝の間隔、植樹率を見事にコントロールしている事。一見シンプルな事のようですが、標高、斜面の位置、生育具合を個別かつ的確に把握してこそ出来る難業だとか。どれだけ注意深く畑仕事を行っているかが伺えるムステラならではのエピソードです。

まず収穫を迎えるのはスプマンテ用のピノ ネロとシャルドネ、8月中旬、その後モスカート→ソーヴィニョン ブラン→シャルドネ(スティルワイン用)→ドルチェット→ピノ ネロ(スティルワイン用)→バルベーラ→ネッビオーロの順となります。最終のネッビオーロ種は(ヴィンテージによって異なりますが)だいたい10月中旬から下旬に収穫を行います。収穫はスピードを重視し、すぐにワイナリーへ運び、収穫は朝早く太陽が昇る前の早朝に行うこともあります。

市橋氏説明「やっている事が全部面白い!」
私が「ムステラ」のワインを飲んで一番に感じるのが、「やっている事が全部面白い!」という事ですね。普通の考えであれば、バルバレスコの畑を持っていたらネッビオーロを植えて、バルバレスコを造るのが極当たり前だと思うのですが、ムステラはバルバレスコとして名乗れる畑の一番標高の高い所にピノネロ、中腹にネッビオーロ、下部にバルベーラを植えています。

樽の風味が出過ぎないように試飲を欠かさない
使用するバリックは製造業者や産地、焼き方などを変えてワインに複雑性を加えています。ムステラではあまり新樽を多くすることはしません。(新樽率が高いと、ブドウの風味を消してしまうという観点から)ジュリアーノ氏曰く、熟成は「ワインの口当たりを柔らかくすることが主な目的」と語ります。

「ブレンドではなく、混醸」
複数品種で造られるランゲ・ビアンコ ジョヴィネとランゲ・ロッソ ミルズについては混醸を行っています。品種ごとの発酵・熟成で瓶詰め前に「ブレンド」する手法ではなく、複数の品種を同時に醸造させる手法を混醸と言い、両ワインではこの手法を取り入れています。

ジュリアーノによると、「昔、ブレンド手法を取り入れていたが、やや品種の個性が際立ちすぎていてあまり一体感が無かった。しかも時間が経つと更にそれぞれの個性がバラバラに感じた」という事に因ります。

白ワイン「ジョヴィネ」の場合はソーヴィニョン ブラン、シャルドネを収穫、除梗し、クリオマセラシオンを一晩行います。(だいたいの場合)翌日にピノ ネロを収穫し、白ワイン同様搾汁を行い、全品種のモスト(果汁)を同じステンレスタンクに入れて発酵を行います。

ワインそのものの味わいと品質、そして価格にこだわる魅力的なワイナリー

市橋氏試飲「あらゆるチャレンジが許されている場所だと思う」
ジュリアーノは「(トレッツォ ティネッラ村は)あらゆるチャレンジが許されている場所だと思う。バルバレスコの畑を持っているけれど、例えばバルバルバレスコやバローロだったら、使用するブドウはネッビオーロ100%でなければならないし、熟成期間も決められている。つまり「あれもこれもしないといけない」と決められた事。メジャーブランドのワイン名が無くとも、自分の考え、スタイルを貫きたかった。トレッツォ ティネッラ村にいる自分の特徴を出したい」と語っています。

有名エリアのピエモンテのワインは「高い」と一般的に思われがちですが、「ムステラ」のワインは良心的で、5000円を超えてくるワイン等は無いですね。無理にバローロやバルバレスコ等のエリア名に拘らず、ワインそのものの味わいと品質、そして価格にこだわる魅力的なワイナリーだと思います。

急斜面に広がるムステラの畑

畑

「どうしてバルバレスコを造らないの?」
2014年に初めて「ムステラ」を訪ねた際にバルバレスコエリアの畑なのに、どうしてバルバレスコを造らないの?と質問した事があって。ジュリアーノは「あっそうか!」なんてはぐらかしていましたが(笑)、きっと適切なブドウの樹齢を長年待っていたからだと思います。2003年に代替わりしてそこから様々な改革を行いましたから。2015ヴィンテージからようやくバルバレスコが初リリースされます。バルバレスコとしてリリースされる畑は標高480メートルに位置しています。バルバレスコの畑としては非常に高い場所にあります。

急斜面に広がるムステラの畑
そして、ムステラの畑の特徴はとても急な場所にあるんですね。なだらかな丘が続くようなバルバレスコ「アジリ」や「ラバヤ」のような畑とは異なります。急斜面にある事で日当たりが良く、ブドウの樹同士が影となり邪魔する事が無いので、比較的密植による栽培が可能で、ブドウの「凝縮感」を高めていく事が出来ます。彼らのワイナリーはとても小規模です。伝統的な「大樽」が物理的に設置できないので、オーク樽やバリックによる醗酵、熟成となっています。

市橋氏試飲2ジュリアーノが思いついた独自の手法で造られる「ジョヴィネ」(若いという意味)はソーヴィニョンブラン、シャルドネ、黒ブドウのピノ ネロをブレンドした白ワイン。白ブドウの完熟感に早摘みのピノ ネロでフレッシュな酸味を補う、これまでのピエモンテには見られることの無かった独創的な白ワインとなっています。「ルビア」は(完熟した)という意味のバルベーラで、「ミルズ」はバルベーラ、ネッビオーロ、ピノネロを混醸して造った「特別なキュヴェ」という意味を指します。ミルズは元々バルベーラと他のブドウを混醸して造ったので名前を付けていなかったキュヴェでその名残で表ラベルには何もワイン名が記載されていません。

カンティーナ「ムステラのようなジュリアーノのような新進気鋭で斬新な発想の生産者はごく少数」
ムステラのワインには力強さが感じられますが、出来上がるワインにはある種の「ソフトさ」も感じられます。バルベーラダルバというよりは、どこかバルベーラダスティを彷彿させるのような「飲みやすさ」のようなものを感じます。生産者の世代が若いか、そうでないかを考えたとしてもピエモンテというエリアは伝統的というか、これまでのスタイルを踏襲してワイン造りをされる方が圧倒的に多いと思います。ムステラのようなジュリアーノのような新進気鋭で斬新な発想の生産者はごく少数だと思います。トスカーナのボルゲリのようにある意味、フリースタイルで造られるエリアとはまた違っていますね。

若手意見交換会「造るワインのスタイルは違えども、お互い同士は個性を認め合い情報を交換している。そんな状況が生まれてきています」
ムステラが仲良くしている生産者のグループがあって、そこには「オッデーロ」とか「GD ヴァイラ」のように比較的古典的なバローロを造る生産者も仲間に入っています。造るワインのスタイルは違えども、お互い同士は個性を認め合い情報を交換している。そんな状況が生まれてきています。またムステラを含む1981年生まれで同じアルバの醸造学校を卒業したバローロ、バルバレスコ、モスカートダスティのエリアの5名の小さなワイナリーの若手生産者が集い「ランゲスタイル」というグループも造り、販促活動も行っています。若手ならではの熱意、エネルギーに満ちたグループとなっています。

ずっと飲み続けていられるような飲み心地の良さ
モスカート ダスティ 2017
モスカート ダスティ 2017


ここのモスカートダスティは美味しいんですよ。クドイ甘味が無くて、ずっと飲み続けていられるような飲み心地の良さがあります。疲れた時などに飲むと、気持ちがほっくりとして癒されます。とあるレストランからこの「モスカートダスティ」に熱烈なリクエストがあり、今回輸入が実現しました。
試飲コメント:ムステラの真髄とも言えるモスカートダスティ。黄金に輝く麦藁色に桃やライチの凝縮したアロマ。豊かな甘みを感じるが、しっかりとした酸と微炭酸が心地よい。フレッシュな味わいはチーズやタルトなどと相性が抜群です。

濃厚なボディをピノ ネロの綺麗な酸が引き締める美しい味わい
ランゲ ビアンコ ジョヴィネ 2016
ランゲ ビアンコ ジョヴィネ 2016


ジョヴィネ」の場合はソーヴィニョン ブラン、シャルドネを収穫、除梗し、クリオマセラシオンを一晩行います。(だいたいの場合)翌日にピノ ネロを収穫し、白ワイン同様搾汁を行い、全品種のモスト(果汁)を同じステンレスタンクに入れて発酵を行います。
試飲コメント:果実の凝縮感がしっかりと感じられます。グラスにすい込まれるような完熟ブドウの充実した香りと樽の香ばしいインパクト、ハーブの爽やかなニュアンスがとても魅力的です。濃厚で円やかで複雑なボディですが、ピノ ネロの綺麗な酸が全体を見事に引き締め、実に美しいシェイプです。余韻には清々しさと豊かな風味が混じり合う奥深さもあり、抜群のハーモニーを奏でる堂々たる存在感です。

素晴らしい力強さと果実感に溢れる贅沢バルベーラ!
バルベーラ ダルバ スペリオーレ ルビア 2014
バルベーラ ダルバ スペリオーレ ルビア 2014


ルビアはトレイゾに位置する畑になります。名前の由来にもなった「完熟感」を感じるバルベーラです。バルベーラ自体は酸と果実味が基調にあるその特徴をしっかりと表現していきたいという思いから造っています。飲むとバルベーラらしい果実味、タニックではなく、スムーズに飲んで頂くことが出来る赤ワインです。2014年でもヴィンテージの影響をあまり受けていない印象です。例年なら更にしっかりとした果実の味わいが感じられると思います。
試飲コメント:完熟したバルベーラのプルーンやブルーベリーの豊かなフルーツ香にバニラやカカオの香ばしいニュアンスが豊かに重なります。飲むと、果実感やバリックの風味はありますが、重々しさやもたついた感はなく、筋の通った酸と力強さが見事に共存しています。ゴージャス感溢れる贅沢バルベーラです

果実味とスパイス感に富んだ複雑性のあるワイン
ランゲ ロッソ ミルズ 2014
ランゲ ロッソ ミルズ 2014


畑はトレイゾの急な斜面で造られています。バルバレスコも名乗れるエリアの畑です。彼の畑は下るのも大変で、上るのはもっと大変でしたね。ジョヴィネの畑も急でしたが、ミルズの畑はその上を行く過酷さが感じられる畑です。バルベーラ、ネッビオーロ、ピノノワールの3種のブドウを使用しています。バルベーラのふくよかな果実感もありながら、酸とタンニンもしっかりと感じられる特徴的な味わいです。
試飲コメント:バルバレスコが造られるトレイーゾ村の畑を用いたワイン。豊かな色合いで、果実味とスパイス感に富んだワイン。余韻も長く、複雑なワイン。 サービス温度は18度。スパイスを効かせたお肉料理と好相性です。
インタビューを終えて
市橋氏が「やっている事が全部面白い!」と絶賛する「ムステラ」のジュリアーノ氏。ピエモンテという伝統的なワイン生産エリアでピノネロを植え、白ワインにピノネロを混醸した独創的なワイン「ジョヴィネ」をリリースさせるなど、「他には無い」唯一無二の個性が光ります。独創的な造りを推し進めていますが、ムステラのワイン飲むと、バランスが取れていて実に見事な完成度の高さを感じます。

市橋氏も「ジョヴィネの発想は殆どシャンパーニュのブレンドに近いものがあります。白、黒のブドウのブレンドで全体のバランスを取ります。飲むと3つのブドウ品種と絶妙な樽使いで香り、味わいにおいてバランスが取れています」と説明くださり、非常に納得がいきました。

ムステラは異なるブドウの個性を巧みに捉え、他にはないスタイルで土地を表現しています。ネッビオーロやバルベーラメインのピエモンテにおいて、ジュリアーノ氏は異なる品種を自在に操る「天才肌」とも言えるのでないでしょうか。2015ヴィンテージから、ようやくバルバレスコもリリースされるそうで、独創的なジュリアーノが造ると、どんなバルバレスコが産まれてくるのか?今後もますます目が離せない非常に楽しみな生産者です。

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